No.709813

黒外史  第十三話

雷起さん

江東の虎が大暴れですw

初登場キャラ:喬玄

恋姫†英雄譚オフィシャルサイト

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2014-08-19 15:40:49 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1998   閲覧ユーザー数:1671

 

黒外史  第十三話

 

 

 洛陽の東を守る二つの要塞。

 その名は汜水関と虎牢関。

 正史ではこの二つの関が実は同じ物であったと言われている。

 しかし、この外史では三国志演義、そして恋姫の居る外史と同じ様に、離れた場所に築かれた砦として存在している。

 東西に伸びる峡谷の中程に在るのが虎牢関。

 東の出口に汜水関が築かれている。

 峡谷の北側の山を越えた向こうには黄河が流れており、汜水関の東に官渡、その先に反北郷連合の集結地点、酸棗(さんそう)が在る。

 その酸棗から出発した孫堅率いる軍勢が、官渡を越えて汜水関に迫っていた。

 

「おらあああああああああああっ!!江東の虎!孫文台様が一番乗りだあああああああっ!!」

 

 喜々として馬上で南海覇王を振りかざし叫ぶ孫堅を、側近の張昭が盛大な溜息を吐いて愛馬と共に追いかける。

 

「はあああぁぁぁ………何の為にこの連合に参加したのか判らんくなってしまった………」

 

 そのボヤきを並走する程普が笑い飛ばす。

 

「ははは♪戦狂いの炎蓮(いぇんれん)に政治の駆け引きなんか期待しちゃ駄目だって、雷火(らいか)♪そこは私とあんたの仕事でしょ♪」

 

「楽しそうにしおって………まあ、自分で担ぐ決めた主だ。ここは腹を括るか………祭!玄喬(げんきょう)!炎蓮様のお守りは任せるぞ!」

 

 張昭は自分のすぐ前を駆ける黄蓋と喬玄(きょうげん)、二人の武将に声を掛けた。

 

「応!任せておけ!と、言っても儂の出る幕が有るとは思えんがの♪」

「祭!ワシらの仕事は炎蓮様がひと暴れしたら、引っ張って連れ戻す事だ!」

 

 白髪まじりの長髪を風に靡かせ黄蓋は豪快に笑い、整った顔の知将喬玄は冷静に対応策を述べた。

 この場の全員が、この戦力で汜水関が落とせるとは最初から考えていない。

 要は敵味方、北郷軍と反北郷連合に己の存在を印象付けるのが目的である。

 因みに喬玄の真名は玄。(いみな)と同じである。

 真名を交換した者のみが、張昭の様に『玄喬』と呼んでいる。

 

「愚駄愚駄うるせえなあ!おいっ!粋怜(すいれい)!ガキ共に俺の戦いをしっかり見ておく様に言っとけよっ♪」

 

「言われなくても見せるわよ。特に冥琳には戦馬鹿の手綱をどうやって握るか教えなきゃいけないからね!」

 

 程普の返事に孫堅は豪快に笑って返事とした。

 

 程普達の少し後方で、当の周瑜が張昭と同じ様に大きな溜息を吐いている。

 その隣を駆ける孫策が周瑜の肩を叩いた。

 

「あんたも大変ねぇ、冥琳♪」

 

「お前が言うなっ!!」

 

 周瑜は目を吊り上げて孫策に突っ込んだ。

 

 

 そんな事をしている間に汜水関の威容が眼前の山の陰から姿を現した。

 孫堅軍は三里(約1.2km)手前で全軍停止し、孫堅、黄蓋、喬玄のみが汜水関へと近付いて行く。

 すると汜水関から兵の歓声が聞こえて来た。

 

「向こうが一騎打ちに応じてくれるみてぇだな♪」

 

 歓声が上がるのは一騎打ちに向かう砦の将を応援している為だ。

 それが解っている孫堅は嬉しそうに汜水関の城門を見つめ、黄蓋と喬玄の二人は誰が出て来るのかと静かに睨んだ。

 やがて城門が開き、張遼と華雄の二騎だけが飛び出して来る。

 馬を駆る二人の姿に黄蓋と喬玄は感心した。

 張遼の手綱捌きは言うまでもなく、華雄も董卓の下で涼州を駆けていたのだから馬術の腕は高い。

 対して南方は馬の数自体が少ないので必然的に馬術の上手い者が少ない。

 孫堅達程の熟練になればその腕は確かだが、張遼と華雄の年齢でそこまでの腕の持ち主は居なかった。

 

 張遼と華雄は残り五丈位(約12m)で馬を止め、孫堅達と対峙した。

 相手が熟練の古強者、音に聞こえた『江東の虎』であろうと怯んだ様子は無い。

 華雄が駆け込んで来た勢いのままに口を開いた。

 

 

「今から貴様をこの金剛爆斧で真っ二つにしてやるっ!!」

 

 

「ド阿呆ぅ!いきなり何言うてんねんっ!お互い名乗りを上げんのが先やろがっ!!それから向こうの宣戦布告!そんで舌戦してから一騎打ちに入るんやっ!!」

 

 張遼が後ろから長々と突っ込むが、華雄には聞こえていない様で、金剛爆斧を構えたままだった。

 その様子に孫堅が大声で笑い出す。

 

「ぐわっはっはっはっはっはっはっ!!♪威勢がいいじゃねえか、ガキっ♪」

 

 孫堅が『ガキ』と言った瞬間、熱風と錯覚する程の闘気を華雄と張遼は浴びせられた。

 同時に闘気によって孫堅の服がはためき、

 

赤いレースの下着に包まれた股間が二人の目に飛び込んだ。

 

「ガキ共、名前は?」

 

 華雄と張遼は僅かに怯んでしまった。

 『格の違い』を見せつけられた為だが、それでも武人の矜持が二人を支える。

 

「わ、私の名は華雄!董卓軍の猛将とは私の事だっ!!」

 

「う、ウチは張遼文遠!北郷軍の切込隊長やっ!!」

 

 華雄と張遼は得物を構え直して己を鼓舞する。

 しかし孫堅の目には二匹の子犬が虚勢を張って吠えている様にしか映らなかった。

 

「クックック、可愛いねぇ。それじゃあおぢさんと遊ぼうかぁ♪気持ちよく逝かせてやるぜえ♪」

 

 孫堅がニタリと笑ったかと思うと、突然姿が馬上から消えた。

 

「華雄!上やっ!!」

 

 華雄は上を見るより先に金剛爆斧を薙ぐ。

 

ガキイィィン!

 

 上段から振り下ろされた南海覇王を辛うじて受け止める。

 しかし、一撃受け止めただけで腕が痺れて反撃が出来なかった。

 

「くうっ!」

「うおりゃあああっ!!」

 

キイィィン!

 

 華雄が受け止めた瞬間に張遼が飛龍偃月刀を繰り出したが、それも孫堅は南海覇王で弾いた。

 孫堅の体はまだ空中に在る。

 支える足場も無い状態で体を捻り張遼の攻撃を捌くとは、どれほどの筋力とバランス感覚を持っているのか。

 それを見ていた黄蓋が感心して呟く。

 

「ほう、あの孺子(こぞう)共が炎蓮様の摩羅を見た後でも初撃を受け止めたか。どうやら威勢が良いだけでは無さそうじゃな♪」

 

「だが、明らかに力不足だな。あれでは炎蓮様も満足なされまい。」

 

 喬玄は華雄と張遼を同情の目で見た。

 戦いは、地に降りた孫堅が馬上の華雄と張遼を相手にする形になっている。

 通常ならば馬上で長柄を振るう二人と地上で剣一本のひとりのどちらが有利かなのは考えるまでもない事だ。

 しかも、馬の扱いが上手いと黄蓋も喬玄も認めた相手である。

 だが、それでも尚、孫堅が完全に押していた。

 しかし、ここでまた孫堅の様子が変わった。

 

「なんか飽きた。」

 

 ボソリと呟いた孫堅は華雄の攻撃を体捌きで躱し、金剛爆斧の峰を鷲掴み、更に腕を絡めて完全に動きを支配してしまった。

 

「ば、馬鹿なっ!!」

「うおりゃあああああああああああああああああああああっ!!」

 

 華雄が驚愕するのも束の間、孫堅は自分の体を支点に金剛爆斧を華雄と馬ごと振り回して張遼に叩き着けた。

 

「「どわあああああああああああああっ!!」」

 

 振り回された華雄は勿論、張遼ももんどり打って地面に投げ出され、二人はもつれ合って転がった。

 

「っ痛~~!なんちゅう非常識なオッサンや………」

「何という膂力だ………これではまるで……」

 

 地面で転がる張遼と華雄に、孫堅は南海覇王を無造作に持ち、退屈した顔で近付いた。

 

 

「やっぱお前らじゃ半勃ちにしかならねえわ。」

 

 

 張遼と華雄の脳裏に先程見たアレが浮かび上がる。

 あれで半勃ちなら完全ならばどうなるのか。

 

((裂ける!))

 

 二人は同時にそう思い、目配せをしてここは撤退すべきと即決した。

 孫堅にも二人が逃げる事を決めたのは分かった。

 既に興味を失っているので別に見逃しても構わないと思っている。

 こちらも黄蓋と喬玄に戻ると伝えようとした所で、孫堅は首の後ろにチリチリとした感覚を覚え咄嗟に振り返った。

 

「……………来たか。」

 

 

 

 

 孫堅は(わら)っていた。

 気の弱い者が見たらその場で絶命しそうな哂い顔だった。

 

 視線の先は汜水関。

 

 その城門が再び開き、今度は白い影と黒い影が飛び出した。

 近付いて来るその速度は張遼と華雄を遥かに凌駕している。

 しかも二つの影は馬に乗っていない。

 それだけでも異様なのに放たれる殺気の強さ、いや、凰羅(オーラ)が半端では無かった。

 黄蓋と喬玄は無意識に弓を構えてしまっていた程だ。

 

「祭!玄喬!弓を下ろせ!死ぬぞ!!」

 

 二人は即座に弓と矢を手放した。

 当主の言葉とは言え、迫り来る影の放つ『凰羅』を前に武器を捨てられたのは、正に年の功だった。

 

 派手な砂煙を上げて白と黒の影が孫堅、華雄、張遼の前で止まる。

 

 

「張遼!無事か!?」

「なんだ、華雄。まだ生きてたか♪」

 

 

 砂煙の中から現れたのは聖フランチェスカの白い上着を着た一刀と、黒いメイド服の董卓。

 

「天の御遣いだけじゃなく、お前まで現れるとは意外だな、董卓。」

 

 孫堅はまだ先程の哂い顔を貼り付けたままだ。

 

「暴れたくてウズウズしてたのはテメェだけじゃねえってこった、孫堅。」

 

 言って董卓は背中に担いでいた九尺(約2m)の大剣を軽々と構えて見せた。

 エプロンまで黒いメイド服だが、今の董卓の姿は正に『大剣を構える月』にしか見えない。

 董卓は一刀に見せてその反応を楽しむつもりだったのだが、一刀は剣を構え、孫堅の顔を睨んでいる。

 いや、正確には孫堅の上半身以外を視界に入れない事に精神力の殆どをつぎ込んでいた。

 雪蓮の服を更に過激にした様な服を着た孫堅。

 

 しかも下腹部が異様に盛り上がっている!

 

 張遼を庇い前に出た瞬間に目に飛び込んできた悪夢の様な光景!

 一刀は今、必死に闘っているのだっ!!

 

 孫堅が放つ殺気が合わさるので精神的疲労の蓄積は加速し、一刀の鼻息が荒くなる!

 

 傍から見ると孫堅にハァハァしている様にも見える!

 

 孫堅も目が血走り、ただ目の前に居る強い相手と殺し合いをする事が出来る悦びに心が支配され掛かっている。

 そんな孫堅の変化に気付いた黄蓋が不吉な予感を覚え叫んだ。

 

「炎蓮様!ここは引くのじゃっ!」

 

 孫堅は辛うじて理性を取り戻し、地を蹴って一刀と董卓から距離を取る。

 それにより一刀の心にも余裕が生まれ、今の声の主を確認する事が出来た。

 

 そこに居たのは祭の服を着たロマンスグレーのおぢさん。

 

(そうなるんじゃないかと予想はしていたけど、これは祭さんには絶対に言えないぞ………それに、あのストッキングがズボンだったら、まだまともな恰好だったんだけど………)

 

 黄蓋の服のスリットからストッキングを吊るベルトがちらりと見えた所で一刀は視線を瞬時に外し、心を閉じた。

 祭の下着姿を良く知っているので、この黄蓋のガーターベルト姿を想像してしまうのを防ぐ為だ。

 

「そういや、正式な挨拶はまだだったな。」

 

 孫堅が南海覇王を鞘に収めながら語り掛けた。

 合わせて一刀も剣を収めると、董卓も渋々と大剣を背中に戻す。

 

「姓は孫、諱は堅、字は文台。長沙太守だ。」

 

「姓は北郷、名は一刀。并州刺史。ついでにこの反乱の所為で大将軍にさせられた。」

 

 一刀の『大将軍にさせられた』と言うのが面白かったらしく、孫堅は声を上げて笑った。

 

「がっはっは♪誰もがなりたがる大将軍に、嫌々なった奴は始めてじゃねえか?まあ、この董卓とか馬騰のションベン垂れを纏めるのは面倒臭そうだ♪」

 

「何ならあんたがやってくれないか。俺よりよっぽど向いてそうだ。」

 

 後ろで聞いていた張遼と華雄が驚いて自分の耳を疑った。

 大将軍の称号は漢王朝において軍事の最高責任者である。これ以上の役職は無いのだ。

 一刀の言った事は『こちらに寝返ってくれれば、自分は部下になってもいい』と言っているのと同じだった。

 

「大層な申し出だが、お断り申し上げよう。俺は自分の目的の為にこっちに付いたんだからな。」

 

「どんな目的か聞かせて貰えるか?」

 

 大将軍という地位を蹴っても為したい目的。

 それは現皇帝を廃し、劉虞を皇帝に据える事か。

 そうでは無いと一刀も解っていながら問い掛けた。

 

 

「強い奴らと本気で戦えるからに決まってるだろ♪」

 

 

 一刀の予想通りの返事を、実に良い笑顔で孫堅は返した。

 

「むしろ董卓、お前だってこいつとマジでやりてぇだろ?何でそっちに居るんだよ。」

 

 元々董卓が居る位置に一刀が割り込んでいる様な物なのだが、正史を知らない孫堅がそう思っても仕方の無い事なのかも知れない。

 そのチグハグさが一刀は妙に面白かった。

 しかし、面白がっていられたのもここまでだった。

 

「そんなの決まってんだろ。こいつのケツ掘って子種も頂く為だ♪」

 

「ぶふうううううううううううううううっ!!」

 

「何だとっ!董卓、テメェ既にっ!?」

 

 董卓はメイド服姿で可愛らしく一刀の腕にしがみ着いた。

 月と一刀が腕を組んでいる様に見える光景なのだが、背中の大剣が異彩を放ち過ぎている。ついでに大剣の柄が一刀の顔にグリグリとぶつかっていた。

 しかし、孫堅が月の事を知る筈も無く、当然背中の大剣も気にしていない。

 

「そういや北郷の趣味は…………それじゃあしょうがねえか。」

 

 一刀は否定したい所なのだが、その噂が最近はウホッなお誘いを減らしてくれているのを知っていたので何も言えなかった。

 

「おっと、そうだ。おい、北郷。この戦、ひとつ賭けをしないか?」

 

「賭け?命だったら最初から賭けてるぞ。」

 

「そんなの当たり前だろ。自分の命以外も賭けるから極限まで力が出る様になるのさ。」

 

「それは賭ける物によるだろう………」

 

 確かに自分の尻を賭けろと言われたら一刀は死に物狂いで戦うに違いない。

 

「この戦で連合が勝ったら、お前は俺の部下になって江東に来い。」

 

 一刀は咄嗟にお尻を押さえた。

 

「別に俺の相手をさせる気はねえよ。それ所か、お前の趣味に合った相手を揃えてやる♪」

 

 負かした相手にどういうつもりなのかと考えた一刀が思い付いたのは、孫尚香の事だ。

 

(もしかして俺を婿にするつもりか?いや、むしろ俺がヨメ………どちらにしろ嫌な結末が待っている………)

 

「それで連合が負けた場合だが、俺の首級と俺の配下全部をお前にくれてやる。」

 

 孫堅は自分の首を叩いて気安く言い放った。

 

「えらく自分勝手な主君だな。家臣が納得しないんじゃないのか?」

 

「俺の決めた事が気に入らないなら先に逃げ出すさ♪まあ、息子共には申し訳ないと謝れば許してくれんだろ。」

 

「本当に自分勝手な親だな………」

 

「仕方ねえさ。あいつら産んだのも俺の勝手だ。あいつらに頼まれた訳じゃねえ。勝手に産んだ以上は放り出す訳にゃ行かねえからな。」

 

 一刀は孫堅が何を考えているのか理解した。

 孫堅が死んだ後を委ねられる位、一刀を評価しているのだと。

 理解した上で、一刀は溜息が出た。

 

「なあ、孫堅さん。戦が終わる前にお互い死んじまう可能性も有るだろう?そん時はどうする気だ?」

 

 

「はあ?何言ってんだ、お前。一騎打ちで勝つのは俺だ。つまり死ぬのはお前だけだ。」

 

 

 一刀は目が点になった。

 

 

「(なあ、董卓……………頭がおかしいのは俺か?それともこのおっさんか?)」

「(両方なんじゃねえか?♪)」

 

 どうやら質問する相手を間違えた様である。

 

(このおっさんを理解したと思ったのは錯覚………いや、極一部だけだったって事か………)

 

 この様子を見かねた喬玄が一刀に近寄り声を掛けた。

 

「我が当主の言葉が足りなかった事は謝罪致します。」

「なんだ玄喬。それじゃあ俺が馬鹿みてえじゃねえか!」

 

 食って掛かる孫堅を、今度は黄蓋が腕を取って引っ張った。

 

「炎蓮様、ここは玄喬に任せて今日の所は下がりなされ。」

「祭!てめえもかっ!!」

 

 喬玄は喚く当主を無視して一刀に言葉を続ける。

 

「北郷殿。文台様の頭の中では既に戦いが始まっているのです。戦うからには必勝の想いで挑む物。あの方は加減という物が出来ませんから、手心を加えようなどと考えたら間違いなく殺されますよ。」

 

「はあ…………それじゃあ、先に話していた賭けの話も………」

 

「とんでもない事を言い放ってくれましたが、文台様の命とあらば我ら家臣一同は必ず従います。まあ、我らも負ける気は有りませんが。」

 

 喬玄は最後にニヤリと笑ってから踵を返した。

 喬玄が、己が当主を見てみれば黄蓋に引き摺られながらも、まだ喚いている。

 

「おい、北郷!明日はお前と一騎打ちだ!おめえは玉無しの劉虞より百倍マシだと思ってんだから、逃げんじゃねえぞっ!!」

 

 そう捨て台詞を残して自陣に戻る孫堅を真面目な顔で見つめた。

 

(炎蓮様が『自分が負けた時』を口にするとは………………何かを予見されているのかも知れない………)

 

 一刀と董卓、張遼と華雄に背を向けて立ち去る喬玄。

 一分の隙もないその背中に一刀は驚嘆していた。

 

「あんな武将まで居るのかよ。孫堅軍は本当に脅威だな。」

 

 そんな独り言を言いながら、頭の中では他の事も考えていた。

 

(『げんきょう』って呼ばれてたな…………そんな武将って孫呉に居たかな?)

 

「一刀はん………申し訳ないっ!醜態晒した上に、一刀はんを煩わしてしもて………」

「私もです!董卓様の将として恥ずかしい姿をお見せしました…………」

 

 張遼と華雄は地面に座り涙を流している。

 今になって悔しさが込み上げ、自分の不甲斐無さに腹が立ち、地面を殴りながら謝る事しか出来なかった。

 一刀は気遣って穏やかに声を掛けた。

 

「張遼、俺の事は気にするな。負けて悔しかったのなら精進しろよ。」

 

「華雄、相手が孫堅じゃしょうがねえさ。でも、これで世の中にはまだまだ強い奴が居るって判っただろう?」

 

 董卓も華雄の肩を叩いて励ます。

 一刀は董卓のそんな姿を初めて見たので驚き、そして少し見直していた。

 

「一刀はん!見ててや!ウチはあのおっさんのイチモツ見てもビビらん様に尻を鍛えるでっ!!」

 

「董卓様!大きさで負けても硬さでは負けぬ様に鍛え上げてみせますっ!!」

 

 

「何の話をしてんだよっ!!」

 

 

「おう!何ならオレが鍛えてやってもいいぜ♪」

 

 

 

 

 孫堅は自陣に戻る途中で黄蓋と喬玄に語り掛けた。

 

「これで勝っても負けても雷火の奴に北郷をあてがってやる事が出来るぜ♪」

 

「炎蓮様。あれは本気で仰言っていたのか?」

 

 それは酸棗に向かう途中で張昭にした話の事だ。

 黄蓋は呆れて頭を抱えた。

 喬玄は溜息混じりに主へ進言する

 

「炎蓮様、北郷一刀を殺してしまう可能性の方が大きいと思いますが、その時は雷火に何と言うつもりですか?」

 

「ああ?そん時は…………『殺しちっまった。てへ♪』とか言っときゃいいんじゃねえか?」

 

 喬玄は更に大きく溜息を吐いた。

 

(兎に角戻ったら軍議だな……………久々に『敗けた時』の対応を雷火、粋怜と話し合わなくては…………)

 

 喬玄は冷静に一刀の力量を計り、この結論に達していた。

 

「炎蓮様!玄喬!我らの陣の後方に砂煙が上がっておる!」

 

 黄蓋の言葉通り、まだかなりの距離は有るが大軍の上げる砂煙が見えていた。

 

 

「ちっ!連合がもう追い付きやがったか。」

 

 

 孫堅は忌々しくその砂煙を睨んだ。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

今回の主役は孫堅の『前しっぽ』

 

 

さて、今回初登場の喬玄ですが、後に喬公、または喬国老と呼ばれる孫呉の重鎮のひとりです。

『三人の御使い』も読まれている方はお気付きでしょう。

あの二人を出す伏線です。

 

 

次回はいよいよ『連合vs一刀』が始まります。

 

 

今回のマヌケ晒し

 

 

「暴れたくてウズウズしてたのはテメェだけじゃ【ねえってっこった、】孫堅。」

 

 

 

「ああ?そん時は…………『殺し【ちっまった。】てへ♪』とか言っときゃいいんじゃねえか?」

 

 

牛乳魔人さん。教えて下さってありがとうございましたm(_ _)m


 
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