No.673115

孤(こ)ならば独(とく)に2(政+家→幸→三→家)

3/30戦煌インテ大阪→6号館B ぬ 2b (C)TEAbreak!!!
1.2に書き下ろしを加え、新刊コピーとして出すかもです。足すとしたら、江戸時代に入った政+家ですかね???
これはサイト用にアップした書き下ろしです。カプ書きしてますが、全員片恋もの。家→幸→三。政宗は幸に命の執着だけしてる傍観者です。政→家にするつもりが、土壇場で三→家に変更。
そもそもこの話、誰得???!!!

2014-03-23 16:31:13 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1101   閲覧ユーザー数:1101

 真田幸村の、現の命は、伊達政宗自身の命と繋がることで得た物だった。では、幸村が心を捧げた三成はといえば、同盟を結んでからも、幸村との接し方を変えることはなかった。

 豊臣軍に真田幸村が合流した時、三成は徳川に寝返った豊臣家臣の残党一派を一掃した帰りだった。三成は大阪城の敷居を跨ぐ前に、武田の陣羽織を羽織る幸村を一瞥しただけ。

「石田殿っ、こ、此度は武田との同盟の恩義に報いるべく大阪に参りましたっ真田幸村でござるっ」

 緊張と興奮を隠さず、形式ばった口調が慣れないのが三成でも伝わった。

 不意に幸村の肩越しから刑部を見やれば、武田の草と何やら話している。内容までは聞こえないが、気にする三成ではない。

 大谷が武田との同盟を受け入れたのだから、三成も了承した。それだけだった。

 刑部に全幅の信を寄せる三成が気にかけるのは、かつて家康が捨てた義のみ。

「私を、豊臣を裏切るな」

 挨拶の返戻にしてはいささか物騒な眼差しを、幸村は真正面で受ける。他人の返り血を浴びた装束からは、幸村とは似て非なる死地の香りがした。

 紅蓮の鬼と呼ばれた幸村は真田の出。家紋である、三途の川の渡し賃の六文銭は、今も四つ菱の下で戦地に振りまいている。

 九曜紋の家紋を持つ三成の武具には、「大一大万大吉」がある。これは、「一人が万人のために、万民は一人のために尽くせば、天下の人々は幸福(吉)になれる」という意味だ。

 武田信玄は告げる、「人は城、人は石垣、人は堀」と。「人こそが強固な守りになる」言葉は、今も幸村の心に根付いている。

 裏切るな、と三成は告げた。私を、よりも、豊臣を強く。

 たったそれだけを言い、三成は幸村への興味を無くして背を向けた。

 大阪城に戻る背を、刑部が付いて行く。

 幸村は咄嗟に口を開いた。ここでしか言えないと、この瞬間に伝えなければ、もう彼の耳に己の声は届かないと、無意識に感じ取ったのだ。

「裏切りませぬ!」

 チャリンと、首にかけている六文銭が揺らいで鳴った。

 裏切るなど有り得ない。

 幸村もまた、武田の義に生きている。そして今の武田を、真田を周囲の国から守ったのは豊臣だ。幸村の義は豊臣に尽くすことで、果たされる。どうして裏切るなどあるのか。

 出会い頭の挨拶で止め、裏切らないと宣言しても、三成の心は靡かない。

 ほんの一瞬、風が頬を撫でる程度のもの。

凪いた感情を呼び起こせるのが家康だけなのを、幸村がまだ知らない頃。恋という物を漠然としか捉えられなかった幸村が初めて、己の利だけのために、三成の傍に在りたいと願った。

 似て非なる義と死を背負う者だからこそ、幸村は惹かれてしまった。

 そのことに気づいた刑部は包帯の下からくつりと笑う。こんな茶番はないと、三成が招く不幸に可笑しさをこらえきれない。

 佐助といえば、よりにもよってアレでなくたって良いのにと、溜息を腹に収めた。

主を哀れとも不幸とは思わない。ただ、凶王に惹かれた意味に悲しみ、止められぬ己を呪った。

そして幸村の心に根付く信玄の言葉の続きを、佐助は覚悟を持って胸に落とす。

「人は城、人は石垣、人は堀」。そして「情けは味方、仇は敵なり」と。「情けは人の心をつなぐことが出来る。しかし仇が多ければ結局は国を滅ぼすことになる」のだと。

 互いの主が歩む虚の道を、それぞれの従者は従い、付いて行くのみ。

 

 

 

 

幸村が大阪に着くのを見計らっていたかのように、戦は激しさを増していった。

 徳川伊達が率いる東軍と、豊臣に合流した真田武田に、毛利、長宗我部が加わった西軍の争いは随所で起こり、燻る火種を消すどころか煽るばかり。

 黄の旗色を狙っては蹂躙する三成に対し、幸村は目立って何かをしたりはしなかった。作戦上、武田は豊臣の意向から逸脱しない。そして三成は、作戦など聞かない。ただひたすらに、徳川の紋を見つけは汚し、その先にある筈の男を目指している。

 幸村が開く道の先に三成はいない。ましてや三成が荒らす戦場に、幸村は立てない。

 長刀の餌食と消えていく足軽や武将らを、三成はもはや人とも見ていない。むしろ人と見る筈がないのだ。三成にとって家康の賛同者は等しく豊臣の仇なす裏切り者であり、天下へ捧ぐ供物なのだから。

 多くの仇を背負うことなく討った戦場に捨てて行く戦があるのを、幸村は傍観者となることで、その身に味わった。

 請け負った戦場を血塗れの勝利で終えた幸村は、陽が沈む頃になって、三成と合流を果たす。

 生きていたのを知りながらも、実際目にした安堵には代え難い。だが三成は幸村に気づかず、生者の居ない月と太陽の交差する地に独り、佇んでいた。

 幸村は元より、彼の傍から離れない佐助も、同じ場所でありながら交わらないこの時刻を知っていた。

「……大将、陣から離れすぎた。早く戻らないと夜になっちまう」

 ひそりと声を潜め、主の足が動くよう促す。

「ああ」

 三人は逢魔が時の境目に居た。人ではないものが現に顔を現す、妖の刻限。

 幸村は頷くも、足は動かない。彼が見つめるのは三成であり、三成の奥から広がる黄昏世界。

 日が暮れ、佐助が口にした闇夜が訪れる。日没直後、夕焼けの名残りの赤が失われ、藍色の敷布が空に広がっていく。紫にも見えるその色を三成は無風の心で背負い、幸村は全身でざわめく。

 いつか相対した地でも、伊達政宗と同じ空を眺めたのに、今は違う存在に見える。見る者が違えば、色もまた変わるのを、幸村は実感した。

 あの時、浮世の言葉だと言って、政宗が歌うように口ずさんだ言葉を紡ぐ。

「……彼は誰時、逢いたい人は、不在なり、うつむいて、魔が時の、橋渡る」

「大将……?」

 不意の言葉に、佐助があからさまに不穏な空気でもって、幸村の背中に訝しい視線を投げる。

 まるで言霊だ。

 逢魔が時は黄昏時とも呼ばれている。「たそがれ」は「誰そ彼」であり、「たそかれ」。薄暗闇の中では「彼」が誰だか見分けがつかない。

 もしかしたら亡くした人かもしれないねと、魑魅魍魎が囁く。

 黄泉路の住人が生者を手招く水に、言い知れぬ不安が感染した従者は、咄嗟に語気を荒く、主の名を叫んだ。

「大将っ」

 闇を操る忍びの焦燥混じりの声に、幸村は我に返った。

 そしてゆっくりと、肩越しに振り返る。

「佐助、どうしたのだ。珍しく声を立てて」

 幸村越しに見た空は、既に夜の帳を下ろす準備をしていた。赤も紫も消え、夕陽に映える藍も濃く落ち、空は星と月の舞台に変わる。

 全てを覆う闇に光る、一縷の標。

 佐助はあからさまにホッとしたが、あくまで表面的には何も無かったままを装う。

「ほら、大将がぼーっとしてるから暗くなっちゃったじゃないのさ。皆心配してるし、帰るよ」

「あ、ああ。そうだな、すまない」

「別に謝ることじゃないって」

 佐助が小さな罪悪感を影に隠していることを気づかない幸村は、先ほどまでの空間が嘘のように、三成に声をかけた。

「石田殿、日が暮れもうしたっ本陣に戻ってくだされっ」

 撤退のホラ貝も聞こえぬ場所まで来たことを、三成は気付いていない。そして幸村の言葉も、気にしていない。

 彼の中にあるのは、家康の斬滅。今日もそれが叶わなかっただけの、悔恨と怨嗟に満ち溢れていた。やがて三成の中にも夜を認識すると、埋められていた感情に虚が支配する。

 主君を守れなかった、虚(うろ)の仇。虚に願い、虚に許しを乞う。

 そうしてようやく、彼はその場から動いた。

 幸村は無言で同じ道を歩き出した三成を、笑顔で迎える。しかし、幸村が石田の名を呼ぼうと口を開いた横を、三成は通り過ぎた。

 無視、というほど、三成にとって幸村や佐助の存在を意識していない。

裏切り者か、まだ裏切らない者か。見極めの枠から出ない男の、殺意なき存在に何かをする気概がないだけなのだ。

 幸村にとって寂寞感がないといえば、嘘になる。会話が成立しにくい相手なのを、しばらくもすれば汲み取った。

 何より、裏切らないと叫んだあの瞬間から、幸村の中で三成の存在は、意味を持って生まれた。

 彼は戦場の中で独り刃を振るうが、また同じくして、豊臣に忠誠を尽くす家臣や足軽の危機を見過ごさないのも、幸村は知っている。

 覇気もなく、声も上げず、家康のみを追い求める男は、背負う者たちへ鼓舞しない。

 けれど間違いなく、石田三成はかつて守りきれなかった物をこれ以上手放したくない想いで守り、そして殺すのだ。

 顧みるものしか背負わない男の背を、幸村は静かに凝視し、同じ帰路へ歩を進める。

「帰るぞ、佐助」

 幸村には、まだ笑顔で振り返る存在がある。複雑な面持ちで「はいよ」と頷くのは、佐助は、振り返る存在が己であると知っているから。

 幸村もまた、守りたい存在を持っている。手の隙間からたくさん溢れたけれど、まだ確かに、武田の総大将として握る物を持っている。

凶王に自ら囚われた心を、現に引き止める縁になれるなら、それも影の役目と悟るしかない。

 

 

 

 

 終局を見定めた動乱の時代は、決戦の地へと武将たちを誘い込む。

そこは石田三成の歩む果て、関ヶ原。

 三成は家康からの一撃に、膝をつく。刃と拳のつばぜり合いは何刻をも超え、傍目からは、陽が沈んで朝になるかというほどの終わりなき戦いに見えた。

 だが、結果的に次の足を踏み切れなかったことで、三成の敗北が確定される。

 腹に受けた打撃は臓腑を破り、喉から胃液と血を吐き出す。

家康は、無念さと嫉妬を混ぜ合わせた感情を、三成を見下ろす眼差しに宿す。

大衆は断言する、家康の勝利だと。だが、家康にとって目に見える決着など、民のための結果としか思えなかった。

 土に指を立て、震える体にムチ打って立ち上がろうとするかつての仲間に対し、家康は己の敗北を宣言する。

「三成、ワシはお前が初めて羨ましいと思えた」

「何を、戯れ言をほざくか、家康!」

 きっと彼は分からない。あとしばらくもすれば潰える己の命の意味を、重さを。何より、家康が手に入れられない物を得ている価値を。

 家康は、教えてやりたかった。

「真田がお前を裏切らないからだ」

 三成にとっては雑音と変わらぬ言葉に、ギリッと奥歯を噛み締める。この場に第三者の名前など不要だとして。

「そんなもの、貴様の命に代えられるものかっ」

 君主を失った三成が、唯一、今生で望んだのは忠義に生きる男の心ではない。

 死してもしかり。

「家康、貴様は私の過去を汚したっ描いた未来を絵空事にしたっ私から秀吉様を奪った!……全てを蹂躙する貴様をっ」

 臓器が損傷した状態で糾弾したため、体が耐え兼ねて、ゴホゴホと咳き込む。

 口から吐かれる死の呼び水が、三成が屈んだ地面に広がっていく。赤で視界が埋まり、無念さを隠さずに唇を噛むも、つぐんだ隙間から滴り落ちる。

 視界が薄らぐ中、ここには居ない筈の声が近づいてくる。

刑部かと思ったが、彼は死んでしまっている。三成を家康の待つ地に立たせるために、笑いながら命を賭した。

 近づく存在は、幻聴ではないと言えるほどの、ハッキリとした声。焦りと動揺が声の主から漏れ、熱いほどだ。

「来る、な……」

 誰であれ誰も来ては行けない地に立とうとしているのは、一体、何者か。頭の隅で掠める雑音を教えたのは、侵入者に動揺する家康だった。

「石田殿……っ」

「……真田……」

 家康の下で倒れているせいで聞こえてしまった名前に、覚えがある。同盟国だからではなく、家康の声から直接。

三成は、もういつの頃か分からないけど、家康とのやり取りを回顧する。

家康は、真田幸村は、と前フリをしていた。

「……正当な虎の後継者」

 ヒューヒューと息もたえだえな囁きでは、三成の言葉を二人とも聞き取れなかった。聞かれても構わないし、気にもしない。

 三成にとって、こんな不要なものを思い出して煩わしかった。虎と比喩する理由すら皆目見当がつかない。

 三成にとって捨て置けないのは、幸村の名を出した時の家康の表情。家康の幸村に向ける恋慕に気づかない三成が感じたのは、幸村の名を呟く家康の目に己が映っていない不快感。

 これは、私のだ。

 あの時の理解できない己の心が、風前の灯となった体に最後の火を与える。幸村が来たことで胸に灯される、炎の名前。

「い、えや、……っす……!」

 明瞭ではない目で、家康の足首を掴んだ。一瞬、目を見開いた家康だったが、三成にはもう何も為せないと知っているため、されるがままにしておいた。

「……三成……」

「石田殿」

 訪れた場所より動いていない幸村は、この地へ足を踏み入れた瞬間から、最期まで傍観するしかない立場なのを痛感する。

 三成は己を欲していない。

 最後まで裏切ることなく、身を呈し心を捧げても。

 三成も、真田幸村が裏切ることなく戦いに身を浸したのは認めていた。揺るぎない心を証明してみせようと槍を奮い、異能の力である炎に決意を込めて。

同盟国という立場から見れば、幸村の戦略に甘さは見えても純粋な力でいえば戦力になっていたのは、周囲の評価だ。紅蓮の鬼は、義に生きていると、

 だからこそだ、と力を失った指先に、消えゆく眼光に訴える。

「いえやす、貴様を殺すのは、私だ……私だけだ……っ」

 徳川家康を糾弾し、滅殺する権利は、石田三成のみ。

 決して誰にも、幸村にも殺されてはならない。故にその命奪われないよう、これから先狙う相手は誰であれ殺してしまえ。

 三成へ裏切らないと叫んだ紅蓮の鬼が、その義で―もしくは情で―家康を黄泉路へ誘うなら、無慈悲な力で鬼を葬送しろ。

「みつ、なり……」

 今までと同じ憎悪の筈が、三成を見下ろす家康からは、異なって見えた。

 三成の家康に対する執着が何かなど、当人に知る由もない。ましてや幸村に慕情する家康が、男の真意を悟ったとしても汲み取るのは難しい。

 家康への独占欲だけは存在し、それは憎悪と表裏一体であったのを死の間際で自覚してしまった。全てを失って生まれた憎悪と、全てを奪われてなお残っていた、思慕の情。

 決して幸村には返せないもので、盲目なほど敬愛する君主には抱かない、欲。

「秀吉様……半兵衛様、どうか……」

 過去に自ら囚われた男が、最後に何を乞うたのかは、もう誰にも分からない。家康を追い求めるために、あえて顧みる世界を求めたとも取れる男の命の火は消えた。

 見届けたのは討ち取った徳川家康と、家康と相対する立場にいる、真田幸村。

三成が幸村を望んでいないのを幸村が悟ったとしても、それは当事者の声として発せられていない。凶王は幸村の心に対して何も返さず、何も渡さず、何も突き放さずに、貰い受けたまま討たれた。

そうして、関ヶ原にて東西を二分していた戦は決着した。後始末は大阪へと委ねられ、真に戦国の時代に幕は引かれる。

時代の勝者は家康だと誰もが認めるだろう。彼の孤独に気づくのは、家康の為したことを成すつもりでいた伊達政宗のみ。

 家康は三成という友を失い、人知れず情を寄せた幸村を討ち、利己で願ったものは、民のために握った拳の中にはない。

 伊達政宗も、生涯の好敵手との決着を果たせないまま。

 幸村はその身を武田のために捧げ、豊臣への義で戦い、心のままに生き、されど何も為せなかったと倒れた。

 三成は、己を構成する全てを君主に捧げた為に見過ごしてきた、自我の証である家康への執着だけこの世に捨てて、あの世に堕ちた。

 四者四様、独を抱え、孤に抱えられる。己が望む物を得られぬ四者は、生き死に関係なく、孤独の餌食となった。

 つまりは、それぞれが好きに生きただけのこと。

 孤ならば独に慰めを。

 


 
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