No.681238

チェリーブロッサム「この拳のさきに・・・」

まなさん

親を捨て知らない町に逃げ込んだ少女。
その町は海鳴りが聞こえる暖かな笑顔に溢れた町だった。

そこでであった魔法少女たち。
物語はこの海鳴りの町で知り合った高町なのはとのプロレスで幕をあける。

2014-04-24 21:34:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:827   閲覧ユーザー数:827

 

郊外にある某大手スーパーの駐車場。

行き交う人々の視線が奇異の目で特設リングを見つめているのを控室からそっと外をみてまずまずと微笑んだ。

好天に恵まれたこともあるが、他にレジャー施設のないこの町は、今回イベントマッチにはうってつけだろう。

大手スーパーと共同で入場無料という処置を取った為、会場は超満員の観客で埋め尽くされていた。

 

「愛ちゃん。今日はありがとう」

申し訳なさそうに顔を曇らせる高町なのはに愛は「きにしないで♪」と微笑む。

町内会のお祭りの名目でする美少女プロレス。高町家の面々も張り切って会場作りに精を出していた。

 

第1試合、防護服とおなじような色合い、「管理局の白い悪魔」噂される高町なのはと

プロに勝ったアマチュアとして今や有名になった桜庭愛のアイドルレスラー対決の売り込みに会場は大いに沸いている。

 

「うちのお父さん。こういうイベント事になると張り切るし、お母さんもリングにあがるって準備してるし」

「なのちゃんのお母さんが学生プロレスで女王だっていうのには驚いたけど、私もこういうノリ好きだし、」

 

クスクスッと微笑みあう二人の美少女レスラーたち。

6年生の春。お花見をかねたお祭り騒ぎに「女子プロレス」とかってどうかな?と美由紀おねーちゃんの提案に、

町内会の出し物がとんとん拍子に決まっちゃって。こうなちゃった。管理局で教導隊に入隊し、部隊で徒手空拳や格闘術を習った私。

それを実践してみたいって思ってて、でも、フェイトちゃんには言い出せづらくって・・・

 

「じゃあ、私が相手をしてあげるよ。なのちゃん♪」

・・・そう笑顔で呟いた愛ちゃんのその笑顔が私の密かな望みを叶えてくれて・・・。

 

二人がリングに上がると初めて美少女プロレスを見る観客にとっては、

今まで自分自身が想像していた女子プロレスラーと違い、アイドルと呼ばれてもおかしくない美少女に驚く。

 

『カーーーーン!』

ファンの声援の中、試合開始のゴングが鳴り響く。

 

「愛ちゃん、今日は遠慮なんてしないよ!」

「うん。なのちゃん、こっちだって負けないからね?」」

 

今回が初対決である二人、愛はなのはの言葉に快活に微笑み軽快なフットワークをマットに刻みつけ襲い掛かった。

 

愛は高町なのはに詰め寄るとローキックを繰り出し、高町なのはの動きを牽制。

腰を捻り体重をのせた一撃になのはは顔を歪め、蹈鞴を踏んでしまう。長い栗色の髪がゆれ、赤いリボンが踊る。

 

先制を奪われたなのはだったが、今度は愛の動きを読み、カウンターのニールキックを愛の下腹部に押し込むと

愛の前髪を乱暴に掴み、アームホイップでマットに叩きつける。

 

可愛い悲鳴をあげて愛がマットに倒れこむ。

それを一瞥して、ロープの反動を利用してのドロップキックが立ち上がろうとしていた赤い愛の胸元を深くえぐり、

愛は尻餅をついて苦悶の唸り。胸を強打してしまって肺の空気を押し出してしまったため痛みに立ち上がることができないでいる。

 

高町なのはの魅せる空中殺法に会場は大いに沸きあがる。

ショー的要素の強いプロレスの展開、愛も負けじと立ち上がろうとする気勢を制し、

なのはの手が愛の足を掴んで身体ごと捻りを加えた逆エビ固めに愛は大きく瞳を開き、苦悶の絶叫が会場にひびきわたった。

 

(ここまでは私が優勢だけど?・・・)

 

「よーし!もっと悲鳴あげさせちゃうからね!」

 

なのはは、得意のパワー殺法で観客を魅了する。

ロープに逃れた愛を掴んでロープに叩きつけてからのタックル!

 

愛の身体が大きくマットにバウンド。

高町なのはは愛を一瞥しつつ観客にむかってアピール、観客席もなのはに声援を送る歓声が圧倒的。

 

そのアピールから愛を立たせ、高町式延髄斬り

愛の後頭部になのはの白いリングシューズがめり込み、

一度、大きく声にならない悲鳴をあげて涎を噴きだしながら前のめりにダウンした愛を素早くカバーしにいくなのはだったが、

頑なな愛の抵抗にあいカウントは2,28.汗と疲労、そして頚椎の打撃による脳へのダメージに呆然としているがふらふらと立ち上がる愛。

 

 

ならばと掴みかかる高町なのはに 愛は、意識を朦朧とさせながら

なのはを捕らえ側面から得意のひねり式バックドロップ!!

 

『おおおおおおおおぉ!!』

危険な角度からマットに投げ落とされたなのはを見て観客席から衝撃のどよめきが起こる。

 

『ワン・・ツゥ・・』

一撃必殺と言ってもいいタイミングからの愛の攻撃であるがなのはは 綺麗なブリッジでフォールを返す。

無意識のうちにダメージを半減させる受け身を完全に身に着けているなのは。

 

あの負傷とリハビリを経て、回避する動きは母親の桃子さん。

剣術家の士郎さんからみっちり叩き込まれている。

「キャーーーッ!」

バックドロップを返された後、愛は涎まみれの口元をあけ呼吸する。肺に酸素をおくりなのはを一瞥。

すばやく右腕を取り腕ひしぎ逆十字固めへ移行しようとするが、しかし決めた位置が悪くなのはは、右足を伸ばしロープエスケープ。

(・・・すごい・・一瞬で・・・関節を取りにきた・・・)

 

桜庭愛のプロレステクニックに感心するなのは。

 

ここから試合はさらなるスピードアップ。

身の軽い少女らしい華麗な技が次々と繰り出され目の離せない展開となる。

そして10分すぎ、疲れで動きの緩慢になった愛になのはは、ジャーマンスープレックスを仕掛けた。

 

高速で完璧とも言える人間橋。必殺のディバインバスタースープレックス。

たたきつけられた衝撃でマットがたわむ。観客の目にも明らかな後頭部を強打した愛。脳震盪は確実だろう!?

しかし愛は、レフェリーのカウントをしっかりと耳で聞いて反応。

 

カウント2.5でブリッジを跳ね返す。

(なっ!これでも桜庭愛ちゃんは切り返してくるの!・・・すごい!)

そう思っているのはこの会場全員で技が繰り出されるごとに会場の空気はさらにボルテージがあがっていくのをひしひしと感じる。

ただ、今日は自分の勝利で終わらせなくてはいけない。勝つことで強さを誇示しなければならない。

 

それが、自分を心配してくれているフェイト・T・ハラオウンに対する「大丈夫だ」という証。

 

「じゃ、愛ちゃん。私の全力全壊!・・・受けてみて!」

愛の背後から肩に手を掛けなのはは、逆手に掴む。

 

「???」

なのはが何を仕掛け来るのか愛には読めない。

一瞬、愛に恐怖感が襲い、その恐怖感が現実となる。

 

「いくぞぉ!!」

大きくビルドアップから愛の体が宙に舞い一回転!!

 

高町なのは《星を束ねて光に変える》スターライトブレイカーが愛の後頭部をリングに叩き付けた。。

変形のタイガードライバーがマットにめり込み愛のハイレグ水着から伸びる両足はぶるぶると震えながら固定されて・・・

 

この時点で桜庭愛の意識は飛んでいた。

レフェリーのフォールも試合終了のゴングも聞こえていない。

 

鳴り止まないゴングのうるささに気だるそうに瞳をあける。

傍らには、フェイトやはやて、すずかちゃんや、アリサちゃんの姿がみえて。。

 

気がついたときには、心配そうに覗き込んでいる高町なのはの顔が見えた。

それにクスッと微笑むとフェイトの名を呼んだ。

「????」

「・・・フェイトちゃん、なのちゃんはもう大丈夫だよ?」

「??まな??・・」

「フェイトちゃんの心配もわかるけど、高町なのはは大丈夫。だから信じてあげて・・・」

「うん。・・・ありがとう」

 

・・・試合は二回戦が終わったころかな?

一応、これから海鳴総合病院に検査に向かう。

「大丈夫だっていったのに。・・・」そう後部座席で呟きながら運転してくれている伯母さんに。

 

「えと。・・・・父にはナイショにしてくれますか?」

「家出中だもんね。わかっているわ。でも、愛ちゃん。私は早くお父さんと仲直りしてほしいのよ」

私はその言葉に何もいえなくなり、伯母の親切が気に入らなかった。

 

 

家族を嫌ってこの町にきた少女。それが私の「物語」

 

 

 

■第1試合 20分1本勝負

○高町なのは(11分38秒:片エビ固め)桜庭愛●

   (変形タイガードライバー ⇒ フォール)

 

 

 

強くなりたい。そういつも思う。

 

・・・強くなれば誰にも負けない自分になればどんな困難にも打ち勝てる。

 

自分を否定するすべてから抗っていける。そう、私は考えていた。私はいじめられっこだったし、父親から虐待もうけていた。

それでも、私は抗うことをやめなかった。・・・私は馬鹿だから諦めるなんて選択肢はもとからなかった。

 

・・・いつも誰かとぶつかって、怒られる日々。

そんなのは慣れっこだった。

 

あるとき学校内で聞かれた噂、アマチュアで「女子プロレス」ができる場所があるらしい。

 

私は喜び勇んだ。・・・いつも私を殴る父親には殺意しかなかったし、ケンカして勝っても先生に怒られるのにも嫌気がさしていた。

公然と拳を奮える場所。それは私にとっては願ってもない居場所だった。

 

「先生。ちょっとお願いがあるんですけど・・・」

家庭科の先生にお願いしてリングにあがる衣装を作ってもらった。

「地下プロレス」のリングにあがることはいっていない。だだ、「女子プロレスラー」になりきってみたいと言っただけだ。

 

ハイレグを基準にした動きやすさを重視した衣装。

前に被服のモデルをしたこともあって先生は快く受けてくれた。

 

・・・このころからかな?リボンをつけるようになったのは?

ピンクと赤のチュープトップのハイレグ水着、肘パット、赤いロングブーツ。

 

「強くなるために」なんでもやった。中国拳法の道場に通って独学で技を学んだり、柔道場にいったり、

 

でもそのすべては「自分の心を強くする」というよりかはいかに相手を倒すかに重点をおいたものだったけど・・・

 

 

かくして・・・桜庭愛(わたし)は女子レスラーになった。

 

地下プロレスと聞いてはいたが・・・近くの城跡公園で行われているそれはなんだかクラブ活動のような感じだった。

携帯電話でサイトに登録、プロフィールは自己申請。会場は薄暗く観客からは控室は見えないつくりになっている様子で、

試合会場のホールと、更衣室は左右に通路が延びて、対戦相手と顔合わせになるのはリングのうえといった趣。

 

控室に案内され、ロッカーに着ている制服を脱ぎ、用意してた「水着」に着替える。

試合に対する不安。緊張感は時間と共に大きくなっていたが、それ以上に期待感が勝って・・・

勝ってもいい、試合に対するわくわくした気持ち。高揚感がさきにあった私は自分が指定した入場曲とともに気がついたらリングにあがっていた。

 

スポットライトに照らされたリング。

よく思い出せない。私の蹴りが相手の後頭部をなぎ払い、悲鳴をあげて倒れた相手の足をとって逆エビ固め。

悲鳴が聞こえる。反り返った水着。ぐいぐい・・・と腿を掴み後ろにそらすと、相手がさらに泣き叫んだ。

会場がわっと沸くのがわかる。もっと、もっとと技をかけたくなる衝動。相手が失神するまでさほど時間はかからなかった・・・。

 

「勝った!」

実感できる勝利に私は笑顔で観衆に応えていた。

ぐったりとリングに倒れた相手を見ながら

 

強くなれたと思った。そしてもっと強くなりたいと思った。

それが・・・私の物語のはじまりだったんだ。これが桜庭愛(わたし)の動機だった。

 

そんな闘い方が反感を買うなんてわかっていたはずなのにね。

そうして私は結局、逃げてきた前の場所と変わらない。黒い敵意や悪意の渦のなかでもがき苦しむのだ。

それは自業自得とでも言うような私の所為でそうなってしまったというだけの取るに足らない「現実」だったんだ


 
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