「「キーラさん!?」」
支配人とげんぶがヘリポート広場に駆けつけると、そこではキーラと竜神丸が対峙していた。キーラは右腕から血を流しており、竜神丸の右手に出現している
「!! あなた達…!?」
「おやおや、これまた面倒な時に…」
キーラと竜神丸も支配人達の存在に気付き、特に竜神丸は鬱陶しそうな表情を見せる。
「竜神丸!! お前、自分の姉に向かって何してやがる!?」
「さぁ? この女の処遇を一体どうしようと……私の勝手でしょう!!」
「!? く…!!」
竜神丸の左手に持っていたナイフ状の刀剣
「アル…」
「私をその名で呼ぶなと、昨日も言った筈ですが?」
「ッ!?」
毘沙門・礫がキーラの左肩に命中するも、キーラは倒れずにどうにか踏み留まる。
「今更、私の所にまで来て一体何を考えているのかは知りませんが……まぁ良いでしょう。こうなればいっその事、ここであなたを消してしまうのも悪くない」
「ッ…そんな事させるか!!」
「竜神丸、テメェいい加減に…ッ!?」
割って入ろうとしたげんぶと支配人はすぐに立ち止まった。何故なら、キーラ自身が彼等を手で制止させたからだ。
「ッ…すまないが、余計な事はしないでくれ……これは私と、アイツだけの問題なんだ…!!」
「いや、しかし…」
「邪魔はさせねぇぜ?」
「「!?」」
突如、キーラと竜神丸の周囲に巨大な結界が出現。げんぶと支配人を無理やり外に追い出してしまう。
「悪いな、二人共。大人しくそこで見ていてくれねぇか」
「「ガルム!?」」
結界を張ったのはガルムだった。げんぶと支配人の隣に降り立つと同時に、支配人が彼の胸倉を掴む。
「おいガルム、どういうつもりだテメェ!? 今すぐ結界を解きやがれ!!」
「邪魔はさせないと、二度も言わせないでくれよ? こうなるよう頼んできたのは他でもない、キーラさん自身だ」
「!? キーラさんが…!?」
「とにかく、俺達は見守るしかねぇのさ……安心しろ、万が一の時はちゃんと解いてやっから」
「…チッ!!」
ガルムの胸倉を離し、支配人は舌打ちしてから再びキーラと竜神丸の方を振り向く。
「はぁ、はぁ…」
「何のつもりかは知りませんが……とっととくたばって貰いましょうか!!」
「!?」
竜神丸の
「……」
ベッドの上に、デルタが無言のまま腰掛けていた。部屋の家具は全てがメチャクチャに壊されてしまっており、彼が相当荒れていた事が分かる。
『デルタ、親友のお前だろうと容赦はしない』
「…クソッ!!」
デルタは苛立ちのあまり、近くの椅子を思い切り蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた椅子は壁に激突し、見事に粉砕される。
「何故だ……何故俺を旅団に加えたんだ、クライシス…!!」
ベッドに寝転がり、デルタは右手で目元を覆う。
(俺は管理局に復讐する為に、この旅団に加わった……アイツもそれに賛同してくれた……なのに、そんな俺の思いすらも利用したってのか…!!)
「イラつくよなぁ…クソッタレがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
デルタは募っていた怒りが爆発し、ただ大きく叫ぶ事しか出来ないのだった。
「…?」
その時の叫び声を、二百式は遠くでほんの僅かに聞いていた。
場所は戻り、ヘリポート広場…
「キーラさん…!!」
いつの間にか、現在起こっている事態のギャラリーも増えてきていた。支配人、げんぶ、ガルム、朱音、Unknown、ロキ、ディアーリーズ、ディアラヴァーズ、ハルトなどのメンバーだ。
「おいおい、ドクターの奴どういうつもりなんだ!?」
「それよりキーラさん、なんて無茶な事を…!!」
「全員ウダウダ言うんじゃないぞ。これは彼女の覚悟なんだ、邪魔しちゃいけない」
「…!!」
ガルムに諭され、何も出来ない事の悔しさを噛み締めるディアーリーズ達。そんな彼等の前では、既にかなり傷付いているキーラと、両手に何本もの毘沙門・礫を出現させている竜神丸の姿がある。
「ッ…」
「まだ向かって来ますか……無駄に厄介です、ね!!」
「あぐっ!?」
また一本の毘沙門・礫が命中する。キーラは危うく倒れそうになるも、それでも竜神丸に向かって歩き続ける。
「理解不能ですね。何故そこまでして、私の所に向かって来るんですか?」
「…私、は…お前に謝罪したい…」
「何?」
キーラの告げた言葉に、竜神丸は眉を顰める。
「機関にいた時も……お前は、私の事を大事にしようとしてくれていた……だが私は、その思いを蔑ろにしてしまった……怨まれて当然だ…」
「…今更、罪悪感を感じたと?」
竜神丸は鼻を鳴らす。
「だから何だと言うんですか。今更そんな事を言われて、私がそれを許せると思いますか?」
「許されようなど、思ってはいない…」
キーラは特に傷の酷い右足を引き摺るように、少しずつ竜神丸に歩み寄って行く。
「私が謝ったところで、それが過去を変える訳でもない……ましてや、お前の私に対する恨みも、到底消えはしない…」
「ならば、どうしたいと言うんですか?」
「…消してくれ」
「!?」
「そこまで憎いのであれば……お前のその手で、私を消せ」
「ッ!?」
「な、何を言ってるんですかキーラさん!?」
ディアーリーズ達が驚いている中で、これには流石の竜神丸も動揺を上手く隠し切れなかった。
「あなた、正気ですか? 何でいきなりそんな事を…」
「お前をそこまでの化け物に変えてしまったのは、他でもない私だ。お前のその手で消されるというのならば……それでお前の苦しみが消えるのであれば……私は、それでも構わないのかも知れない…」
「ッ…!?」
キーラが告げる言葉で竜神丸は更に動揺し…
「…あぁそうですか」
同時に、その態度が気に入らなかった。
「そこまで言うのならば……お望み通り消して差し上げましょう!!」
「「「「「!?」」」」」
竜神丸の周囲に、無数の
「ちょっと、いくら何でもアレは多過ぎじゃない!!」
「逃げて下さい、キーラさん!!」
ディアーリーズ達が叫ぶ中、それでもキーラはその場から逃げようとしない。
そして…
「消え失せろ…
「ッ!? が、ぅ……あ…ッ…が…!!」
無数の
「い…嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「キーラさん!! キーラさぁん!!!」
このあまりに惨過ぎる光景にはみゆきも両手で顔を隠し、ディアーリーズ達も流石にこれはマズいと結界に殴りかかる。
「おいガルム、今すぐ結界を解きやがれ!! いくら何でもアレはやり過ぎだろうが!!」
「…いや、まだ駄目だ」
「テメェ、いい加減にしやがれ!! キーラさんを死なせる気かぁ!?」
支配人が再びガルムの胸倉に掴みかかるも、ガルムはそれでも結界を解こうとしない。
「はぁ、はぁ…」
全ての
(これで…ッ!?)
煙が晴れた先には…
「―――ゲホ……ハァ、ハァ、ハァ…」
全身が血まみれになっているキーラが、煙の中から姿を現した。身体中の斬り傷から血を流して髪も短く斬られており、着ていた服もズタボロ。本来なら即死する程の傷だ。
「ッ……何故だ…!! 何故そこまでして、立とうとするんですか…!!」
「…どう、し…た…? 私、を……消し…たいん、じゃ…なか…った……の、か…?」
「…ッ!!」
斬られた右目から血が流れている状態にも関わらず、キーラは左目だけで竜神丸を見据え、そのズタボロの身体をフラフラながらも竜神丸の方へと歩き続ける。
「ッ…あぁそうさ……かつては私も、あなたを大事に思っていた。守ろうとも思った……そんな私の手を払ったのが、私にはとても許せなかった……本気だった私の思いを裏切ったアンタが、私にはとても許せなかったんだ!!!」
(!? 敬語がなくなった…!!)
怒りの爆発した竜神丸はとうとう敬語すらなくなり、今なお歩み寄って来るキーラに怒鳴りつける。
「アンタが悪いんだぞ!! 私が一体何の為に、あの過酷の実験中で耐え続けてきたか!! 私がどれだけ…ッ!!」
怒鳴り続けていた時、竜神丸の言葉が一瞬だけ途切れる。
「私が、どれだけ…ッ……アンタを助けたいと思ったのか…!!」
「ア、ル…」
竜神丸の前まで来た所で、体力が尽きる寸前だったキーラはとうとうその場に膝を突く。
「ゴホ…ハァ、ハァ………ならば…私、は……尚更…許される、筈が…無い、だろう……な…」
「ッ…当然だろう……許せるものか…この私が、アンタ如きを…!!」
竜神丸は微かに震えている右手に
「そう、だ…それで、良い……それで…お前の、苦しみが…晴れるの、なら…」
「私、は…ッ!!」
竜神丸は
「「「「「キーラさぁんっ!!?」」」」」
(…!!)
ディアーリーズ達が叫ぶ中でキーラはゆっくり目を閉じ、これから来るであろう痛みを待つ…
(―――?)
しかし、何時まで経っても痛みは来なかった。キーラがゆっくり左目を開けると…
「ッ……ぅ、く…!!」
キーラの眼前で、振り下ろされる筈だった
「「「「「…え?」」」」」
「……」
目の前の光景を見てディアーリーズ達が唖然としているのに対し、ガルムはやっぱりと言う感じの雰囲気で見据えていた。
そして誰よりも一番驚いていたのは、殺されると思っていたキーラ自身である。
「な、ぜ……殺さ、な…い…?」
「…何故だ…」
竜神丸が口を開く。
「何故、今になって私の前に現れたんだ……どうしてこんな私に対して、そんな事を言うんだ…!!」
「…ア、ル?」
竜神丸の声は震えていた。震える右手に持たれていた
「私にそんな事を言ってくれるな、私を迷わせるな……これならいっその事…」
「私の事など、嫌ってくれた方がまだ割り切れた…!!」
「アル…」
初めて聞けた弟の本音に、キーラは小さく笑みを浮かべる。
「嫌い、に…なる訳が無い…」
「…!?」
キーラの傷付いた右手が、竜神丸の左頬に触れる。
「お前は、私…の…弟だ……私は、ずっと……お前を、愛してるから…」
「ッ…!!」
唇を噛み締めたまま俯く竜神丸を、キーラは両手で引き寄せてから優しく抱き締める。血で汚れる事も忘れ、竜神丸は彼女の胸元に頭を寄せたまま彼女の温もりに包まれる。
「キーラさん……竜神丸さん…」
「…ふぅ」
今までに竜神丸が折れる場面を見た事が無かったからか、ディアーリーズ達は目の前の光景を見て驚愕せざるを得ない状態だった。一方でガルムは緊張の糸が解けた為か、その場に座り込んでから大きく息を吐き捨てる。
「驚いたな。竜神丸の事だから、あのまま本当に殺しちまうのかと思っていたが…」
「いや、それは無いな」
支配人の言葉を、ガルムがハッキリと否定する。
「? どういう事だ?」
「アイツは、キーラさんを殺す気なんて無かったんだよ。始めから」
「「「「「!?」」」」」
ガルムの言葉に、一同は更に驚愕の表情を見せる。
「…ッ…!!」
竜神丸を抱き寄せていたキーラだったが、突然意識が薄れ始めた。
「!? アンタ…」
「あぁ……流石、に…そろ、そろ……限界、か…」
流石に体力の限界が来たからか、キーラは横に倒れそうになったところを竜神丸に受け止められ、そのまま意識を失ってしまった。
「あ…」
「全く、お前が一騒ぎ起こすとは珍しいな」
「!?」
キーラを抱きかかえた竜神丸の前に、突然クライシスが姿を現した。
「な、何故あなたが…!!」
「ガルムから話を聞かせて貰った。お前も随分と、意地を張り続けたものだ」
「…余計な事を」
ガルムがいるであろう方向を睨みつける竜神丸を他所に、クライシスは小さく溜め息をついてからキーラに杖を向ける。
「さて、そんなお前に罰を与えるとしよう……彼女の傷は、君が責任持って治療したまえ」
「!?」
「分かったな?」
「…はい」
一瞬驚く竜神丸だったが、もちろん団長のクライシスには逆らえない。小さい声で了承してから、竜神丸はキーラを抱きかかえたまま転移するのだった。
「はぁ!? 何で団長がここに…!?」
まさかのクライシスが現れた事で、これには支配人やディアーリーズ達だけでなく、竜神丸の心情に薄々勘付いていたロキやげんぶですらも驚きを隠せなかった。
「あぁ、俺が話を通したんだよ」
始めから全てを知っていたガルムが告げる。
「このまま仲違いが続くよりかは、ちゃっちゃと仲直りさせた方が良いだろうと思ってさ。俺だけで決めるのは流石にマズいから、団長にも協力を頼んでおいたのさ」
「だが、それでよく協力して貰えたな…」
「協力を頼む時に『このまま喧嘩させてたら、
「「「「「あぁ確かに」」」」」
実際、ヘリポート広場は
「…しかし、何で竜神丸がキーラさんを殺さないって分かったんだ?」
「あぁそれ? そもそもアイツがキーラさんをあそこまで拒絶する理由について、色々考えてみたんだけどさ。その理由は、ただキーラさんを恨んでいたからじゃないかも知れないって思ってさ」
「? じゃあ、何で拒絶してたんだ?」
「多分……“過去のトラウマ”が原因だと思う」
「「「「「過去のトラウマ?」」」」」
「そう、トラウマ」
ガルムはそう言いながら、
「アイツは過去に、自分が助けようとした姉に拒絶されてしまった。その時の拒絶がかなり大きなショックになって、それがアイツにとってのトラウマに繋がってしまったんだろうよ。だからこそ、そのトラウマを忘れたいが為に、キーラさんを避けていたんだ」
「え、でも、昨日は容赦なく攻撃しようとしてましたけど…」
「それは多分、俺達がいたからだ」
「俺達がいたから?」
「あぁ。近くに俺達がいたからこそ、アイツは俺達が勝手に止めるだろうと予測した上で攻撃を仕掛けたんだろう」
「…そういう事だったのか」
ガルムの説明を受けて、一同は何となくそれっぽい説明に納得する。
「けれど、それだけで彼がトラウマ持ってるなんて気付けるのかしら?」
「うん。そこがイマイチ自信が無かったんですよね……昨日、アイツから話を聞いてた時に」
『私には、到底理解不能ですよ』
「その時、アイツの眼には憎しみという物が感じられなかった。それでもしやと思って、キーラさんに提案してみる事にしたんだ」
「あのなぁガルム、そういうのは俺達にもちゃんと話は通しておいてくれよ。見ているこっちはすっげぇヒヤヒヤさせられたぞ」
「うん、それじゃあ駄目なんだよ」
「え?」
「アイツも勘はかなり良い方だからさ、皆に話してたら気付かれてたかも知れない。それにアイツとキーラさんを仲直りさせるには、キーラさん一人で挑ませなきゃ駄目なんだ。だからこそ団長にだけはその事を説明して、皆には黙っておいたのさ」
「ッ…そうか」
「…分かるっちゃ分かるが、結構むず痒いな」
ガルムの言う通り、今回の件についてはキーラ一人で思いを伝える必要があった。もしUnknown達が対策を打とうとしていたら、竜神丸はそれを察知して余計に話をしようとしなくなっていたかも知れないのだ。
「まぁとにかく、アイツにはキーラさんに対する恨みはそんなに無かったのさ。自分が血まみれになろうとも、化け物のようになろうとも、守ろうとした姉だ。憎もうにも憎み切れなかったんだろう……その証拠に」
ガルムは地面に落ちている物に気付き、それを拾い上げる。
「もしアイツが本気でキーラさんを恨んでたんなら……こんな器用な事もしちゃいなかっただろうよ」
「「「「「…あ!」」」」」
支配人達は目を見開いた。何故ならガルムのその手には…
紐が切れているだけで、それ以外は無傷のペンダントがあったのだから。
それから数時間後、時間帯は夕方…
「―――ん」
医務室にて、キーラはうっすらと目を開けた。頭や右目には包帯が巻かれており、
「ここ、は…」
「目覚めましたか」
「…アル?」
キーラが寝ているベッドには、竜神丸が背を向けたまま腰掛けていた。彼の手には操作中のタブレットが掴まれており、彼女が目覚めるまで作業中だった事が分かる。
「アル、私は…」
「傷が完治するまでに数日はかかります。それまではここで安静にしていて下さい……姉さん」
「!」
竜神丸は自身の口から、初めてキーラの事を“姉さん”と呼んだ。それを聞いたキーラは数秒間だけ目を見開いてから、笑みを浮かべつつ痛む身体をゆっくりと起こす。
「そうか……私はまだ……お前の“姉”として…生きて良いのだな…」
「今更、ウイルスの研究をやめるつもりはありませんよ。今の私は既に、堕ちるところまで堕ちているのだから」
「…構いはしない」
「?」
「私も既に、許されない罪を犯している……もう、お前を一人にはさせない」
「!?」
竜神丸の後ろから、キーラが優しく抱き締めてきた。自身の首元に彼女の両手が回されてきた事に思わず驚く竜神丸だったが、拒絶はせずに彼女の抱擁を受け入れ、彼女の手を優しく握る。
「今度こそ、ずっと一緒にいよう……これから先は、共に堕ちて行こう…」
「…お好きにどうぞ」
抱き締める時、キーラの笑顔からは憑き物が完全に消え去っていた。竜神丸も空いている左手でタブレットの電源を切り、彼女の抱擁を受け入れた状態で長い時間を過ごす。
この時、ベッドの枕下に置いてあったペンダントは、窓から射している夕日によって綺麗な輝きを見せる。
姉弟の手は、今度こそ繋がってみせるのだった。
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姉弟の温もり・繋がる手