2人が出会って4日目
曇天の昼下がり、矢崎は秋穂を連れて繁華街の方へ来ていた。
秋穂の日用品と当面の食料の買出しのためだ。
「こんなもんか」
大きな袋をおんぼろ車のトランクに詰め込む。
「まだ時間もあるし、ちょっとその辺回ってみるか?」
秋穂は見知らぬ風景に不安を感じているのか、矢崎の服の裾を離さないままうなずいた。
「じゃあ、どこへいくか・・・」
そう考えた時、背後から怒号が聞こえた。
「なんだてめぇ!やんのか!」
「おめぇがよそ見してたんだろうがよ!」
ヤンキー同士の喧嘩のようだ。
二人は胸倉をつかみ合い、今にも殴り合いに発展しそうになっていた。
「あんまり見るなよ?」
秋穂の手に力が込められたのを感じ、秋穂の方を見やる。
しかし、秋穂は『笑っていた』。
笑うといっても目を細めて口の端が多少つり上がる程度で、声を出しているわけではない。
矢崎はこの笑顔に覚えがあった、何でも屋として裏の世界に立った時に見た笑顔。
(獲物を見る目・・・?)
会って数日とたたない少女がこんな顔をできることに矢崎は衝撃を覚えた。
先日見た笑顔とのギャップ、踏み込めない過去、矢崎の思考が混乱していく。
ビリッという音が耳に届き、矢崎の意識が戻る。
秋穂の握っていた服が破けていた。
「秋穂!」
咄嗟に叫んでしまった。
秋穂がびくっとした様子で返事をした。
「な、なに?」
「今・・・、笑ってたのか?」
「私、笑ってた?」
きょとんとした様子で聞き返す秋穂はいつもの秋穂だった。
(無意識に?まさか・・・な?)
「なんでもない、忘れろ」
「変なの」
くすくすと笑う秋穂に安堵感を覚えていた。
その手に握る布を見るまでは・・・。
「破いちまったな~」
「あ・・・、ご、ごめんなさい」
破れた布を秋穂から受け取る。
(なんだこれ!?)
ビリっと音がしたものの、切断面は引き千切られたものではなく、鋭利ななにかで『切り取られていた』。
秋穂を見れば、怒られると思ってかぎゅっと目を瞑っている。
当然、その手に刃物はない。
「気にするな、怖かったんだろう?」
秋穂はこくんと頷く。
(この様子じゃ問い詰めても何も出てこないだろう)
そう判断した矢崎はこの話をここで打ち切った。
「そうだな、近くに公園があるんだ。そこで休んでくか」
矢崎は秋穂を車に乗せ、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
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