No.707253 九番目の熾天使・外伝~マーセナリーズ・クリード~okakaさん 2014-08-09 05:46:07 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:653 閲覧ユーザー数:625 |
第十二話
―――――――――――『ホワイト・グリントを沈めてやってくれないか?』
唐突すぎる発言に二人は一瞬思考が停止してしまった。当然だろう。ようやく掴んだ反抗のチャンス、それを捨てろと言われたのだから。
先に抗議の声を上げたのはフィオナだった。
「なっ・・・何を言ってるのレイヴン!?そんなことをしたら今度こそ私達は終わりじゃない!」
しかし、レイヴンはその声を無視するかのように言葉を続ける。
『アレを放棄し、正体を隠して逃げるんだ。囮には・・・私を使うといい。研究材料としては申し分ないだろう。企業連は確実に食いついてくるはずだ』
その言葉にフィオナが食い下がった。
「ふざけないで!あなたを・・・仲間を売って生き延びろっていうの!?そんなのまっぴらごめんだわ!」
『頼む岡島くん、この施設にいるみんなを生かすにはそれしか無い』
フィオナの必死の抗議も無視してレイヴンは続けた。それが彼の導き出した全員を生かす可能性のある唯一無二の方法なのだろう。彼は更にトドメとも言える発言で反論を封じ込めた。
『君は今までネクストに乗ったこともないのだろう?AMSへの適性も未知数だ。そんな君が切り札になりえるのかい?失礼かもしれないが、そんな不確定要素を私は当てにはできないよ』
その言葉にさすがのフィオナも押し黙ってしまう。そう、岡島はネクストに乗ったこともないしAMS適性も解らない。そんな彼を主軸に添えたこのプランは大きな博打だったのだ。そして、レイヴンはその博打を避けてより安全なプランを提示していた。ここにいる【全員を生かす】ために。
レイヴンは更に続ける。
『確かに戦い続ける事は不可能になるだろう。でも、みんなを【生かす】方法はこれしか無いんだ。だから頼むよ岡島くん、アレを沈めてやってくれないか?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
畳み掛けるように表示された文字の羅列を岡島は無言のまま見つめた。そして下手な仮面をかなぐり捨て、敬語ではなく普段の口調でレイヴンに疑問を投げかけた。
「・・・なぁレイヴン?・・・あんたは『みんなを生かす』って言ったよな?」
『ああ、そうだ。そしてそれができるのはこの方法しか無いんだ』
疑問にすかさず返答を返したレイヴンを横目に、岡島はモニターに向かいながら話を続けた。
「その『みんな』の中に、アンタは居るのか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「さっきフィオナは言ったよな?『仲間を売って生き延びるのはごめんだ』と、アンタはそれを無視して俺にだけ話していた。それだけじゃない、アンタは俺達がこの部屋に入ってからずっとフィオナの話を無視していた。それは何故だ?フィオナの言葉の中にアンタが悟られたくないことがあったんじゃないのか?」
『それは・・・』
「これはあくまで推論だが、アンタは自身の言った『みんな』の中に自分をカウントしていないんだろ?アンタは文字通り自身を犠牲にするつもりだ。違うか?」
岡島の問いにレイヴンは少しだけ眉を寄せた。それを肯定と見た岡島はレイヴンの反論が来る前に畳み掛けるように続けた。
「恐らく【自身の戦果ならばそれほど酷い扱いは受けない】とでも言って説得するつもりだったんじゃないのか?企業連の連中にとってリンクスは【希少だが使い捨ての駒】であることを隠して【一番知ってる自分が言うから大丈夫】だと強引にでも納得させて」
岡島の追撃にレイヴンは更に眉を寄せ、黙らせるように岡島を睨みつけた。その視線に怯みそうになるが、それを気取られないように表情は変えない、自身を黙らせようとするのは自身の発言ががレイヴンにとって都合が悪い事である何よりの証拠だ。
だから岡島は続けた。自身の目的を達成させるために、そして【一人の傭兵】としてフィオナやプロフェッサーとの【契約】を遂行するために。
レイヴンの方を向き、正面から見据える。
「だからアンタはそんな物騒なもんベッドマットの中に隠してあるんだろ?」
『・・・・・・気付いていたのか』
「ちょっと特別な【目】があってね。動けないアンタがどうやったのかは知らんが・・・おそらく理解者にでも手伝ってもらったんだろうな」
『そこまでお見通しか・・・』
「ちょっ、ちょっと待って二人とも!どういうことなの?レイヴンは何か隠してるの!?」
二人の会話についていけなくなったフィオナが声を上げた。その声に岡島は視線をフィオナに向けると、レイヴンの隠している物の正体を明かした。
「マットレスの中に大量の高性能爆薬が隠してある。おそらくはセムテックス。しかも周囲にベアリング弾のおまけ付きだ。つまり、レイヴンは超大型のクレイモア地雷の上に寝そべってるようなもんだ」
「そんな・・・」
『ご明察、爆薬の種類まで当てるとはね』
岡島の回答にフィオナは絶句し、レイヴンは諦めたように目を伏せながら息をついた。
「自身がクレイドルに連行された後、もしくは企業連の奴らが踏み込んできた時にでも起爆させるつもりだったんだろうな。少しでも時間を稼ぐために」
その言葉にレイヴンは真実を語った。
『・・・全部君の予想通りさ。【みんな】の中に私はカウントされていない。だがそれがどうした?君の【賭け】よりも確実であることは確かだ。私一人の犠牲でここのみんなが助かるのだから』
やられた、岡島は最後の一言で自分に傾いていた会話のイニシアティブを取られたことを悟った。根本の問題は何一つ解決していないことを見抜かれていた。岡島が見抜いたことはレイヴンの放った最後の一言で全て無駄となってしまったのだ。
やはりこのレイヴンという男は只者ではない。そう感じた岡島は素直に自分の隠していることを話すことにした。
「・・・俺の体内には自己再生と身体強化を促すナノマシンがあるんだが、そのナノマシンは元々大型の人型兵器との神経接続のために作られたものなんだ。だからAMSについては問題無いはずだ」
自身の売り込みなど久しぶりだ、傭兵としての駆け出しの頃を思い出しながら岡島は【セールストーク】を続けた。【自身】と【プラン】をレイヴンに買わせるために。
「あと、ナノマシンの副作用でワームホールを生成できる。・・・こんな風に」
そう言うと岡島は自身の右手を展開させたワームホールに突っ込み、フィオナの持っていた端末を操作してみせた。
それを見たレイヴンは興味深そうに質問をしてきた。
『ふむ・・・サイズや距離は?後、数も制限はあるのかい?』
「いや、特に制限はない。ただ自身の転送は体に負担がかかるからあまりしたくないな」
食い付いた、そう判断した岡島はデメリットをぼかしこそすれ、ありのままを話した。あくまで話は盛らない。契約相手への嘘は傭兵としてのタブーだ。最も必要な【信用】を無くしてしまう。だからこそ岡島は客観的に自身を語った。
二人が自身に興味を持ったことを確信した岡島は、最後に彼らが更に食いつくであろう【切り札】を切った。
「それと、俺の体内のナノマシンには汚染物質の浄化作用がある。コジマ粒子に対しても有効なのは実証済みだ」
「! それじゃあ・・・もしかして!」
フィオナは真っ先に気付いた。彼が示した【可能性】に。
「【研究次第でレイヴンの治療に使える】だろうな、当然俺も協力を惜しまない。どうだ?これでもまだ不安か?」
そう言って岡島はレイヴンを見据えた。レイヴンは少しだけ、しかし確実に口元を笑みに歪めた。乗り気になっていると判断した岡島はレイヴンの言葉を待った。
『・・・しかしネクストの操縦経験は無いのだろう?どうカバーする気だい?』
否定ではなく補足の言葉、相手が確実に乗ってきていることを確信した岡島は最後の、しかし勝算のある賭けに出た。
「大丈夫さ、なんてったって目の前に【アナトリアの傭兵】という【最高の師匠】がいるからな!」
その答えにレイヴンは目を丸くし、そして笑い出した。
『ふっ・・・ハハハハハハハ!まさか私までプランに組み込んでくるとはね!面白い!実に面白いなぁ君は!・・・どうやら君はアジテーターとして非常に優秀なようだ、それに弁舌も立ち、賭けに挑む度胸もある・・・良いだろう、その賭けに私も乗ろうじゃないか!』
「じゃあ・・・」
『ああ、君に私の技術の全てを教えよう!』
その答えを聞いた岡島は笑みを浮かべ、レイヴンに歩み寄り右手を差し出した。
「改めて、岡島一城だ」
レイヴンはゆっくりと自身の右手を上げ、その手を弱々しく、だけど確実に握り返した。
『レイヴンだ、一城』
そしてどちらともなく、同時に契約の言葉を交わした―――――――――――
―――――――――――【今後ともよろしく】と―――――――――――
あとがき
久しぶりの更新です。仕事とエスコンとバトライド・ウォーⅡがいけないんだ!俺は悪くねぇ!・・・100%自分のせいですすみません。
今回はレイヴンとの駆け引きがメインになりました。実際の交渉事ってイニシアティブがかなり重要だと思うんですよ。(実体験)それと設定的にも将来的にも必要なスキルなので結構重要視していたりします。
拙い文章と頭脳戦ですが楽しんでいただけたら幸いです。
さて、次回ですがまた番外編を書こうかと思います(あくまで予定なので変更の可能性あり)
キリヤ!アン娘!番組収録の時間だ!今日の商品は・・・どうすっかな・・・
それではまた次回
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第十二話です。久々すぎて自分が話を忘れそう・・・orz