真・恋姫無双 二次創作小説 明命√
『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割編-
第百肆拾陸話 ~荒ぶる祭りの宴に舞いし想い~
(はじめに)
キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助
かります。
この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。
北郷一刀:
姓 :北郷 名 :一刀 字 :なし 真名:なし(敢えて言うなら"一刀")
武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇
:鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)
習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)
気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、初級医術
神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、
(今後順次公開)
【最近の悩み】(蜀編)
……昨日は自業自得とはいえ酷い目に遭った。
確かに明命の言うとおり、明命や朱然とか蜀の女性の兵士の方に頼めば、誤解を受けずに済んだ話だよな。と反省しつつ丁奉達の様子に来てみれば、ちょうど頼んでいた物が出来上がったらしく蜀の人達も交えて盛り上がっていた
不格好ながらも、それなりに形と機能を果たしてくれそうなそれは、俗に言う一輪車と荷車だ。
一輪車はともかく、荷車は、この世界から元々ある牛や馬に曳かせるための物ではなく人間が扱う小型のもの。 リヤカーとか言う人もいるけど。一応、用途に合わせて二輪の物と四輪の物の二つ。 とにかく今までと違うのは、車軸が高い位置にあるため重心が低くなった事で前より安全に荷を運べると言う事。そして硬材である車軸も短いため、今までのものより安価に作れるんだ。
孫呉では既に使われ始めている物ではあるけど、流石に他国である桃香達までには広まっているわけも無く。こうして丁奉達に技術提供の一つとして作らせはしたけど、別に丁奉達でなくても良かったよな。それに言うほどたいした技術と言う訳じゃないし。
と言っても、そう思うのは俺だけらしく、孫呉でも一輪車とリヤカーは評判が良い。
そして、それは蜀の国の人も同じらしく。
「あわわっ。私でも簡単に運べますぅ~」
「はわわっ、こんなに簡単に方向転換が」
荷台を土で一杯にした一輪車を朱里が、そして同じく投石用の砂利や岩を積んだリヤカーを雛里がさっそく使い心地を試して見ている。
うん、非力の代名詞と言ったら流石に可哀相だけど、あの二人が扱えるのならば問題なさそうだな。
後はこの国の職人さん達が、もっと見た目を良くかつ頑丈に作ってくれるはず。
「鈴々なら、一気に運べるのだぁ」
……と言って、何故かもう一つのリヤカーを荷物ごと頭の上で持って駆ける鈴々。
えーと鈴々、それじゃあ荷車の意味ないからね。と心の中で突っ込みを入れる。多分、目的と手段が入れ替わっているんだろうけど。そんな鈴々を義姉貴分である愛紗が見かねて嗜めている。
そうこうしているうちに、朱里達が本当に最期まで簡単に扱えるのかと言う事と耐久性をみるためにと、城内を一周してみると一輪車とリヤカーを曳いて駆けて行ってしまった。
うんうん、ああ言う無邪気で元気な所は、見た目位の歳の娘に見えるよな。
少なくてもあんなアダルティーな下着を付けてた娘には到底見えな……、ごほんっ。いかんいかん。思考が変な方向へとズレてしまった。
これと言うのも、あんな短いスカートで駆けている二人と、タイミング悪く吹く風が悪い。
言っとくが流石に昨日の今日で見ていないぞ。見えそうにはなったけどね。
……って、朱然。何で呆れた表情をしているんです?
俺がとっさに視線を逸らしたのを確か見ていたよね?
それと、いきなり取り出したその帳面と鉛筆はいったい?
え? 俺には言いたくても言えない?
つまり俺より上からの指示と言う事ね……。
「……あははは……ははっ……は……」
何故だろう。すごく嫌な予感がするんだけど。
……気のせい……だよ……ね…?
音々音(陳宮)視点:
街を囲う防壁の上から一望できる孫呉軍の姿は敵ながら見事。
まだまだ遠い位置にいるとはいえ、軍を整列させるその姿はいつぞやの連合軍とは違い、精強の名に相応しい程に整然とされたもの。
此処まで鍛えあげた兵士達ならば、将は安心してその力を振るう事が出来る。
其処まで至った軍ならば、軍師は己が知略を思う存分に振るい手脚の如く使って見せれるはず。
なるほど先日までの部隊は、経験の少ない兵達を鍛える為だったと言う訳ですか。どうりでおよび腰の連中が多かったわけです。
ぎりりっ…。
まるで歯が今すぐにでも割れてしまうのではないかと言う程、奥歯が鳴るのです。
恋殿達をなめくさった事への怒りを、視線でもって刺し殺す勢いで睨みつけてやるのです。
この距離では、その相手の顔など見える訳などないのですが、その軍勢の中にいる相手を音々は確かに睨みつけてやるのです。
周公謹。こんな馬鹿にした真似をするのは孫呉の中でもアイツに決まっているのです。
曲に誤りあれば周郎が振り向く。なんて言葉がある程の文化人らしいですが、きっとネチネチと根暗野郎に決まっているのです。それに美周郎なんて言われているらしいですが、こんな策を弄しているようでは
必要なのは怒りに目を曇らせる事では無く、怒りを冷静に勢いへと変える事。
少なくともまた一つ音々達が負ける要因が減ったのです。
「………なっ、うっ、嘘だ……こんな…こ……と」
漏れ出た言葉に一瞬だけ目を向けたのですが、向けるまでも無かったのです。
腰を抜かした領主の配下の様子に、音々は侮蔑の視線すら向けずに視線を戻した先には鶴翼の陣の一種を整え終え様としている呉軍の姿。
奴等の現在の体勢から、想定される敵の出方を脳裏の中で何度も繰り返すが、それそのものにはあまり意味などなかったのです。
戦とは言わば生き物。たえず状況が変化し続け。考えもしない事象が起こりえるもの。
ゆえに安易な想定など、想定外の出来事に遭えば簡単に崩れさるもの。
そして恋殿の武は天下無双。ゆえに敵の思惑を何度も策ごと喰い破って来たのです。
……ですが、それでは限界があったのです。 音々がやって来たのは負けぬ戦。
恋殿共々潰そうと言う不逞の輩に送り込まれた戦場は、どれも負け戦同然で言わば処刑場。
それでも恋殿達と共に生き延びてこれたのは、耐えて耐えて、耐え忍んでやっと巡って来た好機。油断した敵の喉笛を喰らい付いて来れたからなのです。
「敵は掃討戦を仕掛けてくるつもりですぞ。
恋殿、これならば勝機は十分にあります」
掃討戦とはその性質上、陣の両翼を大きく伸ばすため、箇所カ所では陣形の厚みがどうしても薄くなってしまうのです。
通常なら破られようのない厚みだとしても、恋殿の率いる軍ならば不可能では無くなるのです。勝機とは破られるはずないものを崩してこそ、初めて見出す事の出来るものなのです。
そして勝機を見出したとしても、決して油断などしない事が肝心なのです。
そんな事をすれば、一瞬で殲滅される戦場を音々達は嫌になる程も廻って来たのです。
ましてや、この敵は油断ならない相手。
恋殿達の武をも策に食い込む事の出来る奴なのです。
虎牢関での出来事がそれを証明しているのです。
「……油断は駄目」
「むろんですぞ」
音々は血だらけなのです。
殺した敵の返り血で……。
吹き上げた味方の血肉で……。
戦場で死した者達の怨嗟の声で……。
音々の姿は何処を見ても、赤黒く染まっているのです。
血と死臭が、この身に染みついてしまっているのです。
「ん……信じる」
そんな音々でも、輝ける時があるのです。
そんな音々でも、必要だと言ってくれるのです。
黙って、音々に手を差し出してくれる方がおられるのです。
「恋殿、今こそ猛虎伏草から脱する時なのですぞ」
と、勢いよく言葉を発したのが一刻ほど前。
戦況はどうなっているかと言えば、実は少しも変わっていないのです。
陣形が揃い次第進軍してくるどころか、舌戦すら仕掛ける様子などなく沈黙を保っているのです。
これ程距離が開いていては、睨み合いにすらならない。…まさか、本気で兵糧攻めを仕掛けて来たとは考えにくいですね。大陸北部との決戦に向けて、孫呉としては今は少しでも蓄えを増やしておきたい時。あれ程の軍勢を率いては兵糧攻めなどしては損失が多すぎるのです。 今、孫呉を取り巻く状況を考えるならば、仕掛ける以上短期決戦のはず。
そして音々達としても、その方がありがたいのです。
領主の奴が隠している貯えがあれば、この街の人間を一年以上は賄えれるはずですが、此方まで廻ってくるかどうか当てにならないですからね。
かと言って、他に何かを仕掛けるための準備をしている様子も無し
「ん? ……やっと動いたと思ったら一部隊だけとは、今更、舌戦でも仕掛けようとでも言うのですか?」
兵の数にして五百ほどの部隊。
そして掲げられてる十文字の牙門旗からして、あの時のアイツです。
へらへら笑っているが、油断ならない奴。
それが音々が感じたアイツの第一印象。
恋殿と何処か同じ匂いのするアイツは、味方の陣営との中間地点より更に此方側。
弓矢が届かぬほど距離で、またもや進軍を止めて何かを始めだす。
まるで陣を作って休むかのような動きを…。
「矢を射かけてみますか?」
「この距離では矢を無駄にするだけなのです」
声を掛けてきた兵士に、今は自重する様に申し付けながらも、一時も目を離す事無くあいつ等が何を仕掛けてくるかを見極めんと睨み続けるのですが、…………どう見ても野営の準備をしているようにしか見えないのですね。
さっきの兵士では無いですが、矢を射かけてみたくなるのです。
ですが恋殿ならともかく、並みの将兵ではとても届く事かなわぬ距離。恋殿一人射掛けた所で脅しぐらいにしかならぬのです。しかも恋殿の力に耐え続けられる弓は未だなく。この距離を十も射たないうちに、弓が耐えられずに曲がってしまうのです。
恋殿の力に僅かでも耐えられる貴重な弓を、そんな事で無駄にするわけにはいかないのです。
そうして何を企んでいるか分からないまま半日という時間が経って行き。
きゅるるるるぅ~~~。
くぅ~~~。
まるで緊張の糸が解れたと言わんばかりに、鳴り始める裏切り者の名はお腹。
音々や恋殿だけでは無く、周りの兵達も同様なのかお腹を押さえている者が目立ち始めてきたのです。
理由は明白。よりにもよって、アヤツはあの場所で飯炊きを始めたのです。
しかも、この香ばしくてお腹を刺激する香りは何なのですかっ。
「其処の奴、兵三十程を連れて、見張りに回るのです。 もしかすると此方に目を惹きつけて何かを仕掛けてくるかもしれないですからね」
「はっ」
もっとも、そんな見え透いた小細工を仕掛けてくる奴では無いですがね。
かと言って、今だに敵の思惑が読めないのは変わらないのです。
あんな場所で、あの程度の兵数で休むための陣を張っては、此方に襲ってくれと言っている様なもの。
かと言って、それを囮にしてと言うには本陣は遥か後ろ。あれでは何かあったとしても間に合わないのです。 いったいなにを考えているのやら。
そうこう悩んでいるうちに、既に飯炊きの匂いは将兵達のお腹を刺激すほどまで凶悪に強まりはじめ。
きゅるるるるぅるるるっ
「………お腹すいた」
ついには今迄我慢してこられた恋殿に、そう言わせるほどまでに香り高くなってきたのです。
いったい何を作れば、此処まで美味しそうな匂いを出すと言うのですか?
「恋殿、今少しお待ちを。 あと数刻で夕餉が回ってくるはずです」
「ん………分かっ・」
バシッ!
あり得ない突然の攻撃に、音々は一瞬何か起きたか理解できなかったのです。
そう、今のを攻撃と判断してしまうほど、恋殿が掴み取った弓矢は鋭く。
そして恋殿程の武を持ってしてやっと届き得る距離を、正確に恋殿に当たらぬ様に射掛けて来た事に驚愕するのです。
攻城用の大型弩級ですらこの距離とこの角度では届かないはず。まさか孫呉が開発したと言う新型の弓? ですがあれは射程距離は大型弩級とそう変わらと聞き及んでいる以上、いったいどのような弓でもってこの距離を届かせたと言うのです?
それとも、その情報に誤りがあったとみるべきか? いや、ならば、とっくに矢の雨が降り注いでいるはずです。そう言った攻撃は、まだ矢が届かぬ距離と安心している時にやってみてこそ最大の効果があると言うものです。ならばそれ程の使い手がいないと見るべきか? それともそう思わせるためと言う考え方も…。
違うのです。今はそんな事などどうでもいいのです。肝心なのは如何にして届かせたではなく。この距離でもって、正確に射る事の出来る弓使いが孫呉にはいると言う事。もしかするとそれ程の使い手が一人二人では無いかもしれない。と言う事を頭に入れておくべきなのです。
そして、今それをわざわざ我等に見せた真意を計るべき時。
「……音々、出る」
予想通り矢文だったらしく。恋殿の手には小さな紙切れが一つ。
それを見て、脳裏に汜水関から軍を退いて来た張遼殿の言葉がよぎるのです。
華雄殿を想いを踏み躙る内容の矢踏みでもって、華雄殿を誘き寄せたと言う奴の手口を。
二番煎じとはなめているのですか? それともその程度の相手だったと言う事ですか?
もしそうだと言うならば、望み通りその喉笛を喰い破ってやるのですよ。
「
他二隊は防壁から皆を援護しつつ待機。音々達が帰る場所を死守するのですよ」
恋殿の命令と共に、部隊全体に檄を飛ばすのです。
居残り組も、防衛とはいえ何時でも
領主が集めた兵士もいる以上。防衛に固執する必要はないのですからね。
「……全部、出る」
「……いきなりそれ程の激突になると?」
恋殿の言葉に指示を修正しながらも、眉を顰めながら恋殿の真意を測るのですが、たかが兵五百程の前衛部隊に全軍出撃は些か過剰と思いもするのですが、恋殿がそう言うならそうする必要があると言う事。
……つまり、罠か伏せ討ちがあると見た方が良いと言う事ですね。しかも全軍でもって対抗する必要があるほどの物が。
「……ふるふる。
……出撃違う。
……ごはん、食べに行く」
「はっ?」
今度こそ、恋殿の言葉の意が分からずに。音々は口を大きく開けるのです。
えーと、恋殿? ごはんとは、もしかしてもしかしなくとも御飯の事ですか?
こう米を炊いたものや、芋を焼いたり、饅頭を蒸かしたりと、いわゆる食事の事ですよね?
いったい何がどうしたらそういう事に? え? え? え?
一刀視点:
「お見事。この距離をしてあの精度で射れるだなんて、さすがは祭さんだ」
放たれた弓矢の軌跡は僅かに山なりになるものの、殆ど水平に跳ぶほどの低伸性が高い矢文は、要求通りに呂布の手へと届いたのを望遠鏡で確認ができた。
「ふん。儂に掛かればこれくらいは朝飯前じゃ。と言いたいが狙いが拳一つ分程左に逸れたわい。まだまだ使いこなすには時間が掛かりそうじゃな。とにかく此れでこの弓は儂の物。ありがたく貰って行くぞぇ」
「ええどうぞ。そもそも祭さんのために作らせた弓だし、貰ってくれなければ他に使いこなせる人がいないから困ります」
袁紹軍の時に使った新型の弓をさらに改良して、祭さん用に作らせた強弓はまさに化け物弓。
むろん弓矢と言うのは距離が飛ばせればいいと言う訳では無いので、距離を犠牲にしてでも祭さんが使いやすく、尚且つ連射性を備えた物だけど、それでも俺では1センチも引く事の出来ない強力な代物。
まったく、この世界の将と呼ばれる人間は本当にとんでもないよな。今更ながらそのとんでもぶりに畏怖を感じつつも、それ以上に頼もしく感じ。思わず笑みが浮かんでしまう。
俺のそんな笑みに祭さんは念願の新型弓を手に入れれたにもかかわらず、難しい顔で俺を睨み付けてくる。
「おぬしが考えた策じゃ。信用はしておるが、どう見ても無茶が過ぎる。いや…無茶なのはいつもの事じゃったな。言葉を変えよう。おぬしらしくない策じゃ。人間らしくない行動をすれば、どこか無理が生じて失敗をするもの。おぬし、いったい何を考えておる?」
やっぱり、周りから見てもそう見えちゃうんじゃ、俺もまだまだだよな。
もっとも俺がたいした人間じゃないのは今更だからどうでもいい事だけど、祭さんの言いたい事はわかる。
「そうかもしれない。…でも、これは俺が俺であるために必要な事だと思うんだ。
みんなをそんな事に巻き込んで申し訳ないと思ってはいる」
「馬っ鹿もんっ!
最初におぬしを巻き込んだのは儂等じゃ。そしておぬしは儂等の期待以上の事を儂等にしてきた。
ならばおぬしが儂等の力がいるというのなら貸すのは当然の事。そんなつまらぬ事を気にするなど、儂等への侮辱と思うがよいっ!」
人を殺せるかと思えるほどの強い眼差しが…。
空気と大地を震わすほどの声が…。
抑えようともしない"氣"の放出が…。
彼女が本気で怒っていることを伝えてくれる。
叱られ…。兵達の前で怒鳴られているというのに…。
自然と頬が緩んでしまう。
瞼が熱くなってしまう。
「まったく、公瑾めの考えも分からぬ事もないが、そもそもこの戦は儂等の戦。
おぬしはそこに乗っかっただけの事。ならば余計な気を我等に使う必要など何処にもないわ。
逆に儂等を使って見せるぐらいの気概を見せてみんかっ」
周りを見れば、兵達も作業の手を止めて此方を見ている。
祭さんの剣幕に何事かと興味本位ではなく、自分達も同じ意見だと言わんばかりの目で、祭さんの言葉に肯いてゆく。
手を胸の前に握ってそうだという者や、己が獲物を肩に担いでまかせなとばかりに笑ってみせる者も…。
「もっと肩の力を抜くがよい。おぬしがこの
背中は儂等に任せて、おぬしはおぬしの事だけに集中すればよい。余計な事を考えて戦えるほど、呂布は甘い相手ではないぞ」
言葉が嬉しくて……。
掛けられる想いが心地よくて……。
溢れだしそうになるそれを必死に我慢する。
ああ、駄目だな俺って。だって教えてもらったじゃないか、こういう時どうすべきかを。
それを忘れて、祭さんにあんな事を言うだなんて怒鳴られて当然だ。
だから言うんだ。謝るんじゃなくて…、感謝の言葉を…。
「祭さん。あ、あり・」
ごちんっ!
「うぐぉっ!」
言おうとした傍から、よりにもよって脳天に拳骨が降りてくる。
かなり手加減はしてくれてはいるはずだけど、目に星が飛ぶくらい痛い事には変わりない訳で。
涙目で拳を落とされた所を両手で抑えながら、少しだけ恨めしげに呻いている俺に。
「そうだの、おぬしには
これで儂に気兼ねをする気も無くなるじゃろうて。ほれ、お前等も北郷にくれてやれ。
なに上役だからと遠慮する必要等はない。やれっ、儂が許す。
この馬鹿者の身体にお前等の想いを刻んでやるがよい」
なんて出鱈目な事を仰られる。
そして、誰の影響かは知らないけど、こういう時のノリが良いのが北郷隊の面々な訳で。
鍛錬の時と違い人が避けたりしないのを幸いとばかりか、もうこれでもかと言う程、次々と人の身体のあちこちを叩いて行く。掌で…、拳で…、さすがに祭さん程に力を入れる事は無く、ペシパシと軽快な音をさせながら、それぞれの想いを乗せた手が俺へと降り注いでゆく。
「水臭いっすよ」
「此れくらいさせてくださいっての」
「隊長は気を回し過ぎなんですよ」
「いたっ、いたっ!」
「うわぁ、隊長の頬って柔らかい」
「お守りに髪の毛一本も~らい」
「あっ私も♪」
「ぃてっ、待て、それなにか違う、痛っ」
「このこのこのっ」
「憎いねぇこの隊長。ていっ」
「でっ、こら、今のは本気で痛かったぞ」
「気のせい気のせい」
「そうそう、私達の気持ちですって」
もう無茶苦茶と言うかもみくしゃというべきか、とにかく何でもありの状態だ。
眼から毀れ出てしまったモノも、もはや嬉しいからなのか痛いからなのか、どうでもいい有り様。
ごくごく一部を除けば、本当に軽く触れる程度に叩かれただけだけど、やられた数が数と言う事とやられた場所が頬やら背中やら腹からと本当に身体中だ。もっとも人数が人数だから逆に触れれる位置から皆が寄せあった結果なんだろうけど。 いったい何処の誰だ。どさくさまぎれに人の尻を撫で回していったのはっ!?
「まったく、今から敵を前にするって言うのに、相変わらず祭さんは無茶苦茶だなぁ」
「ふふっ、だが皆の想いは身に染みたじゃろうて」
「おかげさまで、これ以上ないくらいしっかりと」
とにかく、そんな嵐のような時間がやっと終えた頃。
祭さんの楽しげに掛けてくる声を頭上から聞きながら、服に付いた土埃を手で払って立ち上がったところに、これが最後だとばかりに後ろから蓮華が俺の後頭部を掌で叩いていく。
ぺしりっ
「いて。って、蓮華までかよ」
「ええ、そうさせてもらったわ。
確かに先日は、王として一刀の提案を受けざる得なかったけど。
本当は此れで良かったのよね。また一つ勉強になったわ」
此処数日曇った表情をしていた蓮華は、久々に晴れ晴れとした可愛らしい笑顔で、まったく私の周りの人間には、いつもいつも驚かされるわ。とぼやきながらも、まだまだ多くの事を学ばなければねと。蓮華は自分の進むべき先をしっかりと見つめる。
ついでに、思春達がこの場に居合わせてなくて良かったわね。と軽い冗談を付け足して。
確かにそれは言えてる。もし雪蓮や思春達まで今のに加わられたら、戦う前から戦闘不能になりかねないからな。 いやマジで。
『なっ、なっ、なっ、なっ、な、なんですとぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~っ!』
其処に何処からともなく聞こえてきた悲鳴のような雄叫び。
遠く離れた街の防壁の上からであろう童女のものらしき声は、一度だけとはいえ聞き覚えのある事から。おそらくは呂布の配下である陳宮の声。
そしてそれは、俺にとって始まりの鬨の声でもある。
「くっくっくっ、さすがは漢王朝の下で百戦錬磨の経験を経てきた奴等も、北郷の策に不意を突かれたか」
「ふふっ、そうね。 でも幾ら敵だからと言って、あまり笑うのは悪いわ。誰だってこんな手を打ってくるだなんて普通は思わないもの」
「なに、考えてみれば当たり前の事じゃ。普通では無い者が考えた策を、儂等の様な常識に捉われた者が考え付くはずも無いと言うだけ」
だと言うのに、祭さんはそれを肴に人聞きの悪い事を言いだす。蓮華は蓮華で不謹慎よ。と祭さんを嗜めながらも祭さんの言葉に頷くのは止めてくれ。 二人とも人をいったいなんだと思っているんだか…。俺は十分に普通だって言うの。そう文句を言いたいのもやまやまだけど、流石にそう言う事を遣っている時間が無くなってきた。
まぁ、その原因の最たるものは、やっぱり祭さんが原因だったりするんだけど。其処は其処、言わぬが花と言うか。言ったら最後、余計にややこしい事態になるだけなので、ぐっと我慢の子で耐える。
ちなみに我慢と言えば、あたり一帯を包む美味しそうな香りに、周りの皆もそろそろ我慢の限界といった感じでお腹を鳴らしている。……え~と、もしかして、先程の一件ってずっとお預け状態だった腹いせとか言わないよね?
流石にそれは無いと思いたいから、脳裏に浮かんだ考えも放って、改めて確認のために香りの原因たる大鍋の一つを覗きこむ。
ぐつぐつ。
ぽこぽこ。
と美味しそうな音を立てているそれは、いくつもの香辛料や漢方薬と一緒に野菜と豚肉、それに果物を一緒に煮込んだもの。俗にいうカレーだ。しかも子供がすっぽりと入れるような大鍋一杯に幾つもある。そしてその量以上にあるのが、固めに炊いた御飯。
なんにしろ空腹時においてカレーの香りを漂わせるというのは、ある意味、暴力的な行為と言えるほど堪える。元の世界の時、三限目の体育の後の四限目に別のクラスの調理実習で漂ってくるカレーの香りときたら、拷問と思えるほどだったからなぁ。
ましてや明命の報告では、呂布達は糧食の節約のためと言う理由で、食事量がかなり制限されているらしい。そんな状態で数万人分と言う大量のカレーの香りは、この距離でもってしても風に運ばれて、呂布達の胃袋を大いに刺激したと思う。
だから頃合いを見計らって祭さんに頼んで届けてもらった矢文には、こう書いたんだ。
【一戦やる前に、まずは腹ごしらえでもしない?
大丈夫、孫呉の王と天の御遣いの名において、罠は仕掛けたりしないよ】
書面通りの食事へのお誘いで、当然ながら此方は罠どころか騙し討ちをする気など欠片も無い。ましてや雪蓮の一件で、余計に毒を薬を盛ると言う真似は、例え戦であっても孫呉では最低な行為と認識されている以上、そんな真似を周りや蓮華達が許す訳ないし、俺としてもそんな選択肢は最初からない。正真正銘、ただの食事へのお誘い。
むろん、普通はこんな誘いに乗る人間はいない。
でも、乗らざる状況を作ってやれば、その限りではない。
あの街に立て籠もる兵力一万五千のうち約五千が呂布の陣営。
一方、此方は四万の兵力を担ぎ出してきたとはいえ、その殆どは遥か後方の本陣で、此処に居るのは俺の部隊である五百の兵と蓮華と祭さんぐらいだ。
こんな罠だと言わんばかりの状況だけど、
漢王朝にいた彼女達は良く理解している。こう言う場において孫呉ほどの大きさのある国が、王とそれに準ずる者がその名を持ち出す事の意味をね。
逆に臆病なくせに自己主張だけは強いあの領主は乗ってこない。
でも所詮は一時的な協力関係でしかない両者は、互いに命令など聞くはずも無く。
「どうやら、一刀の言う通りの展開になりそうね」
門を開いて姿を現し出した騎馬の数からして、およそ五千という報告に、蓮華の顔は僅かに強張る。
五百対五千、相手が此方の誘いに乗った振りをしての強襲を掛けたのならば、僅か五百の兵では一溜りも無い。こんな策とも呼べない博打じみた状況の中で、祭さんはむしろ笑みを浮かべてみせる。
多くの兵を率いる将として積み重ねてきた経験が、祭さんを自然とそうさせているのだろう。
「権殿、なんなら儂の代わりに下がりますかな?」
将として立つ者が、怯えを表に出してどうすると。
危機を感じた時ほど、不敵に笑って見せずに将たる資格はないと。
ましてや王として軍師である俺の策を信じたなら、後は黙って受け止めてみせるのが王の器ではないのかと。
祭さんは蓮華の自尊心を刺激するかのように、己が経験から得た知識を教示してみせる。…自ら実践してみせながら。
「祭まで天の御遣い自らが命を賭けていると言うのに、王である私に臆病風に吹かれて安全な所で高みの見物をしていろと言うの? 思春にも散々似たような事を言われたけど、私の目指す王はそんな臆病な王ではないわ。 祭こそ、そろそろ作戦通り本陣へと下がったらどうなの?」
「権殿がそう言われるのならば仕方るまい。年寄りは年寄りらしく大人しく下がるとするかのぉ」
「祭が大人しくねぇ。 ちなみに私が祭の言葉に頷いたらどうするつもりだったの?」
「むろん権殿を連れて下がりますぞぉ。ただし下がるのはあちらの方ですがな」
そう言って祭さんが顎で指したのは本陣では無く、約五千もの騎馬が駆けてきている方向。
あの…、それって下がると言わずに突撃すると言いません? しかも単騎で…。
「そんなことだろうと思ったわ。まったく何処が年寄りらしく大人しくなのよ」
呆れ顔で溜息を吐く蓮華を祭さんは豪快に笑い飛ばし、近くの兵に馬を持ってこさせるよう命ずる。
どうやら、今度こそ予定通りに本陣へと戻ってくれる気になったらしい。彼女達に余計な警戒を抱かせないために。
「さてと権殿達の成長ぶりも確かめれた事ですし、儂はそろそろ下がるとするかのぉ。
……ところで北郷。儂に渡し忘れているものは無いかぇ?」
「………言っとくけど、カレーは持ち帰るようなものじゃないかな。一応忠告しとくけど空いた酒壺に入れたら、もうその酒壺には酒は入れれなくなるよ。匂いが染み付いちゃうからね」
流石の祭さんも、酒とカレーでは酒を取ったらしく、もの凄く残念なそうな顔で馬を走らせ始めた。もっとも去り際に、帰ったら同じものを作れ。と言い残して行く辺り祭さんらしいと言えば祭さんらしいよな。
祭さんなら、今日ので作り方は覚えたはずだから、自分でも作れる筈なのにそう言い残した理由など考えるまでも無い事。 祭さんはこう言ってくれたんだ。
『生き残り、事を成してみせろ。
そしておぬしが迷惑かけたと気に病むなら、皆に馳走をしてみせい』
つづく
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『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。
らしくも無い一刀に祭は伝える。
戦人の心を。
先人としての己が想いを。
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