No.720599

機動戦士ガンダムSEED 夏の始まりからやってきた白の騎士

PHASE3 折れた剣は可能性へ

2014-09-22 16:40:18 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3731   閲覧ユーザー数:3623

「ええい、しぶとい!仕留め損ねたか」

 

「アークエンジェル!」

 

クルーゼは軽く舌打ちし、目の前の大型戦艦、アークエンジェルにシグーを向かわせて装備していたマシンガンのトリガーを引く。対してアークエンジェルは面舵をいっぱいにし、シグーから放たれた弾頭をかろうじてよけていく。アークエンジェルが離れると、狙いを再びストライクへ戻し、マガジンを取り替えてバーニアを全開にする。

 

「フェイズシフトか、ならこれはどうだ?」

 

シグーはストライクの周りに民間人がいるにも構わず……いや、あえて民間人がいる方へとマシンガンのトリガーを引いた。

 

「きゃあ!」

 

「うわぁ!?」

 

「ッ!?」

 

ストライクは身を挺してソレを弾き返す。

 

「クッ、この……!」

 

一夏はそうとう頭にきていた。ただでさえさっきまでマリューと口論していたと言うのに、クルーゼの非人道的な行為に怒りを覚えるのに、そう時間は掛からなかった。

 

「ッ!だめぇ!」

 

「!マユちゃん、どうして!?」

 

腕のガントレットに念じて再び白式を呼び出そうとしようとしていた一夏に、マユはガントレットに手を添えて一夏がなそうとしたことをとめた。

 

「一夏お兄ちゃんは私たちと同じ民間人何だよ?これ以上戦う事なんてないよ!」

 

「でもキラが今、危険な目にあってるのに、何もしないなんて……!」

 

「けど、一夏さんの白式がばれたら、人殺しの道具にされるかもしれないんですよ!」

 

「…ッ!?」

 

シンに指摘されて、一夏はとっさにストライクを見上げるマリューに視線を向けた。

━━こんな非道なことをしでかす人たちのために戦わせられる?白式が……俺が……?

 

「チッ、強化APSV弾でもだめか」

 

いたって健在なストライクを見てクルーゼはまた舌打ちをした。

そこへアークエンジェルが反転し、側面にあるミサイルハッチから誘導ミサイルを4発を発射した。

 

「チィ……!」

 

しかし、クルーゼのシグーは後退しながらミサイルを撃ち落とす。撃ち漏らしたミサイルはあろう事かコロニーのシャフトを盾にして防いだのだ。

シャフトはミサイルの爆発により炎上

し、内部のワイヤーが焼き切れた。

キラたちは、その光景が悪夢のようにも思えた。

 

「冗談じゃない!」

 

キラはシートの後頭部からスコープを引っ張り出しては、シグーへ向けてランチャーの銃身を構えた。

 

「あっ、待ってそれは……!」

 

ストライクがシグーに向け、狙いをさだめているのに気付いたマリューは静止を呼びかけるが時既に遅し。

ランチャーの銃口から、すさまじい轟音とともに高濃度のビームが発射された。

 

「ぬうっ!」

 

しかし、ビームはシグーの右腕とマシンガンを焼くが、勢いに乗ったままのビームはコロニーの反対側の地表へと達し、コロニーの外装を貫いた。

その威力は、一体のモビルスーツに対して持たせるべき火力ではなかった。

 

「ぁ……あぁ……ッ!!」

 

そこで、キラは自分が犯した事の重大さを認識する。

コロニーの空気が漏れ、爆煙が宇宙に通じた穴へと引っ込む。クルーゼはこれを好機に、先程ストライクのランチャーが作った大穴から離脱した。

キラたちは、ただそれを見ているしか出来なかった。

『第五プログラム班は待機。インターフェイス、オンライン。データパス、アクティブ。ウィルス障壁、抗体注入完了……』

 

アスランは奪ったGシリーズのデータを解析していた。それと同時に、幼い頃に月の幼年学校の桜並木で別れたキラのことを思い出す。

 

「あ!」

 

「っ!すまない、ついそっちまでいじってしまった」

 

どうやら、ボーッとしていて、他のところまで手を出してしまったようだ。

 

「ぁぁ、大丈夫です。外装チェックと充電は終わりましたから……そちらはどうです?」

 

「こちらも終了だ……しかしよくこんなOSで……」

 

『クルーゼ隊長機、帰還。被弾による損傷あり。消化班と救護班はBデッキへ』

 

そのアナウンスが流れると艦のクルーは皆が驚愕した。それはアスランも例外ではない。クルーゼはこの艦の中でトップエースなのだ。そのクルーゼが被弾して帰ってくることに、皆信じられないでいた。

そして、ヴェセサリウスのハッチが開くと、そこから右腕を失ったクルーゼのシグーが見えた。

 

「隊長機が腕を!?」

 

(まさか……でもあいつなら!)

 

アスランが考えているのはもちろんキラの事だ。

今しがた書き換えたプログラムの元はとても実戦で使えるようなシロモノではなかった。しかし、あの一機がクルーゼを追い詰められるほど動けるようになったとなれば理由は一つ。それはキラがあれに乗り込み、プログラムを書き換えて動かしたとしか考えられない。そうであって欲しくないと思いながらも、そう言う考えが脳裏をよぎる。

 

「だから、本当なんだって!」

 

「全くミゲル。負けたからって言い訳するにしても、もう少しマシな嘘を考えろ」

 

何やら下が騒がしくなってきた。アスランは思考を止め、何かと思いながらコックピットからモビルスーツデッキの様子を覗き見た。

そこでは何やらミゲルとイザークが言い争いをしていた。

 

「俺は確かにこの目で見たんだ!突然モニターがパァって光ったと思ったら、そこにいたんだよ!6機目のGシリーズが!!」

 

(6機目?確か連合が造ったGシリーズは5機だけだった筈だが?)

 

アスランは少し気になってみたので、イージスのコックピットから直接ミゲルとイザークの下へ降りてくる。

 

「何の話をしているんだ?」

 

「ああ、アスランか。なに、ミゲルが連合の木偶の坊に尻尾を巻いて逃げてきたのは、連合のモビルスーツがもう一機あったからなんだと」

 

「?そんなはずは無い。工作員のレポートには連合のGシリーズは5機だけの筈だ」

 

「アスラン!?お前まで俺の話を信じてくれないのか!」

 

「いったい何の騒ぎかね?これは」

 

何時の間にかクルーゼは損傷したシグーを降りていた。そして、この騒ぎを聞きつけ、やって来たらしい。

 

「隊長!クルーゼ隊長なら見ましたよね?6機目のGを!」

 

「6機目?」

 

「コイツ、自分が負けたのはそいつのせいだって言い張ってるんです」

 

「ふむ、そう言う事か……残念だが、その6機目のGとやらは見なかったな」

 

「そんな!?」

 

「そらみろ!やっぱり6機目のGなんて、いやしないじゃないか!」

 

「そんなバカな!俺は確かにこの目で」

 

「きっと疲れているんだミゲル、少し、自室で休んでこい」

 

「そんな……じゃあ、アレは一体何だったんだ?いや、でも俺は……」

 

相当ショックを受けたミゲルはブツブツと何か呟きながら、フラフラとモビルスーツデッキを後にした。

そんなミゲルの背中をアスラン、イザーク、クルーゼの三人は哀れみの目で見送った。

アークエンジェルはコロニー内の地表へと降り、ストライクを回収した。

 

「ラミアス大尉!」

 

「バジルール少尉……!」

 

ストライクの手から降りたマ

リューを出迎えたのは、ショートヘアーの女性士官、ナタル・バジルールだった。

 

ナタルはマリューの前に立ち、敬礼をする。マリューも即、敬礼を返す。

 

「ご無事で何よりでありました」

 

「あなた達こそ、よくアークエンジェルを……おかげで助かったわ」

 

ストライクのハッチが開き、キラはコックピットの中からその身を出す。それを見たナタルは目を丸くさせた。

 

「おいおい何だってんだ?子供じゃねーか」

 

アークエンジェルのクルー視線はストライクの中から出てきた少年に釘付けだった。

キラはコックピットハッチから垂れるワイヤーを伝い、降りてくる。

 

「ラミアス大尉、これは?」

 

「……」

 

マリューは言葉に詰まった。視線をいったんキラへと移すと、すぐその視線を外し俯きになる。

 

「へー、こいつは驚いたな」

 

そんな気まずい空気を無視し、現れたのは紫色のパイロットスーツを着た、金髪の男性だった。

 

「地球軍第7艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉であります。よろしく」

 

ムウが敬礼すると、後から揃って、敬礼をするクルー一同。

 

「第2宙域、第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」

 

「同じく、ナタル・バジルール少尉であります」

 

二人の紹介が終わると、ムウは敬礼していた手を下げた。

 

「乗艦許可を貰いたいんだがねぇ。この艦の責任者は?」

 

ムウの質問に、ナタルが少し俯きになる。それだけで状況が深刻なのだと理解するムウ。

 

「……艦長以下、艦の主だった人名は皆、戦死されました。よって今、ラミアス大尉がその任にあると思いますが」

 

「え?」

 

「無事だったのは、艦にいた下士官と私はシャフトの中で運良く難を……」

 

「艦長が……そんな……」

 

「やれやれ、なんてこった……あー、ともかく許可をくれよラミアス大尉。俺の乗って来た艦も落とされちゃってねぇ」

 

「は、はい……許可します」

 

許可が取れると、ムウの視線はキラとその周りにいる子供達へと移した。

 

「で、あれは?」

 

「ご覧の通り、民間人の少年です。襲撃を受けた時に何故か工場区にいて私がGに乗せました。キラ・ヤマトと言います」

 

「ふ~ん」

 

「彼のおかげで先にもジンを一機、撃退し、あれだけは何とか守ることができました」

 

「ジンを撃退した!?」

 

ナタルの驚愕の声に、クルー一同がざわめき立つ。

 

「俺はあのパイロットになるヒヨッコたちの護衛で来たんだがね……連中は?」

 

「ちょうど、指令ブースにて艦長へ着任の挨拶をしている時に爆破されたので、共に……」

 

ムウは俯きながら「そうか」とだけ言うと、その視線をキラに戻して歩み寄る。

 

「な、なんですか?」

 

突然目の前に立ちはだかった背の高い軍人の姿に、キラは思わず身を引いた。ムウは微笑んで、さらっと言った。

 

「君、コーディネーターだろ?」

 

ムウの言葉に、その場の空気が凍り付いた。

すぐそばにいたマリューが渋い顔でこっそりムウを睨んだ。キラは躊躇ったが、ふいにきっとムウを見つめ返す。

 

「……はい」

 

途端に奥にいた銃を持った兵士が構える。銃口は、まっすぐにキラを狙ってる。その光景に一夏は驚愕し、怒りを覚えた。関係のない人たちを死なせて、なんの罪もない人たちの平和を奪って、そして今度はコーディネイターとやらだからといって銃を向ける。そんな身勝手な彼らに、平然としてる方が無理な話だった。

 

「なんなんだよ、それは!」

 

沸点を超えた一夏が叫び、キラを庇うように立ちふさがった。

 

「コーディネーターだかなんだか知らないけど、ここに生きていた人たちをくだらない都合で大勢死なせておいて、まだそうやって銃を向けるんですか、あなたたちは!!」

 

キラと一夏に銃口を向けたままの彼らに、一夏はどす黒い憎悪が溢れ出る。この時一夏は、まるで彼のいた世界、女尊男卑社会の実態を見せつけられたかのようにさえ思えた。

双方共ににらみ合う中(兵士たちの方が少し引き気味だが)、それを見ていたマリューが一夏の前に出る。

 

「銃を下ろしなさい」

 

マリューの命令により。兵士達は渋々言う通りに銃を下ろした。

 

「ラミアス大尉、これはいったい?」

 

「そう驚くこともないでしょ?ヘリオポリスは中立国のコロニーですもの、戦火に巻き込まれるのが嫌でここに逃げ込んだコーディネーターがいても不思議じゃないわ。違う?キラ君」

 

「え、えぇ、まぁ、僕は一世代目のコーディネーターですから…」

 

「一世代目…」

 

「両親はナチュラルって事か」

 

この事態を引き起こした張本人であるムウはバツが悪そうに頭を掻く。

 

「いや、悪かったな。とんだ騒ぎにしちまって。俺はただ聞きたかっただけなんだよね」

 

「フラガ大尉……」

 

「ここに来る道中、こいつのパイロットになる奴のシュミレーションを結構見てきたが、奴等ノロクサ動かすのも四苦八苦してたぜ……やれやれだな」

 

それだけ言うと、ムウはモビルスーツデッキを後にしようとする。

 

「大尉、どちらに?」

 

「どちらにって、俺は被弾して降りてきたわけだし、外にいるのはあの(・・)クルーゼ隊だぜ?」

 

「「え!?」」

 

「アイツはしつこいぞ~。こんな所でノンビリしている暇は無いと思うがね」

 

驚愕の色に染まる二人を後目に、今度こそムウはモビルスーツデッキを後にした。

アークエンジェル内に設けられた居住区の一室で、少年たちが不安げに肩を寄せる中、ベッドで寝息を立てる音が二つ。キラと一夏だ。キラは二段ベッドの上で寄りかかるように寝ていており、一夏はその下のベッドで奥の方を向き、体を折り曲げて寝ていている。

 

「……この状況で寝られちゃうってのは凄いよな」

 

「キラと一夏、本当に大変だったんだからね……」

 

ミリアリアが言うと、カズイはふっと笑う。だがそれは気持ちのいい笑いではなかった。

 

大変だった(・・・・・)か……キラにはあんなことも、大変だった(・・・・・)で済んじゃうもんなんだな」

 

「何が言いたいんだ、カズイ」

 

と、咎めるような視線を向けてトールが言った。

 

「別に……たださ、キラ、OS書き換えたって言ってたじゃん、アレの。……それって、いつだと思う?」

 

「いつ……って……」

 

みんな、その言葉で初めて思い当たる。

キラだってあんなモビルスーツのことは知らなかった。OSを書き換えたとしたら、あれに乗り込み、戦闘が始まってすぐということになる。だが━━。

戦闘の様子は、シンをのぞく全員が見ていた。途中でストライクの動きが、見違えるように良くなったのも。

━━あの、わずかな間に……?しかもジンと戦いながら?

みんな、キラがコーディネイターだということは知っていた。だからこそその能力を買われて、カトウ教授に色々雑用を押し付けられていたことも。でも……

ここまで圧倒的な能力だとは、思いもしなかった。

 

「……コーディネーターってのはそんな事も大変だった(・・・・・)で出来んだぜ?ザフトってのみーんな、そんなやつばかりなんだ」

 

どこか暗い声で、カズイは言った。

 

「……そんなんと戦って勝てんのかよ?地球軍は」

 

この場の全員が不安の表示を見せるが、マユはふいに一夏を見る。その様子を見ていたシンは、不思議に思いながら話をふった。

 

「でも、一夏さんは?一夏さんはナチュラルだけど、白式を動かしてたんでしょう?」

 

「アレはキラと違って『知ってた』から動かせたんじゃないか?」

 

シンの疑問に答えたのはサイだった。

 

「サイ……」

 

「それって、一夏さんの世界の事ですか?」

 

「あぁ……一夏は前の世界で、あれに乗ってたんだろ?」

 

モビルスーツとISとではまったくの別物だが、それでも兵器というものを扱っていたということ自体は変わらない。だからこそ一夏はああまで動かせたのだとサイは考えていた。

 

「でも、一夏お兄ちゃんの世界の時は白式ってパワードスーツだったんだよね?」

 

こちらはサイとは逆に、いくらモビルスーツとISが同じ兵器だとしても操作の仕方は車と自転車並に違うはずだ。というのがマユの主張であった。

 

「動かし方が違くても、機体のスペックは知ってた(・・・・)んじゃないか?白式として」

 

「……そうだな、操作の仕方がコンソールになっただけで、他は俺の知っている白式だったよ」

 

「一夏お兄ちゃん!」

 

何時の間にか、一夏がベッドから体を起こしていた。見るとまだ疲れが残っているのか、眠そうな目蓋をこすり、脚をベッドから垂らした。

 

「お前、寝てなくても大丈夫なのか?」

 

心配そうに声をかけるトールに一夏は笑顔で返した。

 

「ああ、もう平気だよ。それよりも、コーディネーターとかナチュラルとかっていったい何なんだ?この戦艦に乗った時も、キラがコーディネーターだって、騒いでたし」

 

その笑顔も、コーディネイターの話題に変わったときには真剣な表情へと変化していた。

 

「そうか、一夏の世界にはナチュラルだけだったんだっけな」

 

「ナチュラル?」

 

疑問符を浮かべる一夏に答えを差し出したのは、マユだった。

 

「ナチュラルっていうのはね、私たちや一夏お兄ちゃん見たいな、遺伝子操作をしてない、普通に生まれた人間の事なんだよ」

 

「遺伝子操作?ってことはキラは……」

 

これまでの話の流れから察した一夏は、解説してくれているサイへの視線を強める。

 

「あぁ、キラは……コーディネーターは母親のお腹の中で遺伝子をいじってから産まれた人間の事だ」

 

サイの説明を聞いた一夏は、アークエンジェルに乗ったときに対峙したあの一般兵らが見せたキラへの態度を思い出した。

 

「……たった、それだけなのか?」

 

「一夏?」

 

「あの人たちは、たったそれだけの理由でキラに銃を向けたっていうのか!?」

 

マユは一夏の怒気に気圧されする。トールたちも目を丸くして、固まっていた。

ハッと一夏は平常心を取り戻し、「ごめん」と言って縮こまる。

 

「一体どうしたの?外まで何か怒鳴り声が聞こえてきたけど……」

 

「あなたは……」

 

そこへ部屋の扉からひょっこり顔を出したのは、黄色いツナギから連合の軍服に着替えたマリューだった。

サイはベッドに腰掛けた姿勢のまま視線だけをマリューにやり、「何か用ですか?」とそっけなく聞く。

 

「まぁ、用があるのはキラ君だけよ」

 

そう言うとマリューはベッドの柱に背中を預けて寝ているキラを見る。

 

「キラ……キラ」

 

キラの一番近くにいたトールがキラを揺する。キラは目蓋をあけ、ボヤける視界が元に戻るのと同時に感覚が目覚めていく。

 

「キラ、あの女士官さんがお前に用だと」

 

「え、マリューさんが?」

 

「キラ君、あなたに話があるの、ちょっといいかしら?」

 

「あ、はい。いいですけど……」

 

キラとマリューは部屋の前に出た。気になった他のメンバーは部屋の中から、キラ達の会話を聞いていた。

その話の内容とは、キラにまたあのストライクに乗って、今後もザフト軍を追い払って欲しいとの事だった。

 

「お断りします!」

 

彼は怒りを込めて叫んだ。

 

「キラ君……」

 

「どうして僕がまたあれに乗らなきゃいけないんですか!あなたの言ったことは、正しいのかもしれない……僕たちの外の世界は戦争をしているんだって、でも、僕たちはそれが嫌で、闘いが嫌で、中立を選んだんだ!もう僕らを巻き込まないでください!」

 

マリューは辛そうな顔で黙り込んだ。その脇からナタルが口を開いた。

 

「だがあれは貴様にしか乗れん。なら、仕方のないことだ」

 

「仕方のないことって、僕は軍人でもなんでもないんですよ!?」

 

「貴様ぐらいの年で戦場に出る者などいくらでもいる。それに、いずれまた戦闘が始まったとき、今度は乗らずに、そう言いながら死ぬか?」

 

ナタルがあっさりと冷めた一言を告げ、キラは言葉を失った。

 

「今この艦を守れるのは、貴方だけなのよキラ君」

 

まるでだだをこねる子供をあやすかのように優しい口調で声をかけるマリュー。しかし、その言葉が扉越しに耳を傾けていた一夏の怒りを再発させた。

 

「━━さっきは民間人が触れて良いものじゃないとか今度はそいつに乗せて楯にするのか。……連合って言うのは、随分とご立派なんだな」

 

「……なんだと?」

 

自らが所属する軍を侮辱され、ナタルの目線が一夏に向けられる。その眼は、キラに向けていたそれよりも遙かに強烈で、殺気すら纏わせていたが一夏は動じる様子を見せない。

 

「今日、この平和な場所に多くの死人が死にました。襲ってきたのはザフトだけど、呼び込んだのはあなたたちだ」

 

「戦争に勝つためだ。そのためなら我々は利用できるものすべてを利用する!」

 

「守るべき国民を守れないで、何が軍ですか!ただ敵を倒すことしか考えないで犠牲なんて考慮しない……そんなのは軍じゃない、テロリストと同じだ!」

 

「貴様ぁ……!」

 

「っ!バジルール少尉!!」

 

根っからの軍人気質の彼女にとって、テロリスト同然と罵られることは耐え難い屈辱だ。それがたとえ子供であろうとも……

その結果が、彼女に銃をとらせてしまい、マリューが制止の声をかけようとしたその時だった。

 

『大尉、ラミアス大尉!至急ブリッジへ!』

 

不穏な空気に割り込むようにしてアナウンスが流れる。ナタルを抑えてからマリューは側にあったコンソールを開きブリッジと回線を繋ぐ、それに応じたのはムウだった。

 

「どうしたの?」

 

『モビルスーツがくるぞ!早く上がって指揮を取れ、君が艦長だ!』

 

「わ、私が!?」

 

元々はザフトが襲撃さえしなければ副長の座に就いていたはずのマリュー。

しかし、艦長亡き今、この場でもっとも高い位を持つのはムウとマリューの二人だが、ムウはこの艦をことを知らないために彼女に白羽の矢がたったのだ。

 

『先任大尉は俺だが、この艦の事は分からん!』

 

「……解りました。では、アークエンジェル発進準備、総員第一種戦闘配備。大尉のモビルアーマーは?」

 

『駄目だ、出られん!』

 

「では、フラガ大尉にはCICをお願いします」

 

そこまで言うと、マリューは通信を切り、再びキラに振り向いた。

 

「聞いての通りよ、また戦闘になるわ。シェルターはレベル9で今はあなた達を降ろしてあげる事も出来ない、どうにかこれを乗り切ってヘリオポリスを脱出する事が出来れば……」

 

「卑怯だ……あなた達は」

 

「キラ君……」

 

「この艦にはモビルスーツはアレしかなくて、今動かせるのは、僕だけだって言うんでしょう!」

 

マリューの心をズタズタに引き裂きながら、キラは泣きたい衝動を堪えてモビルスーツデッキへと走り出した。

アークエンジェルがヘリオポリスから離陸する。

キラはストライクへ再び乗り込み、発進準備に取り掛かっていた。武装は近接格闘戦闘用のソードが選ばれる。

 

「ソードストライカー。今度はあんなことないよね……」

 

キラの手の平にあの不可解な感覚が蘇る。ランチャーのビームでコロニーの外装を焼く感覚。このトリガーを引いただけなのに、嫌にハッキリと残っている。キラは首を横に降り、気を取り直してフェイズシフト装甲を展開する。ストライクの色がトリコロールに変わると脚のカタパルトが滑り、ストライクはアークエンジェルから飛び出す。

同時にアークエンジェルは主砲を展開し、焦点を拡散させてビームを撃つものの、あっさりと回避される

 

「オロールとマッヒュは戦艦を叩け!(あの黒銀、今度こそ仕留めてやる!)」

 

ミゲルのジンはアークエンジェルから出てきたストライクにビームランチャーを構える。

ミゲルのジンのモニターに長身の剣を構えて切りかかってくるストライクが映る。

 

「お前じゃないんだよぉ!!」

 

ランチャーを構え、砲弾を発射した。

ソード装備のストライクは回避するが、流れ弾がシャフトを支える柱に命中する。

 

「チッ!」

 

2発目。ストライクはまたしても避けるが、今度はコロニーの地表を焼いた。

 

「クッ、コロニーに当てるわけにはいかない!どうすればいいんだ……」

 

さらにジンから3発目のビームが放たれるが、左足を掠る程度に済んだストライクがすかさずミゲルのジンへと“対艦刀シュベルトゲベール“で斬りかかる。

 

ミゲルはそれをかろうじて避けるとストライクから距離を置き、ビームランチャーを発射する。

 

アークエンジェル向かったオロールとマッヒュの乗るジン2機は、予定通りアークエンジェルへの攻撃を開始する。脚部から発射されたミサイルがアークエンジェルに直撃し、艦全体を揺らす。

居住区に避難している一夏たち民間人組は、振動が起きる度に不安が募る一方だった。

 

「クソ、もう我慢の限界だ 」

 

「一夏お兄ちゃん、何処へ行くの!?」

 

この場を走り去ろうとする一夏にマユは一夏の腕を掴んで止める。しかしマユには一夏が何処へ行くのかだいたい検討がついていた。

 

「……モビルスーツデッキに行く。キラだけじゃあの数は無理だ。白式が加われば……」

 

「そんな事をしたら一夏お兄ちゃんは……!」

 

「……ああ、分かってる。白式を見られれば、俺は白式と一緒にあいつらのために戦争の道具にされるかもしれない。それでもッ!」

 

振り向いた一夏の瞳は透き通るように清んで、一点の曇りも無かった。マユの頬がみるみる赤くなっていくが、一夏はそれに気付いていない。

 

「それでも、俺はを護りたいんだ。だからごめんマユちゃん。俺、行くよ!」

 

マユの掴んだ手が緩むと同時に一夏の腕がスルリと抜け、そのまま一夏はモビルスーツデッキへと走り出す。

今だそこにポツンとたたずむマユは自分の胸に手を当てる。その手の平からは普段からは考えられない程の鼓動を感じた。

 

(どうしちゃったんだろ?私、一夏お兄ちゃんのあの顔を見たら、急にドキドキして……)

 

マユは自分の胸を抑えながら、通路の壁に寄りかかる。

その様子を見ていたシンたちは、何か確信めいた表情をする者と、ニヤツいた笑みを浮かべる二組に分かれていた。

 

 

 

「おいボウズ!ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

 

なんとかモビルスーツデッキにたどり着いた一夏はガントレットを構えて白式を展開しようとしたが、無精髭を生やしツナギを着た男性、コジロー・マードックに呼び止められた。

 

「あの数相手にキラだけじゃ無理です!ハッチを開けてください!俺が出ます!」

 

「はぁ!?何言ってんだボウズ、出るつったって、もう出せるモン何かねぇぞ!」

 

「問題ありません。自分のがありますから(・・・・・・・・・・)!」

 

「へ?」

 

「来い、白式!!」

 

ツナギの男が素っ頓狂な声をあげている間に、一夏は白式を展開する。そして、モビルスーツデッキは刹那、眩い光に包まれた。

 

 

 

「な、何!!?」

 

突如アークエンジェルのブリッジが揺れる。

マリューはまた、ジンの攻撃に被弾したのかと思ったが、そこへモビルスーツデッキから通信が入った。

 

「どうかしたのですか?」

 

『あのボウズ!回収した民間人の中にいた、黒髪の奴が……!』

 

「いったい……これは!?」

 

ブリッジにいたアークエンジェルのクルーはモビルスーツデッキのカメラが映し出した光景に絶句した。

画面にはGシリーズとよく似た黒銀色のモビルスーツが映っていた。

 

『艦長!あのボウズが早くハッチを開けろってうるせぇんです!どうします!?』

 

「え?どうっていわれても……と言うより何でアレが……」

 

━━あの機体は、ストライクがジンと初戦を繰り広げられている最中に出現し、そして気が付いたときにはいなくなっていたモビルスーツ。それがどうしてアークエンジェルの中に?

 

「いいんじゃないの?今の状況で贅沢言ってられないでしょ。そのボウズによろしく言っといてくれ」

 

「あの、大尉!?」

 

突然の事に対処できないマリューに変わり、ムゥが勝手に許可を出す。モビルスーツデッキとの通信は切れ、気が付くとムゥ以外のクルー一同が『やっちまったぜ』的な空気を漂わせていた。

 

「ど、どうしたの?なんか俺、マズッた?」

 

「あの、大尉。我々はあのGの様な機体を乗せた覚えが、無いんですが…」

 

「え"ッ!?」

 

その後、戦闘終了後からしばらくまで、この気まずい空気は抜けなかったらしい。

 

「よし、いけるな?白式」

 

ムウから出撃許可をもぎ取った一夏は、白式の中でカタパルトに足を付けるまでの間に画面に表示された内容を出来る限り解読していた。

その中でも気になったのは、

 

GAT-X102 データインストール 99%

 

GAT-X103 データインストール58%

 

GAT-X207 データインストール34%

 

GAT-X303 データインストール87%

 

GAT-X105 データインストール92%

 

甲装・牙【参】 データインストール71%

 

BT-01 データインストール94%

 

RR-08/s2 データインストール69%

 

s-r.01 データインストール86%

 

xx-02 データインストール83%

 

あとで下にいるの人たちにでも見てもらおうか、それともキラに頼もうかと悩んでいたうちにも白式の足がカタパルトと接続された。

意識を目の前に起きている戦場へと向き直して、一夏は一度深く深呼吸をすると、下の人たちに向けて声を張り上げた。

 

「早くハッチを開けてください!敵がきているんでしょ!?」

 

『あ、あぁ……ハッチ開け!この白いのを出すぞ。おい!そこのコンテナ邪魔だ、どけろ!!』

 

白式は着実に発進シークエンスに入っていった。アークエンジェルのハッチが開き、目下の戦闘中の光景はそこから見える。

 

「いくぞ、白式!」

 

シグナルがグリーンへと変わり、白式はこの世界での空を駆ける。

 

 

 

「何だ?あの艦から何か出てくるぞ」

 

最初に気付いたザフト兵士、オロールは、マッヒュとの通信を繋げたままにしてアークエンジェル本体からそちらに視線を向ける。

 

「ふん、どうせモビルアーマーだろ。連合のモビルスーツはあのGだけなんだからな」

 

ストライクを一瞥するもしかし、マッヒュの予想は裏切らた。アークエンジェルから出てきたのは、そのフェイスマスクがGシリーズとそっくりなモビルスーツだったのだ。

 

「なっ!?そんなバカな、地球軍にあんなモビルスーツがあるなんて聞いてないぞ!?」

 

「あの艦はやらせない!!」

 

白式は右腕に構えたアサルトライフル“焔備“をジンに向ける。

トリガーを引き、発射されたビームの弾丸はジンの右足に命中する。

 

「はぁあッ!」

 

怯んだジンにすかさず肉薄し、雪片を抜き放つと体勢を崩したジンの右腕を断つ。

 

「ぐあぁぁ!!」

 

切断された右腕から発生したスパークがミサイルへと誘爆する。

斬られたジンはかろうじて、体制を整えると、白式との距離をとった。

 

 

 

アスランはコックピットの中で戸惑いを隠せなかった。敵の戦艦から出てきたモビルスーツはミゲルの言っていた通り、もう一機あったのだ。

ストライクの相手をしていたミゲルはその黒銀のモビルスーツを見つけると、急にストライクから離れ、白いモビルスーツに一直線に接近した。

 

「ついに見つけたぞ、黒銀んんんんん!!」

 

「上から!?」

 

ミゲルのジンは照準を白式に向け、ビームランチャーを撃つ。

白式はそのビームを避け、すれ違いさまに焔備を撃つ。ミゲルもそのビームを避ける。一夏の避けたビームは地表を焼き、爆発する。

 

(俺が避けたら、コロニーが!)

 

一夏は視線をミゲルのジンに戻し、瞬時加速(イグニッションブースト)を使ってミゲルのジンを

ミゲル達が侵入の際に開けた大穴から、コロニーの外ににジンを押し出した。

 

「うわ!?」

 

白式のコックピットの中で幾億の星が流れる。

 

「やっぱり、ここって宇宙……ってそんなことよりあいつ、何処に!?……うわあッ!?」

 

刹那、後ろから何かが直撃し衝撃がはしる。白式の後ろにはミゲルのジンがビームランチャーを構えていた。一夏も直ぐに焔備をジンへと構えようとするが……

 

「っ!どうしたんだ白式!?」

 

白式の動きに一夏は違和感を感じていた。さっきまでとは違い、白式の動きが急に重く感じるのだ。

 

「動きが鈍い様だな。俺はこんなのに遅れをとったのか?情けない!」

 

今の白式は滑降の的だった。ミゲルは目の前の敵にイラつきを感じながらも、ビームランチャーのトリガーを引く。

 

「ごふっ!」

 

ビームは白式の腹部に直撃し、シールドエネルギーが残り四分の一にまで減少する。

 

「チィ、しぶとい!何なんだコイツの装甲は!」

 

「マズイ、あと一発喰らったら、もう保たない!」

 

ミゲルは白式をランチャーの照準のど真ん中に入れる。

 

「やられる!?」

 

一夏は背中にゾクッと嫌なものを感じた。ビームランチャーの銃口が光だし、一夏の心が死を覚悟した時……

 

「落ちろぉ!!」

 

ビームランチャーからビームを打ち出した刹那、奇跡は起きた。

 

『GAT-X102 データインストールコンプリート。フェイズシフト装甲及びファンネルシールドを展開します』

 

「何ぃ!?」

 

ミゲルは訳が分からなくなっていた。ビームランチャーを放った直後、白式が輝きだしたと思ったら、ビームは白式に届く直前に霧散したのだ。

しかもそれで終わりではない。白式から放たれていた光はそれまでの戦闘でかすかに傷ついていた装甲を完全の修復し、折れていた角状のブレードアンテナも猛々しい一本角へと変化していた。続けて黒銀色の装甲を光が積み込み、純白色に染め上げられる。

 

一次移行(ファーストシフト)及びにフェイズシフト装甲展開完了。続けて展開装甲“天羽々斬“発動』

 

白式から告げられた感情のこもっていない音声を耳にした直後、それは起きた。

 

キィン、と金属が共鳴する高い音がコクピット内にこもり、CGの宇宙を映し出すオールビューモニターが俄かに発光し始めた。モニターではなく、フレームそのものが光を放ち、モニターの継ぎ目から赤とも緑ともつかない燐光が滲み出してくる。ディスプレイ・ボードに《AMANO-HABAKILI》の文字が浮かび上がり、点滅したのは一瞬の事に過ぎなかった。ヘッドレストに装備された固定具が勝手に動き、一夏の頭を左右から押さえ込んだのを合図に、それは始まった。

一次移行(ファーストシフト)を完了した白式の肩を構成するパーツが、装甲の継ぎ目から割れ、スライドした装甲の下に赤く輝くフレームが露出する。足、膝、太股でも同様の現象が起こり、腰のフロント・アーマーと胸部装甲も展開すると、白式のシルエットが一回り大きくなったように見えた。赤い燐光が輝きを増し、白い機体を彩る鮮やかなフレームの模様を闇に際立たせる。腕もスライドし、背部に折り畳まれていたグリップが二本、両肩を飾るように屹立していく。もっとも変異が顕著なのは頭部で、口の部分に相当するマスク状のパーツが開き、目を覆うバイザーがスライド収納された顔は、もはや白式のそれではなかった。その象徴であった一本角が中央から割れ、Vの字に展開して、角に隠されていた第三の目━━メインカメラが露出する。人間の目と同じバランスで配置されたデュアルアイ・センサーを瞬かせ、金色に輝くV型の角を額に展張させた機体が、そこにいた。

 

一次移行(ファーストシフト)……そうか、これがお前の本当の姿なんだな」

 

『確認』のボタンを押すと、白式の周囲三ヶ所に光の固まりが出現し、それが形となったときにはガトリングを装備したシールドが浮遊していた。

 

「な、何が起きたんだ……?ええい、何なんだよそのふざけたモビルスーツは!!」

 

フェイズシフト装甲によって色が変わったと言うだけの話なら驚くことはなかっただろう。だが、機体が変身して、しかもさっきまでは確かに無かったはずの物まで出現したとなれば、いくらミゲルといえども、動揺せずにはいられないだろう。

それでも、ビームランチャーの照準を合わせて即座に引き金を引けたのは、彼のエースとしての強さ故だろう。

が、残念なことに迸ったビームの放流は白式には届かずに、周囲に浮遊していた三枚のシールドが「/」型の状態で三枚一組に連結し、風車のような形状となって防がれてしまう。

 

「そ、んなっ……!?」

 

ミゲルの持つビームランチャーは取り回しこそ遅いものの、威力に関してはザフトが開発したモビルスーツ用武装の中でも上位に位置する。なにせ拠点制圧用のD装備だ。それぐらいなければ拠点制圧は叶わない。

 

━━にもかかわらず、現実はどうだろうか?

 

ザフトが誇る拠点制圧装備の一撃は、たった三枚のシールドで防がれてしまったのだ。他でもないナチュラルが作った機体に、その上シールドは無傷ときた。ミゲルの心を折るのには、それだけで十分だった。

白式が背中から雪片を抜き放ち、ジンの眼前に迫る。

機動力も、連合のモビルアーマーの純粋な速度を軽く凌駕していた。ミゲルはこの時になってようやく悟った。

 

「━━化け物め」

 

白式の雪片がジンのコクピットに到達したのは、その直後のことだった。

ジンに斬り掛かる直後、一夏は幼少期のとある出来事を思い出していた。

それは姉、千冬に真剣を握らされた時のことだった。

 

『いいか、一夏。刀は振るうものだ。振られるようでは、剣術とは言わない』

 

ずしりと鋼鉄のそれは、初めて手にした俺を試すかのように容赦のない重さを持っていた。

手にしているだけでも汗が滲み、構えようにもその重量故に刃が持ち上がらない。

 

『重いだろう。それが、人の命を絶つ武器の、その重さだ』

 

冷たく、鈍色に煌めく、その刀。

それが白式の中にいる一夏が握る操縦桿と重なる。あの時以上の重さを、操縦桿から感じ取れた。

ISに乗っていた時のようなお遊び感覚のそれとは違う。自分は今、人殺しのマシーンに乗っているのだと嫌でも実感させられる。

 

『この重さを振るうこと。それがどういう意味を持つのか、考えろ。それが強さということだ』

 

「俺は、マユちゃんを……みんなをこんな戦いから守る!そのために俺は、ここにいるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

振り下ろされた雪片が、目前に捉えたジンを叩き斬った。右肩から股下にかけて絶ち斬られたジンは一瞬のスパークを放った後に、爆散した。

 

(やった……のか。俺が、あのモビルスーツのパイロットを……っ!)

 

身体のうちから吐き出しそうになった一夏は咄嗟に口を押さえる。

人を殺したこと。

一人の人間のすべてを奪ったこと。

生きようとする命を否定したこと。

その事実が身体の奥から嫌なものを込み上げさせる。

後悔は決してしない。してしまえば、それは死んだ者への冒涜になるからだ。

 

━━千冬姉も、きっとそう言うんだろう?

 

それからして、どうにか落ち着きを取り戻した一夏はアークエンジェルに戻ろうと白式を反転するものの、目の前で異変が起きていることに気が付いた。

 

「そんな……これはっ!?」

 

一夏の視界には、ヘリオポリスが高いところから落ちたコップのように次々と崩壊していく様が映し出されていた。

二ヶ月ぶりの投稿かぁ……。

スパロボUXやりすぎたなうん。

そのせいか元作に忠実にした感が営めない今作ェ……

まあ、次は一ヶ月以内にやりたいと思います。ではでは~


 
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