No.671210

ALO~妖精郷の黄昏~ 第13話 第4回BoB決勝

本郷 刃さん

第13話です。
今回は原作において描写されなかった第4回BoBの様子になります。
原作ではサトライザーが優勝しましたが・・・。

どうぞ・・・。

2014-03-16 12:23:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:10434   閲覧ユーザー数:9711

 

 

 

 

第13話 第4回BoB決勝

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

水色の髪と青い瞳を持ち、氷と称される少女は半崩落状態のビルディングの入り口を潜り、

最上階よりも1つ下の階層へ警戒しつつ、愛銃である『ウルティマラティオ・ヘカートII』を構えながら進んでいた。

彼女の名はシノン、ゲーム『GGO』における前大会第3回目の『バレット・オブ・バレッツ(通称:BoB)』において、

恋人であるハジメと共に同時優勝を飾った実力者だ。

そして現在こそ第4回目のBoBの決勝戦であり、今度こそ恋人のハジメと決着をつけ、優勝しようと心に決めている。

そんな折り、今大会に思わぬ参加者が現れた……名はサトライザー、

第1回目のBoBを制した男であり、なんとアメリカからの出場者である。

なぜ参加できるはずのない日本側の大会に彼が参加しているのかは不明だが、

決勝戦出場者…その中でも特にGGOの古参プレイヤーたちの意気込みは強い。

伝説とも謳われているあのサトライザーと相見えることが楽しみで仕方がなかったのだ。

しかし、既にほとんどのプレイヤーが敗北し、

いまや残っているのはシノンとハジメ、そしてサトライザーの3人だけとなっている。

 

「(サトライザーを倒して、ハジメと決着をつけてみせる…!)」

 

強く意気込むシノンは階段などを登りながら目的の階層へと向かって行く。

 

「(サトライザーを倒して、ハジメと決着をつけて………ハジメにたくさんご褒美を貰うんだから!!)」

 

大事なことだから2回言ったようだが、彼女もまたうら若き年頃の乙女であったようだ…。

 

 

シノンが目的の階層、そして狙撃に適している一室へと入った時、彼女は僅かに顔を顰めた。

その理由はこの部屋が書庫であったということ……傍からみれば大した理由ではないが、

シノンにとってはそれなりの意味があった。

それは彼女の過去に関係しており、辛い中学時代の大半を彼女は図書室で過ごしていた。

過去と向き合い、多くのことを乗り越えたと言っても、

未だ現実の世界では高校2年生なシノンにとって、可能な限り集中力は乱したくはないと考えた。

その結果、彼女は数秒のロスタイムを承知で1つ上の階層、最上階へと移動した。

 

「(ここでも問題無いし、早く準備をしておくべきね…)」

 

先程までの乙女な思考回路とは違い、既に狙撃手としてのスイッチが入ったシノンは準備を整えていく。

 

「(この地形なら、ほぼ間違いなくそこの道をルートとして通るはず。ここなら、間違いなく仕留められるはず…)」

 

ライフルの二脚を立て、ポイントを再度確認し、心を落ち着かせてから、伏射姿勢を取る。

そして、銃のトリガーに指を添え、スコープを覗きこんだ……その時だった!

 

―――ざっ!

 

「えっ…?」

 

僅かな足音が聞こえ、何気なく、しかし即座に背後を振り向く。

するとそこには、標的に定めていたはずのサトライザーが現れていた。

その動きは滑らかでシノンを背後から捉え、そのまま《軍隊格闘術(アーミー・コンバティブ)》スキルと呼ばれる格闘術スキルを用い、

十数打もの攻撃を与え、一瞬で彼女を制圧してせしめた。

 

「ぐっ、がっ…!?」

 

呼吸を停止させられ、HPゲージが一気に減っていく。

 

「(なんで、どうしてコイツがここに!?

 まさか、狙撃されるポイントを予測して、さらに狙撃するポイントまで予測してみせたの!?

 そんな、でも、普通はありえない!?)」

 

動かなくなった体のままだが、意識は残っているのでシノンは思考した。

けれど、結果は分からないとしか言えなかった。

まさか自身は最上階に来るということまでも予測していたのでは、と…そんなことが彼女の頭を過ぎり、

かき乱していたからだ。

HPが消滅する寸前、目前に居る男はシノンに向けて無音で、英語で言葉を呟いた。

 

Your soul will be so sweet(キミの魂はきっと甘いだろう)

 

そう言ってサトライザーはこの場を離れて行った。

勿論、英語にそれほど詳しくないシノンには混乱も相まってか、言葉の意味を理解できなかった。

しかし、それがサトライザーの勝利の決め台詞であることは理解でき、彼女は悔しさで一杯だった。

 

「(ごめんね、ハジメ……私、負けちゃったや…)」

 

心の中で、そして現実世界の彼女は敗北と、なにより大好きな恋人と約束を果たせない悔しさに涙を流した…。

 

それから数分が経過した時、監視衛星によるスキャンが行われた。

これにより、サトライザーは残る敵がハジメ1人であることを再認識し、

またハジメは己の恋人であるシノンがサトライザーの手によって敗北したことを悟る。

そしてハジメは点滅する光を捉えた直後、何かが弾けたかのように光点が示した場所へ向けて駆け抜けだした。

 

 

 

 

一方、シノンを打ち倒したサトライザーは先程のスキャンのあと、再び潜伏場所を選択し、その場所に身を潜めていた。

彼は前大会のハジメのデータを見たことで、ハジメがスナイパーであると同時に優秀な近接戦闘者であることも知っていた。

そうだとしても、サトライザーは十分相手取れる人物だと判断していた。

ハジメがスナイパーとしての行動を取るのならば、スナイパーが陣取る場所を予測し、その付近に潜伏すればいい。

また、彼が近接戦闘のスタイルを取るのならば武器である剣を《軍隊格闘術》スキルで弾くなり落とさせれば良いのだから。

故にサトライザーは潜伏場所を両方の条件を満たすことのできる場所を選んだ。

そして数分後、ついに両者は相見えることになる……サトライザーの予想を大いに裏切る形となってだ…。

 

 

なお、この大会の様子を生中継で観戦していたハジメとシノンの友人たちはその時の様子をこう語っていた…。

 

まずはハジメと同じ流派の少年たち6名。

「「「「「「あ、サトライザー(アイツ)死んだわ」」」」」」

 

次に女友達の言である。

「あ、ありのまま、いま起こったことを話すね」

「じゅ、銃を構えたシノンが、後ろからの攻撃で、一瞬でやられたわ」

「そ、それでシノンさんがやられてから、スキャンが起こりました」

「ど、どこからともなく、ハジメさんが出てきて」

「む、無表情な顔で、一気に走りだしました」

「な、なにを言っているのか、分からないかもしれないわ」

「だ、だけど僕も、何が起きたのかわからないんだ」

「「「「「「「もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ…」」」」」」」

上から順にアスナ、リズベット、シリカ、リーファ、ティア、カノン、リンクの7名。

 

次に成人しているクラインとエギル。

「「……………」」

ポカーンと、呆然としているためにコメントは望めない。

 

「ハジメさん凄いですね~♪」

「きゅ~♪」

最後にピクシーであるユイと小竜のピナ、変わらずの大物っぷりである。

 

 

 

 

瓦礫の隙間に潜伏しているサトライザーは勢いのある足音を聞きとることができたため、姿勢を整えてから気配を潜めた。

職業柄(・・・)、彼はある程度気配を殺すことに慣れている。

それがこのVRMMOにおいて有効なことなのかは分からなかったが、やっておいて損は無いと判断してのことだった。

そんな時、何かを蹴り上げる音が聞こえたと思うと視線の先に1つの瓦礫が地面に落下してきた。

直後、その瓦礫の傍らに音も無く人影が降り立った……ハジメである。

標的(ターゲット)の思わぬ到来の仕方に一瞬だけ呆けかけたが、気を取り直す。

しかし、ハジメに視線を向けたサトライザーはその様に驚愕する。

 

『(装備は“刀”1本だが、まったく隙がないだと…!)』

 

少女にも見える容姿のアバターであるハジメが男だということを彼は理解している。

また、彼が近接戦闘を行うことも……だが、職業柄多くの人間と相対してきた彼は、

今までに遭遇したことのない隙のなさに驚いている。

 

『(奴は何者だ…? いや、落ち着け…どんな人間だろうと、必ず隙をみせるはずだ…)』

 

心を落ち着かせて集中するサトライザー。

そんな時、ハジメは再びサトライザーを、そして中継を見ている者すら驚かせる行動を取った。

 

『(バ、バカな…こんな状況で、眼を瞑るだと!?)』

 

視覚や聴覚がものを言うこのVRMMOで、彼は視覚を捨てたのだ。

気配を潜めていたサトライザーだが、その僅かな動揺によって彼自身に油断が生まれた。

潜める気配の僅かな乱れ、ハジメにとってはそれを感じ取ることに十分なものであった。

 

「……見つけた!」

『くっ…!』

 

サトライザーの潜伏場所を発見したハジメは即座に動きだし、サトライザーは動揺を見せたのも束の間、

瞬時に冷静さを取り戻して瓦礫の間から出て応対する。

 

なぜハジメが彼を発見することが出来たのか、

それは彼を含める『神霆流』の剣士たちがVRMMOにおいて身に着けているオカルト級スキル《超感覚(ハイパーセンス)》の賜物である。

それはVRMMOにおける気配や視線、敵意などの察知である……全てが電子反応で構成されるこの世界で、

そのようなことが可能なのかは不明だ。

それでも、彼らにはそれを感じ取る力がある…それだけは確かだ。

 

サトライザーは距離を詰めて《軍隊格闘術》スキルを用いてハジメに攻撃を仕掛ける。

だがハジメもまた、《軍隊格闘術》スキルを用いてそれを相殺してみせた。

これにはサトライザーも驚くしかないがそこはやはりプロ(・・・)、動揺を押し込めて冷静になる。

そんな時、ハジメが言葉を投げかけた。

 

「……シノンをやったのはお前だな?」

『っ!?』

 

VRMMOであるにも関わらず、サトライザーは悪寒が全身を駆け抜け、冷や汗を掻く感覚に囚われた。

それほど、ハジメが掛けた声はあまりにも冷たかったのだ。

 

「……シノンは私の恋人、私と彼女は決勝で決着をつけようと約束していた。

 あぁ、別にお前や他の出場者には関係のないことだろう、それは確かなことで事実だ。

 だがそれでも、シノンの悔しさを私が晴らさせてもらうぞ!」

 

なぜ彼がシノンの悔しさを理解できたのか、それはVRMMOにおけるもう1つのオカルト級スキル《接続》を、

ハジメとシノンもまた行うことができ、お互いの思いを伝えることができたからだ。

故に、ハジメはシノンの悔しさを胸に秘め、勝負に出た。

 

「……さぁ、そろそろ終わらせるとしよう」

『なっ!?』

 

ハジメがそう告げた直後、彼から膨大な殺気のようなものが溢れ、サトライザーは思わず後ずさった。

それが引き金となり、ハジメは一気に攻撃を繰り出した。

拳による突きや殴打、肘打ち、蹴りや膝蹴り、回し蹴りなどの蹴り技、

柔軟な動きによる高速の打突がサトライザーに襲い掛かり、HPが一気に減少していく。

だがそこは大人でありプロであるサトライザー、他の出場者から奪った銃を使い至近距離から放つ……が、

ハジメは刀を抜刀し、弾丸を全て斬り裂いてみせた。

彼の持つ刀は宇宙戦艦の装甲板から作られた物であるため、その強度は最高クラスのものである。

異な光景に最早言葉が出ないサトライザー、そして止めと言わんばかりにハジメは刀による高速の連続斬りを行い、

サトライザーのHPを0にした。

 

「……シノンに手を挙げた…それだけでも(・・・)が手を出すには十分な理由だ」

『(り、理不尽だ…。しかし、これがジャパニーズサムライの力なのか…)』

 

ハジメの言葉に対するサトライザーの心情は間違ってはいない……サムライかはさておき、

サトライザーはここでハジメに全力でやられていて正解だった。

なんということはない…シノンを倒した方法が《軍隊格闘術》スキルを用いての肉体殴打なのだ。

アバターとはいえ、自身の恋人が殴打される様は気分の良いものではない。

そのため、ここで全力でやられたことは後々に被害を残さずに済んだのである。

 

「……シノンと決着をつけられなかった不満は残るが、優勝できたのだから良しとしよう」

 

第1回BoB優勝者であるサトライザーを打倒し、第3回BoB同時優勝者であるハジメが第4回BoBを制することとなった。

 

これにより、ハジメはGGOにおいて【サムライガンマン】、【剣客の射手】の異名を得ることになったが、

大会終了直後のハジメはこのことを知らない。

 

 

 

 

ハジメとサトライザー、両者の戦闘中の様子を見た友人たちの反応は以下の通りである。

 

「「「「「「ただの八つ当たり(笑)」」」」」」

同流派の少年6人。

 

「「「「「「「こ、こわい…(怯)」」」」」」」

女性陣7人。

 

「「……………(呆然)」」

年長者2人。

 

「ハジメさんの優勝です~♪」

「きゅっきゅ~♪」

変わらずの大物っぷり。

 

ともあれ、第4回BoBは前回のような事件もなく、これにて幕を下ろした。

 

No Side Out

 

 

詩乃Side

 

みなさん、どうもこんばんは(作中内時間)、朝田詩乃です……って、誰に言っているのかしらね。

ついさっき第4回BoBが終了して、私はリアルへと戻ってきた。実は今日はケイの家でダイブしていた。

前回のようなことがあってはいけないということで、ケイの家にあるもう1台のパソコンを借りてダイブしたわ。

それで改めてケイにお祝いの言葉を掛けようと思って、

彼の部屋に入ったのだけど……率直に言えば、ベッドに押し倒されたわ///

 

「ね、ねぇ、ケイ///? これは、一体…///」

「……優勝した私への褒美と、精一杯頑張った詩乃への褒美のつもりだが?」

「え、えっと、その、スッキリしたいから、シャワーを浴びて、からじゃ、駄目、かな///?」

 

さ、さすがにすぐにっていうのはちょっと……ていうか、これじゃあ私、自分からお願いしてるような気がする///

 

「……ならば、先に浴びさせてもらう。すぐに戻ってくるからな」

 

優しい微笑みで額にキスされた私。

彼は部屋から出て浴室に向かったみたいで、すぐに1階からシャワーの音が聞こえてきました。

 

「はっ///!? わ、わたしも準備しておかなくちゃ///!」

 

ケイの部屋から出て借りてる客間にいって、ケイがシャワーを浴び終えるのを待ってから、私もシャワーを浴びた。

浴室で悶々と考え込んじゃったけど、これって割といつものことだということに思い至って、

このあとのことを考えて頬が緩むのを押さえられなかった。

シャワーを浴びて、私は生まれたままの姿にバスタオル1枚の姿で彼の部屋に入った。

月明かりを受ける彼は凄く凛々しくて、この状況になる度に私は本当にケイの恋人なんだなぁって、実感できる。

 

「ケイ。BoB優勝おめでとう///」

「……詩乃こそ。3位入賞おめでとう」

 

お互いにそう囁いてから抱き締めあって、唇を重ね合わせる。

舌を絡めて、唇を啄み合って、唾液を飲み合って、濃厚なキスの水音が興奮を高まらせる。

唇を離して、お互いに見つめ合い…、

 

「やさしく、してね…/////////」

「……詩乃の望むままに」

 

彼の優しい囁きを受けてから、私たちは愛し合う行為に及んだ。

 

 

翌朝、昨夜の情事の激しさに腰が痛かったのは言うまでもないわね…///

 

詩乃Side Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

第4回BoB決勝の様子、お楽しみいただけたでしょうか?

 

原作では優勝できたサトライザーでしたが、本作ではシノンを倒したことで敗北フラグを立てましたw

 

ハジメの完全な八つ当たりにサトライザー涙目・・・ハジメがサムライというのは強ち間違いじゃないw

 

ま、最後は景一と詩乃がイチャコラしていただけですが、コーヒー宣言しなかったのは悪いと思っているw

 

次回は1週間後のダイシー・カフェでのお話し・・・そう、原作のあの場所です。

 

ではまた・・・。

 

 

 

 


 
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