真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の
[第52話]
「ああ……着いてしまった……」
自分の為に用意された天幕の中で
あれほど嫌だって思っていたのに。
この時が来ないで欲しいって、あれほど
こんなにも早く、その時が来てしまうだなんて。
そんなのって無い、あんまりだ。
そう思いながらボクは、荷馬車に乗せられて街に売られてしまった牛さんのような心境の自分を
追いつき追い越せと言わんばかりの魏延と北郷との
何故、最先端で止まったかと言えば、単に厳顔が北郷を追いかける魏延の行動を
彼女は魏延に対し、曹軍からの客人である楽進の居る前で恥を
ボクは、それを他人事のように横目で見つつ、ニンマリとしているような状態だったのであります。
だって、厳顔に
でも、それを見
ボクはそれを
だって、魏延に恥を晒すなと叱っている厳顔に対し、主君であるボクが同じ行動を取るわけにもいかなかったからであります。
そうして泣く泣く許可してしまった強行軍で進軍させている間、ボクは後ろに居る自分のお尻を痛がる北郷の悲鳴と、
「はあ~? 何、言ってんだよ刹那。やっとこさ、目的地に着いてくれたんじゃねぇか」
ボクの横の方で自分用のベッドにうつ
彼がうつ伏せ状態で寝っ転がっているのは、単にお尻が痛くて
今までお尻が痛くて
もう少し、傷心のボクを慰めてくれても良いんじゃないでしょうか。
「はっ! ボクは着きたく無かったんだよ。全然! まったく! これっぽっちも、ね!」
「そうかい、そうかい。俺は早く着いて欲しかったね。ほんと、早く着いてくれて良かった、良かった」
「くっ! 何その『自分はもう関係ないもんねぇ~?』みたいな余裕
「ん~……? 起きない、起きない。人にイジワルするような刹那くんには、むしろ丁度良いんじゃないでしょうかね~? いや、ほんと」
余裕の態度でボクの言葉を受け流す北郷。
それがまた、とても憎らしい。
ですが、そんな彼の発する言葉には、合点の行かない事が
「は? ボクが一刀にイジワルをした? いつ?」
「ああぁ~? 何すっとぼとけてんだよ。
人が忘れてた尻が痛い事を思いだささせるわ、この世界に居もしない魔王とか魔神がさも存在するかのように言って人をビビらせるわ、やりたい放題じゃねぇか。
さっき
「いや、あれはその、冗談というか、さ……ちょっとした、お茶目じゃないか。
それに、ボクにとっては魔王とか魔神と言っても差し支えないんだから、嘘を言ってイジワルをしったてわけでもない。そう勘違いしたのは一刀の方だろう?」
ボクは、しどろもどろに成って弁解をしました。
まさか自分のちょっとした所業が、そのように受け取られているだなんて思いもしなかったからです。
「
それに、刹那にとってはちょっとしたお茶目かも知れないが、人によってはそう受け取らない事もあるって事は覚えていた方が良いんじゃないでしょうかね?」
よほど腹に
しかも、その
ボクはそんな彼の言葉に、ぐうの
「ごめん、悪かったよ。そんなつもりは、全然なかったんだ」
「まぁ別に良いさ、もう過ぎた事だからな。でも、これからは気をつけてくれよな?」
ボクは北郷の言葉にうなずく事で返答としました。
「それにしても、刹那は誰の事をそんな風に思っているんだ? 悪魔だ魔神だなんて、
「うん……? ああ、それはね――」
「刹那様、失礼します!」
北郷に曹操の事を説明しようとする時、天幕の入り口の布を押し広げて
ボクはその為、北郷との会話を切り上げて彼女と相対する事にします。
周泰は、用も無いのにボクの天幕に入って来る事は無いからでした。
「
「はい。曹軍から先触れがやって来まして、華陽軍の陣内でこれからの事について話し合いをしたいので、広宗攻略に集まって来ている諸侯を招く場を設けて欲しいとの事です。また、事前にその事について詳しい話しをしたいので、すぐにでも訪問して良いだろうかと言っています」
「は? 諸侯を招く場を設けろ? ここに?」
「はい、そう言っていました」
「いや、なんで? ボク達が出向くんじゃないの?」
「分かりません。そうして欲しいとの事でした」
ボクはちょっと疑問に思って、それを周泰に確認してみました。
本来なら、ボク達が広宗攻略の陣頭指揮を取っているまとめ役とも云える人物の陣地に出向くべき。ボク達は
順当に行くならば、
しかし、その不手際から他の諸侯の援軍を呼ばざるを得なくなった手前、それも難しいと思われる。
であれば当然、官軍でその任に当たる人物は、援軍に
でも、その皇甫嵩と行動を共にしていたであろう曹操が、それを理解しているのにも関わらず、それを実行に移せないでいる。
そういった事情の裏を取りたくて聞いてみたのですが、周泰も詳しい事を説明できないようで、曹軍からの先触れが言った事を繰り返すだけでした。
「あっ、そう。分かった。じゃあ、明命。そのように準備してくれる?」
「いえ。招く天幕事態は、もう既に準備してあります。指揮をとる為の天幕は、刹那様の天幕の次に重要ですから。
その事ではなくてですね……その、刹那様との事前
「ああ……そういう事ね。うん、分かった、良いよ。こちら側としても、どうなっているのか事前に知りたい事ではあるしね」
「分かりました。それでは、そのように知らせます」
「うん、ありがとう。よろしくね」
ボクは感謝を表して周泰を労い、彼女が天幕を出て行くのを笑顔で見送る。
「な、なあ、曹軍からの先触れって言ってたよな? やっぱ曹軍ってさ、曹家とかと関係があるのか?」
ボクが周泰を見送リ終わる頃を見計らって、瞳をキラキラさせた表情の北郷が話しかけて来ました。
でも、可愛い女の子がそういう表情をさせるのはアリだと思うのですが、ムサイ男がするのは
そんな北郷にボクは、どうでも良いと言った感じで答えていきました。
「そうだねー、あるかも知れないねー」
「それに、この場所に俺達を連れて来た伝令は確か、楽文謙って言ってたよな?」
「そだねー、そう言ってたねー」
「じゃ、じゃあ。楽文謙を伝令に出した曹軍を統率している人物って、もしかして曹孟徳だったりするのか?!」
何故ハイテンションなのでしょうかね?
ボクは取りも直さず、そう思います。
そりゃあ三国志の主要な人物の一人ですからね、見てみたい気がするのは理解できますけど。
それにしても、ちょっと興奮しすぎじゃないでしょうか。
「なに? そんなに逢いたいの?」
「え? いや、別に?」
「は……? じゃあ、なんでそんなに興奮してるのさ」
「いや、なんでって……曹孟徳だから、か?」
「何それ? そんなんじゃ意味、分かんないから」
「そうだな、俺にも良く分からん。ただ、なんとなくだ」
何をいってるんでしょうかね、彼は。
意味不明すぎるでしょう。
ボクがそう思って
「ん? ちょっと待てよ。じゃあ、刹那が魔王とか魔神だって言っていた人物って、もしかして……?」
そう言いながら北郷は、応えを要求するが如く視線をボクに合わせてきました。
ボクは舌打ちしたい気分で、彼にその答えを返します。
「そうだよ。そのもしか、だよ」
こっちはなるべく考えないようにしているってのに、なんで避けたい話題を振って来るんでしょうかね、まったく。
「じゃあ、あれか? 曹孟徳って、そんなに凄いご面相って事か? 刹那が魔王だ魔神だって比喩するくらいだから」
「ん? いや、そういう意味じゃない。顔は可愛いと思うよ」
「そうなのか? じゃあ、身体が天を
「それも、はずれ。むしろ小さい方だね。人によっては、保護欲を
ボクは曹操の容姿を思い浮かべながら北郷に説明します。
彼はボクの言葉を聞き、怪訝げに問いかけて来ました。
「顔が可愛いくて、身体が小さい方? そういう言い方をするって事は、やっぱり曹孟徳も女の子なんだよな? 男なら保護欲を掻き立てられるなんて言わないだろうし。
それならなんで、そんな娘を魔王や魔神なんて比喩するんだよ。可笑しくないか?」
北郷の発言を聞いて納得がいかないボクは、ここぞとばかりに反論していきました。
「性格だよ、性格! 言っただろう? 人の嫌がる事とか弱点を集中的に
ボクがいくら逃げても逃げても、追いかけてくるどころか先回りしてその逃げ道を
今までの
ボクが今まで、彼女にどれほどのイジワルをされた事か!
「どーどー。落ち着け刹那、身体に悪いぞ。
というか、俺に顔を近づけるな、
ボクは北郷の注意を聞いて、自分がいつの間にか椅子から立ち上がって彼の側まで来ている事に気がつきました。
北郷はベッドで横に成りつつ身体を
でも、人を闘牛場に居る牛さんのような猛獣に例えて押しやるというのは、どうかと思います。
「ふんっ! 分かってくれたんなら、それで良いさ」
「そうだな。刹那がどう思っているのかは、良く分かったよ」
ボクは北郷に言い放ちつつ、座っていた椅子の方へ戻って腰かけました。
「ここに諸侯を招く場を設けて欲しい、だ? まったくもう、ボク達が着いて
「うわっ。なんだよ、そのつまんねぇダジャレ。早々と曹操って、寒すぎだろう。
俺にしたお茶目といい、今のダジャレといい。刹那やっぱお前、冗談のセンス無いわ。やめといた方が良いぞ」
「うっ、うるさいな! ほっといて!!」
ボクも自分で言っといて同じように思わないでも無いでしたが、それを北郷に言われて認めるとなんか負けみたいな感じがして素直に成れませんでした。
「だいたいさ、始めからそういう
ボクは照れ隠しと誤魔化しもかねてそう発言し、北郷に同意を求めました。
でも、北郷はボクの言葉を聞いた後、何かを確かめるように問いかけてくるのでした。
「ちなみに聞くけどな、もし楽文謙がその事を先に伝えていたら、刹那はこの場所に来たか?」
「来るわけが無い! だーれが好き好んで、やっかい事なんてしょい込むもんか! なんとでも理由つけて逃げるに決まってるさ! 当たり前でしょうが?!」
「そうだよな。だから曹孟徳は、二度手間にしたんじゃないか?」
「だよね?! だよね?! そうじゃないかな~? って、ボクも思うもの。だ・か・ら、やなんだよ!
ねぇ一刀、分かる? 分かってくれる、この気持ち? ねぇ、どうなの?! ねぇ!」
「ああ、分かった。良く分かったから刹那、俺に顔を近づけるな! 唾を吹きかけるな! 汚いって言ってるだろうが!!」
ボクは又もや、いつの間にか北郷に詰め寄て語気を荒げながら合意を求めていました。
彼の方も自分に近寄って来るボクを
しかし、どちらも一歩も引かず、事態はいつの間にか取っ組み合いに発展しているのでありました。
「どうでも良いから、 とにかく離れろ!」
北郷は業を煮やしたのか、力強くボクを押しやってきました。
ボクもそれで少し冷静に成り、荒げた息を整えます。
「……だいたい、あれだ。そんなんだから、からかわれるんじゃないのか?」
荒げている息を整えていると、そんな言葉を北郷が投げかけてくる。
ボクは北郷の言葉を聞いても、彼が何を言いたいのか理解できませんでした。
「なんだって言うのさ?」
「だから、そうやって過剰に反応するから、からかわれるんじゃないかって言ってるんだよ」
「なに? ボクが悪いって言うの?」
「そんな事、言ってねぇよ。ただな……あーあれだ、可愛い女の子を見ると、男って気を引きたくてちょっかいかける事ってあるだろう? それと同じだって言ってるんだよ。刹那が過剰に反応しなければ、向こうもいづれ矛を収めてくるだろうさ」
ボクは北郷の説明を聞き、それこそ認められないと勢いづく。
何故ならば、ボクはこう見えてもれっきとした男子であり、曹操は性格が悪いと云えども女性だからです。
北郷の言い分ではまるで、ボクが女の子みたいではないですか。
そんな事は認められません。ええ、そんな事を認めては男が
「なっ、何やってんだよ、刹那?!」
北郷はボクの行動を見て、驚きの声を上げました。
「何って、見れば分かるだろう? 鎧を脱いで、上着の前をはだけているだけだよ」
「だけって……そんな事、今する必要ないだろうが!」
鎧を脱ぎ、続いて着ている服の前をはだけて肌をさらしたボクに北郷が文句を言ってきます。
ボクはそんな北郷に、当たり前の行動をしていると告げつつ彼に良く見えるように覆いかぶさっていきました。
「何、言ってるのさ。一刀がボクを女の子みたいっだて言ったんじゃないか。だから、ボクが女じゃないって事を証明してるんだよ。ほら、ちゃんと良く見て! ボクは男でしょ!」
「例えだろうが! た・と・え! だれも、刹那の性別を疑っちゃいねぇよ! っていうか、こっちくんな! 離れろ!」
「じゃあ一刀は、ボクが男だってちゃんと認めるんだね?」
「ああ、認める! 認めるから、早く離れろ! 服を整えろ! こんな事、誰かに見られたりでもしたらどうする! また、要らぬ疑いがかけられるだろうが!!」
「ご主人様、失礼します」
ボクと北郷が取っ組み合って言い合いをしていると、入室の
「あの、明命さんから聞いたんですけど、曹孟徳さんが――って、はうわ?!」
「あ、
諸葛亮が何故か大声を上げたので、ボクは彼女が入室した事を知る。
だから、声のした方へと視線を向けたのですが、その時に見て取れたのは何故か次第に顔色を真っ赤にして
「あっ、あの、しょの……しゅっ、しゅっ、しゅつれいしゅましゅた! ごゆっくり、どうじょ!!」
諸葛亮は何故か言葉を噛みながら勢い良くお辞儀をして、そのまま用件を告げずに天幕から
台風一過とは、こういう事を云うのでしょうかね?
でも、なんかモヤモヤして晴れ渡った気分にも成らないし、違いますよね。
ボクは諸葛亮が何をしたかったのか、まったく意味が分かりませんでした。
「どうかしたのかな? 彼女」
ボクは誰に語りかけるでもなく、そう呟きます。
そこに憮然とした態度の北郷が、何やら話しかけてきました。
「あのなぁ、刹那。今、俺はどんな格好をしている?」
「今……? ベッドで横に成っているよね?」
ボクは自分の下に居る北郷を見ながら、そう告げます。
「そうだな。では次に刹那、お前はどうしている?」
「え? ボク? ……ベッドで横に成っている一刀に覆いかぶさっている、かな?」
ボクは自分自身の格好を振り返りながら、再びそう告げました。
「そうだな。では、ここで問題だ。今の俺達の格好を客観的に見た場合、どんな事を連想する?」
「客観的に……?」
ボクは北郷の問題提示を自分の頭を使って考えてみる事にします。
考える、考える……
ポクッ、ポクッ、ポクッ、チーン!
「ああ、なるほど! ボク達が(ピー)してるって思うよね、きっと!
そうか。それで朱里は、あんなに顔を真っ赤にして慌てて出て行ったんだね。なーんだ――って、うそぉおおお?!」
閃いた事を冷静に北郷へと語っている最中に、ボクは事の重要性に気がついて大声を上げてしまいます。
それは、
「嘘なもんか。どうすんだよ、これ。こんな事、
大声を上げて慌てているボクに、
「いや、でも、その前に朱里の誤解を解けば――」
ボクは北郷の言葉を受け、それを回避する為の方策を話そうとしました。
しかし、それを話そうとする前に、天幕の外で『ほんごぉおおお!!』という、それはそれはもの凄い怒気を含んだ魏延の大声が鳴り響き渡ります。
そんな大声を聞き、ボクは自分の考えが遅きに失した事を理解せざるを得ませんでした。
いくら
組織として健全である事を喜べば良いのか、不都合な事実が露見した事を
(朱里さんや……早い、早いよ……)
そう心の中でツッコミを入れつつ泣いている間にも、次第に大きく成っていく地響き。
それはまるで、首つりという死刑執行をする為の階段を少しづつ登っているようなものであると感じられた。
「な、なぁ、刹那?」
「なんだい……?」
北郷の震えるような問いかけを聞き、ボクは下に視線を向けて彼に返答します。
その時に見て取れた北郷の顔色は、とても真っ青。もはや、一刻の
「こんな時、どんな顔をすれば良いんだろうな。俺、良く分からないんだ……」
そんな北郷の言葉を聞いて、彼はこれから自分が
ボクはそんな北郷の心情を
――笑えば良いと思うよ、と。
だってボクには、それしか思い浮かばなかったんですもん。
「はは……そうだよな……笑うしかないよな、こんな時は……はは、ははは……」
北郷はボクの助言を聞いて同意を示し、口角を引きつらせつつ乾いた笑い声を上げました。
そんな彼の悲痛な笑い声を聞きながら、ボクはこれから来るであろう台風の暴風雨に備えます。
備えたからといって、どうにか出来るなどとは思えません。
ですが、そう対処するしか
こういう時は、慌てた方が負けだと思いながら……
今日の天気予報。
今日は一日中、台風が吹き荒れるお天気に成るでしょう。
所により血の雨が流れるかも知れませんので、ご注意下さい。
Tweet |
|
|
9
|
0
|
追加するフォルダを選択
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
続きを表示