No.682532

九番目の熾天使・外伝 ~短編その⑫~

竜神丸さん

幽霊騒動その5

2014-04-29 17:50:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1824   閲覧ユーザー数:764

「……」

 

とある巨大屋敷。そこでは今、ガルムがある状況に陥っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…道がこんがらがってら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、彼は迷子となっていたのだ。海鳴市で聞いた〝死者の誘い”に関係する噂話を面白半分に調査し続けていた結果、ものの見事に進むべき道が分からなくなってしまったのだ。普通だったら途中で飽きて元の世界に戻っているのだが、何となく調べ続けた方が良いだろうと思い、今もまだこの空間内で調査を続けているという訳である。

 

「面倒だな。こっから先に進む為の手がかり、何か見つけられれば良いんだが……にしても」

 

ホールに出たガルムが入口の扉を開けると、その先には道が存在していなかった。足場も無く全てが闇に染まった空間となっており、足を滑らせれば闇に落ちていく事は明らかだろう。

 

「空間と空間が繋がってないのはどういう事だよ……ある意味、幻想郷以上に常識が通じなさそうだな」

 

やれやれといった感じでガルムが呟いていたその時…

 

 

 

 

-パラ…パラ…-

 

 

 

 

「ん?」

 

彼の真上から、砂埃のような物が落ちてきた。何かと思ったガルムが見上げると、ホールの天井に何やら大きな皹が生え始めていた。

 

「…へ?」

 

嫌な予感を察知したガルムだが……もう遅い。

 

「「―――のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」

 

天井が崩れた事により真上から支配人、蒼崎の二人が落下。真下にいたガルムを思い切り押し潰す形となってしまった。

 

「痛ってぇぇぇぇ……おい蒼崎!! だから女性の幽霊には釣られんなって言ったんだよ!! 思いっきり罠だったじゃねぇか!!」

 

「あぁ、死してなお美しい方だった……彼女にはまた会いたいものだ…」

 

「話を聞けや話をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

どうやら蒼崎が女性の幽霊による色仕掛けの罠にかかり、それを止めようとした支配人までもが道連れにされてしまったようだ。未だ色ボケている蒼崎の後頭部に支配人が突っ込みのチョップをかます。

 

が、二人は気付いていなかった。

 

「―――お前等」

 

「「ん? …あ」」

 

自分達の真下で、ガルムが押し潰されていた事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か言う事は?」

 

「「スミマセンデシタガルムサン」」

 

その後、ガルムの弾幕で制裁を受けた二人は見事にボロボロとなっていた。本当はまだまだ制裁を行いたかったガルムだが、これ以上やると無駄に時間を消費してしまうので今回はここでやめにしたのである。

 

「んで、お前等二人何でここにいんの?」

 

「いや、そりゃこっちの台詞だろうに。こっちは咲良ちゃんとルイちゃんを探しに来たってのに、何でお前までここにいやがんだ」

 

「! 咲良ちゃんにルイちゃんも……死者の誘いって奴か?」

 

「は? いやおい、何でお前がそれ知ってんだ?」

 

「あぁ、実は…」

 

その後、ガルムから事情を知った二人は…

 

「「要するに迷子なんだな」」

 

「ストレートに言わんでええわ!! そもそも帰ろうと思ったら普通に帰れる!!」

 

口を揃えて告げるのだった。

 

「たく……まぁ良いや。こっちもこっちでちょうど暇だったんだ。仲間はとっとと見つけ出して元の世界に帰ってハイ万事解決! それで良いんだろ?」

 

「まぁ、そうしたいところなんだが…」

 

支配人が横目でチラリと見据えた先には…

 

「えへへへへへへへ……幽霊の麗子ちゃん、なかなか可愛かったなぁ~♪」

 

「…蒼崎がこのザマだからなぁ」

 

「なるほど、実に面倒臭い状況だな」

 

完全に幽霊に魅了されてしまっている蒼崎を見て、支配人とガルムは溜め息をつかざるを得なかった。

 

その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルルルルルルル…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…!」」

 

聞こえる筈の無い、猛獣らしき唸り声が聞こえてきたのは。

 

「…支配人」

 

「あぁ……奴さんのご登場だ」

 

『『『グルルルルルルル…!!』』』

 

『『『キシャァァァァァァァァァァァ…』』』

 

『『『ウゥゥゥゥゥゥ…』』』

 

構える支配人達の前に複数の異形が姿を現した。ザンジオーやジャガーマン、毒トカゲ男やシオマネキングなど悪の組織ショッカーによって開発されていた筈の怪人達や、グロンギ、オルフェノク、ワーム、ドーパントなどの怪人達も紛れている。

 

「怪人か……何だってこんな場所に」

 

「明らかに不自然だな。ガルム、蒼崎と一緒に先行ってな。コイツ等は俺が引き受ける」

 

「うい、了解っと……という訳で行くぞ蒼崎~」

 

「ウヘヘヘ、麗子ちゃんエヘヘヘヘヘ…♪」

 

未だニヤけている蒼崎を無理やり引き摺る形でガルムが退散し、支配人は大量に現れた怪人達の前に忽然と立ち塞がる。

 

「何でこんな所にいるのかは知らんが……俺と出くわしたのが運の尽きだったな」

 

ブレイバックルにカードを通して装着し、支配人は変身の構えに入る。

 

「変身!!」

 

≪TURN UP≫

 

『『『グガァッ!?』』』

 

「ウェイッ!!」

 

バックルから放出したオルハルコンエレメントで怪人達を弾き飛ばし、そのオリハルコンエレメントを通過した支配人が仮面ライダーブレイドに変身。左腰の鞘から抜いた醒剣ブレイラウザーで迫り来る怪人を片っ端から斬り倒していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、小学校では…

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、本当に久しぶりー!」

 

「湯島さんも本当に元気ですね。羽柴君も元気でしたか?」

 

「あ、えっと……まぁ、はい」

 

「そう、それなら良かった」

 

「雅也、顔が赤くなってるよ~?」

 

「な、何を言ってるんだ刀奈さん!? ぼ、僕は別に…!!」

 

(…何て平和だろう)

 

あれから2階の図書室に移動したユウナ達。ユウナは階段で遭遇した学生達と仲良く話しており、スノーズは離れた位置で亡霊の気配が無いかどうか常に警戒中である。

 

「でも二人共、どうしてこんな場所に?」

 

「あぁうん、それが…」

 

「僕達もよく分からないんですよ。学校から家まで帰宅する時に、何か変な声が聞こえてきて」

 

「…!」

 

「変な声? それって、凄く不気味な声の…」

 

「そうそう! え、じゃあ先生も?」

 

「えぇ。私もあの声を聞いて、気付いたらこんな場所にいたの」

 

ユウナ達が話す中、スノーズは警戒中ながらもしっかり聞き耳を立てていた。

 

(ふぅん……やっぱり、シグマが前に言っていた通りなのかな…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしな感じがする?」

 

「あぁ、そうなんだ」

 

海鳴市に到着したスノーズとシグマ。ここでスノーズは、シグマからある話を聞かされていた。

 

「何だか妙に肌がざわつきやがる……こいつはまた、面倒な騒ぎが起こりそうだぜ」

 

「面倒な騒ぎ、ね……悪魔の直感という奴かい?」

 

「それがまた厄介でよぉ……俺の直感、毎回悪い意味で当たっちまう事が多いんだよ」

 

「ふぅん……で、今度は何が起こるんだい?」

 

「いや、それは分からん」

 

「…は?」

 

あっさり断言してのけたシグマに、スノーズは思わず目が点になる。

 

「俺だってよく分かんねぇんだよ。妙な予感は感じ取れても、一体何が起こるのかまでは予測すら出来やしねぇんだ」

 

「…なるほど。真面目に聞いた僕が馬鹿だったって訳か」

 

「うぉい!? 地味に酷ぇ悪口が聞こえたぞ今!!」

 

シグマが騒ぐのを無視して、スノーズは街中を歩き続けていく。

 

「何にせよ、君の直感は確かに侮れないからね。僕も一応警戒はしておくとするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(全く、相変わらず面倒な直感だけしてくれるよね、彼って悪魔は…)

 

シグマの悪い直感で、碌な事態になった例が無い。巻き込まれる側からすれば非常に迷惑な話だ。そんな物思いに耽りつつ、スノーズは図書室周囲の警戒を怠らない。するとここで、スノーズについて気になっていた学生達がユウナに問いかける。

 

「ところで先生、彼は一体…?」

 

「彼はスノーズさん。ここで知り合ってから、一緒に行動してるの」

 

「へぇ~」

 

ユウナの紹介で興味を抱いたのか、女子学生―――湯島刀奈(ゆしまかたな)はスノーズに近付いて品定めするかのようにジロジロ見据え、警戒中だったスノーズもそれに気付く。

 

「? 何かな?」

 

「さっきから気になってたんだけど、暑くないの? その服装」

 

「…へ?」

 

「湯島さん、初対面の人に対して失礼ですよ」

 

「う…だって、ずっと気になってたんだもん…」

 

「相変わらず疑問に思った事は直球で聞くんだね。その癖どうにかならないかい刀香さん」

 

「う、うるさいわね!! 気になっちゃったもんはしょうがないじゃない……で、教えてくれる?」

 

眼鏡をかけた男子学生―――羽柴雅也(はしばまさや)に突っ込まれるも、すぐさま切り替えてスノーズに問い直す。

 

「服装、ねぇ……気になるのかい?」

 

「うん、気になる」

 

「…またストレートだね君は」

 

おかしな疑問を聞かれたものだ。そう思いつつも、スノーズは自身の手袋を片方だけ取ってから刀奈に差し伸べる。

 

「触れてみれば分かるよ。僕がどうして、こんな服装でいるのか」

 

「?」

 

刀奈は首を傾げつつもスノーズの手に触れ、すぐにスノーズが言った事の意味を理解する。

 

「何これ、冷たっ!?」

 

「いやいや刀奈さん、何馬鹿な事を…」

 

「本当だって!! これ本当に生きてるのかってくらい!!」

 

「…分かっただろう? 生まれつき、僕はこんな体温なのさ……ユウナちゃんはさっき見ただろうから、もう分かってるだろうけどね」

 

「! もしかしてスノーズさん、さっきのアレも…」

 

「先生、アレって?」

 

「実はさっき、私は幽霊に襲われそうだったの。危ないところでスノーズさんに助けて貰ったんだけど」

 

「え、先生襲われたの!?」

 

「そ、それで、大丈夫だったんですか!?」

 

「ちょ、湯島さん近い近い……大丈夫よ。スノーズさんが幽霊を追い払ってくれたから」

 

「え、幽霊を…?」

 

刀奈と雅也から同時に視線を向けられ、スノーズは溜め息をついてから手袋をはめ直す。

 

「ここから脱出するまでの間にどうせ見られるんだ、今ここで説明しておくよ。僕は…」

 

「「!?」」

 

スノーズの右手に氷の拳銃が即座に出現し、刀奈と雅也に銃口を向ける。

 

-ズドドォンッ!!-

 

『ウゥ、オォォ、オ、ォォ…!?』

 

「「…え」」

 

銃口から放たれた冷凍弾は、二人の後ろにいた亡霊に命中。即座に亡霊を凍りつかせ、床に落ちると同時に粉砕させる。

 

「…見ての通り、人智を越した化け物さ」

 

「「…!!」」

 

淡々と告げたスノーズの言葉に、刀奈と雅也は思わず呆然としてしまう……が、ユウナだけはあまり驚くようなリアクションは取らなかった。

 

「…あれ、やけに驚きが少ないね」

 

「えぇ、確かに驚いたけれど……あなたのような力を持ってる人、私も他に知っていますから」

 

「!?」

 

ユウナの言葉に、スノーズの方が逆に少し驚きを見せる。

 

「…怖くないのかい?」

 

「もう見慣れていますから。ここから脱出するまでの間だけでも、頼りにしています」

 

「…分かった。やれるところまでやるよ」

 

ユウナの見せた笑顔にスノーズは若干の戸惑いを見せつつも、不思議と悪い気もしてはいなかった。

 

ちなみに…

 

「す、凄い……先生が何だか逞しく見える…!!」

 

「あ、あれ、おかしいな? 僕は今、夢でも見ているのだろうか? あんな二次元でしか見られないような光景が目の前で…」

 

刀奈はキラキラと目を輝かせており、雅也は先程目の前で起こった現象に混乱が収まらないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その時…

 

 

 

 

 

 

「―――うぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「「!?」」

 

「え…キャアッ!?」

 

「刀奈さん!?」

 

突如、図書室まで一人の人物が飛び込んで来た。その人物はうっかり足を引っ掛けて転びかけてしまい、近くにいた刀奈が巻き添えになる。その飛び込んで来た人物に、ユウナは見覚えがあった。

 

「え…キリヤ兄さん!?」

 

「兄さん!?」

 

「痛ってぇ~……ハッ!? ユウナ、無事だったか!!」

 

飛び込んで来たのはロキだった。先程まで悲鳴を上げながら走って疲れていた彼だったが、ユウナの姿を見た直後にすぐさま起き上がる。

 

「いやぁ~びっくりしたぜ。あの亡霊共、俺の能力じゃ足止めで手一杯でさ。途中からどんどん亡霊の数も増えてくるし、逃げるのも大変だったぞ」

 

首をゴキッと鳴らしながら、ロキが立ち上がるべく右手を床に着こうとしたその時…

 

 

 

 

-ムニュッ-

 

 

 

 

「…ん?」

 

ロキは右手に違和感を感じ取った。固い床に着いている筈なのに、何故か着いている右手からは柔らかな感触が返ってきている。その違和感の正体を見るべくロキが自分の下を見た途端……彼は顔を青ざめた。

 

何故なら…

 

「ッ…!!」

 

ロキの右手が刀奈の左胸を掴み、刀奈が顔を赤くしたままプルプル震えていたのだから。

 

「「…あ~あ」」

 

「キ、キリヤ兄さん…」

 

スノーズと雅也は「終わったなアイツ」とでも言うかのような表情になり、ユウナは思わず自身の目元を手で覆ってしまう。

 

「え、えぇっと…」

 

「…この」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ケダモノ)がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分間、ラッキースケベに対する制裁は続いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動物園跡地…

 

 

 

 

 

 

 

「そぉい!!」

 

『ピギャァァァァァァ…!?』

 

凛の振るった聖剣で、また一体の亡霊が成仏。その後方ではげんぶや竜神丸も亡霊達を次々と成仏させていっており、亡霊の数は更に少なくなった。

 

「ふぅ……これで一通り成仏させたかしら?」

 

「一番最初に、蜻蛉切で大量に成仏させて正解だったな。おかげで残りの処理もだいぶ楽だった」

 

「何にせよ、亡霊達を成仏させれるなら私も文句はありません……ところで聞き忘れていましたがお二方、何故にこんな場所に?」

 

「ん? あぁ、実は…」

 

何故こんな空間にやって来たのか、その経緯がげんぶから竜神丸に伝えられる。

 

「おやおや、咲良さんにユウナさんが……それはそれは大変で」

 

「お前は見てないか? 可能性としては、この空間に引き摺り込まれちまったんじゃないかって事も考えられるんだが…」

 

「さぁ? 私は見てませんねぇ」

 

「…そうか」

 

「聞きたい事はそれだけですか? では私は色々と忙しいので、この辺で―――」

 

「なぁ竜神丸」

 

げんぶが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〝アレ”って何なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜神丸がその場に立ち止まる。

 

「気になって仕方ねぇんだ。出来る事なら、教えて貰えねぇもんかな」

 

「…さぁ? 私にはよく分かりませんねぇ」

 

「おうおう、シラを切るってか。言っておくが、さっきの爺さんの幽霊からちょびっとだけでも話は聞いちまってんだよ」

 

「おや、そうですか……それで? それが一体何だと言うのですか」

 

「お前の事だ、どうせまた色々と情報を持ってんじゃねぇかって思ってな」

 

互いに背を向けたまま話し続ける竜神丸とげんぶ。凛も何かしら口を挟みたかったのだが、この静かな空気が原因で上手く口を開けずにいた。

 

「…仮に私が知っていたとして」

 

竜神丸は左手に持っていた大鎌を右手に持ち替え、気軽に肩にかける。

 

「残念ながら、あなた方に説明出来る事は何もありません」

 

「何故だ?」

 

「簡単な話です……あなた方はまだ、〝アレ”に選ばれてはいないのだから」

 

それだけ言って、竜神丸は瞬時にその場から姿を消してしまった。

 

「……」

 

「ね、ねぇ……今の話って…」

 

「…色々と調べる必要がありそうだな。恐らく、そんな簡単にはいかないんだろうけども」

 

竜神丸や老人の亡霊が言っていた〝アレ”とは何なのか。出来る範囲内だけでも、いくらか調べた方が良いかも知れない。

 

(全く……旅団って本当に謎だらけだな)

 

そう考えながらも、げんぶは凛と共にこの空間の探索を続行するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院…

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、よく見えない…」

 

「本当暗いわねここ」

 

「明かりすら無いとは不便な…」

 

「ナハハハ」

 

ディアーリーズ、アスナ、aws、ハルトの4人はこの廃病院に到着していた。しかし病院内が非常に真っ暗で何も見えていない為、現在はハルトのライト魔法によって明かりを灯し、4人の周囲だけでも何とか明るくさせる事に成功している。

 

「けど困ったわね。まさか裂け目に飛び込んだ後、他の皆と逸れちゃうなんて」

 

「ま、他は他で何とかしてるだろうよ……一番心配なのはこなただけど」

 

「? こなたは幽霊苦手なのか?」

 

「「「That's Right」」」

 

「…お前達が口を揃えて言う程とはな」

 

ディアーリーズ達の返事にawsは苦笑しつつも、病院内の探索を続けていく。

 

その時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『グルルルルル…』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…!」」」」

 

暗い廊下の先から、猛獣らしき唸り声が聞こえてきた。その途端にディアーリーズとハルトはドライバーと指輪を即座に構え、アスナとawsはそれぞれレイピアと刀剣を装備する。

 

『人間ダ…』

 

『ヨソ者ダ…』

 

『何故ココニイル…?』

 

『出テイケ、人間如キガ…!!』

 

暗闇の中から怪人達が姿を現した。どの個体も身体中から紫色のオーラを放ち、明らかに敵意を抱いている事が分かる。

 

「…歓迎ムードじゃないっぽいねぇ、こりゃ」

 

「なら、やる事は一つですね」

 

≪≪シャバドゥビタッチヘンシーン! シャバドゥビタッチヘンシーン!≫≫

 

「「変身!!」」

 

≪チェンジ・ナウ!≫

 

≪フレイム・プリーズ! ヒーヒー・ヒーヒーヒー!≫

 

ディアーリーズとハルトはそれぞれウォーロック、ウィザードに変身。即座に右手の指輪を変え、ドライバーに翳す。

 

≪ジャイアント・ナウ≫

 

≪ビッグ・プリーズ≫

 

「「よいしょおっ!!」」

 

『『『グォォォォォォォォォォォッ!!?』』』

 

「フンッ!!」

 

「せやぁっ!!」

 

二人は魔法陣を通して右腕を巨大化させ、怪人達を一気に押し潰す。その巨大化している腕の上をawsとアスナが駆け出し、怪人達に斬りかかる。

 

『『『グォウ、ォオ…』』』

 

「…あれ?」

 

すると突然、攻撃を受けた怪人達が呆気なく消滅してしまった。

 

「え、あれ……弱くない?」

 

「なら、とっとと片付けましょう!!」

 

≪スピアー・ナウ≫

 

『『『グォウ!?』』』

 

「んじゃ、早めのフィナーレと行くか!」

 

≪フレイム・スラッシュストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!≫

 

ウォーロックの放った氷の槍が一斉に放たれ、怪人達が凍結。そこへウィザードが炎を纏ったウィザーソードガンを振るい、炎の斬撃で丸ごと粉砕する。

 

「終わりよ!!」

 

「散り乱れろ」

 

アスナとawsの斬撃で怪人達が全員一閃され、あっという間に怪人軍団は全滅してしまった。

 

「…何か、妙に弱い気がするんだが」

 

ウォーロックとウィザードは変身を解除してディアーリーズとハルトの姿に戻りながら、違和感を感じずにはいられなかった。突然襲って来たこの怪人達は、妙に弱過ぎる。普通だったらこんなあっさり倒されるような強さじゃない筈なのだが、ちょっと攻撃しただけで撃破出来てしまった。

 

「恐らく死者だったからだな。一度死んで亡霊となってしまった所為で、生前程の力を出す事は出来なくなっていたのだろう」

 

「そんなのが、何で急に俺達を襲って来たの? 生前のような力を出せないんだったら、わざわざ倒されるような事はして来ない筈じゃない」

 

「まさかとは思うけど……誰かに操られてるとか?」

 

「だとすれば誰が…」

 

4人が色々と考えていたその時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウォォォ……オウゥゥゥゥゥ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

4人の背筋に悪寒が走った。

 

突如彼等の前に現れた黒い影が、不気味な声を上げながら近付いて来ているのだから。

 

「何だ……黒い影…?」

 

「こいつも悪霊でしょうか……ならば先手必勝!!」

 

ディアーリーズは炎の剣を出現させ、一瞬で黒い影の前まで接近する。

 

『ウ、オォォォゥゥゥゥゥ…』

 

「燃え盛る紅蓮の炎剣(レーヴァティン)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『許、サナイ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? 駄目だディア、逃げろ!!」

 

「!?」

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――許サナァイッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付くのが、遅過ぎた。

 

 

 

 

 

 

『ウァァァァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

「な、うぁ!?」

 

突如肥大化した黒い影は、ディアーリーズの振るった炎の剣を軽々と飲み込んでしまった。驚いたディアーリーズの隙を逃さず、影はすぐさま霧のようになって彼を飲み込もうとする。

 

「ウル!?」

 

「くそ、何なんだアイツ…ッ!?」

 

ディアーリーズを救出するべく動き出そうとしたawsだったが、突然彼の足元に紫色の亀裂が出現。亀裂が廊下を切り裂き、ディアーリーズと黒い影をaws達の下から引き離してしまう。

 

「な、廊下が!?」

 

「ウル!!」

 

「待てアスナちゃん、今飛び込んだら危ない!!」

 

「離して!! ウルが、ウルがぁっ!!」

 

「任せろ、ここは俺が…!!」

 

≪エクステンド・プリーズ≫

 

ディアーリーズを助けようとするアスナをawsが引き止め、ハルトは魔法で伸縮自在となった右腕をディアーリーズの下まで伸ばそうとするが…

 

-バチィッ!!-

 

「がっ!?」

 

ディアーリーズと黒い影のいる先まで伸ばそうとした途端、いつの間にか張られていた結界の電撃によって弾かれてしまった。思わぬ痛みにハルトは伸ばした腕を引き戻す。

 

「くそ、駄目だ!! 結界でこれ以上伸ばせない!!」

 

「嘘でしょ!? 早くしないとウルが!!」

 

「駄目だ、亀裂がどんどんデカくなっている!! 一旦後ろまで下がれ!!」

 

「何言ってんのよ!? ウルを見捨てるっていうの!?」

 

「この状況でどうやって助けるっていうんだ!! それはお前も分かっているだろ!!」

 

「嫌よ!! ウルがいなきゃ…ウル!! ウルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

空間が破壊されていく中、亀裂の中に飲み込まれないようハルトとawsはアスナを強引に引っ張りながら退避していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オォォォォォォォォォォォォォォォ…!!』

 

「ぐ、ぁ……く、この…!?」

 

一方で、黒い影に飲み込まれたディアーリーズは必死に脱出しようとしていた。しかし黒い影がディアーリーズを闇に染めようとしているからか、全く抜け出せない。

 

『オォォォォウゥゥゥゥアァァァァァァァァァァ…!!!』

 

(くそ、このままじゃ―――)

 

 

 

 

 

 

『ドウ、シ…テ…』

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

ディアーリーズの耳に、影の声が聞こえてきた。

 

「な、何だ…!?」

 

『ドウ、シテ……ナノ…?』

 

「…え?」

 

影の悲しみと憎しみの込められたような口調に、ディアーリーズは思わず抵抗が止まる。

 

その声に、聞き覚えがあったからだ。

 

「あ、あなたは…」

 

『ドウシテナノヨ…………私トノ約束ヲ、守ッテクレルンジャナカッタノ…?』

 

「…ッ!?」

 

途端に、ディアーリーズは少しずつ顔が青ざめ始めた。

 

 

 

 

 

 

(嘘だ…)

 

 

 

 

 

 

『約束ヲ破ッテ……アノ娘ヲ不幸ナ目ニ遭ワセルナンテ…』

 

 

 

 

 

 

(嘘だ……そんな…!?)

 

 

 

 

 

 

 

『許サナイ……アノ娘ヲ不幸ニシタ、アナタ自身ガ許セナイ…!!!』

 

 

 

 

 

 

「う、ぁ…あ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

ディアーリーズはもう、何も言葉を発しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、発せられなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『返シナサイヨ…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ディアーリーズを飲み込んでいる、黒い影の中から…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美空ヲ返シナサイヨ……ウルティムスゥッ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美空の母親―――〝篝雲雀(カガリヒバリ)”の素顔が見えていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなディアーリーズ達のいる病院の、とあるフロア…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…!』

 

青いジャケットを着た男の亡霊が、何かを察知していた。

 

『今ノハ、モシカシテ…?』

 

男の亡霊はそのまま、ディアーリーズがいるであろうフロアまで素早く移動を開始するのだった。

 


 
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