No.736054

紫閃の軌跡

kelvinさん

第35話 彼我の実力差

2014-11-09 05:01:11 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3386   閲覧ユーザー数:3081

 

「「さぁ、一気にいく(ぞ/わよ)!!」」

 

リィンとエステルの掛け声とともに、闘志が沸き起こり、武器を構える一同。この闘志の膨らみに一介の学生ならぬ力を感じるものの、領邦軍を与る身として負けられないというプライドがその部隊の隊長を突き動かしていた。

 

「怯むな!総員かかれっ!!」

「はっ!!」

 

その号令によって突撃する兵士ら。後方から飛ぶ銃弾……そして、突き出される銃剣。だが、実戦経験の差はここで如実であった。

 

「はっ!!」

「ふっ!!」

「はあっ!!」

 

前衛組としてエステル、ヨシュア、リィンの三人が前に出て食い止める。力関係であれば領邦軍の方が上なのだが、彼等が今までに培ってきた“力の使い方”によって互角以上の戦いが出来ていた。無論、それだけではなく軍用魔獣も彼等に狙いを定めるが、

 

「させるかっ!!……崩したっ!!」

「隙は逃さん……!!」

「崩したよ…!!」

「うふふ、もーらいっと♪」

 

魔獣の横っ面を突く様な形でマキアスのショットガンとフィーの銃剣が火を噴き、怯んだ隙を逃さずにユーシスとレンがそれぞれ武器を振るって追撃をかける。これには流石の軍用魔獣も一時的に怯んでしまった。

 

「ARCUS駆動……!!」

「アーツを撃つつもりか……各員、あの娘に―――」

 

エマはアーツを準備し、隊長がエマに攻撃を集中させるように指示を飛ばすが……それを聞いて動く兵士よりも先に、エステルの取った行動が一歩早かった。

 

「そうは問屋が卸さないわよ!はあっ!!!」

「何っ!?」

「あ、足が地面にッ!?」

 

エステルが棒に地面を突き、相手の足元をピンポイントで崩す“地龍撃”の強化技―――“崩龍撃(ほうりゅうげき)”によって相手を一時的に動けなくすると、

 

「はあああああっ!!」

「な、なんだっ!?」

「体が動かないだとっ!?」

 

ヨシュアが立て続けに相手を睨んで怯ませる“極・魔眼”で兵士と魔獣を立ち竦ませた。無論、この絶好機を逃す手はないとばかりに、

 

「いきます―――放て、幻惑の結界……シルバーソーン!!」

「ほいっと。」

「二の型―――『疾風』!!」

 

駆動が完了したエマのアーツ、立て続けにフィーのフラッシュグレネードを喰らい、更には追い打ちとばかりにリィンの『疾風』で着実にダメージを重ねていく。ここでようやく軍用魔獣が怯みから回復し、突進攻撃でエマを狙う様相であった。

 

だが、その行動は別の視界から見れば直線―――無論、この戦場で戦っているのはリィン、フィー、エマの三人だけではない。

 

「もう少しお利口さんかと思ったら、お馬鹿さんなのね……そぉれ!!」

「ナイス、レン。ここで追撃……!!」

「了解よ、フィー。」

 

レンのカラミティスロウを受け、フィーとレンが戦術リンクにおける恩恵の一つ“ラッシュ”によって二体の軍用魔獣に更なる追い打ちをかける。無論、その隙を逃す筈もなく、マキアスとユーシスが武器を構える。

 

「あの二人に続くぞ……遅れるな!!」

「君に言われずとも、その位は弁えている!!」

 

マキアスはショットガンを構え、ユーシスは導力の力を剣に宿す。軍用魔獣に対して走り出す……それを見たフィーとレンはアイコンタクトで何かを悟り、距離を取り……各々が持てる力を十二分に発揮する。それに呼応する戦術オーブメント……原作でのARCUSにはない力―――その一端が顕現される。

 

「加減は無し。本気で行くよ……!!」

「ウフフ、それじゃあ……レンも新しい技をお披露目しようかしら♪」

 

いつもは加減しているフィーが全速力を以て軍用魔獣に無数の斬撃と銃撃を浴びせ、レンは今までに培ってきた力の闘気を鎌の刃に込め、魔獣の周囲に斬撃の衝撃波を走らせる。そこに飛び込むのはユーシス……剣に込められた力を魔獣に放って結界を発生させ、斬撃を食らわせる。そして、三人が離れると撃ち込まれるのはマキアスの放った弾丸―――そして、大型の導力ライフルを取出し、

 

「これで―――止めだっ!!」

 

導力ライフルから放たれる正確無比なレーザー…フィーの『シルフィードミラージュ』、レンの『フェイデッドサークル』、ユーシスの『クリスタルセイバー』、そしてマキアスの『マキシマムブレイク』…それによって魔獣を取り囲んだ結界と衝撃波が一斉に連鎖して炸裂し、大爆発を起こす。そして、その土煙の中に居たはずの軍用魔獣は見事なまでに消滅せしめていた。

 

「な、なあっ!?」

「ぐ、軍用魔獣があっという間に……」

「ば、化物……!?」

 

動揺を隠せない兵士達。だが、攻撃に参加しなかった面々もその隙を逃すほど甘くはない。その先陣を切ったのはエマ。体力面で何かと迷惑をかけてしまった以上、ここで挽回したいという思いが彼女を突き動かしていた。

 

「光の刃よ―――降り注げ!!!」

 

兵士らの周囲に展開する光の刃……それらを結ぶ線は魔方陣となり、其処から立ち上るは光の柱。彼女の新たなクラフト『ムーンライトサークル』によって、多少なりともダメージを負った敵……彼等のオーブメントもまた、共鳴して各々の持てる力を引き出していく。

 

「リィン、いくよ!!」

「ああ、いくぞ!!」

 

同時に駆け出したヨシュアとリィン。リィンの太刀に宿る炎……ヨシュアの刃に込められるは黒き力。その先駆けはヨシュア―――超高速斬撃によって敵を怯ませ、敵を圧倒する彼の真骨頂『秘技・幻影奇襲』。そして、

 

「はああああっ………斬っ!!」

 

リィンの『焔の太刀』が炸裂する。だが、これで“終わりではない”。立て続けるように回転して飛び上がるはエステル―――顕現せしうるは『鳳凰』。そして、彼女の行く先に展開されるエマが唱えた魔方陣。それをくぐると、エステルの周りを覆う闘気はまるで白銀の鳳凰。彼女は、高らかにその名を叫ぶ。

 

「食らいなさい―――合体奥義、星天・鳳凰烈破!!」

 

それが直撃し、その爆発の後に立っているのは……もはや部隊の隊長一人であった。息を整え、武器を構えるエステル達。

 

「さぁ、これで残るはあなた一人だけよ!」

「ぐ、ぐぅ……だが、この壁の後ろで控えているのは装甲車と戦車だ!貴様ら程度の存在など、造作もないことを忘れたのか!?」

「そ、そうだった……」

「くっ……」

 

 

隊長が虚勢を張っているその一方、装甲車や戦車相手に対峙しているリューノレンス、カレン、アスベル、ルドガーの四人。容赦なく砲撃や銃撃を浴びせるが……四人には既に“見えている”レベルの速さであった。

 

「いやぁ、砲撃って生温いものだね。僕の父の斬撃の方が速かったよ。」

「そう言って全て弾き飛ばしている貴方は本当に人間なんですか?」

「同じことをしているアスベルが言うな。」

「それ、貴方もよ。ルドガー君。」

 

結論。全員おかしいということにアスベルとルドガーは揃って納得がいかなかった。人間の常識というものは、時として非常識になるという良い例だろう。この光景に焦りと動揺が見られる兵士達。次第に戦意が削がれていった様で、車両を捨てて逃げ出そうとする兵士が相次いだ。

 

「おやおや……軍人たるもの、命は大事かもしれないけれど……生温いね。これは鍛練してあげないと。」

「……あらら、ユーノの軍人気質に火がついちゃったみたいね。」

 

カレンのその言葉通り、リューノレンスは一気に駆け出し、逃げ惑う兵士らの前に立つと……その剣を振るった。

 

「少しは根性を鍛えるがいい―――破邪顕正!!!」

 

同じ剣術を使うミュラーのそれとは比べ物にならないほどの破壊力―――“真極・破邪顕正”を放った後に見えたものは、空に飛ばされた数多の兵士達。これには兵士らも完全に青褪め、今度はカレン、アスベル、ルドガーの方に向かってきていた。その表情は完全に鬼気迫るものがあった。とはいえ、剣を向けた以上は容赦する義理もない。そもそも、同じ帝国人のリューノレンスが完全に容赦ないのは『ご愛嬌』ということで。

 

「光の剣にて、永久の時間を味わいなさい―――エターナルディザスター!!!」

 

カレンの放ったSクラフト―――無数の光の刃によって敵を縦横無尽に切り裂く“エターナルディザスター”によって敵は舞い踊る様に無数の傷を負い、

 

「少しばかり怒ってるんでな……風巻く光よ、我が剣に集え―――奥義、風神烈破!!」

 

アスベルは風の力を用いて敵に斬撃の嵐を浴びせる二の型『疾風』が奥義の一端、“風神烈破”を放って兵士たちを舞い上がらせ、

 

「矜持があるんなら、示してみやがれ……秘技、夢幻奇襲(ファンタズマレイド)!!」

 

ルドガーは“漆黒の牙”すら上回る神速の領域から繰り出される数多の“不可視の刃”―――彼の奥の手の一つである“秘技・夢幻奇襲”が繰り出され、兵士らは無論の事、その余波を受ける形で装甲車も……果ては戦車までもが空高く舞い上がっていた。解りやすく述べるのならば、多くの『永遠に落ちることを許されないボール状態』というべきだろう。

 

茨の壁は思ったよりも高いのでそれを目撃されることはなく、この惨劇の向こう側で真っ当な戦いをしていたこともあってかその悲鳴は聞こえることがなかった。そして戦いというか、戦いという皮を被った何かが終わり……リューノレンスらは武器を納め、カレンはそれを見てから指を鳴らし、茨の壁を解除した。

 

そして、邂逅する二つのフィールド……それを見た領邦軍の隊長の第一声は

 

「さあ、一斉に砲撃……んなあぁっ!?」

 

ものの見事なまでに驚愕の一言であった。戦車や装甲車はひっくり返り、兵士はその大多数が気絶している状態であった……ただし、こんな惨状であっても兵士は致命傷を負っておらず、念のために応急処置程度は施しているので命に別条はない。その光景には隊長のみならず、リィン達もであった。

 

「ええっ!?」

「………夢でも見ているのか?!」

「そ、装甲車だけでなく戦車も……!?」

「これが、人間がやったというのか!?」

「……ま、カシウスって人もこれぐらいはやってたけど。」

「あの不良中年と同等……まぁ、アスベルやルドガーなら納得よね。」

「ま、それぐらい出来て当たり前って感じよね♪」

「そ、それで納得できるんだ……(ひょっとしたらレーヴェや姉さんも出来るのかな……)」

 

普通の人間は装甲車はおろか、戦車すら破壊できません。それを破壊できる四人が異常なだけです……驚きの一方でエステルとレン、それにフィーは納得し、それに対してヨシュアは冷や汗が流れてため息が出そうな表情であった。そこに歩み寄ってくるのはユーノもといリューノレンスの姿……隊長は彼の姿に気づき、声を荒げる。

 

「あ、貴方は……リューノレンス・ヴァンダール!?」

「ヴァンダールって……」

「皇族の懐刀。アルノール皇家の守護者……中世より続く武門の名家か。」

 

慌てふためく隊長とは対照的に、踵を正して剣を納め、再び眼鏡をかけるリューノレンス……だが、その表情は明らかに怒気を含んだ険しい表情であった。

 

「……今回の出来事。あろうことか彼に無実の罪を被せ、政治の材料にしようとしたこと……事情はどうあれ、見過ごせるものではない。事情に関しては全て“見させてもらっていた”。そして……そこにいる彼等はその無実の彼を助け出すために行動しただけだ……僕の言っていることに異論があるならば、是非聞かせてもらいたいものだね?」

「っ………し、しかし、彼は砦への侵入罪という罪があります!それに、我々は公爵閣下の命令で―――」

 

領邦軍の隊長はリューノレンスの言っていることが正論であることを感じつつも、ここで退くわけにはいかなかった。だが、リューノレンスはそれを聞いた後……自分の背後にいる人物に尋ねた。

 

「そう言っているようだけれど……君はどういった意見なのかな、“ルーファス・アルバレア”君?」

「えっ………っ!?」

「あ、兄上………!?」

 

隊長がリューノレンスの背後にいる人物―――ルーファスに問いかけるように言葉を発し、隊長もルーファスの姿に驚く。無論、リィン達もであったが……正確にはルーファスと、その隣にいる人物に対してだが。そして、その人物―――サラはエステルに対して説教を始めた。

 

「はぁ~……何でこんな大騒ぎにしちゃってるのよ!もう少し加減というものを考えなさいよ!」

「それをあたしに言う!?」

「あったりまえじゃない!!カシウスさんといい、ブライト家はトラブルを持ってくる気質でもあるのかしらねぇ?」

「それをサラに言われたくないわよ!そんなこと言ってると『あの人』に愛想つかれちゃうわよ!!」

「ぐぬぬ……」

「むむむ……」

「あの、二人とも落ち着いて……」

「「ヨシュアは黙ってて!!」」

「あ、はい……」

 

互いにある意味天才気質のエステルとサラ……これには流石のヨシュアも二人の前には押し黙る他なかった。その一方、ルーファスは領邦軍の隊長の元に行き、静かにこう告げた。

 

「貴公は直ちにオーロックス砦に帰還せよ。負傷者は既に救護班を差し向けている。」

「し、しかし……」

「父には話を通しておいた……この上、私だけでなくアルバレア公爵家そのものに恥をかかせる気か?」

「っ……し、失礼します!!」

 

その言葉に従う他なく、踵を正して迅速とも言える行動でその場を去っていった。それを見てリューノレンスが率直に感想を述べた。

 

「あの迅速さは正規軍も見習うところがあるね。」

「恐縮です。それで、先程の件ですが……よもや父があのような暴挙に出るとは思いもしませんでした。大変申し訳ありません。」

「……事情はどうあれ、僕の母校の生徒にあらぬ疑いをかけ、あまつさえ拘束あるいはそれに準ずる行為を行った。皇帝陛下に一連の事情は報告せねばならないけれど……寛大な処置となるよう、働きかけよう。君の“常任理事”という職に免じる形でね……次はないと覚悟してもらうよ?」

「お手数をおかけいたしますが、どうか宜しくお願い致します。」

 

何はともあれ、一通りの話が済み、エステルとサラの方も一応は決着がついたので……話は何故サラとルーファスがここにいるのかという話になった。サラが言うには『連絡があったので帝都にいる“理事”さんに連絡を取ってここまで直行した』とのこと。そして、先程のリューノレンスの言葉の中で出た“常任理事”という言葉……リィンが、ある事に気付いて呆けた表情でルーファスを見つめた。

 

「サラ教官、今“理事”と仰いましたか?」

「ああ、君達にはまだ教えてなかったっけ。」

「改めて―――士官学院の常任理事を務めるルーファス・アルバレアだ。今後ともよろしく願おうか。」

 

エマの問いに対し、答えたサラの言葉に続くようにルーファスが一歩前に出て自己紹介をした。これにはリィンらもまたもや驚愕の表情であった。その中で一番驚いていたのは身内であるユーシスに他ならなかった。

 

「じょ、常任理事……」

「そ、そんな話、俺も初耳ですよ!?」

「フフ、そなたの驚く顔が見られると思って黙っていた。ああ、ちなみに常任理事は私一人ではない。あくまで四人いるうちの一人というだけだ。」

「……………………」

 

口元に笑みを浮かべて答えたルーファスの説明を聞き、開いた口が塞がらない状態となっていた。何というか、弟弄りというか、身内を驚かせることには余念のない辺りにルーファスの一端を垣間見たような気がした。

 

「えと、お疲れさん。アスベル。」

「久しぶりだな、エステルにヨシュア。何というか、ごめん。」

「いや、其処で謝られても困るんだけれど……元気そうで何よりだよ。」

「そっちもな。」

 

久々ののんびりの再会となるはずが、トラブルが重なってのこの有り様……サラが言っていたことはあながち嘘でもなかったようだが……本来ならばこの日に学院に帰る予定だったのだが、後片付けの関係とルーファスからのちょっとした詫びで今日のところは宿に泊まることとなった。無論、色々あり過ぎて驚き疲れたのは言うまでもない話であるが。

 

 

これが、私の全力ぐはぁっ!?……ハァッ……ハァッ……

 

フィー、レン、マキアス、ユーシスの連携は当初考えていた『バースト』+『Sブレイク』……『ブレイクバースト』って名称でいいかな(オイ

本来ならラッシュ→バーストなんて連携は出来ませんが、ブレイブポイントが最大10ポイントまであるということで……はい。

 

兵士が飛ぶ表現は『見ろ、人が○○のようだ!!』というのは流石にかわいそうなので『敵はボール』位の表現に留めました。優しさに満ち溢れてますよね。(誰に優しいとかは言わない。)

 

エマとエステルの組み合わせは、コンクラっぽくなりましたが……それも一興ということで。だって、技の流れに『ロード・アルベリオン』を組み込むとしたら、一番いいのはエリオットかオリビエですし……

 

ワンサイドゲームだって?……エステルとヨシュアとレン、リィンとフィーはある意味巡回プレイしてるようなものですからね。

 

第二章はもうちょっとだけ続きます。

 


 
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