No.796678

機装女戦記ガンプラビルドマスターズ 第2話:「君の姿は僕に似ている」

ダルクスさん

ガンプラの人化……突然起きたこの謎の現象にキモト・ソウシは困惑していた。しかし戸惑いながらも人化MS少女、ファントムとの生活は多少の困難があるものの好調なスタートを見せた。その翌日、ソウシは学校に行くために家の留守をファントムに任せる。しかし、ソウシは学校に向かう前にある場所へと向かう。そこは……?

2015-08-16 23:01:34 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:423   閲覧ユーザー数:420

「じゃ、学校行ってくる。へーっくしょ!」

 

 翌日、今日は月曜日だ。制服姿の俺は学校に行くために玄関で靴を履いていると、大きなくしゃみをする。それを聞いて傍に立っていたファントムが慌てふためく。

 

「だ、大丈夫ですかマスター!? お風邪をひかれたのでしたら今日は休まれた方が…」

「大丈夫大丈夫。お前こそ、その目の腫れなんとかしておけよ」

 

 結局あの後、風呂場で倒れた俺をファントムが介抱してくれて小一時間後に意識を取り戻した。が、当のファントムは目を十分に洗うことができなかったため赤い眼がより赤く腫れてしまい、俺も服が濡れたまま寝かされてしまったため風邪をひきそうになってしまった。

 昨日はガンプラが人の姿になるなんていう大変な事態に最初は戸惑いもしたが、一夜明けてみると意外となるようになるものだった。

 

「夕方には帰ってくるけど、それまで大人しく留守番しててくれよ」

「わかりました。しかし、登校時間にしては少し早いのでは?」

 

 確かにファントムの言うとおり、今は朝の6時。今から学校に向かっても、授業が始まるにはまだ大分時間がある。

 

「学校の前に少し寄っていかなきゃいけないところがあるんだ。じゃ、行ってくる」

「そうですか。行ってらっしゃいませ、マスター」

 

 短くそう答えると、ファントムも納得したらしく、笑顔で俺を送りだした。

 

「……さて」

 

 玄関を出て、まだ誰も歩いていない通学路を歩く。

 “アイツ”は俺が起こしに行かないと起きないからな。まったく……毎朝早起きする身にもなってくれよ。

 しばらく歩くと、俺は高級住宅の並ぶ住宅街に入っていった。

 

 

 

 

 

―――――第2話:「君の姿は僕に似ている」―――――

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

 とある高級住宅街にそびえ立つ高級高層マンション。俺はその一階で目的の階に住んでいる“アイツ”を呼ぶために、チャイムを鳴らす。

 

ピンポーン

 

「……」

 

ピンポーン

 

 なかなか出ないな…。まぁ毎朝こんな感じなわけだが、俺は無言のままもう一度チャイムを押す。

 そして四回目のチャイムで、ようやく応答があった。

 

ピンポーン

 

『はぁ~い……』

 

 今起きたばかりのような、眠そうな声がスピーカーの奥から応える。

 

「俺だ、今日も来たぞ」

『はぁ~い。入っていいよ~』

 

 おそらく俺のチャイム音に起こされたのだろう。まだ眠気が残る舌っ足らずな声でそいつは答える。それと同時に入口のセキュリティロックが解除され、俺はエレベーターに乗って目的の階で降り、アイツの部屋の前まで来ると、ノックをする。

 

「鍵空いてるから入ってきて~」

 

 ノックに反応して部屋の中からアイツが答える。俺はドアを開き、部屋の中に入る。

 

「オトメ、ちゃんと起きてるか?」

「ふぁ~……おふぁよソウシくん……」

 

 まだ眠いのか欠伸をしながら瞼をこすりながら玄関まで来たのは俺の幼馴染、“フジヨシ・オトメ”だ。ついさっきまで寝ていた感満載の黄色いパジャマ姿で、いつもは水色のセミロングでアホ毛が一本映えている髪型も寝ぐせでボサボサだ。

 幼馴染といっても、小学校の頃に家が近所でクラスも一緒だったのだが、中学に入るとオトメは別の中学へと行った。で、高校でオトメと同じ学校になって数年振りに再会したという、複雑な経緯があるわけなんだが……。

 

「朝飯まだだろ? 簡単なモン作ってやるから顔でも洗って……―」

「ねぇソウシくん♪」

「ん? ……ぶっ!?」

 

 キッチンに立ち、朝飯の用意をしようとしていた俺をオトメが呼びとめ、俺はオトメの方を見たのだが……。

 

「これ昨日届いたんだよ? いいでしょ~♪」

「お前……朝っぱらから何てもん見せんだよ……」

 

 オトメが満面の笑みで俺に見せた物…それは“機動戦士ガンダムOO”の登場人物、ティエリア・アーデとロックオン・ストラトスが半裸で絡んでいる同人ポスターだった。しかも巨大な……。

 

「え~、なにその反応? つまんないの~……ロク×ティエだよロク×ティエ! 萌えない?」

「萌えるか! いいからさっさと顔洗ってこい!」

「は~い……」

 

 ……と、このようにオトメも俺と同じく〝ガンダム″という作品が好きなのだが……その“好き”のベクトルが少し違うのだ。

 そう……久し振りに再会したオトメは“腐って”いたのだ。なんでも、中学時代にそういった趣味を持ったクラスメイト達に染められたようで……ま、人の趣味はとやかく言わないけどさ。

 このマンションにはオトメの両親は住んではいない。オトメの親父さんはちょっとした資産家で、両親は事業を立ち上げるために海外にいる。しかしオトメは日本にいたいと言い出したので、仕方なくこのマンションに一人で住まわせているというわけだ。(おそらく、海外に行ったら好きなアニメも見ることができなくなるし、グッズも手に入らないからだろう)

 で、俺が同じ高校だとわかったとたん、再会を喜び合う暇もなく、こうして俺がオトメの世話をしているってわけだ。一人暮らししているのをいいことに、この無駄に広すぎる高級マンションの一室で、オトメは好き勝手やっている。高そうなフカフカなソファーの上にはBL同人誌が散らばり、寝室は……まぁ語り始めたらキリがない。

 ちなみにオトメは家事ができない。ったく……女の子なのにそんなんでどうすんだかな……。

「ほら、朝飯できたぞ」

「はいはーい、おっ! これは知る人あの伝説のパン! 流石クオリティが高い物作りますな~♪」

「ただトーストの上に目玉焼き乗っけただけだろうが……時間ないから簡単だぞ」

 

 そう言って俺はオトメにパンを手渡す。……そう言われてみれば確かに、作っている時には気にかけなかったが、このパンはかの有名な国民的アニメ映画に登場するあのパンみたいだな。

 

「十分十分♪ ん~おいひ~♪ ソウシ君はきっといいお嫁さんになるね~♪」

「なるかアホ!」

 

 むしゃむしゃとアホ毛を揺らしながらパンを頬張るオトメをよそにツッコミを入れ、俺は後片付けをする。片づけをしながら、オトメに昨日あった出来事について話そうかどうか考えた。

 

「ガンプラが人になったなんて言っても……信じてくれるないだろうな」

「ん? ガンプラがどうしたの?」

「な、なんでもないなんでもない!」

 

 いけないいけない…心の中で考えていた事がいつの間にか声に出ていたらしい。

 

「あ、そういえばソウシ君、私もガンプラ作ったんだよ♪」

「え……? お前ガンプラ……ってかプラモデルなんて作れたのか?」

 

 オトメの突然の告白に、俺は戸惑わざるを得なかった。だって家の家事ですら満足にできないような奴が、ガンプラをマトモに作れるなんて思えないが……。

 

「むっ! なにその言い方~。こう見えても、手先は器用な方なんだよ!」

「ふ~ん……ついでに家事の方も器用になってくれないかねぇ」

 

 そんな皮肉を言いつつも、実は内心ちょっと嬉しかった。オトメがガンプラをかぁ……。自分の家の家事さえままならないオトメがガンプラを作るとは、少し意外だった。

 しかしこれでオトメも俺と同じガンプラ仲間になったってことか。

 

「で、なに作ったんだ?」

 

 片づけが終わり、手を拭きながらオトメに聞いてみる。

 

「HGの1/144のガンダムサバーニャだよ♪ ティエリアの機体にしようか迷ったけど、やっぱりロックオンが一番好きだもん♪」

 

 サバーニャか、良い機体を選んだな。でも同じロックオンの機体にしても、デュナメスやケルディムを選ばなかったのは何でなんだかな。

 

「だってさぁ、ああいうバッて拡げてドカドカドカって撃って撃って撃ちまくる機体って、すごくかっこよくない!?」

「あ~……ん、まぁな」

 

 言わんとしていることは何となくわかる。要するにオトメはヘビーアームズとかストライクフリーダムみたいな重火力でドカドカ撃ちまくる機体が好きなんだな。

 確かに他のロックオンの搭乗した機体みたいな緻密なスナイピングなんて……こいつには絶対似合わないものな。大雑把な乱射の方が、性格がよく出ている。

 

「どんな感じに出来上がったのか、ちょっと見せてくれよ」

 

 オトメの初めてのガンプラ……どのような出来なのか、同じガンプラマニアとして、やはり気になる。

 

「うん、いーよ♪ じゃ私の部屋に行こ♪」

 

………………

…………

……

 

「相変わらずきったないなぁお前の部屋は。少しは片づけろよ」

 

 オトメの部屋を見て、俺は少しケチをつける。当然だろう……せっかくの高級マンションの一室たるこの大きな部屋には、壁一面に先ほどのロク×ティエのようなBL同人ポスターが何枚も貼られ、床一面には読み散らかした同人誌が散乱していた。そしてベッドは脱いだ服がかけられ、シーツもぐしゃぐしゃだった。

 

「もぅ、今は部屋のことはいいの! それより、ほら! これこれ♪」

 

 オトメは楽しそうにごちゃごちゃしてる机の上に飾られているガンダムサバーニャを手に取り、俺に見せる。なるほど……確かにガンプラ初心者にしてはよくできている。素組みではあるが、未塗装だった部分もちゃんと色が塗られ、ゲート処理もスミ入れもつや消しもしっかりされている。

 

「へ~、意外とよくできてるじゃないか」

「むっ、〝意外と″は余計~! まぁ普段コスプレ用の小物とか作っているんだもの、これぐらいはできないとね♪」

 

 ああそうか、そう言えばオトメはコスプレ用の衣装や小道具を作るのが得意だったな。それだけ普段細かい物作っていたら、ガンプラぐらいは簡単に作れるのも当たり前か。

 

「……あれ? このホルスタービットって……」

 

 確かサバーニャのガンプラは、10枚あるホルスタービットのうち2枚にだけライフルビットを収納できるという仕様だったはずだが、このサバーニャのホルスタービットには全部にライフルビットが収納されている。

もしや……。

 

「……おいオトメ、お前まさか」

「えへへへ♪ そーです♪ 実は5個買って全部のホルスタービットにライフルビットを仕舞えるようにしちゃいました♪」

「マジか!?」

 

 同じガンプラを5個買いとは……劇中再現のためとは言え、流石の俺もそこまではしたことがない。全く……やはり金持ちはやることが違うな。

 

「だけど初めてのガンプラでここまでやるとは……正直、恐れ入ったよ」

「再現できる物はできるだけ再現するっていうのが私のポリシーだもんね♪ コスプレもガンプラも♪」

「そのポリシーを家事の方でも活かしてもらえないものかねぇ……。しかし、ライフルビット10個は展開したらさぞ圧巻だろうな。ちょっとやってみてもいいか?」

「え~、でもあれって出すのも戻すのも結構めんどくさいしなぁ~。まぁ学校から帰ってきてからなら、また見せてあげるけど」

「そうか、じゃあ帰りはまたお前の家に寄って……―」

 

……あれ?

 

「……おいオトメ、そういや今何時だ?」

「え、今?」

 

 オトメは壁にかかっているBLアニメのキャラがプリントされた時計を見る。

 

「今は、え~っと……ちょうど8時になったとこだよ」

 

 ……ん?

 確か学校のホームルームって、8時15分から始まるんだったような……。

 

「ち……遅刻だぁあああああ!!」

 

 あまりにもゆっくりしすぎてて時間が経つのをすっかり忘れていたみたいだ! 俺は慌ててオトメの部屋を出ようとするが、当のオトメはまだ着替えてすらいない!

 

「お、おい! 早くしろオトメ!」

「ま、待って! 今着替えるから!」

 

 そう言ってオトメは突然俺の目の前でパジャマを脱ぎ始めた!

 

「おいバカ! 俺の前で脱ぐんじゃあない!」

「だ、だったら外出ててよもう!」

 

 半ば追い出されるように慌てて部屋の外に出る。先に学校に行ってしまおうかと思ったが……ドアの向こうのオトメに引きとめられてしまい、結局10分くらい部屋の外でオトメの着替えを待つことになってしまった。

………………

…………

……

 

「はぁ……はぁ……やっと着いた……」

 

 なんとかホームルームが始まる前に教室に滑り込むことができた。全力疾走したせいか、オトメは俺の隣の席でハァハァと息を切らしながら机に突っ伏している。

 すると、俺の席に二人の男子生徒が歩み寄ってきた。

 

「よぉ、毎朝女子と登校なんて、羨ましい限りじゃねぇか」

「まったく……リア充はさっさと爆発してほしいでござる」

 

 それは同じクラスメイトにして、俺の友人の二人だった。

 

「なんだよトモヒロにタクオ、俺だって好きでやってるんじゃないんだよ。なんならお前らが代わるか?」

「いや結構だ。自慢じゃないが俺はお前ほど主夫じゃないんでな」

 

 長い髪を茶色に染め、だらしなく腰パンをしているこのチャラい男は俺の友人その1、サラ・トモヒロだ。

 

「おんにゃのこと登校したいのはやまやまでござるが、生憎僕のようなピザには朝から走るなんてそんな体力はないでござるwwwドゥフフwww」

 語尾に『ござる』を付け、語尾にめっちゃ草を生やし、気持ち悪い笑い方をするこのピザデブ眼鏡キモオタは俺の友人その2、アキバ・タクオだ。

 一見してみると俺達三人は共通点など無いように見える。しかし俺達はある共通の物が好きで、その話題で俺達は友達となっている。

 その話題とはもちろん……。

 

「ところでさぁ、Gガンダムのプラモって結構出てきてるんだなぁ。俺最近知ってよぉ」

「GガンのプラモっていうとHGFCの? 確かにゴッドから始まってノーベル、シャイニング、マスター、ノーベルバーサーカーモードと、着実にシリーズ数増やしてるな」

「へ~、出来はいいのか?」

「もちろん。モビルファイターらしく間接の稼働範囲も広いし、原作再現のポーズとかもできるんだ。ゴッドがノーベルをお姫様抱っことか、シャイニングフィンガーとダークネスフィンガーの手の絡みを再現した特大クリアパーツとか」

「マジか! やべ~、Gガンのプラモ欲しくなってきたわ!」

 

 俺の話を聞くと、トモヒロはまるで子供のように眼を輝かせる。

 

「お、いよいよトモヒロもガンプラデビューか?」

 

 それを聞いて俺もトモヒロ同様、眼を輝かせる。

 

「でも俺プラモとか作ったことないし、不器用だからなぁ…」

「作り方なら俺が教えてやるよ。それに、あのオトメもガンプラ作り始めたんだからお前にもできるだろ」

「ほ~、オトメに作れたのか。なら俺にもできるかもな!」

 

 俺とトモヒロがそんな会話をしていると、俺の隣の席でオトメが「むっ」と睨んできた。

 

「それにいい店知ってるんだ。そこでプラモを安く買えるし、必要な道具だって全部揃うぞ」

 

 その視線に気が付くと、慌ててオトメの話題から話を逸らす。

 

「ほんとか? なら今度頼むぜ」

 

 どうやらトモヒロもガンプラに興味が湧いたらしい。オトメに続きトモヒロもとは、ガンプラ仲間が出来るのは嬉しい限りだ。

 だが、俺達の話を聞いていたタクオが…。

 

「ふん、あんなスパロボ紛いのガンダム、ガンダムじゃないでござる」

 

 と、タクオが鼻を鳴らして眼鏡をクイッと上げると見下したような視線を俺たちに向ける。

 

「お、おいタクオ……」

「あ? てめGガンディスってんのか?」

「ガンダムはやはり宇宙世紀こそが至高でござる。他のはガンダムの名を冠した“何か”でござるよ」

 

 ああ……やっぱりだ。またこの二人の口論が始まった。

 ……とまぁこのように、俺達三人の共通点、それは三人とも“ガンダム”が好きだということだ。トモヒロは、元はこういったアニメに縁がなかったのだが、あるきっかけがあって、ガンダムの中でも異色の作品、“機動武闘伝Gガンダム”が好きになった。ただし、Gガンダム以外のガンダム作品にはまったくと言っていいほど疎いが。

 一方のタクオの方はというと、宇宙世紀のガンダム作品が大好きだ。しかしそれ以外、つまり俗に言うアナザーセンチュリー系のガンダムはガンダムじゃないとまで言うほどの宇宙世紀至上主義だ。

 俺は全作品肯定派だが、漠然に“ガンダム好き”といっても三人とも好みがそれぞれ分かれているのだ。そのため、たまにこういう風に衝突することもある。

 

「おい、ガンダムファイトしろよ」

「ガンダムファイトwwwなにそれ美味しいの?www」

「おいお前ら、それぐらいにしとかなと、もうすぐ先生来るぞ」

 

 これ以上はそろそろ危ないと思い、慌てて二人の間に割って入る。

 

「そうだよ、早く席に着かないと」

 

 隣の席で突っ伏して呼吸を落ち着かせていたオトメがムクリと起き上がり、俺をフォローしてくれた。

 

「ん……じゃあそろそろ戻るか」

「独ちゃん先生は口うるさいでござるからなぁ」

 

 タクオがそう呟いた時だった。

 

「だ・れ・が・口うるさいですって? アキバ君」

 

 タクオの背後から響くドスの効いた女性の声。その声を聞き、タクオが恐る恐る振り返ると、そこには眼鏡をかけ、長い黒髪を後ろで纏めたスーツ姿の女性が立っていた。

 

「ど、どうも……ヤマナカ先生……」

 

 それは現代国語担当にして俺達のクラスの担任、“ヤマナカ・ユリ”先生だった。

 今年で御年30歳になってしまうが、彼女は独身である。なんとかして彼氏を作ろうと躍起になっているために、ピリピリしている感じが生徒たちにも伝わってくる。それ故、生徒たちからのアダ名は“独先生”である。

 

「アキバ君、随分と白熱した論述をしていたみたいね? 予鈴にも気が付かないなんて、何の話をしていたのかしらね? 私の授業でもそれくらい熱中してほしいものだわ」

 

 独先生のメガネがキラーンと光り、タクオの方を見据える。

 

「あ、あれはその……」

 

 タクオは自分の横にいるはずのトモヒロも、「コイツもです!」と巻き込もうとしたが……。

 

「~♪」

 

 すでにトモヒロは自分の席に座り、椅子を傾けて体重を預け、手を後ろで組んで組んだ足をのばしながら知らん顔で口笛を吹いていた。

 

「き、汚ないでござるぞ~!」

「いいから、貴方もさっさと席に着きなさいっ!」

「あだっ!?」

 

 独先生は生徒名簿の角でタクオの頭をぶつ。鈍い音が教室中に響渡り、教室の生徒はクスクスと笑い、トモヒロも衝撃でずれた眼鏡を直しながらすごすごと自分の席に戻っていった。

 全く……あいつらも朝っぱらからなにやってるんだかなぁ。と、俺はこの一連のやりとりを見て呆れつつも内心笑っていた。

 その時だった。

 

 

―…………―

 

 

 

 なんだ……? どこからか視線を感じる……。周囲を見回して、その視線の主を探すと……それは前の席の方から向けられていた。

 視線の主は、クラスの中でも影が薄く、眼鏡をかけていて、無口で無表情で、俺もあまり会話をしたことが無い女子から向けられているものだった。確か名前は……“キサラギ・レイナ”とかいったかな。何で俺の方を見ているんだ?

 不思議に思いつつも、しばらくその視線をじっと見つめ返していたときだった。

 

「ハイハイ、それじゃあホームルームを始めるわよ。今日の連絡事項は……―」

 

 独先生がホームルームを始めた。それと同時に、キサラギは視線を俺から背け、前方の先生の方へと向けてしまった。

 

「……なんだってんだよ、一体」

………………

…………

……

 

 昼休み、朝のことが気になった俺は、思い切ってキサラギのとこまで行き、話を聞いてみることにした。

 クラスのみんなが購買で買ったパンや弁当を友達同士で食べたり、学食に行ったりするのに対し、キサラギは一人ポツンと自分の席で自分で作ったと思われるお弁当を食べていた。

 

「拙者はいつも通りアッガイたんを使うでござるよ」

「なら俺はゴッドだ」

「あれ? ソウシ君、どこ行くの?」

 

 いつもなら俺は、オトメ、トモヒロ、タクオと一緒に昼飯を食べ、その後の昼休みは四人でPSPの“ガンダムvsガンダム NEXT PLUS”をする。少し古いゲームだが、未だに四人が集まって遊ぶゲームといえばこのゲームであった。だが、今日は違った。

 

「悪い、ちょっと用事があってな。俺の枠は、CPUでも入れといてくれ」

「ふ~ん……じゃあ、私はヴァーチェ使お♪」

 

 オトメは他二人とともに、ガンガンNEXTを始めた。俺はというと、ちょうど昼食を食べ終わった様子のキサラギに近づき、後ろから声をかける。

 

「よう」

「……?」

 

 空になった弁当箱を仕舞いながら、キサラギは無言で俺の方を見上げる。じっと俺の方を見据えるキサラギ。表情同様、その瞳からは何を考えているのかはわからない。

 

「え~っと……俺の事、知ってるか?」

 

 同じクラスだから知っているとは思うが、なにせ今まで一度も会話をしたことの無い女子だ。もしもということもある。すると、俺の問いに対してキサラギは小さく答える。

 

「……キモト・ソウシ」

「そ、そうだ。あのさぁ、今朝、俺の方見てたよな?」

「……」

 

キサラギはなにも言わない。しかし、小さくコクリと頷く。その後、また抑揚の無い声で「それで?」と小さく返してきた。

 

「あ……え~っと……大した事じゃないんだけど、なんで俺の方見てたのかな~って……気になったから」

 

 どうにもこのキサラギという娘は俺の苦手な種類の人間らしく、俺はわけもなく緊張してしまい、うまく言葉が出てこない。しかし、そんな俺のしどろもどろな質問に対し、キサラギはまたも静かに答える。

 

「……貴方は……私と同じ感じがしたから……」

「え……?」

 

 それってどう意味だ?と、俺が聞こうとした時だ。

 

「……今日の放課後……体育館裏に来て……」

「え……えぇ!? そ、それって……―!」

 

 その言葉の真意を聞こうとしたとき、運悪く五時間目の始業チャイムが鳴り、俺は自分の席に戻ることを余儀なくされた。

 

 

 

「……」

「……」

 

 そんなソウシの様子を遠くの席から見ていたタクオとトモヒロ。

 

「やった! 勝ったー♪ …どうしたの二人とも? 急にボーッとしちゃって」

 

 ボーッとしている二人に対し、オトメが気にかけ声をかける。

 

「あ……い、いや、なんでもないでござる」

「……って、あー! 負けてんじゃねぇか!」

 

 画面上に映し出される自分達の敗北エフェクトを見て、トモヒロが思わず叫んだ。

 

「そりゃそうだよ。二人ともよそ見ばっかしてたんだから。で、何見てたの?」

「さ、さぁてな。よし、もう一度やろうぜ」

「な、なら今度はジオングで!」

 

 オトメの話題をそらすために、またゲームを始めようとする二人であったが……。

 

「お楽しみ中悪いんだけど」

 

「う……こ、この声は……?」

 

 聞き覚えのある不穏な声に、タクオは恐る恐る背後を振り返る…。

 

「とっくに授業開始のチャイムは鳴っているわよ。よほど楽しくて気付かなかったのかしら?」

 

 そこには黒い怒りのオーラを纏った独先生が、青筋を立てながら三人の前に立っていた。笑顔の表情のはずなのに、眼鏡の奥で笑っていない目が、恐怖と威圧感をより引き立てる。

 

「せ、先生……! これはその……!」

 

トモヒロが必死で弁解しようとするが、独先生はその弁解を聞く暇もなく3人の持つゲームに手を伸ばす。

 

「ゲームは没収します。放課後に取りに来なさい」

 

 三人からゲームを取り上げ、教卓に戻っていった。取り上げられた3人は一瞬の放心の後、深いため息をついて自分たちの席に戻っていった。

 

………………

…………

……

 

 そして放課後、俺はあの時キサラギが言った言葉がどうしても気になり、迷ったがやはり言われた通り、体育館裏に行ってみることにした。「同じ感じがする」って……一体どういう意味なんだ? やはり気になる……。

 

「……よし、行くか」

 

 授業後のホームルームも終わり、荷物をまとめて席を立った時だった。

 

「ソウシくーん! 一緒に帰ろ♪」

「あ、オトメ済まない。俺今日はこれからちょっと用事あるから先に帰っててくれ」

「え……? でも私のガンプラ見るんじゃないの?」

 

 あ……そうだった。今朝オトメのガンプラを見る為に帰りにオトメの家に寄ってくっていう約束したんだっけか。

 

「すぐ終わる用事だから、それが終わったらすぐ行くよ。だから先に帰っててくれ、な?」

「う、うん、わかった」

「悪いな、じゃ」

 

 オトメには悪いが、今日は一人で帰ってもらうしかない。後で必ず家に行くとオトメに約束をし、俺は教室を出ると一目散に体育館裏へと向かった。

「珍しいなぁ……ソウシ君が放課後に用事なんて。……あ! 私達も放課後独先生のところに行かないと! ゲーム返してもらわなきゃね」

 

 オトメがトモヒロとタクオの二人と共に職員室に向かおうとするが、二人はソウシの様子が気になるなしく、思わず足を止める。

 

(ソウシのヤロー……なんか隠してやがるな。昼休みの時もそうだったが、俺達に内緒で女子と二人きりになるなんて、いい度胸してるじゃねぇか)

(こうなれば、拙者たちもソウシ殿の後をつけ、その実態を探るべきでござる!)

 

 考えていることは二人とも同じらしく、ソウシの後をつけることになった。

 

「ね、ねぇ二人とも……」

「悪ぃ、オトメ。俺らもちょっと用事あるから、代わりに独先生んとこ行ってゲーム返してもらってきてくれ」

「えっ!?」

「頼んだでござるよ~」

 

 没収されたゲームのことをオトメに任せ、二人はソウシの後を追った。

 

「ちょ、ちょっと二人とも……!あ、もう行っちゃった……しょうがないなぁ」

 

 一人残されたオトメは、いつもはピンと立っているアホ毛を垂れらしてとぼとぼと重い足取りで職員室へと向かった。

 

………………

…………

……

 

「体育館裏って……ここでいいんだよな?」

 

 キサラギに言われた通り、体育館裏にやって来たのだが、そこにはまだキサラギの姿はない。体育館の中からは、部活を始めたバスケ部やバレー部の声やボールの跳ねる音が聞こえる。

 と、その時、部活の練習の音とは別に向こうの方から誰かが歩いてくる音がし、俺をその方をじっと見据えた。

 

「……」

 

 歩いて来たのはキサラギだった。黙って歩いて来るキサラギは、俺を見つけると足を止め、俺の前に対峙する。

 

「約束通り来たぞ。で、俺に用事ってなんだ? もしかしてとは思うが……告白とかか?」

 

 と、俺は普段無表情なキサラギがどんな冗談を言ったら笑うのか興味を持ったために、そんなことを冗談半分に聞いてみた。

 

「……そう」

「……え?」

「……私は……貴方に告白したいことがあってここに呼んだ……」

「ま……マジで!?」

 

 冗談で言ったつもりだったんだが……生まれてこのかた17年、今まで一度も女の子に“好き”と言われたことが無かった俺にもようやく春が来たのか……!?

……と、思っていたら、次にキサラギの発した言葉は俺の思っていたものとは違うものだった。

 

「……呼んで」

「は……? え……な、何を……?」

「……貴方の……ガンプラ……」

「……っ!」

 

 な…何故キサラギがファントムの事を!? というかキサラギって、ガンダム知ってたのか!?い、いや! 今はそれよりも……!

 

「な……なんの事だよ……ガンプラって」

「……誤魔化しても無駄……さっきも言ったでしょ……? 貴方とは私と同じ感じがするって…」

 

 キサラギの口ぶりからして、やはりキサラギも俺と同じく自分の持っているガンプラが人の姿になったりしたのか……? もしそうだとしたら……!

 

「……お前は人の姿になったガンプラについてなにか知っているのか?」

 

 これは隠しても無駄だと悟り、俺は思い切ってガンプラの事について聞いてみることにした。俺はあいつのことを何も知らない。どうして何の変哲もないガンプラが、人の姿に変わったのか……こいつならそれを知っているかも!

 

「……なにも。……でも私は彼女達が何を求めているのかがわかる……」

「なんだそれは? 何を求めているっていうんだ?」

 

 なんでもいい、なんでもいいからファントムの情報が欲しかった俺は、キサラギに問いただしてみる。

 

「……それは……」

 

 だがその後のキサラギの言葉は突如空から聞こえてくる謎の音によってかき消された。この独特な「ガラガラ」という音……どこかで聞いたことのあるような音だ。何事かと思い、音のした方を見上げる。

 

「なっ……!?」

 

 上空からゆっくりと降下してくる赤い影……。右手には一本の長い槍、全身を覆う真紅の外殻……目元には仮面のような形状のセンサーを被り、そのセンサーに内蔵されたバイザーから「ピピピピピ……」という独特の電子音を鳴らす。間違いない、コイツは“機動戦士ガンダムAGE”に登場するヴェイガンのモビルスーツ……“ギラーガ”だ。

 しかし紅い角の生えた頭部の外殻からは、僅かに紫色の髪の毛が見え、バイザーの隠れていない口元や装甲の隙間からは褐色の素肌が覗いていることから、そいつはモビルスーツではなく人だということがわかる。さらに、胸部のビームバスターに覆われているが胸もあるし、体格は長身ながらも華奢なことから、まだ年端もいかない女の子だということがわかった。年齢は17~18歳といったところだろう、おそらく俺達とさほど歳は違わない。

 ギラーガの格好をした少女はキサラギの隣に降り立つと、言葉を喋った。

 

「私の闘う相手は何処にいる? 我が創造主よ」

 

 やはり言葉のトーンからは女性らしさ感じられるが、それとは逆に武人のような喋り方をしている。創造主とはキサラギのことなのだろう。ということはこのギラーガもやはり人となったガンプラ……しかもその主はキサラギらしい。

 

「……もうすぐ来るよ……ギラーガ」

 

「な……!」

 

何が一体……どうなってるっていうんだ……?


 
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