No.681474

欠陥異端者 by.IS 第九話(見舞い)

rzthooさん

ヒロインを選定しました。
今回登場する学生が、候補となっています。

2014-04-25 21:53:43 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1058   閲覧ユーザー数:1022

佐々木「随分と変わったわね。学園に行ってから」

 

零はあの後、急に気を失ったこともあって、自宅療養処置がなされた。だから雇い主である更識家に預かられ、一週間の滞在が決まっている。

しかし、日常生活に支障がないほどに回復したので、今は従事の仕事に励んでいる。・・・というより、元々ここで働くために来ているのだから、体調が悪くても働くのが当然のはずなんだが。

それで今は、従事長の佐々木と二人で休憩時間に入っていた。今日は、他の従者がご主人と奥様の付き添いなどで出ていて、屋敷にいるのは零と佐々木だけだ。

 

零「そうですか?」

 

佐々木「うん。何か明るくなったよ。前まで何考えているか分からなかったけど、今は表情に生きてる感じがして」

 

そう言われると、零は自分の頬を触る。途端に、佐々木が吹き出した。

 

佐々木「ふふっ、そういうところよ。前だったら、適当に流してたでしょ?」

 

零「・・・」

 

自分でも気付いてなかった変化に、零は目を見開いて驚いていた。

その後、零は一言も話さず、そそくさと退席した。

 

佐々木「たった二か月で、人って変われるのねぇ・・・良い友達に会えたのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本音「れいち~ん! お見舞いに来た~・・・って、寝てないと駄目だよ~!」

 

PM1時頃。今日は日曜日なので、学園から出る許可を得た本音が屋敷に帰ってきた。本音は、学園の制服ではなく私服着だ。←各自のご想像にお任せします。

※袖はいつも通りです。

しかし、普通に給士服を着てせっせと働いている零を見つけ、お菓子がギュウギュウに詰められたビニール袋を落とし、靴も脱がないで零の腕を引っ張った。

 

零「い、いや、もう僕は大丈夫──────」

 

本音「安心しきってる時が、一番危ないんだ~って~! い・い・か・ら、安静にして~!」

 

発言が間延び過ぎていて、真面目なのかふざけているのか分からない。おそらく、当の本人は大マジで言っているのだろう。

だが、テコでも動こうとしない困った顔の零。本音は意地になって、腕にしがみついて全体重を使って引っ張ろうと試みた。

 

本音「んんーーーーっ!!」

  [ふにゅ]

 

零「///・・・わ、分かりました。分かりましたから」

 

タボタボな服装だから気付かなかったが、それなりに大きいバストの感触に、ついに零は折れた。零は色々と問題のある子だが、健全な男の子だという事がここで証明された。

それに、前の食事の際に言った本音の発言が、まだ零の中に残っていてそれを意識してしまったという部分もあるかもしれない。

零は、佐々木に一言断って、従者が寝泊まるアパートに移動した。その時の佐々木は、何かを面白がる表情をしていたのを零は気付いており、その事にも少し頬を赤くしていた。

 

零「・・・あの、そろそろ腕を離してくれませんか?」

 

本音「ふぇ?・・・うわぁっとっと/// [ガンッ]ぃった~~い!」

 

ずっとしがみついていた事に気付いた途端、必要以上に飛び退いて勢い余り、廊下の壁に頭を激突させた。

よほど痛かったのだろう。その場にへたり込んで、後頭部を両手でさすっている。

 

零「・・・」

 

零は呆れるを通り越して、心配になってきた。こんな危なっかしい人に看病されたくないと、本気で拒否意識が芽生えたほど。

 

零「はぁ・・・布仏さん、頭見せて下さい」

 

どっちかというと、零が本音を世話する方が様になっている。

 

 

零「血は出てませんし、すぐ痛みは引きます」

 

本音「ほ、ほんとぉ・・・?」

 

アパートで看病されるはずの人が、看病に来た人を看病する複雑な状況になっている。

本当に痛そうにしている本音をなだめる零は、内心、ため息をついていた。

 

本音「それにしてもぉ、本の量、すっっっごいね~」

 

わざわざ両腕を大げさに振って、その多さをアピールする。

零は、契約の月収30万は働くことがなくなったからもらえないものの、たまに行う従事分の報酬を受け取っていた・・・一角の山積みになっている参考書は、その報酬で買っている。

そんな事実を砕いて説明した零は、さっきから気になっている「破ける!」と危険信号をあげるビニール袋について聞いた。

 

零「・・・それで、その大量のお菓子は?」

 

本音「あっ、これぇ? えへへ~、一緒に食べようと思って、買ってきたんだ~!」

 

ポテチ、チョコレート、プリンにクッキー・・・様々な種類のお菓子が、滝のように畳の上に置かれた。

これに対して、突っ込みたい部分は多くあったが、既に食べ始めている本音を見たら、言う気力もなくなる。

 

本音「[モグモグ・・・パクッ]~~♪」

 

零「・・・はぁ。[パクッ]」

 

ただただお菓子を食べる事が、それから一時間続いた。ポテチの袋を破る音、菓子を噛んだ時に鳴る乾いた音、そして飲み込む度に「ん~♪」と喜びの鼻歌だけが、聞こえていた。

そして、食べ終わる時には菓子袋の未開封と残骸が、室内に散乱している。なのに、本音はご満悦みたいで、そのまま畳へ仰向けに大の字で寝転がった。

 

本音「ふぁ~、こんなに一杯なの久しぶりだぁ~」

 

仰向けのまま伸びをして、欠伸(あくび)をする本音を他所に、零は真面目にお菓子の袋を回収し、サイクロン掃除機をかけていた。

 

本音「zzz・・・」

 

零(・・・こいつ)

 

掃除機をかけ終わった時には、もう本音は寝入っていた。

最近の零は、感情の漏れが激しいので表情に怒りが浮かび上がっていたが、あまりにも気持ちよさそうな寝顔だったので、自然と熱は冷めていく。

そして、近くに置いてあったタオルケットを本音にかけた──────

 

楯無「紳士ねぇ、落合君って」

 

零[ビクッ!]

 

楯無の声と認識した零は、身体が震え、顔色が悪くなっていく。たった一度しか会った事が無いのに、その一度で楯無に対する警戒心がMAXに上がっているのだ。

それもそうだろ・・・だって、今まさに天井から部屋に侵入してきた楯無に対して、すぐ警戒を解くなんて難しい話。

 

零「・・・あなたは、忍者ですか?」

 

楯無「う~ん、近いかな・・・よっと」

 

意味ありげな発言に零は疑問を持ったが、この人の言った事を真に受けないでおこうと心に決めたので、それ以上、深入りはしなかった。

楯無は天井から降りると、未開封のアーモンドチョコレートを開け、ひとつを口に頬張った。楯無はIS学園の制服を着ていた。

 

楯無「紳士的対応もいいけど、男の子は時として獣になることも必要なのよ」

 

零(聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない)

 

楯無「せっかく本音ちゃんが、気合い入れた洋服で来たっていうのに」

 

零「ぶっ! そ、そんな訳─────」

 

楯無「あら? 無いとは言い切れないんじゃない? もしかしたらのもしかしたらって事もあるでしょ・・・ほらほら、男の子♪ どうする?」

 

小悪魔のような笑みを浮かべる楯無の口車に乗せられ、零は無防備の本音をチラッと見て────必死に頭を振った。

 

零「な、何を言い出すんですか・・・!」

 

感情的になったら負けだと口角をピクピクさせながら、静かに震えながら抵抗した。

 

楯無「・・・ぷっ! ぷぷっ!」

 

対する楯無も笑いを堪えるのに必死で、顔を背けて口元に手を置いている。あからさまな態度に、零のこめかみに青筋が立った。

 

零「もう・・・帰って、もらえませんか?」

 

楯無「帰ってって、ここが私の、家・・・ぷぷぷっ!」

 

零(うぅ・・・くそぉ)

 

口を出せばどんどん追い詰められ、出さなくても追い詰められる・・・がんじがらめ状態だ。

 

楯無「I WIN♪」

 

そう喜んで、またチョコを頬張った。そしてチョコを一つ手に持って・・・

 

楯無「はい。敗者君に、勝者からのプレゼント♪」

 

あ~んの態勢に、零は完全に拒否反応を起こして顔を背ける。

 

楯無「う~ん、あ~んじゃ足りないってことかぁ・・・なら口移しで─────」

 

零「いりません!」

 

チョコが唇に挟まれる前に奪取して食す。アーモンドを砕く顎は、溜め込んでいた感情を乗せて力強かった。

 

楯無「ごめんごめん! もうしないから許して~!」

 

チョコを食べている最中、楯無そのものを視界に入れないよう顔をそらしていると、楯無は表情は笑っているが、零の腕を軽く掴んで謝る。

永遠に続きそうなので、零はため息をついて「大丈夫です」と答えた。

 

楯無「ふふん、あ・り・が・とっ♪」

 

零「///」

 

この魅惑の笑みが、意図的なものなのかそうじゃないのか、零には分からなかった・・・。

 

 

・・・PM5時・・・

 

[コンコンッ]

 

零「・・・」

 

今から一時間ほど前に、楯無が眠っている本音を担いで帰って行った・・・最後の最後まで、零を乱す発言を言って。

だから、今の零さんはかなり荒れています。

 

 [ガチャ]

零「────あっ」

 

簪「あっ・・・その、お見舞いに、来ました」

 

相手が簪という事で、零は安堵を漏らした。しかし、簪にとってはそれがため息に聞こえたみたいで、顔を伏せてしまった。

 

簪「ご、ごめんなさい・・・急に、押しかけて、しまって」

 

零「いえ、そんな事思ってませ─────」

 

簪「これだけ置いて、帰ります、から!」

 

簪は少し頬を赤く染めながら、紙袋を零に押し付け、ダァーッと走って行ってしまった。

 

零(・・・とりあえず、部屋に戻るか)

 

部屋に戻った零は、さっそく紙袋から(ぶつ)を出してみる。

 

零「・・・DVD?」

 

"コスモなんたら"というヒーロー物のアニメ・・・しかも、全話分しっかり揃っていた。

 

[ヒラッ]

 

DVDケース計10個を紙袋から抜くと、挟まっていた紙が落ちる。

 

『暇だと思ったので貸します』

 

短い文章だったが、思いやりの籠った言葉だった。零は少しはにかんだ。

とりあえず、テレビもDVDプレイヤーもない状態なので、感想を求められた時の対処について悩まないといけない と、零は本音が買ってきたお菓子の糖分をフル活用したのだった。


 
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