No.757592

おや?五周目の一刀君の様子が……24

ふぉんさん

展開は早目で。

2015-02-10 20:32:04 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:10347   閲覧ユーザー数:7086

「華琳様。全軍徐州に入り終えました。あとは道々の関所を落とし、彭城に向かうだけです」

 

「ご苦労様。……それにしても、随分と手こずったわね……」

 

悔しげに表情を歪める曹操。

夏候惇は頭を下げる。

 

「華雄に遅れをとってしまいました……申し訳ありません」

 

夏候惇は包帯が巻かれた自分の肩を撫でる。

魏軍は国境の関所を数で蹂躙した。

その時、反董卓連合の際、大した働きもできず敗走した華雄が名乗りでた。

夏候惇は鼻で笑い罵りながらも受けた。

だが、華雄の瞳が湛える闘志に飲み込まれた。

純粋に力負けし、肩口を斬られた。

怯み追撃に反応できず、迫り来る斧を見つめていたが、それを夏侯淵の矢が阻んだ。

華雄の意識が夏候惇から離れた瞬間、夏候惇は華雄に斬りかかった。

 

(……我ながら、何て不甲斐の無い……ッ!)

 

その後、釈然とせず夏候惇は倒れた華雄を見つめていると、夏侯淵が声をかけてきた。

 

『我らの命は華琳様のもの。ここで散す事は許されないぞ、姉者』

 

武人としての夏候惇、曹操の部下としての夏候惇。

その二つが夏候惇の内で鬩ぎ合っていた。

 

「話を聞く限り、華雄は随分と力を上げていた様じゃない。仕方が無いわ。それよりも、その名将がここまで時間を稼いだというのに、劉備軍は何をやっているのかしら」

 

「明らかに反応が鈍いですね。何かあったのかもしれません」

 

相手の愚鈍さに苛立ち、眉を寄せる曹操。

 

「……先行して威力偵察を行いましょうか?」

 

「そうね。春蘭。秋蘭と季衣を連れて、先行して彭城に向かいなさい」

 

「……」

 

「春蘭ッ!」

 

「ッ!はっ。お任せを!」

 

遅れて返事をし、軍を纏めるとその場を後にする夏候惇。

曹操はその夏候惇の背中を心配気に見つめた。

 

「……秋蘭、春蘭の事、頼んだわよ」

 

華雄との一騎打ち、何があったのか曹操は夏侯淵から報告を受けていた。

しかしこの問題は、自分が突っ込み解決するものではないと結論付け、彼女の妹である夏侯淵に任せることにした。

 

「お任せください」

 

それからまもなく、先行部隊が出発した。

「桃香さまー!」

 

「朱里ちゃん、お帰りー!後方の様子、どうだったー?」

 

劉備へ駆け寄り、荒れる息を整えながら諸葛亮が口を開いた。

 

「国境の拠点を落として以降、魏軍は破竹の勢いで進軍してますね。進軍経路は、東方から彭城に向かう一隊。そのまま南下している曹操さんのいる本隊。後は、先行し、私たちの動きの偵知を目的とした部隊が、他の部隊と連携をとりつつ動いています」

 

「偵察を目的とする一隊か……ならば奴らはまだ我らの動きに気づいていないようだな」

 

諸葛亮の説明にそう結論付ける趙雲。

 

「そうですね。情報の入手が早かったのが幸いでした。恐らく、このまま逃げ切れるでしょう」

 

諸葛亮は視線を後方へ向ける。そこには兵や輜重隊だけでなく、家財道具を抱え、劉備達と運命を共にする覚悟を決めた人民の姿があった。

そのため移動速度は極めて遅いのだが、それを考慮したうえで諸葛亮は逃げ切れるとふんだ。

 

「……銀華さんのおかげです」

 

「そう……だな。その通りだ」

 

顔を伏せ呟く諸葛亮に、趙雲が同調する。

場に暗い空気が流れる中、陳宮が慌てた様子で駆けてきた。

 

「た、大変ですぞー!一刀殿が……一刀殿が……」

 

陳宮の言葉に呂布がピクリと反応する。

 

「……行方不明なのです!」

 

陳宮が言い終わると同時に、呂布は陳宮を抱え走り出していた。

 

「また……恋のそばから居なくなるの……?…………ご主人様……」

 

その呟きは小さく、抱えられた陳宮にすら聞き取れなかった。

 

 

 

 

意識が戻ると、縄で拘束され馬に括り付けられていた。

首筋が痛い。恋の奴、相当強くいれてくれた様だ。

 

憤慨に滾る心を落ち着かせ、近くの兵へ状況を聞く。

魏軍は既に徐州内に入り、彭城へ向け進軍しているとのこと。

それを聞いた瞬間、心の内に大きな喪失感を感じた。

続けて、怒り。銀華の仇をとらねばならない。

武器は押収されていなかった。ならば、抜け出すなどどうということはない。

 

手首を返し牙刀を抜き、器用に縄を斬る。

慌てた兵達を視線で制す。余計な事はさせない。

 

そのまま馬首を返し、軍の流れと逆へ走る。

最後尾が見えた。と、目の前に現れた影に馬を止める。

 

「前方から砂塵が向かってくると思いきや……お前か」

 

呆れた表情で偃月刀を構える愛紗。殿はこいつだったか……面倒な。

武器を抜く。こいつをやり過ごせば行く手を阻むものはない。

隙を見て抜いてやる。

 

「そこを退け、邪魔をするなら容赦はしない」

 

眼を睨み、凄む。

愛紗相手に無意味だとわかっているが、身の内の怒りがそうさせた。

 

「止まれ。と言っても、聞く気は無い様だな」

 

呆れ顔から一転、真剣な表情で俺を見つめる愛紗。

 

「……死ぬぞ、確実に」

 

「かもな。だが、愛した女の仇も取れない様なら死んだ方がましだ」

 

それに、銀華に手をかけた奴を殺した後は逃げるつもりだ。

無駄に命を散らすつもりはない。銀華も俺が死ぬことは望んでいないはずだ。

俺の言葉に、愛紗は悩ましげに溜め息を吐いた後、偃月刀をしまった。

 

「……行け。お前などもう知らぬ」

 

どういう風の吹き回しか、愛紗は俺に道を譲った。

言葉の意味を理解するのに、時間がかかった。

二刀を戻し、口を開く。

 

「……助かる。迷惑かけてすまなかったな」

 

思いがけず言ってしまった言葉。

彭城へ来てから、愛紗には顔合わせの件や用兵について世話になった。

記憶が蘇った今なら、愛紗の反応に理解も納得もできる。

だが、面と向かって言うつもりは無かったんだがな。

俺の言葉に、驚きからか息を飲む愛紗。

返事を待たず馬を走らせる。目指すは死地。

 

銀華……仇は必ず取ってやる。

長坂橋。

鈴々と恋が決死で魏の追撃を凌いだ場所。

一対多での迎撃ならば、ここより適した場所は無いだろう。

馬を下り、腹を蹴る。馬は走り出し、瞬く間に砂塵と共に姿を消した。

ここに置いていても邪魔なだけだからな。逃げる時は敵から奪えばいい。

地に胡坐をかく。魏軍が来るまではまだ時間があるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『一刀!今日は敵陣へ打って出ると聞いたが本当なのか!?』

『私がどれだけ、この気持ちを持て余したか……もう、毎晩一人で体を慰めるのは寂しくて耐えられないんだ!』

『ん……ふぅ……』

『見事にすれ違ってしまうとはな。だが、一度受けた任はしかとこなしてこよう』

 

『また会おう。一刀』

 

 

 

 

 

 

 

眼を閉じると思い浮かぶ銀華の顔。

笑顔や寝顔、毅然とした表情。悲しげな顔だって。どれもこれもが、俺の愛したものだった。

 

「……もう少し。もう少しだ」

 

滾る怒り。今なら恋にも負ける気がしない。

五十万?かかってこいよ、蹴散らしてやる。

「夏侯淵将軍。長坂橋前に人影を発見致しました」

 

遅れながらも劉備軍の逃走を察知し、華琳様は追撃の指示をなされた。

何もせず見逃すのも頂けないのだろう。追いつく可能性は絶望的だった。

しかし、兵の声を聞き驚く。まさか追いついたのか?

 

「追いついたのか?長坂橋か……。劉備め、迎撃でもする気か?」

 

「いえ、それが……敵影と思われるものは一人。長坂橋手前で座り込んでいます」

 

「……何?」

 

兵に指示を出し停止させる。

時間の遅れはもはやいいだろう。追撃はもう間に合うまい。

それよりも、劉備軍も通ったであろうこの橋に座り込む人影とやらに興味を惹かれた。

何もせずとも劉備軍の逃走は成功するのだ。ここに時間稼ぎを置く必要はない。

それ以前に、一人というのはどういうことだろうか。

何にせよ、会ってみなければわからない。

 

「姉者、霞。先に橋に向かい様子を見よう。季衣はここで兵達に指示を頼む」

 

各々に指示を言い渡し、姉者、霞の三人で長坂橋へ向かう。

 

「ん?あれは……」

 

座り込む人影の顔が、ぼんやりと見える距離に来ると、霞が口を開いた。

 

「霞、知り合いか?」

 

「……間違い無い。一刀や」

 

一刀……北郷一刀か。

反董卓連合時、劉備軍猛将張飛と一騎打ちを行った末、勝利し捕えてみせた男。

そして、華雄の想い人か。

 

座り込む北郷の数歩手前まで来た。

未だ北郷は眼を閉じたまま、微動だにしない。

 

「一刀。久しぶりやなぁ。元気そうで何より……」

「我が軍相手に一人で迎撃など、肝が据わっているではないか」

 

霞の言葉を遮り、姉者が喋り出す。

まだ敵だと決まったわけではないというのに……

諌めようとするが、姉者は続ける。

 

「その根性に免じて、私自ら相手をしてやろう!華雄の主なのだろう?その力を私に見せてくれ!」

 

姉者の言葉に、北郷が初めて反応する。

ゆらりと立ち上がり、眼を開いた。

 

「……なぜ俺が華雄の主だと?」

 

「そんなもの本人が言っていたからに決まっているだろう!」

 

「そうか。で、華雄は?」

 

「……む、無論私が倒してやった!今頃……」

 

姉者の言葉は続かず、大きな金属音に遮られた。

唖然とする私と姉者。いつの間にか姉者に接近していた北郷の一撃を、霞が防いだのだ。

 

「ッ……痺れるなぁ……一刀の一撃」

 

「神速……か。侮れないな」

 

北郷が後ろに飛び退いた。

姉者が剣を抜き非難しようと口を開くが、叶わなかった。

北郷が武器を構えたのだ。

それだけで、私も、恐らく姉者も、霞も、息が止まった。

 

この闘気……呂布以上か……!?

「夏候惇だよな、お前」

 

こういう時、記憶があるのは便利だ。

知らない奴の名前が解るからな。

剣を抜いた夏候惇へ、流剣の切っ先を向ける。

こいつが銀華の仇。

 

「生きて帰れると思うなよ」

 

 

 

 

 

 

必ず殺してやる。

 

 

 

24話 了


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
40
6

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択