No.736097 ALO~妖精郷の黄昏~ 第47話 西方陥落本郷 刃さん 2014-11-09 12:49:12 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:5962 閲覧ユーザー数:5336 |
第47話 西方陥落
グランド・クエスト[神々の黄昏]
『侵攻側クエスト[霜の世界の黄昏]:ミズガルズと四方の階段を攻め落とせ』
『防衛側クエスト[霜の世界の抵抗]:ミズガルズと四方の階段を守り抜け』
No Side
――ヨツンヘイム・西方階段
スコルとハティによる北方への侵攻、ガルムとスィアチによる南方への侵攻が始まり、西方へも巨人の軍勢が侵攻を進めていた。
こちらに向かうのは
そして彼の傍には以前『ムスペルヘイム』に訪れたハクヤ達を迎撃しようとした〈
だが侵攻の速度に関しては最も遅いと言える、
なにせスルトとシンモラは勿論だが2体が率いているモンスターも全て巨人達であるのだ。
スコルとハティは狼型のみを率いたので移動速度は速く、
ガルムが先行したのちにスィアチが霜の巨人族を率いた状況とはわけが違う。
しかし、唯一にして厄介な点があるとすれば、それは彼らの通り道が全て焼き払われていることだろう。
さらに、未だに燃え続けるばかりでなく、周囲に燃え広がっていく。
それはムスペル達が炎の巨人族であること、そしてスルトが世界を焼き尽くす者だからだ。
彼らが放つ炎はこのALOにおいてフォールドに放たれるとシステム的に消すことが出来ず、
攻撃として扱われる段階で相殺するなどして消滅させるしかない。
そんな光景を最前線の崩れかけの塔の頂上で座りながら見ている2人の青年がいた。
「凄まじい光景だな…」
「ああ。まさに世界の終わりってところか…」
前者は黒髪でやや垂れ目をしていて長身、軽装で胸元に髑髏のエンブレムを付けた黒マント(内側は赤)で身を覆い、
手には手甲のような装飾のあるグローブを着け、ハンマーを片手で右肩に担いでいる。
名は『トキト』、種族は
後者も黒髪でこちらの目付きは一見すれば普通だが僅かに鋭さを含ませており、顔はイケメンの部類に入るだろう。
スマートだが筋肉質でもあり、白を基調とした和装に近い服が彼の肉体に似合っているが、
足に履くブーツに脚甲のような装飾があることからそこら辺のみ違和感を醸し出している。
槍を持つ彼の名は『タクミ』といい、種族は
(『あねいも』の小野寺拓己を参照)
この2人もオーディン軍のプレイヤーなのだが、現在は防衛線である最前線にて敵の接近を監視しているところだ。
「それにしても、ALOを始めてそんなに経たない内にこんな大事に巻き込まれるなんてな~」
「さすがの俺でも予想外としか言えないぜ…」
会話から察せられる通り、この2人はALOをプレイし始めてまた日が浅く、日にちにして3週間と少しという、
世間的に言うなれば学生が夏休みに入ってからというべきだろう。
傍から見れば
トキトは先天的な“VR世界に愛された者”に近い存在であり、
ここで説明するならばキリトやユウキがそれに該当し、彼もその2人と同じ分類になる。
また、タクミの方は現実世界で骨法とレスリングを体得しており、
それらの技術や経験を活かすことでALOでもかなりの実力を発揮できている。
しかし、そんな2人でもまだボス戦に関してはそこまでの経験は積んでおらず、
いきなり最高クラスのボスが相手というのも如何程な物か…。
とはいえ、この状況は彼らにとって『え、そんなに強いのと戦えるの?それなら逃す手はないでしょ!』ということで、
デスペナを惜しまずに雄々しく参戦しにきたわけである。
なお、友人2人も参加しているのだが、その2人は敵勢力である。
「っていうかだ、レオはともかくフカヒレは大丈夫だと思うか?」
「いや、無理だろ。だってフカヒレだぞ?」
「それもそうだな」
バッサリと斬り捨てるように決めつけているようにも聞こえるが、これは強ち間違いではない。
ここで出た2人の友人の名だが彼らにスポットライトを当てるのはまたこのあとのお話し、
ただ後者の人物の評価に関してのみ敢えてこう言わせていただく、正解だと!
「さてと…もう少しで最前線に接触するし、俺達も部隊の方に移動しよう」
「そうするか……俺の力がどこまで通用するか、楽しみだぜ…」
トキトの促しに応じたタクミだが、その表情はこれから訪れる強者との戦いを楽しみにしているものだった。
2人は翅を展開すると飛翔し、あと少しで巨人達と邂逅するであろう最前線の防衛部隊に合流しに行った。
トキトとタクミが防衛部隊であるレイドパーティーに合流して5分程度が経過した時、
一番前に居たレイドパーティーがついにスルトとシンモラ、そして炎の巨人族達と戦闘を開始した。
開戦の狼煙と表現するべきか、オーディン軍のメイジ部隊がエクストラアタックと大規模魔法を発動、
続け様に弓部隊やメイジ部隊とは別による魔法攻撃のあとに、近接武器による攻撃が行われた。
「始まったな、行くぞ」
「おう!」
敢えてレイドパーティーに参加せず、2人だけでパーティー…いや、コンビを組んでいるの
はやりやすいからとのこと。その2人もまた最前線のレイドパーティーの許へ赴く。
オーディン軍のプレイヤー達による先制攻撃の直後、何体かのムスペルが倒され、自身らもダメージを負う。
それでも炎の巨人達は止まらずに猛攻を開始した。
「ふんっ!」
「はぁっ!」
スルトは炎を発する剣『炎剣レーヴァテイン』を振りおろし、シンモラは両掌を空に掲げて炎弾を形成するとそれを投げつけた。
レーヴァテインが地面に叩きつけられるとそこから炎が吹き上がり、幾人かのプレイヤーを一撃で焼き尽くした。
吹き上がった炎はそのまま周囲の凍りついた木々に燃え広がり、プレイヤー達にダメージを与えながら追い詰めていく。
シンモラの放ったかなりの大きさの炎弾も着弾と共に爆発し、プレイヤー達にダメージを与えることとなったが、
こちらはスルトの攻撃とは違い一撃で決まるほどのダメージ量ではなかった。
それでも直撃した者、爆発に巻き込まれた者などは大幅にHPを削られている。
「せぇいっ!」
「てぇいっ!」
続けざまにスルトは剣を持つ右手とは逆の左手で拳にして殴り掛かり、拳に宿った炎と衝撃がプレイヤー達に襲い掛かった。
さらに、ボスとしては異例とも言うべきか、シンモラは格闘戦を行っている。
彼女の大きさはスルトらとは違い、ウルズほどの大きさに留まるため、
戦闘法は対モンスター戦よりも対人戦を意識した戦い方になる。
現に、シンモラと交戦しているレイドパーティーは近接武器などによる攻撃を仕掛けている。
しかし、彼女はそれらの攻撃を武術のような動きで防ぎ、躱し、いなしている。
「スルトに向けて水や氷系の魔法を集中させろ! 弓のスキルも追加でぶつけてやれ!」
「シンモラには連携攻撃を仕掛けます! 少しでも動きが止まれば弓や魔法も使用して!」
レイドリーダー達は弱点である水属性(氷属性含む)の攻撃を行うように指示を出しながら、自らも攻撃に参加する。
敵はスルトとシンモラだけでなく、HPを大幅に削ったもののムスペル達も健在だ。
そちらにも戦力を割り振りながらも戦闘は徐々に激化していく。そんな中、彼らがそこに介入してきた。
「おらぁっ!」
「だらぁっ!」
「「むっ!?」」
ハンマーと槍がそれぞれスルトとシンモラに襲い掛かり、しかし2体は剣と腕で防いだ。
「俺達も混ぜてもらうぜ」
「女が相手だからって、手加減はしねぇからな」
トキトとタクミが介入してきたのだ。
ボス戦の経験が少ないながらも攻撃を仕掛けたことは勇敢というべきか、それとも無謀というべきか。
それでも彼らは退くような姿勢がない、相手が強者である以上は挑みたいという彼らの矜持だろう。
そして、彼らも戦いを始めることになった。
ハンマーを振るって攻撃を仕掛けたトキトだが、スルトはレーヴァテインであっさりとその攻撃を防いだ。
すぐさまハンマーで追撃を行うがそれらも防がれていく。
「くっ、最高クラスのボスだからこのくらいの攻撃は防がれるか…!」
「この程度ではやられはせん」
一切の油断もなく対応するスルトは防御性能が高いことが窺い知れるが、このクエストはあくまでも総力戦である。
「援護するぞ!」
「全員で交互に仕掛けよう!」
1人果敢にボスに挑んでいたトキトに触発されたように他のプレイヤー達も再度攻撃を行う。
メイジ部隊や弓部隊を中心に氷水系魔法や水属性の付加された弓スキルの使用、
加えて水属性が発生するソードスキルや水属性が付加された武器による攻撃など、攻撃の間を置くことなく仕掛けていく。
「ふっ、はぁっ!」
「ぐっ…!」
トキトは周囲の攻撃に合わせるようにその両手に持つハンマーでスキルを発動し、スルトの眉間に強烈な一撃を叩き込んだ。
属性も合わさった攻撃とクリティカルポイントへの攻撃だったことも含め、そのダメージはそれなりのものだった。
そこにメイジ部隊から声が掛かる。
「全員後退してください! 大規模魔法を発動します!」
その言葉に近接武器で戦闘を行っていた者達が後退し、一斉に詠唱を行っていたメイジ部隊が魔法を発動する。
各自が氷水系最高位の魔法を発動した……水の奔流、氷の奔流、両方による奔流、巨大な水弾、巨大な氷塊、
数百を超える小さな水弾、数百を超える小さな氷弾、地表から吹き出す巨大な間欠泉、地表から伸びあがる巨大な氷の棘など、
一度でMPが確実に0になるような魔法ばかりが発動された。
「ぐおぉぉぉっ!?」
弱点を集中して狙われたスルトは一気にそのHPが減少し、7本あったHPゲージの内の1本目が無くなり、
さらにHPの減少が続いて2本目の半分を超えた。
加えて、いまの大規模攻撃に巻き込まれる形で全てのムスペルはHPを失い、ポリゴン片となった。
しかし、HPゲージの減少は行動の変化を齎すため、プレイヤー達はすぐさま攻撃に備える。
特にメイジ部隊はMP回復用のポーションを飲み、MPを回復させていく。
そこにスルトが攻撃を仕掛けてきた。
「ふぅ……かぁっ!」
スルトが呼吸をするように息を吸った直後、声を発しながら両の掌を合わせると熱を持つ粉塵が周囲に満ちた。
その粉塵の出現に咄嗟に危機感を悟ったプレイヤー達は防御姿勢を取り、攻撃に備えた。
直後、粉塵が前触れなく爆発していき、オーディン軍にダメージを与えていった。
「っつぅ~……防御してなかったら不味かった…!」
トキトはいまの粉塵爆発攻撃を耐えきった。どうやら防御を行えたプレイヤー達は全員が耐えきったようであり、
HPが半分以上を削られているがすぐにHP回復用ポーションで回復していく。
ここまでで確認されているスルトの攻撃パターンは“レーヴァテインによる斬撃”、“左手の拳による炎攻撃”、
“
「よし、回復したからもっと仕掛けるか!」
HPの全回復を終えたトキトは他のプレイヤー達と共に再び攻撃に向かう。
先程の攻撃などで巨人であるスルトの弱点が人間とほぼ同じで、特に頭部がそうではないかと判断して集中的に攻撃を行う。
「ちょこまかと…!」
「うおぉっ!?」
通常の攻撃のあとでスキルを発動して、さぁ攻撃しようとした瞬間にスルトが手を払ってきた。
思わずバック転で避けたトキトだったが、それが功を奏した……スルトの平手による指の隙間に滞空した結果である。
彼もヒヤッとしたようだが、逆にそれが彼の心に火をつけることになった。
「対人戦の方が得意だからこの技がやれるかどうか分からなかったけど、こちとら決め手に欠けてちゃ話にならないんだよ!」
すぐさまウインドウを開くとトキトは驚きの行動に出た、なんとハンマーをアイテムストレージに収めたのだ。
モンスター、しかも最高クラスのボス相手に杖や弓どころか武器を仕舞うなど自殺行為に近い。
だが、トキトは敢えてその行動をとり、自身を身軽にして行動に移した。
「しゃあ、行くぞ!」
翅を動かして高速で飛翔し空中を駆け抜けていく。
魔法と矢が奔り、その弾幕の危険に晒されながらも掻い潜ってスルトの眼前に躍り出ると、自身が纏うマントを翻した。
そのマントの裾にはなんと、刃が付けられていた。
「喰らいやがれ、《赤き死のマント》!」
「ぐぁっ!?」
翻したマントを自由自在と巧みに操り、刃の部分でスルトの眼や眉間などの顔を斬り裂く。
右の裾で斬り裂けば勢いのままに体とマントを動かし、絶え間なく次々と斬りつける。
これはソードスキルでもなければOSSでもない、個人技であるからこその特徴ある技だ。
発生する赤いダメージエフェクトがまるでスルトの顔に傷が付いていくようだ。
「まだ行くぞぉっ、《ベルリンの赤い雨》!」
「ぬがぁっ!?」
次に繰り出されたのは連続の手刀、だがそれは刃の仕込まれているグローブによって行われた。
両の手による連撃、こちらも絶え間なく発生するダメージエフェクトの影響でスルトが流血を起こしているようにも見える。
これがモンスター、ボス相手でなければ相当に惨い光景だっただろう。
それでもスルトはパターンが判明されている攻撃を繰り出し、プレイヤー達を何人も脱落させた。
そして、トキトによって行われた攻撃は幾らかがクリティカルポイントを斬り、貫き、かなりのダメージを与えた。
そこに周囲からの攻撃も加わったことで2本目のHPゲージが消滅し、残り5本となった。だが、これがトリガーとなった。
「俺の炎を滾らせてくれるとは……良いだろう、俺の炎を見るがいい!」
「なっ、ちょっ…!?」
スルトは己が右手に持つレーヴァテインを天に掲げ、即座に地面に突き刺した。
そこから炎が、そして溶岩が地中から溢れだし、炎と溶岩の奔流がスルトを中心に円形に広がり、周囲を焼き尽くした。
この一撃はスルトを囲んでいたレイドパーティーを燃やし、焼き払い、ほぼ全てが壊滅していた。
水系の魔法や水属性のソードスキルで防いだ者、防御姿勢が間に合った者が多い中で、彼も生き延びていた。
「く、っそ……熱ぃ…」
スルトの頭部付近に居た彼は当然ながらHPの0を覚悟したが、マントで体を覆いながら体を丸め、
そのまま防御姿勢を取ったことでHPが0寸前に納まるという形で事なきを得た。
ある意味で奇跡とも言えるが、このあとの展開の前ではその表現は皮肉でしかない。
そして、この結果はもう一方の戦いとも繋がっていた。
スルトとの戦いが行われていた頃、シンモラとの戦いも苛烈を極めていた。
北方のスコルとハティ、南方のガルムとスィアチ、そして西方のスルトと、誰も彼も巨体であった。
だが彼女、シンモラは違う……確かにサイズは
他のボス達に比べればそのサイズは小柄でウルズと同じくらいである。
そんな彼女の戦闘方法は前述でもある通り、ボスどころかモンスターの中でも珍しい格闘戦だ。
先程からもプレイヤー達の攻撃、連携を前に優雅かつ舞うように防ぎ、捌いていく。
「しっ、らぁっ!」
「ふっ、やぁっ!」
タクミが槍を使い連突を行うがシンモラはそれを紙一重に躱していく。
突きだけでなく、払いも加えていくがそれさえもシンモラは躱すか防ぐ。
「甘いぞ、妖精よ」
「のらりくらりと躱しやがって…!」
笑みを浮かべて話すシンモラに対し、苛立ちを見せるタクミだが、その表情に焦りなどはない。
むしろ冷静に対処しているような動きを見せており、それが真であることが証明される。
「やあぁっ!」
「しゃあっ!」
「なにっ…!?」
いままで一対一だったところに突如として何人ものプレイヤーが介入し、攻撃を仕掛けた。
防がれ、躱されるとすぐに後退し、しかし入れ替わるように他の者達も武器で攻撃を行い、
シンモラの動きが固まると矢や魔法による弾が飛来し、彼女に命中した。
「くっ、中々やる…!」
「これは戦争だからな、卑怯だなんて言わせないぜ」
回避率の高いシンモラに対して、タクミ達オーディン軍が取った行動は絶え間のない波状攻撃である。
当たるまで攻撃、当たっても絶えずに追撃、
それを繰り返し行うことで可能な限りシンモラの行動を制限し、ダメージを与えることにしたのだ。
タクミもそこで離脱し、幾人かのプレイヤーが外側から囲んでいく形で波状攻撃を仕掛ける。
上からみれば樹木の年輪、解り易く言えばバームクーヘンかもしれない。
時間を掛けてでも確実に足止め、ダメージを与え、倒す、そう判断しての攻撃であり、成果もある。
「あぁっ!?」
シンモラの悲鳴、10人近い人数を動員して武器で動きを止めたところに上空からの水と氷による魔法攻撃。
スルトとは違い、防御力の低いシンモラは一撃のダメージ量も高くはないが低くもない。
「小癪なっ!」
それでもシンモラの攻撃力はボスらしく、かなりの一撃である。両腕と両脚に炎が宿り、舞いながら戦う姿は勇ましく、
抑えていたプレイヤー達を吹き飛ばし、大きなダメージを与える。
火属性の追加ダメージも重なり、苦戦する者もいる。
さらに両手に炎弾を作り出し、それを拡散させるように周囲へ放出したことで隙間を掻い潜り、被害は後方にまで及ぶ。
だが、ここで攻撃を絶えさせるわけにはいかないと、タクミも再度前に出た。
「オラオラオラオラオラァッ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!」
タクミの槍による連突と払い、シンモラによる拳と蹴り、その2つの応酬なのだがまるでどちらも被害を受けない。
お互いに捌き、防ぎ、いなしているのだ。それでも多対一ということもあり、拮抗が崩れる。
「コイツを受けてみな、《ビッグホイールキック》!」
「これ、はっ…!?」
「メイジ部隊、弓部隊、一斉射だ!」
タクミはシンモラ目掛けて槍を上から突き刺そうとしたが、それは避けられる……しかし、彼は次の行動に出た。
地面に突き刺した槍をそのまま掴みながら、支点として回転して蹴りを放つ。
奇怪な個人技を防ぐも隙が出来、そこに氷水系魔法と水属性の弓スキルが放たれ、シンモラに命中した。
「こっちも喰らえよ、《スペースラッシュ》!」
「ぐっ、がっ、ぎっ、かっ……あぐっ!?」
翅で空中に浮かびあがったタクミはシンモラに刃が仕込まれているブーツでドロップキックを行う。
続けざまに連続で空中ドロップキックを行い、シンモラに隙を与えない。
刃による赤いダメージエフェクトがこちらも血を表現しているようだ。そしてシンモラが
地に落ちた瞬間、槍を投擲してシンモラに突き刺した。
これにより、他のボスとは違い6本しかないシンモラのHPが残り5本となった。
ここでさらに攻勢に出るのが良い判断なのだが、HPの減少はボス達にとってトリガーでしかない。
「ふっ、ふふふっ……フフフ、フフ……アッハハ、アハハハハハッ!……燃やし尽くすっ!」
突如として笑い声をあげだしたシンモラは自身に炎を纏わせると両手を左右に開き、その場でくるりと回る。
すると、彼女を中心として炎の波が発生し、タクミやプレイヤー達に襲い掛かった。
一瞬で包囲網が吹き飛ばされ、メイジ部隊などの防御力が低いプレイヤー達はHPが一気に0になり、
それなりに防御力のある者達も大幅にHPを削られ、ほぼ全員がレッドゲージや0ギリギリまでになった。
「ソード、スキル……使ってなかったら、ヤバかったな…」
至近距離に居たタクミは直撃寸前に槍のソードスキルを行使することである程度は抑えることができた。
それでも0寸前までダメージを受け、吹き飛ばされたのだ…。
これによりシンモラとの交戦部隊も半数が壊滅、残る半数も立て直すことに時間が掛かる。
強力な一撃を放ったシンモラは地面を蹴り高く跳び上がると、その場を離れた。
スルトの許にシンモラが合流し、炎の巨人夫婦がその場に揃い、西方階段へと鋭い眼光を向ける。
「シンモラ、俺に合わせろ」
「分かっておりますとも。妾にお任せあれ」
スルトがレーヴァテインを階段のある防衛拠点へと向け、柄の上にシンモラが降り立つ。
両者は体から炎を発生させ、その炎はレーヴァテインへと集束されていく。
「「《ムスペルヘイムフランメ》」」
剣から劫火が放たれ、直線状に突き進む炎は西方階段と防衛拠点に直撃し、その全てを焼き尽くした。
その爆風は離れていたスルトやシンモラの迎撃を任された防衛部隊にも届き、空中に居た者は吹き飛ばされもした。
「おいおい、マジかよ…」
「っ、くそっ!」
呆然とするトキトとその惨状に悔しがるタクミ、合流した2人は思わぬ攻撃に無力感を覚える。
「いや、いまのは連発するような技じゃないはずだ…。
多分、特別な段階での、この場合だと階段を破壊するための技のはず、だから次に仕掛けるのはあとに決まっている」
「なら、アイツらが上にいくまでに可能な限りダメージを…!」
トキトの下した判断にタクミはすぐさま気を取り直し、2体のもとへ再び向かった。
彼らの姿を見た残ったプレイヤー達もすぐに追いかけていく。
しかし、西方階段が陥落した事実は変わらない…。
――アースガルズ・ヴァナヘイム
「ふむ、スルトが西の階段を落としたか…いやはや、さすがは世界を焼き尽くす存在だ。なぁ、我が妹フレイヤ」
「はい、兄様。スルトもシンモラもさすがですね」
暢気な言葉にも聞こえるが、何処か楽しさを含ませて話すのは眉目秀麗の男性、豊穣の神『フレイ』。
それを同じく暢気そうに同意するのは彼の双子の妹で美しい女性、愛と豊穣の神『フレイヤ』。
アース神族と共にある彼らヴァン神族もまた、巨人達との戦いに思いを馳せているようだ。
「まったくだよ。そろそろ出陣といこうではないか」
「ええ……ワルキューレ達、そしてエインフェリア達よ、戦場へ…」
「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」
フレイは飾りが彫られた細身の剣を掲げ、“血にまみれた蹄”の意を持つ馬の『ブローズグホーヴィ』に馬車を引かせ、
その側には黄金の猪『グリンブルスティ』を呼ぶ。
甲冑に身を纏い宙に浮くフレイヤはワルキューレ達を背後に付かせ、死した英雄であるエインフェリア達が地上を進む。
さらに空高くにあまりにも巨大な、アインクラッドにも及ぶのではないかというほどの船『スキーズブラズニル』が浮かぶ。
最終決戦の第2陣は着々と迫りつつあった。
No Side Out
To be continued……
あとがき
はい、こういうわけで西方階段も陥落となり、次はもうみなさんも予想できたと思いますが、戦いを見て頂けると幸いです。
とはいえ、あくまでもこれは最初の第1陣であることを忘れてもらわないようにするために、フレイ達のところを書きました。
ボスも色々、味方も色々ということで、このあとの展開も是非お楽しみに・・・。
そして今週のアニメ『ソードアート・オンライン』第18話は「すごく、キリアスです…」な話しでしたねw
もうバカップルですね、夫婦ですね、ユイちゃんも含めて家族ですね、な展開にニヤニヤしっぱなしw
OPとEDもマザーズ・ロザリオ仕様になり、ますます楽しくなっていきます。
まぁ、ここからキリトの活躍が減るのが残念ですが・・・。
ゴホン、それではまた次回で~・・・。
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第47話です。
今回は西方階段の戦いになります。
どうぞ・・・。