第六章~朱色の君よ・番外編~
魏領のとある場所にて・・・。
林の中を流れる一筋の小川の岸で、その川の水を両手で汲み、
自分の口の中に注ぐ青年がいた。
「んぐ・・・、んぐ・・・、んぐ・・・。ぷはぁっ・・・!
・・・良かった、この川の水は飲めそうだな。」
この川の水が飲めると分かり、腰に備えていた竹製の水筒を川に沈め、水筒に
川水を注ぎ入れる。
「・・・あれ、そういえば露仁はどこに行った?」
自分の連れである老人の姿を探す。右を振り向くと、その老人がいたので安著した。
が、その安著はすぐさま別の物へと変貌する。
「・・・・・・。」
言葉が無かった・・・。その老人は両足を冷たい川の中に入れ、悦に入った表情をしていた。
「ふい~~・・・・♪」
それだけなら問題は無いのだが、川が流れる方向のせいで、大いに問題であった。
その理由は下の図を見て頂ければ恐らく分かってくれるだろう。
「露仁。」
「ん?なんじゃ、北郷?」
「いや、『なんじゃ』ではないでしょう!?俺が水を汲んでいるのに、どうして
そんな所で、両足を川の中に入れているんだよ!汚いだろうが!」
「何じゃと!?お前は、わしの足は汚いと言うか!?」
「あんたでなくとも、他人の足が浸かっていた水を、俺は飲む気はない!」
「北郷!!言っておくがな・・・、わしは誰よりも清潔さを大事にしておるのじゃ!
そのわしに汚い等という言葉を使うとは・・・!!」
「・・・・・・。」
「何じゃ、その顔は!?『は?何を言っているんだ、この爺は。』っと言いたげな、
その顔は!!」
「そこまでは思ってはいないが・・・、でもあんたの生活の様子を見る限りだと、
信じられないな~。」
実際、俺の目から見ても、清潔に気を遣った生活をしているようには見えなかった。
初対面の時から、変わった人だとは思っていたが、この人と一緒に旅をしてからは
それが確信へと変わった。
ある時は、明らかに危なそうなきのこや山菜を拾って来ては、鍋に放り込んで食べて、
でその後、決まってお腹を壊す。
またある時は、その寝像の悪さから崖や川に幾度か落ち掛け、九死に一生を得る
体験をする。
などなど・・・きりがない。
「ふん、所詮貴様の目も節穴って事じゃわい!ほりゃあ!」
そう言って、川に浸けていた足で、俺に向けて水をかけてくる。まるで子供だ。
そんなこんなで、水を確保した俺と露仁は荷物をまとめて、来た道へと戻る。
「ところで露仁、聞きたい事があるんだが・・・。」
「ん、何じゃ?女子の好みか・・・?」
「違うよ。この剣の事だ。」
そう言って、腰に下げていた剣に目を向ける。
「まだこいつの名前を聞いていなかった気がしてさ。何て言うのかなって思ってさ。」
「ああ・・・そいつか。そいつにはな・・・、名前が無いんじゃ。」
「そうなのか?」
「うむ・・・、どこの誰が作ったのか不明で、わしが最初に見つけた時は刀身のみでな。
刀身自身には、作者の名も剣の名も刻み込まれておらんかった。」
「・・・・・。」
俺は足を止め、、その名も無き剣を抜く。その刀身はいつ見ても惚れ惚れししまう程の
曲線を描き、日の光を鮮やかに反射させていた。限りなく日本刀に近いその剣、違う所は
剣先が日本刀の様に尖っているわけでなく、少し丸みを帯びた感じであるという点である。
明らかに、切る事を前提に作られている。
「なら・・・さ。俺がこいつに名前付けていいか?」
「そりゃあ、わしは構わんが・・・。急にどうした?」
「何となくさ・・・、運命を感じるっていうのかな?俺が、この剣と巡り合ったのは
偶然じゃない様な気がしてさ・・・。」
「・・・?よく分からんが、つまり、そいつを気に入ったと言う事か?」
「まぁ、そう言うところかな?」
そう言って、この剣の名前を考える。この親近感とも言える感じを抱かせる
この剣の名前は・・・。
「・・・・・・うん、決めた!『刃』・・・こいつの名前は、『刃』だ!」
「お前さんの名前『一刀』を文字って・・・『刃』か?何と言うか・・・随分安直じゃのう。」
露仁は呆れ返った声でそう言った。
「いいんだよ、それで。」
そう言って、刃を再び鞘に戻す。
「あ、忘れとる様じゃが、それは貸しているだけじゃからな!」
「はいはい、分かってますよ。」
そう言いながら、再び歩きだす。
「こら、貴様!そのまま借りパクする気だな・・・!そうはさせんぞ!!」
俺の後ろから、声を荒げながらも露仁は付いてくる。
洛陽に着くのはまだ先になりそうだ。
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こんばんわ、アンドレカンドレです。
前回は、最後辺りに登場した変態(笑)が蓮華を狙っているような発言に蓮華大好きな人は恐らく怒り心頭の境地だったと思います。僕も蓮華は好きです、はい。
さて今回は、後編に織り込むつもりだった内容を、区切って投稿しました。区切らず全部を投稿するとやはり改ページが多くなって読みづらくなりそうなので、そこを考慮しての第六章・番外編です。