No.690734

キミ行(ゆ)き世界の箱庭(佐幸)3

◆当作品はコピーで発行済みですが、【9/21の戦煌!5 ス34b】にて前後の時期入れて出します。その場合「コピー本持参の方に限り、250円引き」で頒布◆
戦国バサラの学バサ設定の転生パロもの。一見、佐政や家幸ですが、立派な佐幸。そして家→三。
もしかして関幸もありかもしれない。

2014-06-01 00:44:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:996   閲覧ユーザー数:994

「職員室で片倉先生を介して会った時にだ。真田は最初、ワシを見ても何も感じていないようだった。記憶を持っていないのも政宗から聞いていたしな」

 かいつまれたものの、要は三限目終わりの休憩時間に、片倉の旦那―真田の旦那の担任―が職員室に旦那を呼んだと。転入生である徳川家康の紹介が理由なのは聞かれるまでもないけど、片倉の旦那も絡んでいるのが気に入らない。

 あれも体外、独眼竜に甘い。

 傍から見れば五十歩百歩な向かっ腹を無視して、当事者である徳川が遠くを眺める眼差しを空に向けた。哀愁は見えず、ただ感慨深げに、一つ息を吐いた。

やはりこれは、真田の旦那たちと同じ時代に立っていた男なのだと、再認識させられる。

そして、再会した旦那の様子を思い出しながら教えてくれた。

「片倉殿が『転入生だ』と紹介してくれても、真田に反応はなかった。名を名乗ってもそれだけだ。だがしばらくすると、真田が目を丸くしたんだ、それからゆっくりと呆然とした物に変わって、ああ、そして真田がな、笑ったんだ」

 お久しぶりでござる徳川殿、と、旦那は言ったと。

「驚いたのはこっちだ。まさか笑ってくれるとは思わなかったからな」

 四00年前の、互いの立場でも鑑みてる徳川は、戸惑いを捨てない表情ながらも頬を緩めさせた。

 うん、面白くない笑い方した、これ。

 俺様の面倒くさい感情を置き去りに、説明は続いた。

 記憶が雪崩のように蘇った真田の旦那は、飲み込まれたその場で倒れたと言った。担任である片倉『先生』と一緒に保健室に運び、旦那は四限目を休んだ。

 気絶したのは一寸だったから、すぐに目を覚ますや、真田幸村と徳川家康は保健室で二人きりで居たと。

 咄嗟に、俺様の右手が抗議の手を上げた。

「待って、何で保険の先生居ないのさ」

 どうでも良いことかもしれないけど、二人きりのシチュエーションを演出しやがった職場放棄野郎は、聞かなければいけない。

 徳川は転入生でありながら、この学園の事情を既に知った口ぶりで、さらりと答えた。

「明智先生は、家庭科室で金吾の作る鍋のご相伴に預かっていたようだ」

 たったそれだけで、俺様と伊達政宗は安易に想像がついた。

「天海の格好になってだろ。あいつの鍋がうまいのは認めてやるが、職場放棄を誤魔化す変装したってしょうがねえってのに」

「そもそも、この時期に実習で鍋……」

 どうしてあの変装が同一人物だとバレないのか、この学園の七不思議の一つになっている。

 俺様と伊達は、別の視点から呆れた。駄目だ、脱線させた俺様が思うことじゃないけど、話がそれまくったわ。

「話、戻して良いよ。それで、ずっと、旦那と一緒だったんだ」

『ずっと』だんて言っちゃうあたり、元ながら忍び失格だわ。横にいる独眼竜の好奇心を起こしてしまった。

 そこまでは気づかない当事者は、「ああ」とあっさり頷いた。

「真田は目が覚めても、特に変わった様子はなかった。パニックになったり、ワシに質問を浴びせもせず、自分自身と対面することに時間のほとんどを当てていた。ワシはそれを傍で見ていただけだ」

「いやいや、充分でしょ」

 反射の言葉に、伊達の口元がニヤニヤとしている。

「心穏やかにはいられねえよなあ、猿」

「猿て略さないでくれる」

 からかう対象を出した失態に、舌うちする俺様を気にしない東軍コンビは、勝手に会話をしだす。

「それで?どうしたら幸村があんな状態で、こっち来ることになったんだ」

 本題はこれだろと隻眼で問えば、「ワシにも分からない」ときた。

「最初は確かに穏やかだった。こちらがかえって心配するほどに、真田は己というものを受け入れていた。きっかけかは分からぬのだが、急に何かを思い出した仕草をした途端泣き出してしまってな、後はこの通りだ。まるでせき止めていた物が溢れるように、涙を零しても真田は拭おうとしないからこちらが困った。で、声をかけようとしたワシが止める間もなく、ここへ走って行った」

 分かっているのは、「俺はなんて愚かな男だ」と呟いたことと、付添人だった男は付け加えた。

「何故か、保健室を出る時、信玄公の名を叫んでいたぞ」

「あー、そこは聞き流しておいて良いから」

 大方、『叱ってくだされ、お館様―っ』とでも叫んだに違いない、一言一句間違えない自信ある。

 まあ、現世じゃお館様は旦那が入っている剣道部の顧問だし、愛称もそのままだから、学園内で叫んでも違和感はないだろう。

 それを伊達政宗も理解しているのが、不本意なんだけどね。

「間違い無く、いつものあいつだな。で、走って猿を殴るか。てめえ、四〇〇年前、何しでかした」

 迷わず俺様を問い詰める、旦那の元・好敵手、現・幼馴染。ほんと、面倒くさい、こいつ。

 俺様は幾分大げさなため息をついて、自分の髪をグシャグシャと乱す。

「確定で言わないでくれる。でも、心当たりが多すぎ……いや、逆に無さすぎもして……」

「バカかてめえ」

 いちいち反論するは愚者ってもんだと、グッと我慢。特に、伊達政宗相手は。

心当たりが多いのは、理由の大半が、俺様が旦那の草であったため。草でありながら、最後は武田軍の副大将まで担ったから、表なり影なり色々言われたんだよね。逆に無いと言ったのは、真田の旦那がそれをアキレス腱と思っていないから。

 でも、旦那は俺様に怒っている。それだけ分かれば充分だし、旦那の記憶が戻った経緯も知れた。

 なら、俺様のすべきことは一つだけ。

 


 
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