No.706084

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#126

高郷葱さん

#126:



サブタイトルを考えるのを諦めてみた。

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2014-08-04 00:24:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1070   閲覧ユーザー数:1038

「織斑先生以下、全機が地下構造体への突入に成功しました。」

 

「篠ノ之博士、護衛の二名とともにまもなくこちらに到着します。」

 

「ハルホーフ大尉より連絡。黒ウサギ隊はアリーナ周辺の警護に回るとの連絡です。」

 

占拠した第一アリーナの管制室は教員部隊の面々の手によって前線司令部化させられていた。

 

その中央でコンソールを操作しながら真耶はモニターに表示された光点を視線で追う。

 

強引にぶち抜いた地表の孔からメンテナンス用の通路へ。

メンテナンス用通路から地下構造体の通路へ。

 

モニター上の光点は迅速に移動している。

だが、迷路のように複雑に入り組んだ通路は、まだまだ長い。

 

「お待たせ。」

 

思考の海にもぐりこんでいた真耶は束の声で我に返った。

 

「お待ちしてました。早速ですが…」

 

「エレベータの封印解除だね。コンソール、借りるよ。」

 

真耶が譲った席に束が立ち、部分的に展開されたままの朧月から伸びるケーブルが接続される。

 

「さて、―――やるとしますか。」

 

束の目付きが変わる。

 

同時に何枚もの空間投射ディスプレイと空間投影型のキーボードが展開される。

 

「システムリンク確立。侵入開始するよ。」

 

束の手が、踊り始めた。

 

 

 

 

 * * *

 

地下施設へ突入した千冬たち一行は巨大な地下空洞の中を飛んでいた。

 

「学園の地下に、こんな空間があったなんて…」

 

「IS学園も結局は巨大な浮島(メガフロート)だ。浮力を維持するためにこういった大規模な空洞はいくつも用意されている。」

 

鈴のつぶやきに千冬は正面を向いたまま応える。

 

「だから気をつけろよ。下手に壁をぶち抜くと海水が流れ込んでくるぞ。」

 

最外殻部でなければそんなことは起こらないのだが、冗談めかして言う千冬であったが後に続く面々は少しばかり顔色が悪くなっていた。

 

「まあ、最外殻に最大出力の荷電粒子砲を何度も直撃させたりしない限りは―――ん?」

 

先頭を行く千冬が停止する。

かなりの急停止であったが追突を起こすような間抜けは一人もいなかった。

 

「どうやら、盛大に歓迎してくれるらしいぞ。」

 

センサーが捉えたのは続々と通路を通って現在いる大空洞へと向かってくるISの反応。

 

「どこにこれだけの数を…」

 

「まあ、向こうには四百もコアがあるんだ。」

 

「艦隊と地上にそれぞれ百ずつでももう二百はある計算になるな。」

 

予想できていたことであるために動揺はない。

 

むしろ、このまま目的地までたどりつけてしまったほうが問題だろうとすら思っている。

 

「さて、少々面倒ではあるが―――」

 

「織斑先生、この辺りの通路はどれくらいなら壊しても平気なんです?」

 

千冬の言葉を遮ったのは鈴だった。

 

「鈴?」

 

「…この辺りならば底を抜かない限りは問題ないはずだが?」

 

「判りました。」

 

そういいながら手には青龍刀を握りしめる鈴。

 

「セシリア、手伝ってもらってもいい?」

 

「当然ですわ。」

 

「それじゃ、ボクもこっちに参加するかな。」

 

鈴の言葉にセシリアが答え、空もそれに乗る。

 

「これだけの空間があれば衝撃砲は問題ないわね。セシリアは?」

 

「十分ですわ。」

 

「ま、足止めくらいはどうにかなるかな。」

 

「お前たち…」

 

『何をバカなことを』と言いたかった千冬ではあったが、ぐっとこらえる。

実際、全ての敵を相手していたらいくらエネルギーや弾薬があっても足りるものではない以上、何処かで同じことをすることになっていただろうと、理解しているために。

 

 

「ラウラさん、シャルロットさん、簪さん。次があったらお願いしますわね。」

 

「千冬さんと一夏は対IS戦の切り札だし、その二人を万全の状態に保つためには箒の『絢爛舞踏』が必須よ。」

 

「うん。」

 

「判っている。」

 

「任せといて。」

 

任せておけ、と頷き返す三人。

 

蚊帳の外に置かれた一夏、箒、千冬の三人はただその様子を見つめるほかない。

――自分たち三人が、最後は何とかしてくれると信じているからこその行動であると判っているから、黙っているしかなかった。

 

「では、織斑先生。しっかりとキめてくださいね。」

 

「ああ、そっちも危なくなったら遠慮なく逃げろよ?」

 

「はい、その時は天井でもぶち抜いて、山田先生たちのところに逃げますから。」

 

「くく、そうしたら瓦礫で足止めもできて一石二鳥だな。」

 

「まあ、学園施設(うえ)が大変なことになりますけどね。」

 

「違いない。だが、命あっての物種だ。無理はするな。」

 

「了解です。」

 

互いに背を向けながら、それぞれの武器を手に握り締める。

 

「よし、往くぞ。」

 

坑道の一つへと進んでゆく千冬たち。

 

その背中を見送る者は無く、その場に残った三人はその坑道を背に全方位へと注意を向ける。

 

「――さて、カッコつけて残ったはいいけど、どうする?」

 

「はぁ?それ、今更訊く?」

 

「冗談が過ぎますわね。」

 

それぞれが、得物を構える。

 

「さて、それじゃあ暴れるとしましょうかね。」

 

最早『おなじみ』となった薙風の追加装甲型マイクロミサイルランチャーが蓋を開き、ずらりと並んだ小型誘導弾の群れが露わになる。

 

「―――撃て(ファイア)。」

 

放たれた多数のマイクロミサイルが白煙を引きながら『大空洞』へと侵入してきた『送り狼』どもに喰らい付く。

 

薄暗いそこがほんの数瞬だけ、爆炎により明るく照らされた。

 

「やるわよ、セシリア!」

 

「ええ。援護と管制はまかせますわよ、空さん!」

 

「オーケー、任された!」

 

 * * *

 

千冬ら、別働隊を出撃させ終わった『しまかぜ』と『はたかぜ』は艦隊との合流を目指して来た道を戻っていた。

 

とはいえ、旋回半径や進路上に展開する敵ISの配置の関係でその通りを戻るわけには往かないため、どうしても多少の遠回りをすることになる。

 

――それが、その二隻の命運を分けることとなった。

 

「ッ!左舷前方に敵機!」

 

「艦隊と殺りあってた無人機(ゴーレム)だ!」

 

『はたかぜ』を追う『しまかぜ』がそれを発見したのは偶然であった。

 

『はたかぜ』よりもほんの少しだけ、行きに使った航路に近かった。ただそれだけである。

 

護衛艦がISを発見できたということは、相手からも見えているということである。

 

―二隻が回避運動を取り始めるよりも早く、ゴーレムの砲が火を噴いた。

 

一発は、はたかぜのレーダーマストを吹き飛ばす。

もう一発は、しまかぜの艦橋付近へ――――――直撃する寸前に、展開されたエネルギーシールドに阻まれた。

 

 

「っ―――たはぁ…なんとか助かった、かな?」

 

その、直撃した地点に居たのは、本音であった。

 

但し、その格好はいつものだぼだぼ制服でも、キグルミパジャマでもない。

 

『まるでISのような』全身を覆う装甲服を着込み、さらには機体が持つ巨大な盾を構えて仁王立ちしていた。

 

「それにしても、非IS兵器でゴーレムの砲撃を防げるとはねぇ。」

 

本音が纏っている『それ』こそ、簪が空から受け取った『秘密兵器』であった。

 

――槇篠技研製の強化装甲服(パワードスーツ)

 

槇篠技研の量産機、『舞風』をベースにした機体を元にISコア代わりとなる制御ユニットを組み込んだ代物である。

武装や装備品の量子転送ができず、絶対防御が無く、装甲部にしかエネルギーシールドを展開できないためにほぼ全身が装甲で覆われている。

 

――パワーアシストと飛行能力、FCSと通信機能、物理シールド上へのエネルギーフィールド展開がやっとという『ISの出来損ない』である。

 

だが、ISコアを押さえられている現状としては最高級の装備、まさに『切り札』であった。

 

事実、ゴーレムの砲撃を受けきっている。

 

――距離のおかげでシールド無効化を免れ、空間中を通過する際の減衰があり、大型特殊装甲の表面に塗布された対エネルギー加工と限界までエネルギーをつぎ込んだエネルギーシールドがあってこそ、ではあるのだが。

 

 

「とはいえ、二発目はちょっと厳しいっぽいかなぁ。」

 

だが、エネルギー残量は残りわずか。

二発目を受ければ濡れ紙同然に貫通されてしまうだろう。

 

「さてさて、どうしたものか。」

 

いざとなれば、囮として空中戦に持ち込むことも辞さない覚悟で両腰のウェポンマウントに固定されている突撃銃とナイフを確認する。

 

取り回しのことを考慮して軽装備にしてしまったことを今更悔やんでも仕方が無い。

むしろ、三〇ミリガトリング砲のような大型火器を持ってきていたとしても、取り回しが悪くて固定砲台にしかならなかっただろう。

 

そう、自分を慰めながら状況を確認。

 

どうやらこちらにちょっかいを出してきているのは学園へと戻ってゆく一団を離れた一機だけらしい。

 

「んー、やっぱりこれは本格的に覚悟を決めなきゃダメなパターンかなぁ。」

 

操縦系統はISと同じ。

カタログスペックどおりならば限定的ながら第二世代型IS並みには動けるハズだ。

 

但し、飛行に使えるエネルギーはあまり多くない。

 

シールドエネルギーよりも先に飛行用動力(バッテリー)の方が底を突いてしまうかもしれない。

 

 

でも、やるしかない。

 

腰のライフルに込められているのはIS用に強化された一二.七ミリ強装弾だし、ナイフもバッテリー式で数秒しか使えないとはいえ対装甲用高周波振動ナイフだ。

 

間接やセンサーを狙えば行動不能に追い込むことだって不可能ではない。

ナイフをISコアに突き立てることができれば撃墜だってできるだろう。

 

 

「よーし、やるとしますかぁ。」

 

本音はためらわずに呼び出したウィンドウの決定ボタンを叩く。

 

どうせ食らえば一発撃墜は確定なので余計な装甲は全て捨てる。

 

代わりに畳まれていた推進飛行翼(ウィングバインダー)を展開し、右手に突撃銃、左手にナイフをしっかりと握り締める。

出力制御のリミッターも解除。

ゴーレムは出し惜しみをして勝てる相手ではない以上、無茶も無理も必須だろう。

 

先ほどから『何をするつもりだ』とうるさい艦からの通信を聞き流しながら、スラスターに火を入れる。

 

ふわりと浮かび上がった機体は、次の瞬間にはトップスピードに近い速度となり水しぶきを上げながら水面付近を駆け抜ける。

 

 

 

水柱。

 

ゴーレムの砲撃が海面を叩く。

 

 

 

「ぐぅッ!」

 

瞬間的にスラスターを全て切り、方向を変えてから再度全力噴射。

 

奥歯が砕けそうなくらいに歯を食いしばって殺しきれない慣性に耐えながらほぼ直角に方向転換。

 

 

 

再び海面を叩いたゴーレムのビームによりたった水柱の飛沫をかぶりながら、まっすぐとゴーレムに向かってゆく。

 

 

 

至近弾。

ライフルを持った機体の右前腕部を盾にして防ぎ――暴発を起こした銃をゴーレムに投げつける。

 

破裂したライフルの破片からセンサーを守ろうとしたのか目の部分を隠そうとするゴーレム。

 

その数瞬の視界の喪失は、本音にとって絶好の機会になった。

 

「貰った!」

 

強引に機体を制御し、相手の背後に回りこむ。

 

振り回されて吐き気がしてくるのを押さえ込んで、スイッチを入れた対装甲用高周波振動ナイフをゴーレムのコアがあるであろう部分に突き立てる。

 

耳障りな甲高い音を立てながら、ナイフはゴーレムの背中に突き刺さった。

 

さらに念には念をと、ナイフが稼動限界を迎えるまでの数秒間をギリギリまで使ってゴーレムの背を抉り、かき混ぜる。

 

最初の一刺しが外れていても、これだけやればコアに損傷を与えられているはずだ。

 

 

ギィ―――

 

そんな、鳴き声をあげながらゴーレムは墜ちてゆく。

 

「っ、だはぁ…」

 

なんとか、勝った。

 

護衛艦は二隻とも健在だし、そろそろ戦闘領域を離脱しつつある。

 

そのことを確認したところで、本音の視界がゆれた。

 

 

 

本音自身も限界を迎えていたし、機体もエネルギーが底をつく寸前だった。

 

『―――ああ、墜ちる。』

 

そんな、他人事のように感じながら、どんどんと空が遠くなっていくのをただ眺める。

 

どうにかする気力も、エネルギーも無いのだから仕方が無い。

 

できる限りをやったんだし、もういいよね?

 

そんな思いが本音の脳裏に浮かんでくる。

 

 

 

「うみのなかって、しずかでいねむりするにはよさそうだなぁ…」

 

このまま眠ってしまいたいという欲望に従ってそっと、目を閉じる。

 

 

 

着水。

盛大な水しぶきを上げながら海の底へと――――沈まなかった。

 

 

「―――あれ?」

 

「はぁ…まさに間一髪、でしたね。」

 

聞き覚えのある声に目を開けてみれば―――

 

「おねーちゃん?」

 

姉、虚の安堵で歪んだ少しばかり涙目な顔が間近にあった。

 

本音と同じパワードスーツを纏った虚が着水直前に受け止めることに成功したらしい。

 

「パワードスーツでISに挑むなんて、無理しすぎよ。」

 

「あはは、世紀の大勝利ぃ。」

 

虚としては色々といいたいこともある。

だが、しっかりと撃墜しているし、自分以上の『戦闘向き』な妹が戦うことを選択して役割を全うした以上、『姉としての苦言』を零すくらいしかできることは無い。

 

 

「ことが済んだらお嬢様と一緒に入院ですからね。」

 

「たっちゃんと一緒かぁ。なんか面白いことになりそうな気がするなぁ。」

 

力ない言葉ではあるが、本音らしい言葉に虚はため息を零す。

 

「まったく。――いまはもう、ゆっくり休みなさい。後のことは任せて。」

 

「うん、そーするー。もう、あちこち、痛い。」

 

虚と本音が見上げた空を、小さな何かが一筋の雲を引きながら横切っていった。


 
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