No.690016

英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~

soranoさん

第39話(2章開始)

2014-05-29 00:37:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1815   閲覧ユーザー数:1716

 

5月22日―――

 

―――5月下旬。

 

ライノの花が完全に散り、新緑薫る風がトリスタの街を吹き抜ける季節……特別実習を終えたリィン達は再び、忙しい学院生活に追われていた。

 

武術訓練に加え、高等教育の一般授業も本格する中……士官学院ならではの専門的な授業も始まり、また男女別の授業も始まっていた。

 

5限目 男女別授業

(Ⅰ組/Ⅶ組合同)

 

女子―――栄養学・調理技術

 

~トールズ士官学院・調理室~

 

「ラウラ様にプリネ姫、それにツーヤ様……どうしてあんなクラスに行ってしまわれたのかしら。せっかくご一緒にできると楽しみにしていましたのに。」

貴族女子生徒はⅦ組の女子生徒達を戸惑いの表情で見つめ

「でも、あの貴族の子、入学試験で首席ですって?」

他の貴族女子生徒は興味ありげな表情でエマを見つめていた。

 

「ええ、辺境出身の平民と聞いていますけど……」

「しかし、あの銀髪の子は見ていて和みますわねぇ。うふふ、ちょっと頭を撫でさせてもらえないかしら?」

「それもそうですがプリネ姫とツーヤ様のお二方……お二方ともとても手際よく調理をなさっていますね……」

「ええ……まさに淑女の鑑ですわ。」

「―――皆さん。そのくらいにしておきなさい。わたくし達は誇り高きⅠ組。料理ごときとはいえ、あのような寄せ集めのクラスに負けるわけにはいきませんわよ?」

雑談をしている貴族女子生徒達に見かねたのか、アリサと同じ部活に入り、何故かアリサを一方的にライバル視しているⅠ組の貴族女子生徒―――フェリスは生徒達を睨んで注意した。

「そ、そうですわね。」

「ですが、いつも料理人任せなのでなかなか勝手が……」

フェリスの注意に頷いた生徒達だったが、全く手を動かさず戸惑いの表情で食材や道具を見つめているだけだった。

 

「……まったく。ヒソヒソ感じが悪いわね。」

一方会話が聞こえていたアリサは眉を顰め

「まあ、我らのことが気になって仕方ないのだろう。」

アリサの言葉にラウラは苦笑しながら答えた。

 

「……………」

フィーはただひたすらボールの中に入っている何かを混ぜ

「ふふっ、フィーちゃん。泡立てはそのくらいでいいですよ。」

フィーの様子を見たエマは苦笑していた。

 

「ツーヤ、魚は捌き終えたわ。」

「わかりました。こっちもちょうど野菜を切り終えた所です。」

プリネとツーヤはそれぞれ手際よく次々と調理に取り掛かっていた。

 

 

男子――――導力端末入門

 

~導力端末室~

 

女子達が調理の授業を受けている一方男子達は導力端末の操作の授業を受けていた。

「導力端末……何とかコツは掴めてきたな。」

導力端末に座って操作していたリィンは安堵の表情で呟き

「ああ……最初はどういうものかまるで見当もつかなかったが。」

「うーん、帝国(エレボニア)でも最先端の技術みたいだからね。でも、マキアスとユーシスはすぐに操作を覚えたみたいだね?」

ガイウスと共にリィンの操作を見学していたエリオットはある事を思い出して尋ねた。

 

「ああ、二人とも優秀だからな。マキアスの方は以前から興味がありそうな様子だったし。」

「ユーシスは興味がなくても軽々とこなしちゃう感じだよね。そういう所がマキアスにはまた面白くないんだろうけど……」

「……だろうな。先月のB班の実習じゃ、相当酷くやり合ったんだって?」

エリオットの言葉に頷いたリィンは先月ガイウス達から聞いた特別実習の事を思い出して尋ねた。

 

「ああ……危うく殴り合いになる所だった。ツーヤと共に何とか止めれたが、サラ教官が来なかった危なかっただろう。」

「はあ……どうしたもんだろうね。」

「いいかげん、俺達にも何かできればいいんだけど……」

「―――リィン・シュバルツァー。」

リィン達が話し合っていると突如高慢そうな声がリィンの名を呼んだ。

 

「………?」

呼ばれたリィンは首を傾げ

「え……い、Ⅰ組の……」

エリオットはリィンを呼んで自分達に近づいてきた人物―――パトリックを見て驚いた。

 

「確か……パトリックだったな?」

「ああ、その通りだが一つ捕捉しておいてあげよう。僕のフルネームはパトリック・T・ハイアームズ。―――そう言えばさすがにわかってくれるかな?」

「えええっ!?」

「ハイアームズ……そうだったのか。」

パトリックの本名を知ったエリオットは驚き、リィンは目を丸くし

「有名な家柄なのか?」

家柄に関してわからないガイウスはリィン達に尋ねた。

 

「ゆ、有名も有名!ハイアームズ侯爵家といえば”四大名門”の一つだよ!まあ、ユーシスの実家よりは格はちょっと落ちるんだけど……」

「……………」

エリオットの余計なひと言を聞いたパトリックはギロリとエリオットを睨み

「あわわっ……いえ、何でもありませんっ!」

睨まれたエリオットは慌てた様子で答えた。

 

「フン……平民や外国人に用はない。シュバルツァー、喜びたまえ。僕の紹介で、学生会館の3階に招待してあげようじゃないか。」

「それは――――」

「学生会館の3階というと……」

「貴族生徒専用のサロンがあるっていう……」

「たかが外国の男爵とはいえ、貴族は貴族。”Ⅶ組”などという胡乱なクラスに所属してしまっている君だが……ハイアームズ家の人間たるこの僕が口を利いてやったらサロンの使用許可も下りるだろう。フフ、感謝したまえよ?」

自分の発言に驚いているリィン達を見つめながらパトリックは口元に笑みを浮かべて髪をかき上げた。

 

(自分がおだてられる事が大好きな典型的な三流上流貴族の情けない男ね~。)

「ちょ、ちょっと待ってくれ。(困ったな……どう断ったものか。)」

パトリックの言動を聞いていたベルフェゴールは呆れ、リィンが返事に困っていたその時

「やれやれ……こんな場所で勧誘とは。」

ユーシスが呆れた様子でリィン達に近づき、ユーシスの声を聞いたパトリックは顔色を変えた。

 

「あ―――」

「ユーシス……」

「ユーシス・アルバレア……!」

「ハイアームズ家の三男殿は派閥ゴッコがお好きらしい。そういう話はまず最初に俺やプリネ、それにツーヤに声をかけるのが筋じゃないのか?」

ユーシスは自分を睨むパトリックを呆れた表情で見つめて尋ね

「くっ……君は好きでサロンに来ないだけだろう!?あれほど2年の先輩たちが熱心に誘っているにも関わらず!それにあのお二方は君と違って、時々だが応じてくれるぞ!」

尋ねられたパトリックは唇を噛みしめた後ユーシスを睨んだ。

 

「興味がないからな。それにあの二人の場合は、両国の関係修復の為に仕方なく付き合ってやっているだけだと思うが。現にあの二人は月に数回程度しか付き合っていないと聞いているが?」

「っ……もういい!シュバルツァー!とにかく考えておきたまえ!誰に付くのが、君の将来にとってプラスになるのかを……!」

ユーシスの指摘に舌打ちをしたパトリックは勝ち誇った笑みを浮かべてリィンを見つめて言ったが

「”メンフィル帝国貴族”が仕えるべき”メンフィル帝国皇族”が傍にいるにも関わらす他国の貴族に付けば、逆にマイナスになると思うがな。」

「…………」

ユーシスの言葉を聞いてユーシスをギロリと睨んだ後その場から去って行った。

 

「はあぁぁぁ~っ………」

「随分、賑やかな男だったな。」

パトリックが去るとエリオットは疲れた表情で溜息を吐き、ガイウスは静かな表情で呟き

「ああ……どう断ったものか迷ったよ。―――ありがとう。ユーシス、助かった。」

リィンは安堵の溜息を吐いた後助け舟を出したユーシスに礼を言った。

 

「フン……お前を助けたわけじゃない。……ただ、先月の実習では迷惑をかけたみたいだからな。それだけだ。」

ユーシスは鼻を鳴らして答えた後その場から去り

「先月の実習って、もしかして。」

「ああ……ケルディックでの領邦軍との揉め事についてだろう。」

ユーシスが助け舟を出した理由に心当たりがあるエリオットの言葉にリィンは頷いた。

 

「なるほど……実家の不始末のようなものか。お前達に改めて詫びたかったのかもしれないな。」

「へえ~、あれがきっかけでアルバレア公爵家がメンフィル帝国にケルディック地方を贈与させられたのに詫びを入れたいなんて、凄い殊勝だよねぇ。」

「ああ………正直、恨まれているか嫌われていると思っていたんだがな。プリネさんの話だと、ユーシスがプリネさんにケルディックの件で謝罪してきたらしいからな……」

ガイウスの推測を聞いたエリオットは目を丸くし、リィンは複雑そうな表情で頷いた。

「…………………」

一方リィン達の会話を聞いていたマキアスはリィンを睨んだ後目を閉じて黙り込んでいた。

 

 

 


 
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