No.733238

『舞い踊る季節の中で』 第158話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 やっとの事で目を覚ました一刀。
 だけどそれは決して一刀の力だけでは無い。
 一刀を必要とする者達が、きっと一刀を目覚めさせたのだろう。

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2014-10-28 19:00:02 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4001   閲覧ユーザー数:3170

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百伍拾捌話 ~ 錆ゆく刀は、虹色の炎が舞い打ち鍛えん ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀視点:

 

 

 

 どうにも深い霞が掛かる思考の中で、自分を掻き集める。

 これまでも何度も何度も行ってきた作業。そうする事を意識をしていなければ、直ぐにでも霧散してしまいそうになる自分を、そうやって必死に押しとどめる。

 何度も何度も少しずつ確実に……。

 でも掻き集める傍らで崩れて行く……。

 まるで小さな子供の砂遊びの砂山。

 それでも確実に形造られて行く。

 最初は不格好な形を……。

 そして其処へ肉付けするかのように補正を……。

 やがて、もう大丈夫だと思える頃には、自分が思考をし始めている事に気が付く。

 此処まで来れば、もう大丈夫だ。ならばやる事はまずは確認。

 まだ朦朧とする中で、それでも意識を自分の内から、自分の中へと向けようとした時。

 

 意識が眩む。

 

 せっかく時間を掛けて集めた自分が、また大きく崩れて行くのが分かる。

 まるで波打ち際での砂遊び。

 それでもあきらめずに掻き集める。

 崩され。波に流されていくそれを、崩れさろうとする意識と言う名の腕を必死に伸ばす。

 ゆっくりと、確実に。 それでいて、また打ち寄せられる波に崩されるよりもはやく。

 呼吸を意識する。空気を吸い込むように、自分を吸い込む。

 吸い込む事で意識したそれを、自分の中へと送り込む。

 思い出せ自分を。 創り出せ。 かつてあった自分を。

 それに合わせて送り込むんだ。

 

 世界が明るくなっていく。

 

 よし、この調子だ。

 まずは自分を動かす事によって、自分と言う形を身体に思い出させるんだ。

 慌てるな、ゆっくりと。今は動かなくてもいいから、あえて末端から動かす事で全体を捉えるんだ。

 

ぷに。

「ん…」

 

 なんだ?

 まぁいいや。とにかく今は自分を取り戻す事が先だ。

 ゆっくりと、繰り返して、自分と言う形を形創る。

 

ふに、ふにん。

「……んっ。…ち、ちょっと」

 

 何か聞こえる。

 分からない。でも温かい何か。

 その感触に、だんだんと自分と言う形を思い出してくる。

 だから何度も繰り返す。そしてその度に自分が浮き上がって行くのが分かる

 ハンドボールぐらいの大きさだろうか……。

 柔らかくて、それでいて弾力があって……。

 

ふにん、ふにんっ。

「か、……かずとさん」

 

 良い香りがする。

 落ち着いた香りが。

 知っている。この香りを……。

 ……何だっただろうか。

 頑強に見えても、本当は凄く脆くて、そして繊細で、……そんな印象が浮かぶ。

 ただ、当時に油断しちゃいけない気がした。

 駄目だ。……考えようとすると、どうしても頭に霞が掛かったようなる。

 そうだ。そんな事より簡単な事があった。

 この明るさに色を付ければいいんだ。

 世界に色を付けるように、目を開いてみればいいんだ。

 

「……」

「………」

 

 やっぱり、やめた。

 まだはやい。まだ落ち着いてからにしよう。

 そうだ身体の調子を思い出すのも、もっと意識がはっきりしてからにした方がいいな。

 うん、そうしよう。絶対にそうしよう。俺にはもう少し休息が必要なんだ。

 だからあんな幻覚が見えたんだ。

 あれは幻覚。幻覚なんだ。

 気のせいに決まっている。

 

ふにゅん。

 

 だから、この手の感触も気のせいであって………。

 あっ、………やばっ。

 

「……そうですか。そうですよね。

 御主人様は、まだ眠ったままですから、此れは(・・・)気のせいでなんですよねぇ~」

 

 うんうん。 そうですよ。 ええ、そうなんです。

 この服の上からでも、はっきりと伝わってくる温もりと感触も気のせいです……気のせいだと…いいなぁ。なんて思ったりするんですよ。

 

「右腕を持ち上げていた時にイキナリでしたから勘違いしてしまいました。

 では仕方ないですよね。私の気のせいと言う事にして身体を拭くのを続けるとしましょうか。

 でも、こうして看ると。まだ怪我による熱がありますから。何とか解熱しないと駄目ですよね。

 そうそう、確か太ネギをお尻に挿すと良いとか聞いた事がありますから、それを試して・」

「俺が悪かった。悪かったからやめてください。おねがいします」

 

 それが罠で、搖動だと分かってはいても、俺はつい声を出してしまう。

 なにより罪悪感があったし、彼女に申し訳ないという意識がそうさせたんだろうな。

 でも、もしも俺がここで声に出さずに寝た振りを続けたなら、彼女は間違いなくやる。

 この初夏の時期に、太ネギが手に入るかどうかはさておいて、どんな手段を用いようとも実行するに決まっている。

 人を困らせたりからかう事に、持てる能力を全てを注ぎ込む。と言う困った悪癖が彼女にはあったりするからだ。

 その対象が誰にでもと言うわけではなく。ごく限られている人達だけで、彼女なりの親愛の……たぶん証だと言うのは、不幸中の幸いなのか、はたまた不幸なのかは微妙なところなんだよね。

 とりあえず俺としては、彼女なりの俺への甘え方なのかなぁ。と思うんだけど、流石に今回のことだけは勘弁してもらいたい。

 もう、いわば本能と言うべき反射でもって、俺は彼女の術中に見事に陥ったわけで。

 そうなってしまったら、もう何をしても無意味な以上、俺は一度深呼吸をして覚悟を決めると、重い瞼をゆっくりと開ける。

 其処には俺が想像だにしていなかった光景が……

 

「おはようございます。

 まったく、いつもいつも、困ったお寝坊さんですねぇ」

 

 満面の笑みの彼女が…。

 それでいて、どこか困ったような表情を浮かべ…。

 今日に限っては、その頬をほんのりと赤く染め…。

 柔らかな七乃の顔が、映しだされる。

 それは俺の目に、だったのか…。

 それとも心に、だったのか…。

 

「ぁっ……」

 

 ただ、その笑顔に不意を突かれる。

 まだ慣れていない眼が、眩しく感じる。

 開け放たれた窓から流れ込んでくる薫風が、髪と肌を優しく撫でて……、そして包み込んでゆく。

 伝わってくるのは、彼女のほのかな香り。

 素直でないなりに、彼女らしい優しさ。

 そして、手に収まる温もり。

 ………ぬくもり?

 

「………」

「ところで御主人様(・・・・)。い・つ・ま・で、人の胸を弄って(・・・)るつもりなんですか?」

 

 ふにょん、ぷにょんっ。うん、確かにこれは……胸……ですよね。

 いや、……これは……その、手が言う事を聞いてくれないというか…。俺の意識とは別のところで、手を放したくないと言っているのか…、あははははっ…はははっ……。

 心の中で乾いた笑い声をあげる俺に、七乃は問題のいけない事をする悪い右手に、そっと両手をやるやいなや。

 

ぐにんっ

「ぬがぁぁっぁーーーっ」

 

 はい、指4本を逆関節を極められました。

 御丁寧に、俺が自分で関節外しが出来ないように押さえながら。

 

 

 

 

 

 

「ああ……、酷い目にあった」

「どっちの言う事ですか」

「はい、もちろん七乃様です」

 

 一通り落ち着いた頃に、深い溜息と共に吐く呟きに、速攻で突っ込まれる。

 むろん彼女の言う通りなので、平身低頭で謝りたおす俺。

 一応、言い訳をさせてもらえるならば、酷い目にあったのは本当の事。

 なにせ左肋骨が何本かが逝っている上、左腕も骨折しているし。他にも打撲や体の歪みなどエトセトラ状態なわけで。そんな状態だと言う事を思い出す。と言うか知るよりも前に指を逆に極められれば、当然ながら体が反射的に反応するわけで…。そんな事をすれば、今の重傷一歩手前の身体は無理をするなと言う事を、正直に俺に伝えてくるのは当然の生体反応。つまり、七乃がそれなりに手加減した指の関節極め以上に激痛と悲鳴に襲われることになったわけです。

 七乃が其処まで狙ったかどうかはともかく、もともと原因が原因だけに、やっぱり自業自得なんですけどね。

 

「あれから何日たった?」

「五日です」

「……そっか」

 

 七乃の言葉に、意識をボーとさせながらも、条件反射的に呟く。

 正直、まだうまく頭が回らない。

 それでも、あの状態からここまで一気に覚醒できたのが、不思議だと思いつつも。

 原因については考えるのはよしておく。うん、いろいろ思い出してしまいそうだしな。

 こう柔らかいのに確かにある弾力とか、布の上でも伝わってきた感触や温もりとか……、よくは知らないけど、たぶんE…、いやFはあるよな。 しかも作り込みなしで…。

 

「って、考えるなって言ってるだろうが、俺っ!

 っぅてぇーっ………あぁぁっ……」

 

 勝手に不埒な事を考える自分に激しく突っ込みを入れながら、考えていた事を頭の中を振り払おうと頭を振ってしまい自爆。そりゃあ、肋骨が折れてるのに激しく頭を振れば、激痛が走って当然だよな。

 しかも今のは正真正銘、自業自得だから誰にも文句は言えない。

 

「何をやってるんですか。もう」

 

 例え、七乃に腰に両手を当てて心底飽きられた目と言葉をつきつけられていようとも文句は言えない。言えるわけない。 その目の前の御立派なものについて、つい考えてしまい自爆しましただなんて。

 そんな俺に、やっぱり戻しましょうか? と聞いてきたのを丁重にお断りする。せっかく七乃に無理を言って上体を起こしてもらったのに、俺の自業自得で好意を無にするのは申し訳ない。

 と言うか、起こしてもらう時に腕と背中に当たったアレが、原因で余計に変な事を考えてしまったんだろうなぁ。と自覚があるだけに、その熱も冷めない…というかぬくもりと感触が残っているうちに、アレを再び体験するのはよろしくないわけで。

 七乃は身内で家族みたいなものだから気にする必要はないのかもしれないけど、逆に本当の家族じゃない身内みたいな存在だからヤバイ事もある訳でして……、その……まぁ……、明命と翡翠の二人に悪いので、此処は自重する。

 自嘲するって言っているんだから脳内悪友O―(オー)っ!そこで『触りたいか触りたくないかで言ったら、かずぴーはどっちなん?』なんて聞くなっ! そんなの決まっているから困っているんだろうがっ! と言うか知ってて聞いて来ているだろうっ。と、頭の中で勝手に悪友Oの言葉を想像して、それに対してマジツッコミしていると。

 

「じゃあ、皆に知らせてきますから、ちゃんと起きててくださいよ。

 御主人様がきちんと起きててくれないと、まるで私が嘘を言ったみたいになっちゃいますから」

「……ああ、努力する」

「努力じゃだめです。きちんと起きててくださいね。

 じゃないと、さっきの事以外にも、有りそうで無い事や、無い事まで口にしちゃいそうですし」

 

ばたんっ

 

「って、内緒にしてくれるんじゃないのっ!?」

 

 言うだけ言って、部屋を出て行く七乃に思わず突っ込む。

 痛たたっ。いかん、叫んだら、せっかく引いた痛みが、また襲ってきた。

 でも痛いって事は生きているって事だし。ありがたいと思うべきなんだよな。

 思うんだけど、明命と翡翠に、ヤキモチを焼かれて怒られる事を考えると意識が遠くなる。

 うん、遠くなるんだけど。本当に遠くなったら、そのまま二度と目が覚まさなくなるような事態が起きそうなので、なんとか我慢する。

 この際だ。ワザと痛みを引き出して目を覚ますのもありかも知れない。

 ……正直、意識を保っているのが辛い。

 でも、この辛さは悪いものじゃない。

 だって、それは俺が戻って来れた証しだから。

 此処まで戻って来れたのなら、もう大丈夫だと知っている。

 

「と言っても、此処までのは、まだ二度目だからな」

 

 一度目は、もう十年くらい前の事。 あの時とは状況も違い過ぎるし、あまりあの時の事を宛てにするのも良くは無いか。

 そうなると、無理にでも起きていなきゃいけない原因を作ってくれた七乃には、感謝しないといけないのかもしれないな。二人に怒られるのにしたって、事故とは言え七乃にあんな事をした以上は自業自得だし。今回も、大人しく怒られて平謝りするしかない。

 一応、故意じゃなくて無意識の行動だったって事は主張はするけどね。……なんか余計に怒られそうな気もするけど其処は其処。きちんと正直にありのままを説明しようと思う。

 きっと二人も分かってくれるはず。

 ……でも、やっぱり怒られはするだろうけどね。

 それにしても……。

 

「……手、……赤く腫れてたな」

 

 あかぎれしかけてた。 ……この初夏の季節に。

 まるで冷たい井戸水で、何度も何度も手を突っ込んでいたような。……まるで、じゃないよな。

 部屋の隅に置かれた桶と手拭いの山を見れば、そうなった理由なんて一目瞭然。

 ………怪我による発熱を少しでも下げようと。

 ………吹き出した汗を拭きとろうと。

 おそらくは俺が目覚めるまでの間、ずっと……。

 翡翠達と代わる代わるだとは思うけど。

 その行為や想いを疑う理由は何もない。

 

 

 

「……本当に、俺は皆に助けられてばかりだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初夏。そう言うにはあまりにも日差しは強く、大地を照らしてはいるものの。

 大地と緑に冷やされた空気が、風に運ばれて心地よい。

 縁側……、と言うよりその更に外、大きく張り出した軒下に置かれた寝椅子で、俺は初夏の空気を楽しみながら傷めた身体を治療に専念している。 と言っても基本、寝て起きて食べてを繰り返すと言う、ぐ~だら生活なんだけどね。

 華佗の五斗米道による針と氣孔術による治療に加え、整体と薬、ついでに北郷流裏舞踊に伝わる肉体操作。

 なんにしろ身体の回復と言うのは気力も体力も共に消耗が激しいもの。ましてや五斗米道の治療はその気力と体力を大量に消耗する。

 言われてみれば、あれだけ無茶な事が引き起こせるんだ。それくらいの事は当然と言えば当然だよな。こうして治療を受ける身になって、しみじみとその有り難さと共に、その疲労度を痛感する。

 目が覚めてから三日。俺はこうして現実と夢の中を繰り返し続けている。

 そのおかげか、明命と翡翠には、泣かれたし、心配されたし、無茶しすぎだと怒られはしたけど、身体が求める眠気に負ける俺に免じて、そこそこで赦してもらえたのは嬉しい誤算なんだけど、其れを喜んだらいけないんだろうな。

 

『その代わり、このまま寝たままにならないでくださいね』

『目が覚めたら、いっぱいお帰りなさいをしてあげます』

 

 うん、本当に良い娘達だよな。

 だから少しでも早く身体と心を癒そうと頑張れる。

 頑張れるんだけど………。

 

『そうそう一刀君。 そういえば今回の事とは別に、いろいろとお聞きしたい事があるんですけど。

 それは一刀君の体調が良くなってから、にしておきますからね』

 

 笑顔で……、

 黒い霞のようなものを、うっすらと身体から揺蕩わせながら。と言う事は何故か今回は無かったけど。十中八九、アノ事だよな……。

 

 忘れないでくださいね。

 

 だって、あの時の翡翠の目は確かにそう言っていたもんな。

 でも、その割には甲斐甲斐しく面倒を見てくれるんだよな。

 今朝だって…。

 

『はい、あ~ん♪』

『いや、右手だけでも自分で出来るから』

『一刀君、あ~ん♪』

『気持ちは嬉しいけど、その恥ずかしいと言うか』

『あ~ん♪』

『…………あ、あーん』

『はい♪ 

 一刀君が恥ずかしいって言うのは分かっているんですよ。

 でも、私が、一刀君のためにしてあげたいんです。 駄目? ですか?』

 

 ええ、ええ、彼女にそんな可愛い事を、目を潤ませられながら可愛い表情で言われたら、嫌だなんて思える男なんていないに決まっているじゃないか。

 実際のところ、右手だけで食べれない事は無いと言うだけだし。それ以上に翡翠の行為を無碍にしてまで通す我が在ったわけでもないわけで……。

 明命も明命で、対抗してと言う訳じゃないけど、俺のために色々してくれる。

 色々してくれるんだけど、あの時は本当に納得してもらうまで大変だった。

 幾ら恋人だろう、と恥ずかしいものは恥ずかしい訳で、幾ら頭の中で明命の言っている事が正論だと判ってはいても、納得できないものはある。

 でもね、でもね、頼みますから(しも)の方は勘弁してください。

 そりゃふらついたりするけど、歩けない訳じゃないわけで、痛みで脂汗を流しながらでも、厠でさせてもらった方が何百倍もマシです。

 とまぁ、仕事が無い割に、色々と嵐のような三日間だったなぁ。

 それにしても二人とも、この三日間、七乃のあの件について一切口にしなかったのは不思議でしょうがない。うーん、女心は分からん。

 

「主様、お待たせしたのじゃ。

 でも本当に白湯で良かったのかえ?」

「ああ、お茶は眠気を阻害する成分も含まれているからね」

「それは残念じゃ。せっかく妾が主様のために茶を入れてやろうと思ったのにのぉ」

「あはははっ、それは今度の楽しみにしておくよ。

 そうだ。 じゃあ、美羽が頑張って採ったと言う蜂蜜を少しだけ貰ってもいいかな?

 白湯に少しだけ溶かして飲んで楽しみたいんだ」

 

 俺の言葉に、美羽はとたとたと縁側を駆けながら、台所の方に駆けて行く。

 明命と翡翠の二人はお仕事。七乃も例のお店の方へ指示を出しに行っているため不在。

 その三人の代わりに自分が俺の役に立てる事が嬉しいのか、それとも自分達が養蜂で取った蜂蜜を味わってくれるのが嬉しいのかはともかく、其処にある想いは確かに此処にある。 ……この手にある湯呑のようにね。

 

「主様、持ってきたのじゃ」

「ああ、ありがとう」

「って、主様。それだけでいいのかえ? もっと入れてもよいのじゃぞ」

「俺には此れくらいが、一番美羽の採ってくれた蜂蜜の味と香りが楽しめる量なんだ」

「そう言うもんかのぉ?」

 

 俺の言葉に首を傾げながらも、俺の一挙手一投足に気をくばっているのが分かる。

 美羽が……、そして七乃が、自分達の望んでいた道に歩んでいる証の一欠片が、この温かな湯呑から伝わってくる。

 甘さをほんの僅かに感じる程度だけど、それゆえに蜂蜜の香りと共に、その柔らかい自然の甘さがそのまま身体の中の隅々まで流れ込んでゆくような錯覚が、心身ともに心地良さを与えてくれる。

 

「……ああ、美味しい」

「そっか、主様はそう言ってくれるか」

 

 本当に嬉しそうな笑顔。

 よく、みんなが俺の笑顔を御日様のような温かな笑顔だと言うけど、俺からしたら、皆の笑顔の方がよっぽど太陽のようだと思う。

 特にこう言う心から伝わってくる笑顔は特にそう思う。

 

ぽすん。

 

「ん? 主様」

「ありがとうな、美羽」

 

 俺はそう言って、自由に動かせる右手で美羽の頭を、そして髪をゆっくりと、そして優しく撫でて行く。

 その手に、感謝の想いを乗せて美羽の頭を何度も撫でる。

 美羽はそんな俺の手を擽ったそうに何度か撫でさせてくれた後、その手を取って自分の頬にあてる。

 そっか、今は頬を撫でて欲しいのか。

 だから俺はそのまま美羽の頬の温もりを味わうように撫でてやる。

 俺のゴツゴツした男の手と違い、美羽の柔らかくてプニプニした感触が心地よい。

 

「主様の手は、大きくて暖かいのじゃ」

「そうか?」

「うむ、まるで妾ごと包み込めるような大きさなのじゃ」

「あははっ、流石に其処までは大きくないよ。

 そう言う意味なら、丁奉の方がよほど大きい手をしてると思うけどなぁ」

「ぬぅ、あれは嫌なのじゃ。何というか汗臭いというより男臭いのじゃ」

 

 ………つまり、俺は男っぽくないと?

 美羽の言葉に少なからずショックを受けるも、美羽がこうして喜んでいるなら、良いかと俺は美羽のさせたいようにさせてやる。

 そう思えるくらい俺は彼女達に心配を掛けたし、その想いに少しでも応えてやりたいと思う。

 いいや、そんな義務感みたいなものじゃない。

 少なくとも、こうして彼女達の笑顔が見れるなら、そうしていたいと言うのが俺の本音なんだろうな。

 

 

 

 ………なら、何時までも放ってはおけないか。

 

 

 

 別に美羽達の事じゃない。

 彼女達を大切に思う気持ちとは別に、彼女達を大切に思うからこそ、自分のしでかした事にケジメをつけないといけないんだ。

 

「なぁ美羽。もう一つお願いがあるんだけど」

「なんじゃ? 妾は今日は気分が良いゆえに、何でも聞いてやるのじゃぞ」

 

 聞き様によっては危ない言葉に、苦笑を浮かべながら、俺は彼女に一つお使いをしてもらうよう頼む。

 俺の頼みごとのために駆けて行く美羽の後姿を眺めながら。今度、七乃か翡翠辺りに相談してみるか。ああいう無防備な笑みと言葉は、一瞬ドキリとさせるからなぁ。

 少なくとも脳裏に浮かぶ何人かは、きっと……。

 

『じゃあ、抱っこさせて。こう胡坐をかいた俺の上に座るようにして。

 大丈夫。かずぴーが怖いから、正真正銘、普通の抱っこしかしないって』

『何でもいいのか? ならウチはそのぷにぷにの頬をスリスリさせてもらてもいいんよな。

 この間、春霞にしたらウチ怒られてしもうて、欲求不満なんよ』

『じゃあ、お嬢様には、此処から此処までの服を着てください。 さっすがお嬢様っ。 その真っ平らなお胸とは正反対に何処までも懐が大きくてらっしゃる。よっ、この大陸一の美幼女っ』

 

 とか言うに決まってる。

 って、今、相談しようとした相手が混ざっていた気がするぞ。

 

 ささぁ~………。

 

 そこへ少し強めに風が吹く。

 深緑と背が高くなり始めている草の香りが、風と共に俺を優しく包み込む。

 美羽の蜂蜜湯のおかげか、体が温まり俺を眠りの中へと誘おうとする。

 実際、何度か意識が飛びそうになった。

 それでも、俺は待たなければいけない。

 自分で、ケジメを付けるために……。

 

 

 

 

 

 

つづく

 


 
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