No.670433

インフィニット・ストラトス〜G-soul〜

舞い降りた希望

2014-03-13 20:28:31 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:940   閲覧ユーザー数:884

とある軍事基地。そのオペレータールーム。

 

この基地の司令官は、いつも通り仕事を終えようとしていた。

 

「司令、頼まれていた会議の資料です」

 

「あぁ。ご苦労」

 

女性職員が数枚の書類をデスクに運んできた。

 

「司令はこの夏に休暇は取らないんですか?」

 

「少しは取ろうと思っているが?」

 

「これ春に生まれた息子さんの写真ですよね?」

 

「そうだ」

 

司令官のデスクの端には写真立てに飾られた赤ん坊の写真があった。

 

「可愛らしいですねぇ。ちょっと司令に似てるかも」

 

少し背中が痒くなるような気がした司令官は話を終わらせるように咳払い。

 

「…まだ仕事は終わってないぞ」

 

「失礼しました。では」

 

少し笑うと女性職員は自分の持ち場に戻った。

 

「…………ん? えっ、な、なんだこれ!?」

 

突然、オペレータールーム奥から声が上がった。

 

「どうした?」

 

「め、メインコンピュータに異常発生! 各システムが次々とアクセスを遮断していきます!!」

 

周囲がざわつき始める。

 

メインモニターのシステム状況の表示に『エラー』の文字が溢れ出した。

 

「まさか…ハッキング!?」

 

「落ち着け! 対抗プログラムを使用しろ! 同時にハッキング元を探れ」

 

「は、はいっ!」

 

職員の一人がキーボードを忙しく叩き始める。

 

「だ…ダメです! プログラムの発動権も乗っ取られています!プログラムが作動しません!!」

 

司令官はデスクを叩きながら立ち上がった。

 

「バカな!? プロテクトは最新式だぞ!?」

 

「システムの87パーセントがアクセスを拒絶! も、もう止められませんっ!!」

 

職員の悲鳴に近い声の後、システムが瞬く間に完全掌握された。

 

「全てのシステム……掌握されました…」

 

「一瞬で…この基地の全てのシステムを……」

 

(一体どこから…何の目的で……)

 

司令官は顎に手をあてて思考に耽った。

 

(まさかあの時のように…………いや…そんな……)

 

「し…司令!!」

 

「今度はなんだっ!?」

 

「全てのミサイル発射口が……開いていきます!!」

 

その報告を聞いた瞬間、司令官は全身が総毛立つのを感じた。

 

(やはりか…!!)

 

「と…止めろっ! ミサイルの発射を今すぐ止めるんだ!!」

 

「ダメです! アクセスできません!」

 

「ミサイル、各発射口から発射されます!!」

 

ミサイルが次々と発射され始めた。こうなってしまえばこちら側からの阻止はもう不可能である。

 

「まさか…また起こるのか……!」

 

司令官は脚から力が抜け、椅子に深く座り込んだ。

 

「司令?」

 

司令官の携帯電話に着信が入った。別の基地の責任者だった。

 

「………私だ」

 

『大変なことになった! 我々の基地のメインコンピュータが━━━━━━━━!』

 

「何者かに突如ハッキングされ、ミサイル発射口が開き、ミサイルが次々と発射され始めた…そうだろう?」

 

『え……そ、そうだが………………まさかそちらの基地も!?』

 

「そのまさかだ。おそらく私達だけではない。この状況…あの時と同じだ」

 

『………っ! やはりそう考えるべきか……』

 

電話の向こうの声から、渋面が容易に想像出来た。

 

「そんな…っ!?」

 

別の方向からまた悲鳴が聞こえた。

 

「少し待ってくれ。どうした!?」

 

呼びかけると、振り返った職員の表情は青ざめていた。

 

「い、今…ミサイルの予測到達地点の表示が出たのですが………」

 

「どこだ! 発射されたミサイルはどこに向かう!?」

 

「このままでは………日本のIS学園と、その周辺地域に到達しますっ!!」

 

「なんだとぉっ!?」

 

 

「ったく…! 叩き起こされたと思ったら……ミサイルが降ってくるって何がどうなってんのよ一夏!」

 

隣を走る鈴が俺に叫ぶ。

 

「俺だってわからない! 千冬姉だってまともに説明してくれてないんだ!」

 

学園内にいる生徒は、殆どが誘導に従って地下特別区画に移動した。

 

俺達専用機持ちは逃げ遅れている生徒がいないかを手分けして探し、最後に地下に降りることになっていた。

 

「クソッ! 一気にことが起こり過ぎなんだよ!」

 

「まだ何かあったの!?」

 

「…マドカが、目を覚ましたんだ」

 

「えっ…」

 

歯噛みする俺は楯無さんが連れて来たラウラが話してくれたことも気になっていた。

 

「ラウラから聞いたんだ。マドカがブレーディアを展開して何処かへ飛んでいったって」

 

「そうなの…でも、おかしくない? ISは使えないはずでしょ?」

 

「この際そんなこと話してもしょうがない。事実俺達のISはまだ使えないんだからな」

 

「一夏くん! 鈴ちゃん!」

 

楯無さんが俺達の名前を叫ぶ声が聞こえた。隣には箒とラウラがいる。

 

「楯無さん! 他の生徒は!?」

 

「織斑先生が誘導して全員収容したわ! 後はあなた達が━━━━!」

 

 

ウゥゥゥ………ウゥゥゥ………

 

 

遠くからサイレンが聞こえた。

 

「何!?」

 

「サイレン? まさか、もうミサイルが!?」

 

「もうすぐリフトが戻って来る! お前達が最後だ!」

 

「待て箒っ! まだシャルロットが戻って来ていない!」

 

「なんだって!?」

 

「みんな見て! シャルロットが来たわ!」

 

鈴が指差す方向からは、確かにシャルロットがこっちに向かって走っていた。

 

 

「………………………」

 

街で会った蘭に無理矢理連行された俺は五反田家に来ていた。

 

だけど、ただお邪魔したわけじゃない。

 

「おう、小僧。この皿洗っとけ」

 

「瑛斗さん、申し訳ないんですけど、こっちもお願いします!」

 

「瑛斗くん、これもお願いね」

 

「………………………」

 

また俺の両サイドに積まれる皿のタワー。

 

そう、俺は五反田食堂でなぜか皿洗いをしていた。

 

「なんで俺はこんなことを…」

 

「口動かしてないで手ぇ動かせっ!」

 

「す、すいませんっ!」

 

ちょっとぼやいたら厳のじいさんに一喝された。なんつー地獄耳。

 

「悪いな。こんなことになっちまって。まさかこんなに客が入るとは思ってなかったんだ」

 

鍋をかき回す弾が俺に声をかけてきた。

 

「近くで規模がデカめのスポーツ大会があったらしくてな。こんな時間なのに観客だけじゃなくて選手もドカドカ来てよ。正直蘭と一緒にお前が来てくれて助かってる」

 

「そ…そうか。役に立てて何よりだ」

 

「じいちゃんに目をつけられたのが運の尽きだったな」

 

「違いないな」

 

「弾っ!! お前もちゃんとやれっ!」

 

「やってるよじいちゃん!!」

 

「はは…」

 

それから俺は皿洗いを長いことやって、落ち着いたのは西日が強くなり始めた時だった。

 

「ごめんなさい。いきなりお店の方手伝ってもらっちゃって。助かりました」

 

本来の目的を思い出したらしい蘭は店の近くの公園に俺を連れてきた。

 

「あ、あぁ。どういたしまして」

 

俺の手の中にはさっき働いた分の駄賃が握られている。

 

「俺の方こそ、いいのか? ちょっとばかし皿洗いしただけだぜ?」

 

「いいんですよ。瑛斗さんにはお世話になってますし」

 

蘭は気前良くそう言って笑った。

 

「それで、本当はもっと早く話すはずだったんですけど…」

 

蘭の少し声色が変わる。いきなり来るのか。

 

「一体何があったんですか?」

 

「………………………」

 

正直言って、あまり話したくはなかった。皿洗いをしている時に考えてみたけど、専用機を持った代表候補生とは言え蘭はあくまで一般人だ。

 

俺とは、俺を取り巻く因縁とは、関係が無い。

 

「ほら、言ってみてください。一人で悩むより、誰かに話した方がいいですよ」

 

まっすぐ俺を見る目は心の底から俺の為を思ってくれている証拠だろう。

 

だから、余計に話しづらかった。

 

「そんなに、簡単な問題じゃないんだ…」

 

「え?」

 

「誰にも相談なんて出来ない。こんなこと話したところで、誰も理解してくれないんだ」

 

会話が無くなって、ヒグラシの鳴き声だけ聞こえる。

 

「…そ、そんなこと言われたら、余計心配になるじゃないですか」

 

「何度も言わせないでくれ。話すことは無いんだ」

 

「いいえ、絶対にあるはずです」

 

…若干しつこいな。

 

「無いったら無い」

 

「あります! 梢ちゃんが言ってました。とても思い詰めてるって。いなくなったとも言ってましたし、デュノア先輩に更識先輩、ボーデヴイッヒ先輩だって…きっと瑛斗さんを心配して━━━━━━━━」

 

「…! 黙れっ!!!!!」

 

三人の名前を聞いた瞬間、俺は遮るようにそう言っていた。

 

「勝手なこと言うなっ! 心配してる? お前に俺の何がわかる!?」

 

口をついて出た言葉が我ながらお決まり過ぎて、呆れてしまう。

 

「そんなに聞きたいなら教えてやるよ! 俺は今、自分が誰なのかわからないっ!!」

 

「えっ………」

 

あぁ、まただ。

 

また止まらない。

 

また溢れ出してくる。

 

「誰も俺に本当のことを言ってくれなかった!! 俺の周りは嘘だらけだ! 俺は本当に桐野瑛斗なのか? 本当は別の名前があって、自分を桐野瑛斗だと思い込まされてるだけじゃないのか? そう思うだけで……怖くてたまらない!! 自分自身が嘘だなんて、そんなことがあっていいのか? いいわけないだろ! けど事実そうなんだよ! でも俺はその事実を認めたくなくて、目を背けて逃げてるだけなんだ!」

 

「嘘だらけ…? 本当のこと?」

 

「お前の目の前にいる俺は誰だ? 桐野瑛斗か? 一体どうやってそれを証明する!? 俺が俺である証拠がどこにあるってんだよ!?」

 

「それは………」

 

「答えられないんだよ! 誰も! だから俺は証拠が欲しい! 『俺』が! 『桐野瑛斗』だっていう証拠が!! それが無いなら俺は…俺は死んでるようなもんなんだよ!!」

 

勢いのまままくし立てて、少し切れた息で、自分が何をしていたのか思い出した。

 

「………っ…! 悪い……怒鳴り散らして…何言ってるか…わかんねぇよな……」

 

蘭の前から消えようと歩き出す。

 

「今の、忘れてくれ……じゃあな。じいさんによろしく言って━━━━━━━━」

 

「…………ですか…」

 

「ん………?」

 

「何ですか!! さっきから何言ってるのかさっぱりわかりませんよ!」

 

「……………………………」

 

何を言っていいのかわからなくなって数秒フリーズした。

 

「や、だから、忘れてくれって…」

 

「無理ですっ!!」

 

「えぇ……」

 

「何があったかはこの際聞きません! でも、今の言葉は聞き捨てならないですよ!」

 

蘭は今にも飛びかかって来そうなくらいの勢いだ。

 

「死んでるようなもの? 自分の存在の証拠なんて、自分で見つけるんですよ!」

 

「…! それが出来たら━━━━━━━━!」

 

「わからないなら作ればいいじゃない!」

 

被さってきた言葉に、俺は体を強張らせた。

 

「…………作る?」

 

「なんだっていいんです! こうだから自分なんだって、そう自分で思いこめばいいんです! それがあなたの欲しがってる、自分自身の証拠になるんですよ!」

 

「俺の………」

 

「私には何があったのかわかりませんけど…瑛斗さんは今、ヤケになってるだけです。落ち着いてください。あなたならきっと、見つけられるはずです」

 

「………………………」

 

蘭の言葉が、頭の中でリピートされる。

 

(俺は…何をもって、俺なんだろ

う……?)

 

考えてみる。俺には、何があるのかな。

 

(俺が、今まで生きてきて、心に決めていたこと……)

 

直後、俺は目線を落としたG-soulに、叫ばれたような気がした。

 

 

(俺の……存在は━━━━━━━!)

 

 

「………フッ」

 

口の端から笑いが漏れた。

 

「え?」

 

「………そうだな。お前の言う通りだ」

 

何を考えてたんだ俺は。こんな簡単なことにも気づかないで。

 

「そうだ…こんな簡単なことだったのに………俺は何をしてたんだ…」

 

「…見つけられましたか?」

 

蘭が俺の顔を覗き込んでくる。

 

「あぁ。ありがとな。おかげで、目が覚めた」

 

「い、いえ。お礼なんていいです。こういう性格なんですよね、私」

 

そう言うと、蘭は少し照れたように顔を赤くした。

 

「おーい! らーん! 瑛斗ー!」

 

「え? お兄?」

 

「弾?」

 

弾が俺達に慌てた様子で走って近づいてきた。

 

「どうした?」

 

「何があったの? またおじいちゃんが何か?」

 

「い、いや…そうじゃなくて……」

 

乱れた呼吸を整えることもしないで弾は言った。

 

「なんか…すっげー綺麗な女の人が来て、瑛斗はいないかって」

 

「綺麗な女の人?」

 

「急ぎの用事だってさ。店の前で待ってる。つーか、お前あんな人とも知り合いなのか? IS学園やっぱり半端ないな…」

 

弾の言ってることが今一わからなかったが、俺は少し予感めいたものを感じていた。

 

「…わかった。行こう」

 

俺は少し急ぎ足で五反田食堂に戻る。

 

「どっか行きやがったと思ったら、こんなとこで皿洗いか? 気持ちの整理が聞いて呆れるぞ」

 

黙ってりゃ確かに綺麗な女が出会い頭に文句を垂れてくる。

 

「…オータム、たまにはまともな挨拶したらどうだ?」

 

「はっ! そりゃあ悪かったな」

 

「…どうして俺がここにいるってわかった?」

 

「お前、あのバーに居た時に私達と一緒にいたの忘れたか?」

 

「……………………」

 

オータムの返答は具体的なものじゃなかったけど、大方発信機でも仕込まれたんだろうと察しはついた。

 

「おい小僧、面倒事なら他所でやってくんな。こちとら客商売なんだからな。いくらべっぴんさんでも、店の前で睨み合いなんかされたら困るんだよ」

 

厳のじいさんが眼光を鋭くする。

 

「俺もそんな気はないです。…で、何しに来た? 俺を連れ戻しにか?」

 

「半分はそうだが半分は違うな」

 

「じゃあ何だ?」

 

「もうすぐIS学園にミサイル攻撃が始まる。それをお前に教えに来た」

 

「は………? 今、なん━━━━」

 

何て言った? と聞こうとしたら、蘭が前に出て来た。

 

「み、ミサイル攻撃!? どういうことですか!?」

 

「な…何だお前?」

 

突然出て来た蘭にさすがのオータムも鼻白む。

 

「五反田蘭と言います! IS学園の生徒です! 一応オランダ代表候補ってことで専用機も持ってます!」

 

「へ、へぇ…そいつはご立派なこった」

 

「蘭、待ってくれ。オータム、話が見えない。どうしてIS学園にミサイル攻撃なんてことになる?」

 

聞くとオータムは面倒くさそうに頭を掻いた。

 

「こっちが聞きてーっつーの。バーに戻って、ババァとマスターに聞かされたんだ」

 

「チヨリちゃんとマスターさんが? じゃあ…まさか……!?」

 

「十中八九、いや、確実に幹部会の連中の仕業だろうな」

 

「……………! ふざけんな…!」

 

怒りに身体が震えた。

 

「もうこれ以上…俺の大切なものを奪われてたまるか!!」

 

オータムが歯を見せて笑う。

 

「行くか? IS学園に」

 

「当たり前だっ!!」

 

俺はG-soulを展開した。

 

「そう来なくちゃな。直行すんぞ」

 

オータムもアルバ・アラクネを展開して浮遊する。

 

「私も行きます!!」

 

横から声が弾けた。見れば蘭が専用機のフォルニアスを展開していた。

 

「蘭!? お前何言ってるんだよ!?」

 

弾が蘭の手を掴む。

 

「落ち着け! 何もお前まで行かなくたって!」

 

「学園には友達が…梢ちゃんがいるの!」

 

「でもよ………瑛斗、お前からも何か言ってやってくれよ」

 

止めてくれ、と言われたような気がした。

 

「オータム……」

 

「お前が決めろ。私は構いやしねぇよ」

 

オータムはどちらでもよさそうだ。やっぱり俺が聞くっきゃないか。

 

「……蘭、本気か?」

 

「はいっ!」

 

蘭の目には、どこにも怯えが無かった。

 

こんな目をするやつは、多分来るなと言っても意地でもついて来る。

 

「…わかった。でも無茶はするなよ」

 

「お、おい、瑛斗!」

 

「弾、いい加減にしねぇか」

 

なお食い下がる弾を厳のじいさんが諌めた。

 

「じいちゃん…」

 

「蘭が自分で決めたことだろうが。好きにやらせてやれ」

 

じいさんは静かに言う。

 

「だがよ…………」

 

じいさんが俺をギロリと睨んだ。

 

「瑛斗、おめぇうちの可愛い孫娘に怪我の一つでもさせてみろ? 今後一切、店には入れてやんねぇ…………わかったな!?」

 

「おじいちゃん…」

 

「時間が無ぇ。そろそろ行くぞ」

 

オータムの声が聞こえて、俺は厳のじいさんに自信を持って言った。

 

「任せてくれよじいさん。蘭には、傷一つつけさせない」

 

「…ふん! その言葉、忘れんなよ」

 

そしてじいさんは店の奥に入っていった。

 

「用は済んだな? 行くぞっ!」

 

オータムのアルバ・アラクネが最初に。

 

「あっ、待てよ! 蘭! 俺達も行くぞ!」

 

「はい! みんな、行ってきます!」

 

そしてその後を俺と蘭が追って、空に舞った。

 

「オータム! ミサイルは後どれくらいで学園に来る!? 数は!?」

 

「いっぺんに聞くなっ! …あ?」

 

唐突にG-soulのウインドウにオープン・チャンネルで通信が入った。

 

『やっと繋がったか! 瑛斗、オータム! ワシじゃ! チヨリじゃ!』

 

「あぁ! 聞こえてるよ!」

 

「ババァ! ガキは連れて来た。これから迎撃に向かうぜ」

 

「え? だ、誰と話してるんですか?」

 

前からオータムの話す声が聞こえた蘭は違う。どうやら俺とオータムだけへの通信らしい。

 

『わかった。時間が少ない。要点だけを話すぞ。今IS学園は特殊なフィールドに覆われておる。ISが機能せん。それどころか内部からの脱出も不可能じゃ』

 

「逃げるに逃げられないってことか…ん? なんでチヨリちゃんは知ってるんだ?」

 

『それはじゃな…』

 

『瑛斗くん』

 

ウインドウに映る顔がマスターさんに変わった。

 

『今回の件は前々から幹部会が計画していたものです。チヨリ様には私からお伝えたしました』

 

マスターさんの眼差しは真剣だった。

 

『学園へのミサイル攻撃は白騎士事件の再現。ですが予定通りならばその規模は白騎士事件に比べて小さいはずです』

 

「だとありがたいですね…」

 

白騎士事件で発射されたミサイルの数は記録では2341発以上。それよりも少ないと言ってもかなりの数のはずだ。

 

『チヨリ様の調べた情報ではミサイルはすでに発射が始まっています。学園に到着するまでもう時間がありません…本来なら君が店に来てくれた時に話すべきでしたが……申し訳ありません』

 

「もうなったことです。気にしないでください。後悔するよりも、やることがあります」

 

『手紙は…もうお読みに?』

 

「…まだです」

 

『そうですか…わかりました。こんな言葉を言う資格が私にあるかどうかわかりませんが……ご武運を』

 

頷いてみせると、またウインドウの中の顔が変わる。

 

『瑛斗、オータム』

 

「スコール!」

 

スコールだった。てか、俺のこと呼び捨てかよ。

 

『私のセフィロトは修理にまだ時間がかかるわ。でも、必ず行くわ』

 

「おい、お前車椅子だったじゃねぇか。そんなんで戦えるのか?」

 

「心配すんな!」

 

なぜかスコールじゃなく前を飛ぶオータムが答えた。

 

「私とのキスでスコールは完全回復したんだぜ!」

 

「「キスぅ!?」」

 

突然のカミングアウトに、俺は蘭と声を合わせてオウム返し。

 

「スコールが私にキスを求めて、それに応えたら、スコールは立ち上がったんだ! 私とスコールの愛の力だぞ!!」

 

「あ、愛の力…!」

 

いよいよ蘭は目をぐるぐるさせる。操縦に気をつけろよ?

 

「スコールお前………実は怪我とか嘘…」

 

『……………』

 

画面の中のスコールに半眼を向けると、人差し指を唇に当てた。どうやらそういうことらしい。

 

「任せてよスコール! スコールが出て来る前に、全部終わらせてやるからさ!」

 

気づいてないこいつはバカというかなんというか…。まぁバカか。スコールバカ。

 

『あらあら、頼もしいわね。私の分も残しておいて欲しいわ』

 

『スコール! 馬鹿話しとらんで手伝え! お前のISじゃろうが!』

 

チヨリちゃんの声が聞こえた。こんだけ張れてるってことは元気になったのか。

 

『はい、ただいま参ります。…じゃあ任せたわよ』

 

そして通信は終わった。

 

「え、瑛斗さん……誰とお話を?」

 

「あぁ…まぁなんだ、俺の知り合いとな。それより━━━━━━━━」

 

 

ウゥゥゥ………ウゥゥゥ………!

 

 

サイレンが鳴り響いた。

 

「なんだ!?」

 

「さ、サイレン!?」

 

「ご丁寧に教えてくれたってこったろ。見てみろ」

 

オータムが示したのは、少し遠くに見えるIS学園の中央タワー…よりもさらに遠く。

 

ウインドウに拡大表示されたのは、複数のミサイル群。

 

「もう来やがったぜ……!」

 

「まっ、間に合うんですか!?」

 

「このスピードだとギリギリだな。私のアラクネはまだ本調子じゃねぇし…」

 

「……G-spilit!!」

 

俺はG-soulを第二形態のG-spilitに変化させてビームウイングを開いた。

 

「オータム! 蘭! 俺は先に行く!」

 

「瑛斗さん!?」

 

「おいガキッ!?」

 

(待ってろよ……みんな!!)

 

ビームウイングをはばたかせ、俺はさらに加速した。

 

 

シャルロットは一夏達と同様に逃げ遅れた生徒がいないかを確認し終え、地下特別区画へ向うリフトに急いでいた。

 

(さっきサイレンが聞こえた…きっともうすぐなんだ………)

 

「シャルロット! こっちだ!」

 

リフトに乗った箒がシャルロットのことを呼んでいた。

 

「急げ! もうミサイルが来るぞ!!」

 

「わかってるよ!」

 

走るスピードを上げようとしたシャルロットは、躓いて転んでしまった。

 

「いつっ……!」

 

すぐに立ち上がろうとしたが、右脚に走った鋭い痛みに動きを止める。

 

「シャルロット!!」

 

ラウラの声と、遠くから空を切る音が聞こえた。

 

刹那、シャルロットは凍りつく。

 

「……………!?」

 

ミサイルがシャルロットの今いる位置へ向かってきていた。

 

「立て! こっちに来るんだ! 早く!!」

 

一夏の必死な叫びが聞こえたが、シャルロットは完全に動くことが出来なかった。

 

炎の中に消える自分を思い浮かべ、恐怖に体を凍りつかせてしまったのだ。

 

全てがスローモーションになり、何も聞こえなくなる。

 

シャルロットの頭の中にあったのは、たった一つだけ。

 

━━━━瑛斗。

 

━━━━もっと、話したかった。

 

━━━━もっと、隣にいたかった。

 

━━━━もっと、君と笑っていたかった。

 

━━━━だけど……もう無理みたいだ。

 

硬く目を閉じ、全てを諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォォンッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆音が轟いた。

 

しかしシャルロットに爆炎は届かない。

 

「…………………?」

 

シャルロットはゆっくりと目を開け、何が起こったのかを確かめようと顔を上げる。

 

「あ…………………」

 

シャルロットの目に映ったのは、淡い赤色の、焔のように揺らめく光の翼を広げた、白く輝く装甲。

 

「あ…あぁ…あぁっ…あ…!」

 

瞬間、涙が溢れ出す。

 

間違いない。

 

見間違えるはずがない。なぜならば……

 

なぜならばそれは、その後ろ姿は、ずっと、ずっとそばで見ていたものだったから。

 

「……………瑛斗ぉっ!!」

 

見えない壁を隔て、涙でぼやけた視界に見えたのは、G-soul第二形態・G-spiritを纏う瑛斗だった。

 

 

瑛「インフィニット・ストラトス〜G-soul〜ラジオ!」

 

一「略して!」

 

瑛&一「「ラジオISG!」」

 

瑛「読者のみなさんこんばどやぁー!」

 

一「こんばどやぁ」

 

瑛「来た! 来たぞ遂に俺の出番が! 出番ヤッホゥ!!」

 

一「は、はしゃぐなぁ…」

 

瑛「一ヶ月近く出番が無かったんだぜ! 主人公なのに!」

 

一「そんなになるのか」

 

瑛「本編にようやく顔が出せてこっちにも力が入るぜ! よし! 今日の質問行こう!」

 

一「カイザムさんからの質問! シャルロットに質問です!! 自分は1月に所要でフランスのパリへ行ってきたのですが、観光名所(ルーブル美術館、エッフェエル塔、シャンゼリゼ等)でミサンガ売り(路上の押し売り)に絡まれました。もしもシャルロットがそういうミサンガ売りに絡まれたら、やはり無視するのでしょうか?」

 

瑛「OK! 今日のゲストはこの人! どーぞ!」

 

シャ「しゃ、シャルロット・デュノアです。瑛斗、かなりご機嫌だね」

 

一「久々の本編での出番で普段より三割増しでテンションが高いんだ」

 

シャ「へ、へぇ」

 

一「で、質問の方なんだけどさ」

 

シャ「ミサンガの押し売りかぁ…僕は遭ったことないな」

 

一「ないのか?」

 

シャ「あれってフランス語がわからない観光客とかにするものらしいからね。どっちかって言うとフランスに来た瑛斗の方があう可能性あったと思うよ?」

 

一「瑛斗、お前あったか?」

 

瑛「俺? あー、フランスに行った時か。俺もなかったな。何せチヨリちゃんに大砲で吹っ飛ばされてフランスに行ったんだし」

 

シャ「た、大砲?」

 

瑛「それにフランスに着いてからそんなに長い間いなかったからな。観光目的ってよりも、シャルを連れ戻しに行ったんだしよ」

 

一「…そうだったな」

 

シャ「僕も、あんなに早く学園に帰って来れるなんて思わなかったよ」

 

瑛「結構頭の中それでいっぱいだったからな」

 

一「相当無茶したんだなお前…」

 

シャ「瑛斗…あの時は本当に、ありがとう」

 

瑛「え、あぁ……あれくらい、お安い御用だ」

 

シャ「えへへ……うんっ」

 

瑛「さ…さぁて! 次の質問行くかな。セシリアに質問です!! IS学園に入る前に代表候補生になるために一生懸命勉強したと思いますが、やはり飛び級でケンブリッジやオックスフォードなどのエリート大学で勉強したのでしょうか?」

 

シャ「セシリアへの質問だね」

 

一「なんだか凄そうな質問だな。飛び級とか」

 

瑛「それじゃ今日二人目のゲストだ!」

 

セ「ごきげんよう、セシリア・オルコットですわ。って、なんだか出て来にくい雰囲気ですわ」

 

瑛&一「「え? なんで?」」

 

セ「こ、この人達は思い出したかのように……!」

 

シャ「あ、あはは……」

 

瑛「でさ、質問の方だけどセシリアって飛び級してたのか?」

 

セ「わたくしは確かに代表候補生として事前学習はしてきましたが、飛び級などはいたしませんでしたわ」

 

一「確かに一年の最初のころからセシリアにはISのことよく教えてもらってるな」

 

瑛「だよな。俺から見てもよく理解してるよ」

 

セ「当然ですわ。わたくしは何事においても準備をかかさないのですから!」

 

瑛&一&シャ「「「おぉー」」」

 

セ「わたくしは無駄な時間も作りませんの。あらゆる時間を有効に使っているのですわ。もちろんこのラジオの時間もです」

 

瑛「というと?」

 

セ「ここに来る前までお料理をしていまして。その材料を寝かせていますの」

 

瑛「…………………」

 

一「…………………」

 

シャ「…………………!」

 

セ「? どうしました?」

 

瑛「……あ、もう時間か。それじゃあエンディング!」

 

流れ始める本家ISのエンディング

 

瑛「今日はそこの女の人達に歌ってもらったぞ。なんでも農業高校の生徒と先生らしい」

 

一「農業高校?」

 

瑛「んでもって、元アイドルの人もいるそうな」

 

シャ「す、すごい転身だね」

 

セ「あ、あの、みなさん、よろしかったらこの後お料理のお味見を━━━━━━━━」

 

瑛「あっと時間だ! だいぶ押してる? そりゃヤバい! それじゃあ!」

 

一&シャ「「みなさん!」」

 

瑛&一&シャ「「「さようならー!」」」 脱兎の如く猛ダッシュ

 

セ「あ、え、み、みなさーん!? ……どうしたというのでしょう? そんなに押していたのでしょうか?」

 

 

あとがき

 

お待たせしました!

 

ようやく瑛斗の出番が来ました。次回は瑛斗が大暴れの予感。

 

そんな次回はIS学園防衛戦です。瑛斗だけじゃなく、遅れてやって来る彼女のISにも変化が……な予定です。

 

次回もお楽しみに!

 

ただのミサイル迎撃だけじゃ終わらない! 多分!


 
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