剣丞、雫、明命の三人はころと小夜叉と合流するため、馬で東海道を東へと進んでいた。
「あとどれくらいで着くのかなぁ?」
「合流できるのは明日になるでしょうね。確か、ころと小夜叉さんが今いるのは…」
頭の中に地図を浮かべる雫。
「…け、剣丞さん?」
「なに?どうしたの、明命姉ちゃん」
そんな雫の言葉を遮るように、明命が少々震えた声で声を発する。
「あ、あれって…なんなんでしょう?」
「あれ?」
またあれかな?非現代人特有の、視力10.0みたいなやつかな?
そんなことを思いながら視線を前方に向ける、と
「……何、あれ?」
遠近感がおかしくなるような感じ。
すごく大きいものがあるんだけど、なかなか近付いてこない。
「…雫には、何に見える?」
「馬……みたいに、見えますけど…」
確かに姿形は馬のように見えるのだが、多分、恐らく、大きさが尋常ではない。
何か世紀末的な突然変異なのだろうか?
「た、たた、大変ですよ剣丞さん!あの馬?人を食べてます!!」
「な、なんだってーーー!!!?」
目を細めるが、そこまでは見えない。
なんとなく口元に何かあるような無いような…
「って、あれが人か!?」
「ど、どどっど…どうしましょうっ!?」
雫も慌てふためく。
「何かいい策はないの!?」
「しょ、しょんなこと言われても~~!」
そうこうする間に、馬と思しき生物は見る見る近付いてくる。
「み、明命姉ちゃん、化け物退治の経験はっ!?」
「あるわけないですよー!」
「と、とりあえず、道の脇に…」
避けよう、そう言おうとした時、剣丞の目に食われている人の人相が見えた。
その刹那、剣丞は乗っていた馬を飛び降り、向かってくる馬の化け物目掛けて走り出した。
「「剣丞さま!」さん!」
危険も顧みず、馬の進路上で両手を広げる剣丞。
止められるかどうかなんて関係ない。
止めて、喰われている人物を助け出す。
それしか考えない。
何故なら…
「ころーーーー!!!」
化け物の口にいるのは、彼の大切な人だったからだ。
――
――――
――――――
「気ぼぢ悪い……」
ころは酔っていた。
襟首を咥えられたまま、百段はガンガン飛ばして走るものだから、その揺れは荒れ狂う海を行く船以上に揺れていた。
(気ぼぢ悪いよ゛ぅ……)
先程痛めた足のことなど揺れと共に何処かへと放り出され、ころの世界はただただ回っていた。
そこへ…
「ころーーーー!!!」
聞き間違えようの無い、愛する人の声がした。
「け、剣丞さまーーー!!!」
吐き気など吹き飛んだように大声が突いて出る。
『!』
剣丞、という言葉に反応したのか、百段は耳を左右に動かしながら、わずかに速度を落とす。
「下!下!」
ころの声に、百段は大きな目を足元へ転ずると、一人の人間が目に入った。
そしてゆっくりとその脚を緩める。
ギリギリ、間一髪。
左の蹄が剣丞の髪先を掠めて、止まった。
「………………」
世紀末覇王の愛馬みたいな巨大な馬が、ギリギリ、剣丞の鼻先で止まった。
目の前には馬鹿でかいくるぶし?がある。
「剣丞さまーー!!」
「はっ」
頭上からの声に意識を戻す。
上を見やると、両手をバタバタと振っている、ころの姿があった。
どうやら喰われていたわけじゃなく、服を銜えられていただけのようだ。
「降ろしてくれる~?」
ころが馬?に話しかける。
と、その声に反応したのか、ゆっくりと巨木のような首を下ろし、ころを地面へと降ろしてくれた。
「ころ!」
「剣丞さ…あ痛っ!」
立ち上がろうとした、ころが突如うずくまる。
「どうしたんだ、ころ!?」
慌てて駆け寄ると、足首を押さえている。
「見せて」
剣丞は屈みこんで、押さえているころの手を解く。
「これは…」
ころの右足首は拳大ほどに腫れ上がり、色はどす黒く変色していた。
「ころ、いったい何が…」
「「剣丞さまー!」さーん!」
後ろから雫と明命がやってくる。
「お、大きいです…」
剣丞を心配して近付いてきた二人だったが、明命は馬のその大きさに驚きを隠せない。
「雫ちゃん…?どうしてここに?」
「ころさん!食べられてたのはころさんだったんですか!?」
「いや、食べられてたわけじゃないんだけど…」
「はわっ!こっち見ました!」
場が荒れだしたので、ひとまず剣丞が収拾を図る。
明命を紹介しながら、明命に応急措置をしてもらう。
骨に異常があるかもしれないとのことだ。
その間に剣丞は自分たちの目的を話し、そして話題はころと小夜叉へ。
…………
……
「そんなことが…」
訪問先の集落で鬼に襲われ、小夜叉が百段を呼び出し、ころを逃がしてくれたらしい。
小夜叉は一人残り、鬼と戦っているようだが、危険な状況であることには違いない。
「早く、小夜叉さんを助けに行きましょう!」
雫も勇み立つ。
「あれ?」
と、明命が声をあげる。
「どうしたの?明命姉ちゃん」
「いえ、気のせいかもしれないんですけど、なんかこの百段さん、さっきよりも小さくなってるような…」
「え?」
そう言われて巨大な馬、百段を見上げる。
あまり変化はないように思えるが…
と、視線を落とす剣丞。
「あっ!」
何かに気付く。
「本当だ、少しだけど小さくなってる」
先程、間近で百段を見た剣丞。
目の前にあったくるぶしが、今は胸元にある。
「どうしてこんなことが…」
「……もしかして」
と雫が発する。
「この百段という馬は、小夜叉さんと氣の繋がりがあるのではないでしょうか?」
「あ…」
前に剣丞は、百段は瓢箪の中に入っている、と小夜叉に教えられた。
百段が小夜叉と氣などの繋がりがある、あるいは小夜叉の氣で出来ているのであれば、馬鹿でかい大きさも説明がつく。
しかし、ということは…
「小夜叉の氣がさっきよりも減ってるってことか!?」
「恐らくは…」
「急がなくちゃ!ころ、行けるか?」
「大丈夫です!」
明命に添え木を巻いてもらい、歩けないまでも多少楽にはなったようだ。
「それじゃあ、行こう!」
剣丞ところは百段に乗り、雫は元の馬に、明命は剣丞の馬と自分の馬を両方とも駆りながら、小夜叉の元へ急ぐことになった。
………………
…………
……
「――うわっ!?」
剣丞は突如、身を投げ出された。
乗っていた百段が消えてしまったのだ。
「剣丞さんっ!」
後ろを走っていた明命が自分の馬から飛び降り、剣丞ところを抱きとめる。
「っぶなかったー!ありがとう、明命姉ちゃん。ころは大丈夫か?」
「あ、はい!大丈夫です」
上手く明命が助けてくれたようだ。
「大丈夫ですか、ころ、剣丞さま!?」
雫も馬を降りて、三人に駆け寄る。
「あぁ、大丈夫だけど、これって…」
百段が消えてしまったであろう地点に視線を向ける剣丞。
走っているうちにも、どんどんと小さくなっていった百段。
小夜叉と霊的な繋がりがあると思われる百段が消えた。
ということは…
「急ごう!」
小夜叉の身が、かなり危険な状態にある可能性が高い。
剣丞たちは先程よりも急ぐのだった。
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どうも、DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、38本目です。
駿河編も早?三本目。
展開的には小休止。
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