No.797764

ゼロの使い魔 AOS 第09話 酒場の貴族

koiwaitomatoさん

人は辛いことがある時に酒に酔う。
平賀才人も先人達に習い酒場で辛さを紛らわそうとする。
だが本当に立ち直らせてくれたのは年上の女(ひと)だった。
今回は才人くんは一言もしゃべりません、演出?いえ会話が思い浮かびませんでした(爆)

2015-08-22 14:59:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1236   閲覧ユーザー数:1223

あたまがクラクラする、体がふわふわする。

 

(なるほどこれがお酒なのか、こんなまずい物を飲むのはこんな気持ちになりたいからなんだな・・・)

 

半分正解である、まずいのは安酒とおこちゃまな舌のせいでもあるのだが平賀才人は齢十六にしてお酒の真理にたどり着いた。

 

 

 

どのくらいこの酒場にいるのだろうか、時間の感覚が麻痺していて才人にはわからない。

 

初めて立ち寄った北の町の酒場は人の賑わいが続いている、夜はまだまだ序盤戦の模様。

 

「お客さん、悪いけどそろそろ出て行ってもらえないかい」

 

人生初めてのお酒でふわふわになっている才人に一人の女性が声を掛ける、ここの店の従業員のようだ。

 

「このお店は女の子と一緒にお酒を楽しむ店なんだよ、一人で飲むならほかの店に行きな」

 

周りを見渡すと確かに男と女のセットで席が埋まっている、才人の世界で言うところのキャバクラのようなお店のようだ。

 

「動くのがいやなら、女の子を指名しな!・・・なんならわたしが相手をしてあげようか?ボ・ウ・ヤ」

 

 

 

 

才人は声を掛けてきた女性を指名した、女の子と呼ぶには少しトウが経っている気がするが特に気にする事も無かった。

 

グリーンの長い髪と知的そうな雰囲気を持った女性、お互い自己紹介をしたが酔っている才人には名前を覚える知能は残っていなかった。

 

才人は先ほど起こった事を全部話していた、人に話すのも恥ずかしい痴話げんかと親しい女の子の醜い部分なのだが酒の魔力が才人を饒舌にする。

 

「それで貴族のお嬢様に逃げられた・・・そういうことかしらね、ボウヤの気持ちも分かるんだけどね~」

 

お姉さんは話を聞きながら、話の要所で自分の意見を言ってくれる・・・心なしか話し方がやさしくなっている気がするがこれが営業用の接客みたいだ。

 

「でもね、この国はそれがまかり通ってる、いえこのハルケギニアではそれがまかり通るのよ」

 

どうやら階級制度があるのはトリステイン王国だけではないらしい、この世界全体で才人の定義する不条理が常識としてまかり通る。

 

「貴族が憎い?貴族がきらい?平民は腹の底ではみんなそう思っているのよ、でも誰も口にしない、そんな事をしても無意味だと知っているから」

 

「何百年と続いている階級制度、壊れないのはなぜ?みんな変化を恐れているからよ」

 

「誰だって今日と同じ明日を過ごしたい、今日と同じ明日を捨てて未知の明日は見たくないものなのよ」

 

お姉さんは才人に話しかける、この世界が変わらない理由を!人々が変わらない理由を・・・。

 

「だからこそ私は信じられないのよ、あなたが階級制度が無い国から来たっていう話が」

 

 

 

平賀才人の故郷、日本。

 

かつての世界大戦から何十年も経ち自ら他国を侵略する事を許るさず、他国から大きな侵略を許さない平和な国。

 

トリステイン王国の様な階級も少なからず残っているが、ほぼ形骸化して民間人とそこまで差は無い。

 

本当に貴族と呼べるであろう高貴な御家もあるが才人が知る限りはこちらの貴族とは対極の存在にある。

 

他国の王室や高位の聖職者たちとの外交、世界規模の平和活動、国内に大事が起こった際に前線に赴き国民を励ますお姿。

 

日本人である平賀才人が思う高貴な者のイメージはここにある、だからこそこの世界の貴族に・・・貴族と言う言葉に才人は激しい違和感を感じる。

 

 

 

「そうね~そんな国が本当にあるなら私も住んでみたいわ、本当にあるのならね」

 

「えっ!?わかったわよ、疑って悪かったわ!・・・ボウヤ?もしかして泣いているの」

 

才人は急に故郷を思い出した、優しかった家族、親しい友人たち、十六年間暮らした町並みを思い出していた。

 

ルイズに出会ってからは魔法に掛けたれた様に考えられなかった望郷の念があふれ出した、そして、滴る涙を堪えるには才人は若すぎた。

 

ふいに才人の涙を一枚の布が遮る、そしてお姉さんの顔が息がかかるほど近づき・・・小声で話しかけてくる。

 

「泣かしちまったお詫びに、あんたに私の秘密を教えてあげる・・・私もね、この国の人間じゃないんだ」

 

「私はもともと貴族だったんだけどね、お父様が国に裏切られちまってね・・・やさしい人だったんだよ」

 

「いろいろあってこんな安酒場に身をおとしちまったんだ、これでも昔は貴族のお嬢様だったんだから」

 

「それに今は養ってやんなきゃ・・・これは、しゃべりすぎたか、あたしも少し酔ったようだね」

 

しゃべり方がまた最初のときに戻っているどちらが本当の彼女なのか、何かを言いかけたときにお姉さんは顔を離して元の席にもどった。

 

どのくらい時間が経ったのだろうか、才人の酔いもだんだん解けてきたようだ、そしてお姉さんが才人に話しかける。

 

「ボウヤ、お嬢様を迎えに行ってやんな」

 

「あたしも昔はそのお嬢様と同じ考えだったよ、だからさ・・・あたしみたいにならない様に近くにいてあげなよ」、

 

「人間はさ、自分以外他人なんだよ!いっぱい話していっぱい一緒にいてようやく半分わかる、あんたは彼女とどれくらい一緒に居たんだい?」

 

「よし良い顔になってるね、いつか家族と一緒にあんたの故郷にいってみたいもんだね・・・ふふっ既婚者かだって、気になるのかい」

 

「ちゃんと料金は払うんだよ、なんだい!いっぱい持ってるじゃないか!!また来なボウヤ、かならず私を指名するんだよ」

 

「名前を覚えていない?全く・・・女の名前を覚えられない男はもてないわよ、私の名前は・・・」

 

 

 

 

平賀才人は飛び出した、ルイズと会うために。

 

もう一度ルイズと二人で過ごす日のために。

 

最後に・・・・さんに感謝しながら走り出す。

 

 

 

....第09話 酒場の貴族 終

 

 

 

next第10話 ルイズと魔法学院の休日

 

 

 

執筆.小岩井トマト

 


 
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