No.79838

真・恋姫†無双~江東の花嫁達~(六)

minazukiさん

今回はのんびりとしたお話です。

南蛮関連も今回でとりあえず一区切りです~。

かつては敵だった人達との宴のお話もあります~。

2009-06-18 22:28:34 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:19900   閲覧ユーザー数:14459

(六)

 

 昼になり雪連と一刀は寝台から起き上がり身支度をし、それが終わる頃に楽進がやって来た。

 

 朝とは違いや緊張感が解れている楽進の案内で二人は都督府に向かった。

 

「それにしてもさすがに人も多いなあ」

 

 呉や蜀に比べて魏は人口が多い。

 

 長安や洛陽などといった大きなところだとそれがより実感があった。

 

「ここは西の守りとしての重要な拠点です。今でこそ蜀との連帯が取れていますが、それまではどこから攻められるか分かりませんでしたから」

 

 敵対していた頃は五胡だけではなく蜀にも警戒をしなければならなかった。

 

 だがそれも三国が手を結んだことで解消され、五胡だけに神経を集中できるようになった。

 

 そういう意味では天の御遣いがもたらした平和は魏にとっても良いことだった。

 

「しかし平和をよしとしない者もいて当然よね」

 

「はい……。だからこそ五胡と連帯をとられる前に潰すしかないのです」

 

 気の遠くなるような話だが成果は少しずつ上がってきているのは確かだった。

 

 小さな勢力でも数が揃えば脅威となる。

 

 そうなる前に潰す。

 

 それが今のこの辺り一帯が厳重警備を敷いている理由だった。

 

「楽進さん、俺達に会わせたい人って誰?」

 

「それはついてからのご本人からお聞きください」

 

 楽進はそう言って前を向いて歩いていく。

 

「ところでお二人はもう昼餉を済まされたのですか?」

 

「まだだよ。おかげで腹が減っているよ」

 

「そうね。私も空いているわ」

 

 朝餉も食べることなく寝ていたのでさすがに空腹ぎみな二人に楽進は薄っすらと笑みを浮かべた。

 

「それでしたら少し寄り道をしていきましょう」

 

 そう言って楽進は一軒の飯屋を見つけてそこに向く。

 

「でも待たせるのも悪いからいいよ」

 

「大丈夫です。あの方も今は昼餉をおとりになるはずです」

 

 確かに民も飯屋に入っている者が多い。

 

「私も楽進の意見に賛成よ」

 

「う~~~~~ん、そこまで言うなら俺達も食べようか」

 

 正直なところ、一刀も長時間の空腹には耐える自信はなかった。

 

「ではそこに参りましょう、御遣い様」

 

 先に行こうとする楽進を一刀が呼び止めた。

 

「その御遣い様っていうのは出来ればやめてほしいんだ。変に気を使われたりすると食事も喉が通らないから」

「はぁ」

 

「そうね。誰かに見られながら食べるのはあまりいい気がしないわ」

 

 それではどういえばいいのだろうかと困る楽進。

 

「普通に一刀でいいよ」

 

「私は雪蓮でいいわ」

 

「し、しかし……」

 

 あの天の御遣いの名前を呼ぶのは恐れ多いことだろ楽進は思っていただけに、さらに困惑する。

 

「気にしない気にしない♪」

 

「はぁ……。で、では一刀様に雪蓮様」

 

「うんうん♪」

 

 何の気兼ねも必要ないといった感じの雪蓮。

 

「私のことも凪とお呼びください」

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

 短く答える凪の表情はそうする事が正しいといった感じだった。

 

 真面目だが堅苦しさを感じさせない凪に一刀は好感を覚えた。

 

「とりあえず、中にはいりま……」

 

 店先に立った凪は途中で言葉を失った。

 

「凪?」

 

「どうしたのよ。早く入りましょう」

 

 立ち尽くす凪の横を歩いていこうとする二人を彼女は慌てて止める。

 

「か、一刀様、雪蓮様、べ、別の店に行きましょう」

 

「ど、どうしたんだよ、急に?」

 

 あまりの慌てように何か店の中にあるのだろうかと一刀が覗くと、そこには別に変わった様子はなかった。

 

「他の店はいっぱいみたいだし、ここでいいじゃないか」

 

「だ、ダメです!」

 

 見られてはまずいといった感じの凪を雪蓮が捕まえた。

 

「一刀、とりあえず入るわよ」

 

「お、おう」

 

「ダメったらダメです!」

 

「何がダメなのかしら?」

 

 凪の言葉に答えるように店の中から一人の女の子が出てきた。

 

「か、華琳!?」

 

 まさかの魏王に驚く一刀。

 

 そして手で顔を隠す凪。

「な、何しているんだ、こんなところで?」

 

「何って見ての通りよ」

 

 華琳がそう言っても何のことか分からない一刀。

 

 今の彼女はなぜか右手には炒飯、左手には青椒肉絲を盛った皿を持っていた。

 

「華琳もここで昼飯か?」

 

「まぁそんなところかしら」

 

 そう言って近くに空いてある席に座り机の上にその二品を置いた。

 

「凪、もしかして華琳がいたらまずいわけ?」

 

「い、いえ、そういうわけでは……」

 

 落ち込んでいく凪に華琳は救いの手を差し出した。

 

「あなた達も昼餉はまだでしょう?ならこっちにきて食べなさい」

 

「いいのか?」

 

「いいわよ。それにいつまでもそこに立っていたら他のお客に迷惑よ」

 

 周りの客はまるで華琳がいることを気にしていないかのように雑談をしながら食べていた。

 

 三人は華琳と同じ机を囲み、注文をそれぞれ言った。

 

「で、どうしてダメなのかしら、凪?」

 

 意地悪そうな笑みを向ける華琳に顔を真っ赤にする凪。

 

「そ、それは……」

 

 一国の王が民に混じって食事をすることが知られるのがどことなく恥ずかしかった凪だが、華琳はまったく気にする事もなかった。

 

「王たるもの、民が何を感じ何を望むか、そういったものを知ることも大切なのよ。特に平和な世の中では戦よりも難しいことよ」

 

 優秀な家臣団がありながらも自らの才を中心に据えて民のためにいい政治をする。

 

 そして分からないところは今のようにお忍びで視察する。

 

「凄いなあ」

 

「そう?でもアナタ達には負けるわ」

 

「どうして?」

 

 その問いに華琳は雪連を見る。

 

 すると雪蓮は笑いをかみ締めていた。

 

「こんな男に負けたかと思うと何だか自分に呆れるわ」

 

「そうね」

 

 現王と元王はそう言って笑いあう。

 

「な、凪、俺って何か変なこといったかな?」

 

「一刀様、もう少し自覚を持ったほうがいいと思いますよ」

 

 凪にまでそんなことを言われた一刀だがさっぱりわからなかった。

 

「ところで二人揃ってどうしたのよ?」

 

「うん?ああ、俺達は今、新婚旅行中なんだ」

 

「しんこんりょこうねぇ」

 

 妙に納得する答え方で華琳は青椒肉絲に箸を伸ばす。

「でも、少し無用心じゃあないかしら?いくら平和だかといっても賊がいなくなったわけでもないのよ?」

 

 もっともな忠告だが、雪蓮を見て無用な心配だったかと華琳は思った。

 

「安全な街道を通っているし、夜も野宿は見晴らしのいい場所でしているから大丈夫だよ」

 

「野宿って……。雪蓮、貴女も大変ね」

 

 いくらなんでも野宿は酷いだろうという批判的な視線を一刀に向けたあと、雪連の方を見る。

 

「そうでもないわよ。面白くて気楽よ」

 

「周瑜あたりが知れば倒れそうな発言ね」

 

 小皿と箸が三人分きたのでそれぞれに渡し、炒飯と青椒肉絲を頬張っていく。

 

 そうしているうちに注文していたラーメン二つ、それと凪が注文していた唐辛子がたっぷり入ったマーボーがやってきた。

 

「うわ……なんだか物凄く赤いんだけど」

 

「これですか?美味しいですよ」

 

 どう見ても通常の数倍は赤く見えるマーボーを気にすることなく頬張る凪。

 

「私もこれだけは無理ね」

 

 匂いだけでも鼻にツンとくるのを平気な顔で食べていく凪の姿を横目で見ながらとりあえず聞きたいことを聞くことにした一刀。

 

「でも、なんで華琳が長安にいるんだ?」

 

「凪から聞いたと思うけれど、最近、また五胡が妖しい動きをしているのよ」

 

「だからって華琳がくる必要があるのか?」

 

 優秀な家臣に任せ蜀と連帯を持てば問題はないと思った一刀だがその考えは甘かった。

 

「桃香達からの情報ではすでに五十万もの五胡が集まっているらしいのよ。さすがに私が出向かなければダメだと判断したわけ」

 

「なるほど」

 

 華琳の話ではこの西方には魏軍十万に蜀軍五万が警戒に当たっていたがそれでも数においてあきらかに少ない。

 

「一応、ここの都督は秋蘭、夏侯淵なんだけど、念のためってことで私が非公式にいるわけ」

 

 優秀で信頼のある武将でも油断できない相手だからこそ自分が来ている。

 

 この平和を何よりも大切に思っているのは一刀達だけではなくこの魏王も同じ想いだった。

 

「安心しなさい。アナタ達に手伝ってもらうおうとは思っていないから」

 

 それは一刀達を侮っているわけでも邪魔者扱いをするつもりもまったくなかった。

 

 折角二人で旅をしているのならばその邪魔をするほうが失礼だと華琳なりの配慮だった。

 

「まったく、そんな言い方をされたら黙っている方が馬鹿に思われるわ」

 

 雪蓮は笑みを浮かべる。

 

 それを見て一刀も内心、仕方ないかと思った。

 

「華琳、友人が大変だというのにそれを見て見ぬ振りをするほど私は冷たくないわよ?」

 

「雪蓮、別に頼んでいるわけではないのよ。それに今は一刀とそのしんこんりょこうを楽しんでいるんでしょう?」

 

 あくまでも断る華琳。

「一刀も何とか言いなさい。自分の妻が好き勝手するのをただ見ているだけの情けない男なのかしら?」

 

「う~~~~~ん、まぁ結論から言えば、俺も雪蓮と同じ気持ちかな」

 

「なっ!?」

 

 思わず箸を落としかける華琳。

 

「あなた達、それ本気で言っているの?」

 

 さすがに表情が硬くなっていく華琳を二人は普段と何も変わることないのんびりとした表情で見る。

 

「というか、雪蓮はそういうのを見過ごすことは出来ないよ」

 

「さすが旦那様♪よくわかっているわね」

 

 雪蓮の喜ぶ姿に苦笑する一刀。

 

「楽しみね♪」

 

「あのさ、一応言っておくけど俺じゃあ雪蓮を止める自信ないからその辺は考えてくれよ?」

 

「分かっているわよ。それぐらいのこと考えてないと思った?」

 

「半分ほどね」

 

「あ~~~~~、ひどい!」

 

 拗ねる雪蓮は目を妖しく光らせ、一刀のラーメンの中に残っていたチャーシューを素早く箸で摘むと口の中に放り込んだ。

 

「あ!それ楽しみにとっていたのに……」

 

「し~らない♪」

 

 今度は一刀が不満顔になりそれを楽しむ雪蓮。

 

「まったく」

 

 文句を言いながらも笑顔に戻ると、二人は仲良くラーメンを食べる。

 

 そしてそんな二人が自分の思っている以上に強い絆で繋がっていることを感じずにはいられない華琳。

 

 彼女にとってそれは羨ましいものだった。

 

 だが、口にすることはなかった。

 

 代わりに二人の協力に感謝の意を示した。

 

「それじゃあ食べたら都督府に戻るわよ。二人にも存分に働いてもらうから覚悟しておきなさい」

 

 その表情はかつての魏の覇王とはまた違った活気があった。

 

 これならばどんなに劣勢でも自分達は負けることはないという不思議と自信が出てくる。

 

「じゃあ、その前にこの食事を全て綺麗に食べましょう」

 

「そうだな」

 

「これ少し味付けが濃いけれど美味しいわ」

 

 楽しそうに机の上にある物を食べていく三人を見ながら凪も自然と頬を緩ませていた。

 

「これも美味しいですよ」

 

 そう言って唐辛子たっぷりのマーボーを勧めると三人の笑顔は引き攣った。

「おや?誰かと思えばにーちゃんと孫策はんやないか」

 

 警邏を続けるといって凪と別れた三人は都督府に向かった。

 

 そしてそこで一番初めに出会ったのが張遼だった。

 

「えっと……」

 

「ああ、ウチの姓は張、名は遼、字は文遠。真名は霞」

 

 自己紹介をしたまではよかったが真名まで軽いノリのように授けてきた霞。

 

「にーちゃん、女の名はきちんと覚えとかなあかんで?」

 

「というかさ、簡単に真名を教えてもいいのか?」

 

「ええねん。ウチはにーちゃんと仲ようするときには真名を授けるつもりやったし」

 

 何ともアバウトな性格だと思いながらも一刀は今までとは違って気楽さを感じていた。

 

「ところでなんでにーちゃん達がここにおるんや?」

 

 その質問は一刀と雪蓮に向けられたのではなく華琳に向けられたものだった。

 

「彼らにも手伝ってもらうのよ」

 

「ほ~。それはおもしろそうやな♪」

 

 霞はニッコリと笑顔を浮かべ一刀と雪蓮に手を差し出した。

 

「よろしくな、お二人さん」

 

「こちらこそ」

 

 三人で握手をする。

 

「しかしにーちゃん達と会うのも婚儀以来やな」

 

「そうだな。といってもそれほど日がたったわけじゃあないよ」

 

 一ヶ月ほどで久しぶりと感じるのも変なことだが、すぐ似合いにいける距離でもないのもまた事実だった。

 

「でも不思議やな~。こうして天の御遣いのにーさんとあの江東の小覇王とこうして話し合えるなんてな~」

 

「これも一刀のおかげよ♪」

 

 二人の熱々ぶりに呆れつつも笑顔を絶やさない霞。

 

「よし、今日は宴会や」

 

「霞」

 

 これ以上の霞による暴走を制止するかのように華琳が口を開いた。

 

「なんや、華琳?」

 

「するなら手を抜いたらダメよ」

 

 何事にも手を抜かず完璧を求める華琳の注文に霞は満面の笑みを浮かべた。

 

「もちろんや♪」

 

 そう言い残して建物に入っていく。

 

「物凄く乗り気だな……」

 

「気の休まる時がなかなかないから、今日ぐらいは許してあげるつもりよ」

 

 本音では自分の手料理を振舞おうと思っていることは二人には内緒だった。

「ところで華琳」

 

「なに?」

 

「華琳にあげる物があるんだけど♪」

 

 雪蓮は笑みを浮かべながら一刀に持たせていた荷物から上物の布で包まれたアレを取り出した。

 

 その笑みは何かを企んでいると一刀は分かった。

 

「蜀に寄ったときに華琳にも似合うと思って特別に仕立ててもらったの♪」

 

「へぇ~。それは興味あるわ」

 

 布に包まれた物を受け取ると早速中を開ける。

 

 そして一刀の予想通りに華琳は固まった。

 

 だがそこは覇王としての威厳を保つ。

 

「せっかくの贈り物だから大切にするわ」

 

「よかった♪」

 

 二人の明らかに違う笑みに一刀は思う。

 

(雪蓮、絶対にわざとだ……)

 

 よほど南蛮衣装が気に入ったようだった。

 

「お礼に私が作ったお酒を今日は飲ませてあげるわ」

 

「お酒?華琳が作ったのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 とても酒を造っている姿が想像できない一刀。

 

「お酒だけじゃあないわよ。今日の宴にそれを証明させてあげるわ」

 

 自信満々の華琳。

 

「そういえば貴女の妹から文が届いていたわよ」

 

「蓮華から?」

 

 それはさすがに予想していなかった雪蓮は一刀のほうを見るが、一刀もそれについては初耳だった。

 

「魏にきたらよろしく頼む、だそうよ。いい妹を持ったわね」

 

 乱世だった頃、たとえ親兄弟でも憎しみあい殺しあうこともあった。

 

 だがそんな中でも孫家は決してそのような事はなかった。

 

 母である孫堅を敬愛し、姉妹も仲がいい。

 

 時には喧嘩もするが最後には仲直りができた。

 

 そんな姉妹関係でいられたことは雪蓮にとって大きな支えだった。

 

 挫けそうになっても蓮華や小蓮がいたからこそ今の自分がいる。

 

「まったく、姉離れできない子ね」

 

 口ではそう言いながらも穏やかな笑みを浮かべる雪蓮に一刀と華琳はつられて笑みを浮かべる。

 

「華琳、私達も宴の準備を手伝わせてもらえるかしら?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

 断る理由など華琳にはどこにもなかった。

 夜になると主だった武将が華琳の仮屋敷に集まり宴が開かれた。

 

 座るよりも立っているほうが気楽だということで三国の立食パーティーのように準備をした。

 

「にーちゃん、呑んでるか?」

 

 すでにでき上がっている霞は容赦なく一刀の杯に酒を注いでいく。

 

「し、霞、かなり酔ってるだろう?」

 

 背中を何度も叩きながら笑い、そして酒を呑んでいく霞に何を言っても無駄だった。

 

「な~~~~~んも遠慮することないやろう?ウチらは友なんやろう?」

 

「そ、そりゃあそうだけど」

 

 霞は自分の胸を一刀背中に押し付けつつ、その反応を楽しんでいるようにも見えた。

 

 そこへ軍師の程昱と郭嘉がやって来た。

 

「初めまして、天の御遣い、北郷一刀殿」

 

「初めまして~お兄さん」

 

 なんとも対照的な挨拶に一刀は苦笑する。

 

「おやおや、このお兄さんは風達にも興味を示してくれたようです~」

 

 のんびりとした口調はどこか穏に似ているなあと思いつつも、身体のつくりが天と地の差があるとマジマジと一刀は見てしまった。

 

「初めまして、えっと郭嘉さんと程昱さんでいいのかな?」

 

「おや?まだ名前もいってないのに当てられてしまいましたよ~」

 

「さすがは天の御遣いというところですか」

 

 いたって冷静な二人。

 

「では改めまして~、程昱仲徳、真名は風といいます~。よろしくなのですよ、お兄さん」

 

「ち、ちょっと風!」

 

「なんですか稟ちゃん?」

 

「真名まで言う必要はないと思うんだけど?」

 

 その意見に頷く一刀だが、風はそうではなかった。

 

 眠たそうな目を一刀に向けたままその問いに答える。

 

「風はそう思いませんよ。なぜならばお兄さんによって風達は負けたのですから」

 

 一刀は勝ったとかそういう気持ちはなかったが、風からすれば魏による単独の天下統一を阻まれ、それによる心理的敗北感があったのかもしれない。

 

 そのことを指摘しているのだと稟は思うと表情を硬くする。

 

「負けたけれど、こうして風達は生きているということは、それはお兄さんのおかげなのだと思うのですよ。だからこそ真名を授けれられるのです」

 

 形は違えど同じ平和を願った者同士。

 

 風の言葉に稟はそうかもしれないと内心で思った。

 

「という建前は置いてですね~、風はお兄さんなら授けたいと前々から思っていただけなのですよ~」

 

「風……貴女という人は……」

 

 頭を抑える稟。

「なら私も平和を導いた天の御遣い殿に真名を授けさせていただきます。私の真名は稟と申します」

 

「それじゃあ俺も北郷か一刀でいいよ。真名がないからね」

 

「では北郷殿とお呼びしましょう」

 

「風はお兄さんのままでいいですよ~」

 

 新たに二人から真名を授けられた一刀に霞は嬉しそうだった。

 

「それじゃあウチも一刀って呼んでもええ?」

 

「あ、ああ、それはかまわないけど?」

 

 どう呼ばれようともその人の価値観が変わるわけではないので一刀はそれほど気にしていなかった。

 

 そんな和やかな風景を少しは慣れた場所で雪蓮と華琳が杯を交わしながら見ていた。

 

「このお酒美味しいわね。一刀って女たらしよね。あ、この料理も凄く美味しい」

 

「今度、量が作れるようになったら送るわ。そうね、うちの軍師や武将を誘惑しているように見えるわ。それは味付けが肝心よ」

 

 酒や料理の品評会をしながら、一刀についての女癖を突付いているのは、二人からすれば十分に酒の肴だった。

 

「でもあの姿を見ていると納得できるわ」

 

「何が?」

 

「天の御遣いがこの世に平和をもたらせたことよ」

 

 もし彼がいなければ今も三国で戦い、民は安心して暮らせる世の中など夢のまた夢だった。

 

 どこかの国が統一したとしても傷は深く、悲しみだけが残されていただろう。

 

 だがそれを回避できたのはひとえに一刀の存在があったからだった。

 

「雪蓮のところではなく私のところに来ていれば、もっと早く天下が統一できていたと思うわ。犠牲も少なくね」

 

「思うだけなら聞き流してあげる。でも、本気で欲しいって思ってもあげないから」

 

 杯を傾けて酒を呑み干し、新たに華琳から注がれる。

 

「ダメかしら?」

 

「ダメ。たぶん、こんなことを言ったら貴女は笑うかもしれないけれど、離れて生きていけないわ」

 

 一刀がいるから心から笑える。

 

 一刀がいるから過去の悲しみを未来の幸せに変えることができる。

 

 一刀がいるからこそ自分は生きていける。

 

 今の雪蓮にとって一刀がいない世界など考えられなかった。

 

 いや、考えたくもなかった。

 

「本当に羨ましいわね」

 

 こればかりはさすがの華琳も勝てないと思った。

 

「なら彼を離さないことね。隙あらば私が奪うわよ?」

 

「大丈夫よ。私と一刀の絆は切れたりはしないわ♪」

 

 それは雪蓮の願望ではなくそう感じていた。

 

 これから何年、何十年と一刀と過ごす喜びをかみ締める雪蓮。

 

 華琳はそんな友人に心から杯を掲げた。

(座談)

 

水無月:激辛マーボーってどうなのでしょうか?

 

凪  :美味しいのだが、なぜか誰も食べたがらない・・・・・・。

 

華琳 :あれは見ているだけでお腹がいっぱいになるわね。

 

水無月:私も昔、作ってみましたが味わうというよりも痛みが酷かった記憶があります。

 

雪蓮 :さすがに試そうとは思わないわね。

 

霞  :ウチもあれはきついわ。

 

華琳 :そうね。

 

凪  :残念です・・・・・・。

 

雪蓮 :とりあえずは次回なんだけど、もしかしたら戦闘があるかもしれないわね。

 

一刀 :戦闘シーンが苦手なんだっけ?

 

水無月:未だに他の方々のを読んでいますと足元にも及びませんよ(><;)

 

雪蓮 :とにかくがんばりなさい。

 


 
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