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『舞い踊る季節の中で』 第148話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

孫呉との会談を終え城へと戻る音々達。
久しぶりにお腹が膨れた彼女達につかの間の休息は無い。
既に始まっているのだ、孫呉との戦いは。たとえ刃を振るわなくても。

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2014-10-02 20:00:02 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4002   閲覧ユーザー数:2998

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-

   第百肆拾陸話 ~兎にも角にも更に舞いし音の狂想曲の宴~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

        

【最近の悩み】(蜀編)

 誰が悪いかと問われれば、俺が悪いんだと思う。

 少なくとも昼間の詠の一件に置いて、想像すらしていなかった詠のキツネっ娘姿&事故と言う思わぬ事態に焦りまくり正常な判断を見失った事で、色々とやり過ぎた事は一応は反省している。

 明命のO・HA・NA・SHIの後、よくよく考えてみれば、何も言わずに簡単な動作で鏡を見るよう促せば良かっただけだと気が付く訳だけど……、文字通り後の祭りだったわけで後悔先に立たずとは昔の人はうまい事を言ったものだよな。

 不幸中の幸いなのは、明命には俺が何をやりたかったのかと言う事は、きちんと理解されていたと言うのは、翡翠と言い明命と言い、理解があって優しい彼女を持てて俺は幸せだぁと心から思える。

 と、言う訳で反省と、怒らせてしまった明命へのお詫びとい言うか、俺の願望も多分に含まれてはいるけど、民情視察を兼ねて街に遊びに行こうと誘う。

 仕事中に遊ぶと言う感覚の無い明命にとって、俺の提案は渋るものの。俺が如何に明命と知らない街を見て回りたいかを熱く熱く語って見せたおかげで。

 

 「もう、そんなに言うなら、しかたないですね」

 

 と言う明命の言葉に、心の中でガッツポーズをとる。

 だけど、それ以上に明命の『しかたない』と言う言葉とは裏腹に、楽しそうな明命の横顔に、それ以上に嬉しくなる。 うん、やっぱり明命には笑っていて欲しい。そのための努力なら幾らでも出来るし、したい。

 そんな訳で、この街の見どころと言うか、お勧めの店などを話も兼ねて何人かに聞いて回ってみるかな。

 

 

 

 

 

 

 

次項より本編:

(張楊(ちょうよう))視点:

 

 

 

(あい)さま、愛さま。(しろ)部隊(ところ)も体調を訴える者はいないのです」

「そう、侯成(こうせい)創憲(そうけん)の所も問題なかったみたいですし、あとは更紗(さらさ)(高順)の所ね」

 

 ぴょこぴょこと軽快というよりも元気という言葉が似合いそうな足取りで近づいてくる真白(ましろ)(眭固)の様子に自然と笑みが浮かぶ。あの娘の元気な姿は、私だけでなく周りにいる将兵すべてにやさしい微笑みを自然と浮かばさせる。

 そんな真白達と街を囲む高い防壁の中へと戻ってきて、真っ先に確認したのが体調の不具合を抱えるものがいないかどうか。

 呉を率いる孫家の気質を考えれば、毒や薬を食事に盛る事は皆無で、幾ら(れん)が大丈夫と判断したとはいえ、不安を抱かない者がいないとは言い切れない。

 それでもこうして確認した結果が問題ないと判れば兵達も安心し、不安から体調を崩す者も減ると言うもの。

 

更紗(さらさ)なら、あちらの方で音々といつものをやってましたですよ」

 

 久しぶりにお腹が膨れて、ひどく満足気な様子の真白は、まるで犬が母犬に甘えるかのように私に抱きつき、頭を胸に摺り寄せながら、そんな頭の痛い事を報告してくる。

 

「……はぁ、困った二人ね。 でも、そう言う事をしていられるって事は、大丈夫とも取れると言う事でしょうけど」

「なのですよ。それにしても美味しかったですね。白、あんな食べ物、初めて食べたのですよ」

「そうね」

 

 確かにアレは美味しかった。

 正直、見た事も聞いた事も無い食物を口にする事に抵抗は覚えたものの、目の前で孫呉の兵達だけでは無く王や天の御遣いを名乗る男まで同じものを口にし、美味しそうに会談を始めれば、嫌でも警戒心は薄くなり、あとに残るのは空き切ったお腹な訳で……。

 

「あまりにも美味しかったので、白は十回もお代わりしたのです。愛さまは三回しかお代わりしなかったのですが、大丈夫なのですか?」

「ええ、十分にお腹が膨れました。それとあまり大きな声で回数とか言わないで。恥ずかしいですから」

 

 真白の被る黒山地方に多く生息する巨大兎の毛皮の上から、頭を優しく撫でながらそう諭す。

 この娘は元気で素直で真っ直ぐな所は凄く微笑ましいけど、そう言う所が少しだけ気が回らない所がある。と言うより恥じらいらしさとかが、少しだけ欠けているんでしょうね。けっして気が回らない子じゃないもの。でなければあれだけ部下に慕われたりしないわ。

 でも、これでは真白の将来が少し心配。せっかくこんなに性格も容姿も可愛らしく、素直で忍耐強い良い娘なのに、この調子では良い相手が見つかっても、呆れられてしまうかもしれないもの。

 だけど、愛さま御免なさいなのです~。と言って胸の中でしゅんとする真白の可愛さが在れば大丈夫なのかもと思えてきてしまうのは、義姉馬鹿なせいなのかしら? そう首をかしげながら改めて抱きついてくる真白を見下した時、真白の身体にある異変に気がつく。

 

「あら、真白。此処、汚れているわよ」

「ふえっ?。 ぬあぁぁーーーっ、黄色いのが付いているのです」

「きっと、先程の食事が飛んだのね。浸み込んだら厄介だわ。早く落としちゃいましょう」

 

 服に飛散している幾つかの黄色い小さな斑点を見つけ。洗うから小屋で脱いで着替えなさいと薦めるも、真白は大丈夫なのです。自分でやれるのです。愛さまは愛さまのお仕事をするのですよ。と言って、さっそく着替えに行こうとする真白を少しだけ引き止める。

 

「今夜はなるべく部隊を纏めて身体を休めなさい。何が在っても対応できるようにね」

「分かったのですよ」

 

 手袋をした手を私に向けて振りながら、元気に駆けて行く真白を見送りながら足を音々達の処へ向ける。

 

 

 

 

「音々の居場所は恋殿の横と決まっているのです。更紗は右翼を固めるのが一番ですぞ」

「呂布殿が行く先が((某|それがし)の行く先。明日の先方は某がやるのです。

 お前は軍の後ろで指示でも出していればいい」

 

 真白の言っていた場所に行けば、案の定、何時ものように音々と更紗が言い合いをしている。

 怒鳴りあってはいても、兵達に不安を与えぬよう決して大きな声を出していない辺りは、二人とも流石と感心するも、言い合いの内容が、今回も子供染みた内容なのを聞いて溜息しか出ない。

 むろん二人とも、大真面目で子供染みたいな意見を言っている自覚は無い辺りが余計に頭が痛くなる。

 

「二人とも、そんな事をしていて良いのですか?」

 

 それでも軽い頭痛を我慢して、今回も二人の仲介に入ろうと声を掛けるのですが…。

 

「部隊には、最低限の見張りを残して固まって休むよう指示してある。

 今は目に見える敵より、目に見えない敵の方が問題だからな。あと愛殿の所には兵をやったが、その様子ではどうやら行き違ったようですな」

「危惧すべき事は真っ先にすますのが軍師の務め。 街に会談の内容を流布させるよう指示を出してありますから、少なくともアイツ等は対応に追われて今夜は此方に手を出す余裕は無くなるはずなのです」

 

 普段の見た目や言動が子供子供してはいても、こう言う所は将としての自覚があるのか、しっかりと自分がやるべき事をやっているから、周りの兵達は苦笑を浮かべながらも見守っているんでしょうね。でもあまり褒められた事ではないのも事実。

 

「そうですか。 先程、聞こえてきた話を聞く限り、更紗は音々の明日の采配に不満が?」

「ふん、この状況で不満の出るような采配をする奴なら、とっくの昔に追い出しています。

 某が言っているのは。明日の戦いは将同士に戦いが勝負を大きく左右するのは必至。そこへ指示を出すべき軍師が、のこのこと最前線に出られては、戦局に問題が出やすいと諫言しているだけにすぎない」

「なるほど、理あるわね。音々は更紗の言葉を受け入れられない理由があるわけ? 更紗では能力に不満や力不足とか?」

「そうだったなら話が早いのです。戦場で軍師の命令を聞かぬような輩なら、それを理由に兵を取り上げているのです。 更紗の働きや力に不満があると言う訳では無く。明日の戦、確かに更紗の言うとおり将同士の戦いが勝負の行方を大きく握る事になると音々も見ています」

 

 かといって、犬猿の仲だとは言っても、決して互いを信用していない訳でも、足を引っ張り合う訳でもないのよね。 今の様に大切な所では互いに信じあっているんだけど。それは相手の能力を信じているだけであって、互いを認め合いながらも相手を譲る事をしない辺りが、何とかなりそうで何ともならない決定的な所。

 

「ですが、武の競い合いでは恋殿意外は厳しいと音々は見るのです」

「てめぇ、俺があんなおっぱいお化けや根暗眼鏡に劣るとでも」

「相手に張遼がいるのを忘れたのですか。張遼は今や敵。過去に同じ陣営に居たからと言って、手を抜くような甘い相手ではありませぬぞ」

「ぐっ」

 

 たしかに音々の言うとおり、彼女は昨日まで殺し合っていた相手であろうとも、心から笑って酒を組み合す事の出来る豪胆さと懐の深さを持っていると同時に、一刻前まで酒を組み合していた相手であろうとも、戦場で逢い見えた瞬間。いいえ、敵だと判断した瞬間、全力でその矛を振るう事が出来る。

 でもそれは彼女が冷たい人間と言う訳ではなく、ましてや感情を持っていないのでもなく、それが彼女なりの武人としての礼儀であり。この戦乱の世の中で、ほんの束の間であろうとも笑って酒を交わす事が出来るのならば、その一時を大切にしたい。と言う彼女なりのこの世を憂う生き方なのでしょうね。

 

「それに音々の見立てでは、明日は鈴の音の甘寧と闇猫の周泰も出てくるのです。虎牢関のときは遠目でしたが更紗達と同等か上と感じたのです。その差が埋まっている保証がない以上、格上と見て対処すべきですぞ。

 それと更紗の言う根暗眼鏡、おそらく呂蒙の事を指しているつもりなのでしょうが、音々が見た所あれは本来は武官ですな。兵を指揮する動きに武官特有の癖が見られるのです。音々達と同様に、相手はまだ底を見せていないと見るべきでしょう」

 

 此処まで分かりあっているのなら、もう少しだけ大人になってくれればと思うものの、心の成長を促すには今はあまりにも余裕の無い時代。ましてや今日明日にも将来を掛けた一戦交えると言う緊迫した時。とても二人の心を成長させる余裕を持たす事は出来ない。

 その事が酷く悲しく思うものの、この戦に勝てればその余裕も生まれる可能性が出てくる。むろんそこには孫呉が約定を守ればと言う前提が付くけど、それを疑ってはそもそも賭けが成り立たない。ならば今は勝つ事のみを考えるべき時だと、二人の問題を心の中深くにしまい込む。

 結局、音々としては正面同士のぶつかり合いに不安が残る以上、部隊の展開の速さでもって相手を掻き回すべきと言う考えは的を得ているかもしれない。

 だけど音々を軍師たらしめているのは、そんな小手先の技や頭の良さなんかではない。

 

「将の優劣で戦が決するものではないのです。

 戦での勝利とは、兵が掴みとるもの。

 その兵を纏め、兵を護り、兵の先陣を駆け行く者を将と呼ぶのです。

 軍師とは、その将兵の群れを軍となし、将兵の見えぬ先を見て指し示す者にすぎないのです。主である恋殿の目指す未来を掴むために、そして一人でも多くの将兵をその未来へと連れて行くために」

 

 まっすぐと揺るぎのない瞳の中に、強い意志の覚悟の灯火を秘めて、音々は心の内にある想いをゆっくりと紡いで行く。

 頭上から弓矢降り注ごうが、槍衾が目の前に突き出されようとも、指示が行き届く僅かな時間が惜しいのだと。それが例え刹那の時間であろうとも、その一瞬一瞬が将兵の命を左右するのだと。

 兵が…、将が…、その命を危機に晒して未来を掴み取ろうとしているのならば、軍師が同じ未来を掴むために命を晒してみせるのは当然。戦場に置いて安全な場など何処にもないのだと。

 音々のそんな想いは、私や更紗だけでなく周りにいた兵達の心へと浸み込んでゆく。

 

「「「………」」」

 

 此れが恋を飛将軍・呂奉先と呼ばれるまで押し上げた音々の本当の姿。

 彼女の言葉に重みがあるかのように、騒然としていた辺り空気は沈み。兵士達は己が心を奮い起し始める。

 軍師とはいえ、戦う力を持たない者が最前線に立つ事は、一般兵に比べて遥かに大きな恐怖に襲われる。戦場において自分の身を守れる術は無く、守られる事でしか生き残れない。ましてや音々のような小さき者であるならば尚更の事。

 それでも音々は最前線に立つのだと言う。

 彼等を守るために必要ならば最前線に立つ事に迷いはないと。

 戦場を知らぬ愚者の言葉では無く、百を超える戦場を知ってなおも彼女はそう口にし続ける。

 幾ら才が在ろうとも。幾ら実績を築こうとも。まだ童女と呼べるような小さな娘でしかない音々が、そう口にして黙っていられるような臆病者は此処には誰一人いない。

 だからこそ兵士はいくら能力があろうとも、まだ幼い彼女を心から信じられる。どんなに無茶に思える指示であろうとも、彼女のその想いを知っているからこそ、彼女の言葉ではなく想いを信じて槍を振るい死地を駆けて行ける。

 そんな音々が、明日の戦において様子見など不要と、己が身の安全を完全に切り捨てて口にする。

 

 

 

「明日の戦。将兵の絆の深さこそが勝敗を分ける。と音々は見るのですぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明命(周泰)視点:

 

 

「もっと多くの兵士を城の警備に呼び戻せ」

「しかし街の防壁を手薄にして、もしも奴等が夜襲をかけてきたら」

「そんな事よりも此方の身の安全の方が優先だ。もしも時は、兵士を送る時間ぐらいは呂布ならば耐えられる。

 だいたい攻めてきたなら攻めてきたならで、それこそ孫家に約定を守る気が無い証。いっその事、攻めて来いと言いたいわ。まったく孫家のくだらない奸計に踊らされおってからに」

 

 柱の影に気配を溶かし込みながら、周りに起きている事をあるがままに受け入れます。聞き耳を立てるとか、相手の様子を見るとかでは無く。ただ其処にあるモノのように……。

 諜報に置いて、相手の様子を詳しく識る必要はありますが、其れでは相手に気が付かれてしまいます。

 聞こうとする意識、見ようとする意識、そう言った意識を向ける事自体が相手に気取られる要因になるんです。特に気配に敏感な者ならば、幾ら気配を消そうとも、そう言った間諜の意識に気が付きやすくなるそうです。

 袁家時代の七乃が私や袁家の間諜に存在に付いていたのも、そう言ったものが理由の一つだったようです。

 ですから私は新たなる穏行術として身に付けたのがこれです。一刀さんに教わった呼吸法の鍛錬中に気が付いたもう一つの使い方。まだまだ修行中の技で未完成のものではあるものの。身を隠して一定距離を置いてある状態であれば十分に使える程度にはなってきました。

 

「とにかく儂は孫家の口車に踊らされぬよう説得に回る。

 お前は箝口令を布いた上で、街中の随所に兵を立たせ情報の拡散を防げ」

「夕刻である今からならば、外を出歩く者は不審な者と言う事で処理が出来ると言う訳ですね」

「そうだ。幾ら脅して内部分裂を計ろうとも、あんな時刻からでは情報を拡散しきれるわけがない。まったく詰めが甘いわ。だから儂は孫家に全てを委ねる事に疑問を持ったのだと言うのに。忌々しい」

 

 部屋から遠ざかっている気配を確認した上で、私は大きく息を吸い吐き出し、影に紛れるようにしてこの場を離れます。

 この穏行術は、まだまだ未完成なため、術を維持したまま動く事が出来ないのが大きな欠点です。当分は従来の穏行術と使い分けをしていかねばいけませんね。

 それにしても、一刀さんや冥琳様が言っていた通りの展開になってきました。お二人が仕掛けた罠に獲物は自ら頭を付きだしている事にも気がつかずに。 少し考えれば分かる程度の解決策を、不安と恐怖から抜け出すために、安易で迂闊な答えを自ら見いだした事で安全だと思い込みます。呂布と信頼を築き直し、共に窮地を脱するという唯一の突破口だと気がつかずに……。

 領主の最大の過失、それは呂布を利用するにとどめた事。それがこの戦に勝敗を付ける事になると、この領主が最期の時まで気が付く事になるかどうかは分かりませんが、それが出来ないからこそ、今回の様な反乱を起こしたとも言えます。

 

「(壱の伍の筋書きで)」

 

 城の塀を駆け昇った所で、声には出さずにそう口を開く。それだけで五つの影が私の周りから遠ざかって行くのが、敢えて消しきっていない僅かな気配で分かります。彼女達は私の配下であり、私の目と耳であると同時に手足でもある彼女等を通して、また多くの配下達が動き始める。

 陽の落ちるようとするこの街で影となり、闇に沈み、手足を広げる。

 派手に動く必要は何もありません。必要なのは繊細な情報操作。後は自然と動き始めます。まだ耳に馴染み切らない新しい言葉は、もともとこの世界に在った手段に、天の言葉を与えただけのもの。

 ですが言葉とは、…いいえ、名前とは力あるものです。 曖昧だったものに名前を与える事で、物事や考え方を明確にし、方向性を与えます。

 

「……一刀さん」

 

 夕闇の街に紛れて移動する中、不意に零れ出でしまう言葉は、閉じ込めておいた不安の吐露。

 今の私にとっての戦場はこの街。

 なんでしょう、何か嫌な予感がします。

 凄く、凄く嫌な予感が……。

 胸の奥に漂う嫌な感じが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音々(陳宮)視点:

 

 

 

なっ…!

 

 戦の合図の銅鑼の音とともに動き出した敵の軍勢。

 その余りにも馬鹿げた敵軍の行動に絶句し、数瞬とはいえ思考が停止してしまう。

 

「高順隊と眭固隊は、そのまま敵軍に横撃を、張楊殿の隊は音々とともに。他はそのまま鎧袖を撫でるように突っ込むのです!」

 

 言葉を詰まらせるなどという、敵にも味方にも動揺を見せるような無様な真似をせずに、すぐさま指示を出せたのは、単純に経験の差によるもの。いわば皆に積ませてもらった経験があってこその幸運。今のはそれ以外の何物でもないのです。

 孫呉軍は事もあろうに部隊による陣形を整えていたにも拘らず。あっさりを其れを打ち捨てて此方の部隊へと向かって来るのです。此方が騎馬と分かっていながら、騎馬に乗る事も無く歩兵でもって……。

 まるで田舎山村に住んでいた農民達が一騎を起こしたかのように素人丸出しに……。

 余りもの無謀な突撃に呆れ、驚愕されたとはいえ、それは一瞬の出来事。それでも騎馬による突撃は、展開が早い分、その一瞬の動揺が運命を分けるのです。更紗達も歴戦の強者ゆえに、動揺は一瞬だったとはいえ、相手がそのつもりでいた以上、その一瞬の差は大きいのですが、相手は騎馬にまたがっていない歩兵の分、幾ら駆けていようと騎馬の動きに比べれば動きは鈍重。速さで掻き混ぜて鎧袖一触で削り取ってゆけばいいだけの事。

 ……だだし、それは普通の場合はなのです。

 

「「「「うぉぉぉーーーーっ!」」」」

 

 敵軍の中でひときわ大きな男の声と共に、次々と何かが空へと投げ出される姿を視認し、弓矢では無く投槍? 確かに騎馬の突進を止めるには弓矢より効果があるのです。

 それにしては大きさも速さも雑多な上、投げる角度が上過ぎるのです。あれでは効果が薄い…違うのです! あれはっ……。

 

「散開!」

 

 思うよりも先に指示が言葉となって口に出るのです。

 ですが、幾ら迅速に指示を呼ばそうとも、騎馬による進軍は展開が早い分、その指示を受け取った者達が行動に出れるまでのわずかな間にすらも、馬は突き進んでしまう。

 

がららんっ!

どしゃっ!

ぼすんっ!

 

 次々と空から降り注ぐ物体の影。それは投槍でもましてや弓矢でもなく、雑納袋、まな板、小鍋、大鍋、縄、紐、外套、と、いちいち確認するのが馬鹿馬鹿しい程に戦とは何の関係も無い日用品の数々。

 流石に大鍋とかが当たればただでは済まないとはいえ、そんな物にわざわざ当たるのを待つ様な弱兵は恋殿の軍には誰一人としていないのです。

 奇をてらってはいるのですが、相手の狙いはただ一つ。此方の足を奪う事。

 戦場であれば、騎馬その速さで持て敵兵を跳ね飛ばし、その重さでもって敵兵を轢死させる。

 人間とは比較にならない身体の大きさと、その大きさが生み出す重量の前には、例え甲冑を纏っていようとも、甲冑ごと人間を踏み潰す事など造作も無い事。

 …ですがそれが人間では無く大きさの不揃いな物体や、縄や紐など絡む物ばかりとなれば話は別なのです。

 大量の日用品と言う名の雑多な物で生み出されたそれは、いつ崩れるとも分からない足場の悪い岩場であり、蔓草の伸びる茂る密林。どちらも騎馬との相性は最悪。もしもこれを狙ってやっていたのならば、これだけで終わる訳がないのですぞ。

 このまま敵の策を食い破るべきか、衝突地点を問題ない場所へと移行すべきか。

 

ぼふんっ!

ぼふんっ!

 

 そう迷った瞬間、数呼吸の間を許す事も無く敵の次の一手が放たれ、視界が白く塞がれる。

 呉軍との僅かな距離とは言っても、まだ敵陣との接触までの僅かな間に白煙が、次々と沸きあがり煙の壁を築き上げる。

 いったいどうして忽然と煙が……はっ! こっちは風下なのですぞ。

 

「全軍馬から下りて敵軍を迎え撃つのですっ!」

 

 敵の狙いは明らか、ならば此方も受けて立つだけの事です。

 必要なのは迅速に決断する事。導き出すべきは手遅れになる正解ではなく、事態を打開する事の出来る状況を迅速に作り出す事。

 飛将軍である恋殿の軍は、繰りぬけてきた修羅場の数が其処らの軍とは桁が違うのですぞ。天の御遣い。

 どのような手段を使ったかは知らないのですが、このような目くらましに動揺する我等では無いのです。

 

「音々、下がる」

 

 短い言葉と共に前へ出る恋殿の姿と共に、白い煙を突き破って幾つもの影が躍り出できたのは。

 

「でぇえ---いっ!」

「……っ!」

「はぁぁーっ!」

「であぁぁぁっーー!」

「ふっ!」

 

 その影の小隊に目を見開くとともに呆れる。

 張遼、甘寧、孫策、孫権、周泰と五人の将が、卑怯にも恋殿に同時に襲い掛かる。

 強い者を複数で仕留めるのは常套手段とは言え、此れはあまりにも卑劣。

 しかも部隊を率いるべき将が全員恋殿に集結すると言う事は、率いるべき兵士達を危険に晒すと言う事。

 幾ら煙で視界を奪おうとも、それは一瞬の事に過ぎないのです。

 恋殿を一気に仕留めようとしたのでしょうが、甘いのですぞ。 逆に恋殿に足止めされた五人の将は、己が部隊が我等が武威五将軍が率いる部隊によって駆逐されてゆく姿を目にするだけの事。

 それぞれ部隊の三分の一を引き連れてきてはいても、守りに徹すれば耐えられるのですし、直ぐに状況がひっくり返るのは明白。

 

ぎぎぢぃーーーぎゃりん!!

 

 鳴り響く剣戟。

 恋殿が五人の将の放った攻撃を往なした音。

 だがそれだけなのです。連続して鳴り響くかと思いきや。

 

「まぁ、久しぶりの挨拶ってとこや。恋」

「……ふん」

「呂布、悪いけど貴女の相手はしてあげられないの」

「貴様の相手は我等では無い」

「………通らせてもらいます」

 

 引き連れてきた舞台と共に我等の鎧袖を僅かに掠らせるかのように、背を向けて駆けて行く。

 つまり一気に勝負に付けに来たと思わせたのは搖動。敵の本当の狙いに気が付き、恋殿に声を掛けるより前に音々は気づくのです。

 

「……」

 

 恋殿は五人の将を気に止める事が無かったかのように、まだ煙が晴れぬ前方を睨み続けている事を。

 いずれも大陸に名を知られた将達だと言うのにも拘らず。最初からアレが挨拶でしかないと知っていたかのように、まだ姿の見えぬ敵が煙の向こうにいるかのように…。

 当然なのです。幾らあの五人が同時に襲ってきたとはいえ、恋殿を相手に足を止める事無く、擦れ違うかのように過ぎ去る等と言う事などできるはずもないのです。

 五人の将が繰り出したのはそれなりに本気の一撃ではあっても、本気の中の本気の一撃では無く。対して恋殿に至っては少しの本気ですら出してすらいなかった。つまり、アレはそう言う事なのです。

 張遼が擦れ違いざまに告げたように挨拶であると同時に、音々が行おうとしたように、今この状況を作り出すためだけに放たれた策。

 多くの兵を犠牲にしようとも、その策に価値があると信じて。

 ですが、どのような奇策を用いようとも恋殿には無意味。

 この程度の状況を作り出された所で、恋殿自身には何ら影響などないのです。

 恋殿には音々達には見えない、なにかを最初から見えているのです。

 この煙の向こうにいるべき者を…。恋殿にとって、あの五人を黙って素通りさせるべき者の姿を。

 

しゅしゅしゅしゅしゅっ!

 

 そう。この煙を切り裂いて攻撃を放った者の姿を。

 幾つもの方向から同時に、……いや、ほんの僅かに間をズラして恋殿に襲い掛かったそれを、恋殿は愛槍である奉天画戟で振り払ってゆく。

 鋭さに欠けるものの、厭らしく僅かに軌道を変えながら恋殿を襲ったそれは、……扇子?

 

 ぶわっ

 

 飛来した物の正体を見極めた瞬間、今度こそ人影が煙から飛び出してきたのです。

 いや、違うのです。攻撃を打ち払われたからでは無く。最初からその瞬間を狙って飛び出してきただけなのです。恋殿が此奴の放った最初の攻撃を避わすのでも、下がるのでもなく、攻撃を往なした上で迎え撃つと最初から解ってた上での行動。

 ……まるで恋殿の様に。 ……こいつ、いったい何者?

 

「呂布、君に教えに来たよ」

「……ん、違う。敗北を教えるのは恋の方」

 

 

 

 

 

 

 

 

更紗(高順)視点:

 

 日用品を獲物とする事は実はよくある事。

 反乱、一揆、盗賊など、戦を生業にしない農村に住む庶民が、最初に手にする獲物として。

 おきれいな戦場ばかり回されてきたわけではない某達にとって、それそのものは珍しくは無いとは言え、鎌や鍬が主で流石に唯の布キレや雑納鞄などと言うものは聞いた事も無いのです。

 よくよく見れば、鎌や槍も多少は混ざってはいるものの、碌に狙いもせず只空に向かって放り投げたそれ等は、運悪くぶつかれば脅威ではあっても、何ら意志の籠っていない其れは所詮は物でしかないもの。

 戦とは、獲物が人を殺すのではなく、人の意志が人を殺す。得物とは其処に人の意志がのってこそ初めてその真価が出るもの。

 例えそれが瀕死の兵士が反射的に突き出した何気ない一突きだとしても、其処には得物を手にしたと言う意思。そして生き残りたいと言う意思が確かに存在しているのです。例え、それが意識していないものだとしても。

 

 だから戸惑ってしまった。

 黄巾の時ですら、このような事は無い。

 投石や煮え湯が飛んでくる事があっても、其処には確かに攻撃の意図があった。生き残ろうとする強い意志があった。

 だがこれらからは意図が読めない。例え日用品だとしても、それを得物として手にした瞬間、それは日常を支える道具から、人を殺す得物へと成り下がる。その手にした得物をこんなに無意味に放る事など考えられない。

 いや、意味はある。意表をつく事で我等の足を奪うこと。

 だが、何故せっかくの陣形を崩してまで此方に向かってくる必要があるのか。

 一瞬にして、目の前を白い煙で覆い尽くすと言う摩訶不思議な事を成したとは言え、その瞬間に何十もの仲間を犠牲にしてまで奴等が成した事は、我等を分断すると言う事。

 戦開始早々に奇策を用いようともそんな無茶をすれば、当然無理による綻びが出て当然のこと。

 いくら、某達の分断を計ろうとも、そんな事をすれば、当然ながら陣形が薄くなるところが出てあたりまえ

 こちらもそれなりに犠牲を覚悟して突撃をかければ破れない厚みではないのです。むしろ今までの無理が生じたところを某達に突かれ、更に再び部隊を合流した某達の攻撃にどれ程耐えられるものか。

 

「正面の敵を食い破り呂布殿達に合流するのです」

「させると思うか?」

 

ぎしっ!

 

 突然と膨れ上がった殺気とともに放たれた言葉に向けて振るった某の槍は、巨大な鉈のような相手の剣をしっかりと受け止めるものの、剣でありながら某の持つ槍をへし折らんばかりに押してくるのは孫呉の将が一人、鈴の音の甘寧。

 戦でありながら、某を相手に気配を消してここまで近づいてこれた事に驚愕すると同時に、槍を通して伝わってくる感触が、武において某より各上と教えてくれるも、武の強さが必ずしも勝敗を決めるわけではない。むしろ各上の相手を倒してみてこそ武人の誉れ。そんな機会を与えてくれた天と呂布殿に感謝をするよりも、腹の底から湧きあがる強い衝動が某を、……いいや、おそらく同じ目にあっているであろう某達を包み込む。

 

「貴様、それは何のつもりだっ! 某を愚弄するつもりかっ!」

「ふん、だったらどうするつもりだ」

 

 甘寧はつまらなさそうに某の怒りの言葉を鼻で笑い捨て、体の後ろに獲物を隠すかのように構えをとる。

 無駄な力みが一切ない静かな立姿に、背筋に冷たい汗を覚えるも、そんな程度のことなど、もはや気にすらならない。

 何せこやつは…。

 

ふっ。

しゅっ。

ぎゃりんっ!

 

 綺麗な立ち姿勢から、一瞬で地面擦れ擦れまで体を倒しこみながら突っ込んでくる甘寧の姿は、一般兵どころか並みの将ですら、目の前から姿が消えたと錯覚するほどの鋭い動き。

 そこから跳ね上げられる相手の獲物に向かって、某はあらんかぎりの力でもって槍を振るう。撥ね返すのでも、相手に合わせるのでもなく、相手の獲物を砕かんばかりの勢いでもって。

 そう、剣とは名ばかりの獲物を。敵を切り裂き、突き殺すための刃の無い得物を。

 刃もなく、強度だよりの鍛練用の剣など、戦においては只の棍棒と同じ。

 ならば最初から棍棒を持てば良いものを、棍棒ではなくわざわざ鍛練用の獲物を手に戦場に立つなど、我らをなめている証。いや、戦という凄惨であり神聖な場にそんなものを持ち込むだけではなく、そんな気持ちで戦場に立つなど、戦で命を落としてきた者達やこれから落とし逝く者達の御魂を汚す所業。

 

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

 其処へ先程の某の予測に応えるかのように、戦場中に響き渡るかのような気勢が上がり、同時に"氣炎"が味方陣営中から吹き上がる。

 音々よ。お主はこの戦は将兵の絆の深さこそが勝敗を分けると言ったな。ならばその心配はもはや無用ぞ。

 たった今、某達の心は一つとなった。

 

 

 

 こやつ等全員、誰一人として生きては返さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 


 
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