No.671595

九番目の熾天使・外伝 ~改~

竜神丸さん

確執・明かされる姉弟の過去

2014-03-17 17:29:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1193   閲覧ユーザー数:799

「無事、指定されていた不正転生者の排除は完了しました。遺体も既に焼却済みです」

 

「そうか……ご苦労だった。下がって良いぞ」

 

「はっ」

 

楽園(エデン)会議室にて、クライシスへの報告を完了した二百式。もう留まる理由は無いと判断してそのまま自室まで戻ろうとしたが、ここである事を思い出す。

 

「そういえば団長」

 

「ん、何かね?」

 

「少し前、デルタとガルムに何かを話していたようですが……一体何を?」

 

「すまないが、今はまだ話せない」

 

「…何故ですか」

 

「時期が早いからだ。お前はまだ……“アレ”に選ばれていない」

 

「“アレ”…?」

 

聞き慣れない単語に、二百式は眉を顰める。

 

「団長、“アレ”とは一体…」

 

「まだ話せない……そう言っただろう?」

 

「…分かりました」

 

二百式は納得がいかないかのような表情をしつつも、それ以上は何も聞かずに会議室を退室する。会議室に一人残ったクライシスは、席に座ったまま天井を見上げる。

 

「…すまないな。私の所為で、こんな事になってしまった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、医務室では…

 

 

 

 

 

(おいおい、何だこの状況は…!?)

 

okakaは、目の前で起こっている事態に若干だが混乱していた。彼の視界には…

 

「全く、一体どの面を下げてやって来たんですかね? あなた如きが」

 

「ッ…!!」

 

支配人に支えられているキーラという女性、その前方では竜神丸が彼女に冷徹な視線を向けている、という光景があるのだから。

 

「アル、私は…」

 

「私をその名で呼ばないで頂きたい」

 

竜神丸の真横に一本の神刃(カミキリ)が出現し、刃先がキーラに向けられたまま空中に留まる。

 

「どの道、私からあなたに話す事は何もありません……消え失せなさい」

 

「ッ…!?」

 

そのまま神刃(カミキリ)はキーラを傷つけるべく、彼女に向かって一直線に飛んで行く。

 

「よい…さっと!!」

 

「ほっと!!」

 

「!?」

 

もちろん、それは他のメンバー達がさせない。いつの間にか目覚めていたロキがキーラを神刃(カミキリ)の軌道上から転移させ、支配人は展開したシャインセイバーで神刃(カミキリ)を粉砕する。

 

「ロキさん!?」

 

「俺、復活!! …という訳なんだが、こりゃ一体どういう状況だよ?」

 

「説明するにはちょいと複雑だな……それより竜神丸、お前どういうつもりだ!? 急に神刃(カミキリ)なんか出しやがって!!」

 

「…むしろこちらの台詞ですね。私の邪魔をしないで頂きたいのですが? お二方」

 

「……」

 

竜神丸が指を鳴らし、ロキの横に転移していたキーラにイワンが再び襲いかかろうとする。

 

≪チェイン・ナウ≫

 

「ほわちゃー!!」

 

「ッ!?」

 

そのイワンも、複数の魔法陣から伸ばされた鎖で厳重に拘束される。そこへ更にガルムの強烈な蹴りが炸裂し、怯んだイワンが転倒する。

 

「…あなた方まで邪魔をする気ですか?」

 

竜神丸が睨みつける先には、ベルトを通じて魔法を発動しているディアーリーズと、いつもの着物姿で気楽そうにしているガルムの姿があった。

 

「あなたとその人が、過去に何があったかまでは知りません……ですが、自分の目の前で人が傷つけられるのは勘弁願いたいんですよ…!!」

 

「事情は知らないけどさ。こんな美人さんの肌に傷を付けるってのは、流石にどうなのよ?」

 

「…チッ」

 

竜神丸が小さく舌打ちすると、倒れていたイワンもすかさず自分を縛っていた鎖を破壊。すぐに竜神丸の後ろまで下がる。

 

「まぁ良いでしょう……どの道、その女と話す事など何もありはしない」

 

「!? 待ってアル、私は…」

 

キーラの制止も聞かず、竜神丸はイワンと共に医務室からテレポートしてしまった。伸ばそうとした手も途中で止まってしまい、キーラは悲しげな表情をしたままその場に膝を突いてしまう。

 

「…平和的解決、という訳にもいかないか」

 

げんぶは小さく呟いてから俯いているキーラに駆け寄り、彼女が伸ばしかけていた手を優しく支える。

 

「キーラさん、一度移動しましょう。今の状態では、彼と話す事は貴女の命に関わります」

 

「ッ…あぁ、すまない」

 

げんぶに支えられつつ、キーラは何とか立ち上がる。その時の彼女の表情を見て、ディアーリーズはようやく思い出した。

 

「!? あなた、もしかしてあの時の…!!」

 

「! 君、は…」

 

「え? ディア、お前知り合いか?」

 

「あ、いや…実は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん…」

 

研究室までイワンと共に転移した竜神丸は、そのままいつも通りの研究作業に戻る。パソコンのキーボードを打ちつつ、マグカップに淹れたコーヒーを一口飲む。

 

(今更、何故私の前に現れた? この私を“拒絶”したあなたが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私はずっと、お前と一緒にいてやる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…チッ!!」

 

イマイチ苛立ちが収まらないのか、竜神丸は机に拳を叩きつけ、その所為で机に積まれていた書類が床に散らばる。竜神丸とイワンしかいないこの研究室にて、書類が床に散らばる音と、時計の音だけが部屋全体に聞こえてくる。

 

「珍しく苛立ってんな、竜神丸」

 

「!」

 

研究室の入り口から、ガルムがやって来た。

 

「…ガルムさん」

 

「いよ♪ 書類が散らばってるぜ?」

 

床に散らばった書類を拾い、それを纏めてから竜神丸に手渡す。

 

「どうも。しかし、何をしにここまで?」

 

「お前がそこまで苛立つなんて、そうそう無いだろうしな。何が原因か気になるのさ……お前と、あの人の関係性もな」

 

「何で私が、あなたに説明しなければならないのですか?」

 

「まぁ良いじゃねぇか、たまには話してくれても。同じ秘密の共有者だろ?」

 

「…物好きな方ですね」

 

竜神丸は呆れたように溜め息をつきながらも、ひとまずコーヒーを淹れてからそれをガルムに手渡す。

 

「…インスタントですが、飲みたければどうぞ」

 

「お、わざわざ悪いな」

 

ガルムはコーヒーの淹れられたマグカップを受け取ってから一口飲み、竜神丸も自分のマグカップを手に取ってからコーヒーを飲む。

 

「ふぅ……んで、話してくれるか?」

 

「…まぁ、良いでしょう」

 

マグカップを机に置き、竜神丸はソファに座るガルムと向き合う形で椅子に座るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、食堂に移動したロキ達は…

 

「は~い、お待たせ♪」

 

「あぁ、どうも朱音さん。わざわざすみません」

 

「良いのよ? ロキさん達から、事情は聞いてるわ」

 

げんぶはキーラを席に座らせ、支配人はユイやフィアレスと共にショートケーキと紅茶の用意をしている所だった。そこに事情を聞いた朱音もやって来て、キーラの隣の椅子に座る。

 

また、ここにはソラとの模擬戦で敗北したサポートメンバー達も集まっており、離れた位置でキーラの様子を見ている。

 

(あの人が、竜神丸のお姉さんだってのかい?)

 

(そのようです。それも血の繋がった、正真正銘の姉弟だそうです)

 

(しっかし驚いたねぇ。まさかドクターに、あんな美人な姉ちゃんがいたとは…)

 

(けど、何だか事情は複雑っぽいよ? 竜神丸には避けられてるっぽいし)

 

(その辺はげんぶと支配人、それに朱音さんが聞くだろうさ。俺達は黙って、様子を見守る姿勢に徹するとしようや)

 

(というか、そうする事しか出来ないというのが何とも歯痒いですよね…)

 

(あぁ……ところでロキ達、傷は大丈夫なのか?)

 

(問題ない。ソラ兄さんもいくらか加減してくれてたし、激しい運動さえしなきゃ大丈夫だと)

 

(ちなみにウル……あの人よね? ディアが正面から胸に突っ込んだ女性ってのは)

 

(ちょ、凛!? そこでその話を引き出すの!?)

 

(ウル、後で覚悟なさい?)

 

(たっぷりと搾り取ってあげるわ)

 

(みゆき、ウルが逃げようとした時はよろしく頼むよ?)

 

(はい、その時は私が取り押さえます)

 

(り、理不尽だ…!!)

 

(((…どんまい、ディア)))

 

そんな会話が陰で行われている中で、支配人はショートケーキと紅茶をキーラの前に出してから、げんぶの隣の椅子に座る。

 

「どうぞ」

 

「あぁ、すまない…」

 

「…まぁ、まずは食べてからでも良いですよ。その方が気分も少しは落ち着くでしょうし、もし嫌だったら無理に話さなくても大丈夫です」

 

「……」

 

キーラは無言のままフォークを手に取り、差し出されたショートケーキを一口だけ口に含む。

 

「!! 美味しい…」

 

「そうですか、それは良かった」

 

シュートケーキの美味しさにキーラが無表情ながらも目を見開き、その様子を見たげんぶ達も嬉しそうな表情になる。

 

「俺の知り合いが経営する喫茶店で、買って来たケーキです。キーラさんの口に合うようで良かった」

 

「あぁ、本当に美味しいな……出来る事なら」

 

「?」

 

「…アルと一緒に、味わいたかったものだ」

 

キーラは小さく俯き、フォークを持つ手もほんの僅かに震えていた。それを察した朱音はキーラの震えている手を優しく握り、空いている手で彼女の背中を優しく擦る。

 

「…おかしいだろうな……こんなに美味しい物を食べているのに……こんなに優しくされているというのに……私は、涙を流す事すら出来ない…」

 

「…泣けない事は、いくらでもあります」

 

げんぶが優しく語りかける。

 

「血の繋がった家族からあんな風に拒絶されて、胸が張り裂けるように痛くとも……身体がそれに対応してくれない事もあります」

 

「けれど……それもほんの一時的よ」

 

げんぶの言葉に、朱音が続く。

 

「今は泣けなくても、何時かは泣ける時が来るかも知れない……それまで、涙は取っておきなさい」

 

「俺達も、いくらでも協力しますから」

 

「泣ける、時…」

 

朱音に頭を優しく撫でられる中で、キーラは少しずつ表情も和らいでいくかと思われた……しかし。

 

「…違う」

 

「「「え?」」」

 

キーラの言葉は、朱音達の予想とは違っていた。

 

「違うんだ……私にはもう…流れる涙など、到底ありはしない……どうやって泣けば良いのか、私には分からない…」

 

「…泣く事が、分からない?」

 

それを聞いて、げんぶ達はしまったと言いたげな表情になる。どうやら、今の言い方では彼女に対する励ましにはならなかったらしい。

 

「…キーラさん」

 

朱音がキーラの手を優しく握る。

 

「無理はしなくて良い……話せるのだったら、聞かせて貰えないかしら? あなた達の過去に、一体何があったのか…」

 

「…あぁ」

 

朱音の問いかけに、キーラは小さく頷く。

 

「私も、アルも同じだ…………あの時、私達は……“心”が壊れてしまったんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「孤児院で過ごしていた?」

 

「えぇ」

 

一方、ガルムも竜神丸から過去の経緯について聞いているところだった。

 

「物心ついた時には、既に両親は亡くなっていました。親の名前など聞いた事もありませんし、もちろん顔も知りません」

 

「そうだったのか…」

 

「私達はそのまま孤児院に引き取られ、共に過ごしていました。まぁその時は私も彼女の事は信頼していましたよ? そう、その時はね」

 

キーボードを打ちながら、竜神丸は話を続ける。

 

「ですがある時……その孤児院に、ある人達がやって来ました」

 

「ある人達?」

 

「はい。その人達の正体は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「異能力研究機関?」」」

 

「…あぁ」

 

キーラの方も、過去の経緯について話を進めていた。

 

「孤児院にやって来たその男達は私達を含め、孤児院にいた子供達にとあるテストをさせた」

 

「テスト…?」

 

「複数あるカードから、特定の記号が書かれたカードだけを目隠しした状態で引き抜いていく……それだけの、簡単な内容だ」

 

「それって、まさか…」

 

「そう……私達の中で、PSI能力に優れている者を引き抜く為のものだ」

 

「「「!!」」」

 

朱音達が顔を見合わせる中、キーラは語り続ける。

 

「当時の私達は、孤児院での生活が幸せに感じていた。何処にも行きたくなかった。だからこそ、カードは外れのカードだけを何度も引き抜いていった。何十回も、何百回も……だが」

 

「逆に、それが罠だったという訳ね?」

 

「…あぁ。そのまま私達は、研究施設に連行されてしまったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そこで実験体に…?」

 

「そう……私達は施設に連行されて以降、PSI能力に関する実験を受け続けてきました。どれだけ嫌だと言っても、奴等は私達の言う事に聞く耳など持ってはいなかった」

 

データが完成したのか、竜神丸はコピー機から何枚ものコピーされた書類を取り出す。

 

「遺伝子レベルの改造を受け続けている内に、彼女は次第に心を閉ざしていっていました。そうでもしなければ……PSIの実験に耐えられず、心が完全に死んでしまっていたからでしょう」

 

「心が死ぬ、か…」

 

「それでも私は、奴等の行う実験に耐えながらも、ずっと窺い続けていました……隙を突いて、奴等に復讐する為に」

 

「…なるほどな」

 

ガルムは竜神丸の話を聞きながらも、コーヒーを口に含んでいく。

 

「そして……その時は、遂にやって来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今思えば……アルは何時からか、その復讐の時を待っていたのだろう」

 

ケーキがまだ半分も残っているにも関わらず、キーラはケーキの皿を一旦テーブルに置く。

 

「アルはずっと、その復讐を果たす為に今まで耐え続けてきた……それに対して私は、過酷な実験に耐える事しか出来なかった。耐える為に、心を完全に閉ざす事しか出来なかった」

 

「心を、閉ざす…」

 

「…ある時だ」

 

キーラは顔を上げる。

 

「遂にアルは……自由を奪った奴等への、復讐を開始したんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は、遠い昔に遡る…

 


 
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