No.677698 チハタンのケニB ボーイズ&バンカールイサイトうさん 2014-04-10 09:06:57 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:556 閲覧ユーザー数:512 |
「パイロットは自分の乗機の複雑な仕掛けを知りすぎるべきではない」。これは第一次世界大戦のフランス空軍パイロットの言葉だという。第一次世界大戦と言えば、まだ飛行機が木と布でできていて、解放座席で寒さに耐えながら籐を編んで作ったシートに座り、機関銃がいつ弾詰まりを起こすか、いつプロペラを撃ち抜いてしまうか心配しながら飛んでいた頃のことだ。
自軍の基地から飛び立って自軍の基地に戻ってくる飛行機には専門の整備士がついて機体を整備し、パイロットはほとんど手を出さないが、出撃したらほぼ出ずっぱりでよほどのことがなければ修理のために後送されない戦車では勝手が違う。日々の点検と整備は戦車乗りの仕事で、戦車乗りでは手に負えなくなったときにやっと整備中隊のご厄介になる。だから戦車乗りは否応なしに、自分の戦車の隅々まで熟知しておかなければならない。
そんなわけで、前日九八式軽戦車B型(ケニB)を試走させた遥たちは、早朝から再びケニBの整備と点検をしていた。ケニBの傍らにブルーシートを広げ、搭載されていた砲弾のチェックを始める。砲手の清乃がケニBの戦闘室に乗り込み、砲弾ラックから砲弾を取り出し、戦車長の遥が砲弾を受け取ってブルーシートに並べる。操縦手で戦車道教室師範代の伊織は昨日に引き続き、初等部の指導に精を出していた。
「みなさん、おはようございます」
伊織がぺこりと会釈する。
「「「おはようございます」」」
初等部の一二年生十八人が一斉に挨拶し返す。
「大変いい挨拶です。戦車道は礼に始まり礼に終わります。いち早く相手を見つけ、相手より先に挨拶する。こんなささやかなことも、敵をいち早く見つけ、先に攻撃するための訓練になります。わかりましたか?」
「「「はいっ!」」」
伊織はにっこりと笑う。
「戦車道は乙女のたしなみです。乙女のたしなみである以上、美しくなければなりません。美しい立ち振る舞いで、美しく戦車を操作し、美しい隊列を組んで美しく勝利する。そう、美人は常に圧勝するのです……」
清乃が砲塔からひょっこり顔を出して、遥に小声でささやいた。
「丹波ちゃん丹波ちゃん、伊織は小学生に何を教えるつもりなんだろ、なんか凄いこと言ってるよ?」
「でも、初等部の子達みんな真剣に聞いてるよ」
「あの子達、このまま伊織の指導を受け続けたら、どんな戦車乗りになっちゃうんだろうなぁ」
「聖グロリアーナに負けないくらいのおしゃれでファッショナブルな戦車隊ができるんじゃないかな?」
遥はいたずらっぽく笑う。
「うへぇ、校風ががらっとかわっちゃうなぁ」
清乃はふたたび砲塔の中に引っ込んで、砲弾を取り出して遥に手渡す。遥は受け取った砲弾を種類ごとにブルーシートに並べる。九四式徹甲弾と九四式榴弾ばかりだ。
「丹波ちゃん、アタシさぁ最初に砲手になって扱った戦車がⅢ号戦車E型なんだ。正確に言うと内装防循の3.7㎝砲じゃないE改修型でさ、外装式防循に改造して42口径の5㎝kwk戦車砲を積んだやつね。次がイタリアのM14/41、47㎜砲積んでたやつ、そのあとが歩兵戦車Mk.ⅢバレンタインMk.Ⅱ、40㎜の2ポンド速射砲ね。それで今回が九八式軽戦車ケニB、百式37㎜戦車砲……。だんだん扱う大砲が小さくなってるんだよ」
清乃は大きくため息をついた。
「このままだと、実業団に入った頃には2㎝機関砲の砲手かな」
「15㎜機関砲とか12.7㎜機関砲を積んだ戦車もあるから、2㎝機関砲なら立派な方だよ」
遥はロシア人のお姉さんの言葉を思い出していた。T-Ⅱ(Ⅱ号戦車)の20㎜機関砲を侮ってはだめよ。
「シャールB1bisやT34/76をⅡ号戦車の20㎜機関砲で撃破した記録もあるし」
「丹波ちゃん、そんなのは例外中の例外だから記録に残るんだよ。2㎝機関砲が無敵なら、誰も好きこのんでバカでかい8.8㎝砲とか12.8㎝砲とか持ち出さないじゃない。アタシは好きだけどね~」
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