No.664732

九番目の熾天使・外伝 ~短編その⑤~

竜神丸さん

獅子なる魔術師 後編

2014-02-20 12:00:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1441   閲覧ユーザー数:780

「ユーズッ!!」

 

≪Solid Shooter≫

 

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

森林内にて。ロキの放つ魔力弾が何発も飛び交う中、凛は手に持っている剣を回転させ飛んで来る魔力弾を全て弾き返す。

 

「いぃっ!? マジかよ…どうぇいっ!!」

 

凛の振るってきた剣をロキはデュランダルで受け止め、その際の衝撃で敢えて抵抗せずわざと後方まで飛ばされる。飛ばされた先でロキは地面に着地し、木から木へ飛んで接近してきた凛を迎え撃つ。

 

「おいおい、こちとら別に争う気なんて…ぬぉっと!!」

 

「黙れ!! アンタ達管理局なんかに、ウルは絶対に渡さないんだから!!」

 

「はぁっ!? おいおい、俺達は別に管理局の魔導師じゃねぇぞ?」

 

「嘘をつけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「どぉわっと!? いや、別に嘘じゃねぇんだけどな…!!」

 

「管理局じゃないなら何だって言うのよ!! 見え透いた嘘なんざアタシは聞きたくないわっ!!」

 

「あー駄目だこりゃ、聞いてくれないっぽい…」

 

どう説明しようとしても、凛は聞く耳すら持っていないようだ。ロキが溜め息をつくのを他所に、凛の右手中指にはめられている指輪が緑色の光を放つ。

 

「吹き荒れろ……全てを切り裂け!!!」

 

「な、ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

凛の周囲から次々と鎌鼬が発生し、彼女が両手を翳すと同時にロキに向かって襲い掛かる。ロキは持ち前の身体能力で飛来する鎌鼬をスレスレで回避し続ける。

 

(あぁもう、女の子相手にあの能力までは使えないしなぁ~…どうするべきか…)

 

鎌鼬を回避しながら、ロキはこの状況を打破するアイデアが無いかどうか考え続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林内の平地では…

 

 

 

 

 

≪TACKLE≫

 

「ウェイッ!!」

 

ブレイドが一枚のカードをブレイラウザーにスラッシュする事で読み取らせ、イノシシの紋章がブレイドの胸部アーマーへと吸収。そこから強力な突進を繰り出したが、夜薔薇の騎士と黒薔薇の魔女には回避されてしまう。

 

「チッ! やっぱ当たらねぇか…!!」

 

「そんなチンケな攻撃で、私を倒せるとでも思ったかしら? だとすれば屈辱ねっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

アキは魔力の込められた両手を地面に翳し、地面から無数の茨が出現させる。生えてきた無数の茨がブレイドの視界を封じ、ブレイドはアキの姿を見失ってしまった。

 

「くそ、これまた厄介な事しやがる…っと!!」

 

茨の隙間から夜薔薇の騎士が剣を突き立てて来たのに対し、ブレイドは攻撃を回避した後にブレイラウザーに収納されている13枚のカードを広げ、そこからスペードの3が記されたカードを抜き取る。

 

「お熱いもん、かましてやるよ…!!」

 

≪BEAT≫

 

黒薔薇の魔女が放ってきた黒い魔力弾を屈んで回避し、ブレイドはブレイラウザーにそのカードをスラッシュ。獅子の紋章がブレイドの胸部アーマーに吸収される。

 

『…!!』

 

それを見た夜薔薇の騎士はさせまいと言うかのように剣で斬りかかるも、ブレイドはそれを左手に持ったブレイラウザーでガードする。それと同時に、ブレイドの右手拳がエネルギーに包まれ…

 

「ウェアッ!!」

 

『グゥッ!?』

 

カウンターの形で、夜薔薇の騎士の顔面をその右手拳で殴りつけた。一定値以上のダメージを受けたからか、夜薔薇の騎士は殴られた衝撃で地面に倒れ、光の粒子となって消滅する。

 

「!? この…!!」

 

夜薔薇の騎士が倒された事を魔力で察知したのか、アキは周囲に複数の魔法陣を出現させる。

 

頭部に薔薇の生えた妖精らしきモンスター“薔薇の妖精”。赤と緑による縞模様の服を纏い、両方の袖から鞭のように茨を伸ばしたモンスター“ローズ・ウィッチ”。青い薔薇のような意匠を持った、竜系統のモンスター“ブルーローズ・ドラゴン”。レオタードを身に纏い、翼を生やした美女のようなモンスター“魔天使ローズ・ソーサラー”。赤いドレスを身に纏い、赤い翼を生やした女王の風格を持ち合わせたモンスター“凛天使クイーン・オブ・ローズ”。

 

これら以外にも更にモンスター達を召喚していき、アキを中心にモンスターの強力な軍勢が出来上がっていく。

 

「おうおう、こりゃまた苦労しそうだぜ…!!」

 

ブレイドは愚痴を零しつつ、ブレイラウザーから二枚のカードを抜き取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そこから少し離れた位置でも…

 

 

 

 

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあっ!!」

 

「よ、ほっ!!」

 

炎を纏った如意棒を振るうこなたと、一本の神刃(カミキリ)を振るう竜神丸。そして離れた位置からウルを抱えて待機しているイワン。彼等が戦う事で木は圧し折られ、岩は粉々に粉砕され、まさに自然破壊と言っても良いくらいにまでその場の地形がメチャクチャにされていく。

 

「いい加減さぁ、ウルを返しなよ!! 痛い目に遭いたくなければね!!」

 

「おやま、痛い目に遭うのは勘弁願いたいですねぇ。しかし私達も、上司に命令されている身……はてさて、私は一体どうすれば良いのでしょうかねぇ~?」

 

「アンタ等の都合なんて、こっちが知ったこっちゃないっての!!」

 

「おやおや、そうおっしゃらずに。これくらいで怒るようではカルシウムが足りませんよ~?」

 

「余計なお世話だっ!!!」

 

こなたは如意棒を放り捨て、即座に両手を合わせる。すると魔力によって水が生成され、その水流が竜神丸に襲い掛かる。

 

「やれやれ、こんなので私を止められるとでも…?」

 

右手を翳すだけで水流を別方向に受け流す竜神丸だったが、水流が消える頃にはこなたの姿が消えていた。それに気付いた竜神丸の後方で、こなたは素早くイワンに向かって接近する。

 

「ウルを離せぇっ!!!」

 

右足に電流が纏われた状態で、こなたはイワンの胸部に向かって蹴りを放つ。

 

しかし…

 

 

 

-パシュゥゥゥゥゥ…-

 

 

 

「…あれ?」

 

当たる直前で、纏われた筈の電流が消滅。魔力による身体能力強化も効果が消え失せ、結果的にただの飛び蹴りとなってしまったのだ。

 

「……」

 

「え、あ、え…!?」

 

もちろん、普通の飛び蹴り如きでダメージを受けるようなイワンではない。予想外の事態に反応が遅れたこなたの右足を、イワンは右手でガシッと掴む。

 

「あ…にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

そのままイワンはこなたを容赦なく投げ飛ばし、こなたは竜神丸のいる場所まで飛ばされていく。

 

「む? おや、そこにいましたか」

 

投げ飛ばされて来たこなたに気付いた竜神丸は、懐から拳銃を抜き取る。それを左手で構え、こなた目掛けて発砲しようとする。

 

「さぁ、ジ・エンドです―――」

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……なんちゃってねぇっ!!」

 

「!? 何…!?」

 

飛ばされて来たこなたの両手に、竜神丸の能力である筈の神刃(カミキリ)が出現する。自分が普段使っている筈の能力をこなたが発動した事で、流石の竜神丸も驚きの表情を見せる。

 

「まさか、能力のコピー…!?」

 

「そういう事!! さぁ、大人しく自分の能力で自滅しなよっ!!」

 

「チッ…!!」

 

構えていた拳銃を下ろし、すぐに後退しようとする竜神丸。しかし反射速度は、こなたの方が僅かに早かった。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだ」

 

「な、に…ッ!?」

 

すれ違うと同時に、こなたの振るった神刃(カミキリ)が竜神丸の身体を一閃した。拳銃も真っ二つに斬り裂かれ、竜神丸も身体中から鮮血が舞う中で地面に倒れた。

 

「…ふぅ」

 

こなたは一息ついてから神刃(カミキリ)を消し、倒れた竜神丸をチラリと見る。竜神丸は血を流したまま地面に倒れ、ピクリとも動かない。

 

「はん、ざまぁ見ろってんだい……さぁて」

 

こなたは先程放り捨てた如意棒を拾ってクルクルと回しつつ、イワンと正面から対峙する。イワンはウルを左肩に背負ったまま、右手をゴキゴキ鳴らす。

 

(魔法が効かないのは厄介だね。さて、どう攻めるのが吉か…)

 

こなたはイワンと向き合いつつも、どのように攻めるか思考回路を張り巡らせる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや全く、女の底力とは恐ろしいものですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?」

 

こなたは背筋に寒気が走った。

 

今はもう聞こえてくる筈のない声が、後方から聞こえてきたのだから。素早く振り返ったこなたの視線の先では、血まみれのまま倒れている竜神丸が余裕そうな表情でこなたをしっかりと見据えていた。

 

「しかし、これだけで私を倒した気になるとは……やはり、焦りによるものですかね?」

 

「あ、アンタ……何で生きて…!?」

 

「おや、お気付きでありませんでしたか? 私が既に、仕込みを完了してしまっている事に(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「何言って…ッ!?」

 

その時だ。こなたの視界が突如、壊れたテープのように歪み始めたのは。

 

「う、あ…!? な、何なの、さ…これ…!?」

 

どれだけ目を拭っても、視界は歪んだまま元に戻らない。それどころか、今度は彼女自身の身体にも違和感が生じ始める。

 

(!? あ、あれ…身体中が、痛…い…?)

 

その直後、いきなり視界の歪みが消えて元通りになり―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あ、れ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こなたはズタボロ状態のまま、イワンに首を掴まれ持ち上げられていた。

 

「おや、どうやら無事に目覚めたようですねぇ」

 

竜神丸は気楽そうな雰囲気でタブレットを操作し続けており、その近くには未だ目覚めないウルが寝かされている。

 

「ッ……何、これ…!?」

 

「やはり気付いてませんか……しかし無理も無いでしょうね。戦闘の途中から、偽の映像を見せ付けられていた(・・・・・・・・・・・・・・)だなんて、一体誰が気付けましょうか?」

 

「偽の、映、ぞ…う…!? そんな、の…何時から…!!」

 

「さぁ、何時からでしょう? しかし滑稽でしたねぇ~♪ 偽の映像を見せ始めた途端にあなたはその場に突っ立ったまま、何やらおかしな叫び声を上げるわ、何故か自分が勝ったつもりでいるわ、見ているこっちは実に愉快な気分でしたよぉ…アッハッハッハッハッハ♪」

 

「ッ…アン、タ……ゲホ、ゴホッ…!!」

 

「さて。これ以上無駄話をしてもアレでしょうし……少し、眠って下さい」

 

「がっ!? ウ、ル…」

 

イワンによって腹部を軽めに殴られ、こなたは少量の血を吐いてから意識を失った。気絶したこなたは地面に寝かされる。

 

「さてさて。一体どうしてくれましょうかねぇ、この娘は…」

 

撃破したこなたの処遇をどうするべきか、悩みに悩む竜神丸であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「チィ、面倒臭ぇな…!!」

 

視点は変わり、森林内部。

 

凛は相変わらずロキに対して猛攻を加え続けていた。それでもロキは攻撃の一つ一つを的確に防御したり回避したりと、未だ無傷のまま。ジャンプして後方に下がったロキに向かって凛が剣を振り下ろし、ロキもそれをデュランダルで防御する。

 

「さっきから気になってたんだけ…どっ!! アンタのそれ、明らかにデュランダルよね? アンタ自体はどう見ても英霊に見えないけど…!!」

 

「確かにこいつデュランダルだが……生憎、俺は英霊って訳じゃないんでねっ!!」

 

「く、きゃあっ!?」

 

ロキは凛の剣を強引に弾き飛ばし、後ろからの回し蹴りで彼女を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた凛は上手く大木の枝へと飛び移り、手に持っていた一枚のカードから聖剣―――“約束された勝利の剣(エクスカリバー)を出現させる。

 

「ッ…管理局がデュランダルを持ってるのは厄介ね、だったらアタシも本気を出すわ…!!」

 

「おいおい、だから俺達は管理局の魔導師じゃないっての―――」

 

「今、ここに告げる…」

 

ロキが間違いを訂正しようとしたが、詠唱を開始した凛の耳には届かない。

 

「抑止の輪より来たれ……天秤の守り手よ…!!」

 

「!? 何だ…?」

 

凛の足下に出現した魔法陣から、光と魔力の奔流が溢れ出し、周囲は土煙が舞う。ロキは思わず何事かと言うかのような表情を見せるも、土煙が少しずつ強くなってきた事からデュランダルで自身を守るように身構える。

 

「さぁ、ここからが本番よ……夢幻召喚(インストール)…!!」

 

「!! チィ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何面白そうな事してんだ、えぇおい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

突如、何処からか飛来した一発のエネルギー弾が、凛の掲げていた聖剣を大きく弾き飛ばした。それにより魔力による光が弱まり、詠唱も中断される。

 

更に…

 

-ガシャンッ!!-

 

「ッ!?」

 

次に飛来してきたのは手錠だった。手錠はそのまま凛の右手にガッチリとかかり、その直後に凛の中にあった魔力が最小限まで抑えられてしまう。

 

「な、何よこれ…!!」

 

凛は手錠を外そうとするが、外れる気配は無い。しかも魔力が急激に抑えられた所為で、いつも以上の力を引き出せない。

 

「あぁもう!! 何で魔力が―――」

 

「うぉらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「な…キャアッ!?」

 

草木の中から、軍刀を構えたデルタが猛スピードで飛来。手錠を外そうとしていた凛は彼によって容赦なく蹴り飛ばされ、大木に背中から叩きつけられる。

 

「よう? 小娘、随分と活きが良いじゃねぇか……お前は俺を楽しませられるか?」

 

「ゲホ……アンタも、管理局なの…!!」

 

「あぁ? おいおい、管理局の連中なんぞと一緒にすんじゃねぇよ……まぁ良いや。テメェも俺を楽しませてみろやぁっ!!!」

 

「ッ…だったら!!」

 

凛はバリアジャケットの袖から、また一枚のカードを取り出そうとする。

 

「はん、させるかよっ!!」

 

「あ…!?」

 

しかし残念ながら、デルタがそれを許さない。デルタは凛の手を素早く蹴り上げ、カードが彼女の手から落ちるのを確認してすぐに急接近。軍刀を逆手から順手に持ち替え、デルタは凛に向かって容赦なく襲い掛かる。

 

「はっはぁ、どうしたどうしたっ!! 何も出来ねぇか!? あぁん!?」

 

「ぐ、この…!!」

 

聖剣を拾う暇も与えられず、凛は仕方なく短刀で応戦。しかし彼女が現在相手取っているのは、いくつもの戦場を渡り歩いて来た歴戦の戦士。デルタの方が実力も圧倒的であり、あっという間に凛を追い詰めていく。

 

「くそ、魔力が…!!」

 

「大変だろうなぁ? 魔力を大幅に押さえ込む為の、特殊な手錠をかけられちまったんだ……魔導師にとっては致命的だろうなぁっ!!!」

 

「キャッ!?」

 

短刀すらも弾き飛ばされ、凛はデルタに首元を掴まれ近くの岩に押さえつけられる。

 

「ぐ、くぅ…!!」

 

「ほぉう? まだやる気があんのか、根性あるじゃねぇか……んだがぁ」

 

デルタは懐から複数のカプセルを取り出し、足下にパラパラと振り撒く。

 

「悪いな。たった今、俺が飽きた」

 

「な…キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 

デルタがその場から素早く飛び上がると同時に、振り撒かれたカプセルが一斉に爆発。魔力が最小限まで抑えられていた挙句、爆発寸前までデルタに取り押さえられていた凛がすぐに逃げられる筈も無く、そのまま大爆発の中に飲み込まれてしまった。

 

「…酷ぇ事するなぁオイ」

 

離れた位置で大爆発を眺めていたロキ。あまりに一方的過ぎる戦いに、彼は先程まで敵対していた凛の方に同情してしまっている。

 

数分後に爆発の煙が晴れ、中から凛の姿が見えてくる。

 

「ッ……う、あ…ぁ…!!」

 

爆発する前に残っていた魔力を限界まで使用し、防御魔法を張ったのだろう。凛はまだどうにかその場に立てていたが、無事なのかと言えばそうでもない。爆炎でバリアジャケットが焼かれた事で肌の露出が多くなっており、胸元やスカートなどがボロボロながらも辛うじて残っている状態。凛自身も既に足がガクガク震えている事から、立っている事だけでもやっとなのだろう。

 

「おらよ…とぉっ!!」

 

「ッ…!?」

 

そんな凛の後ろに立ったデルタは彼女の頭を掴み、そのまま地面に叩きつけた。顔面から地面に叩きつけられた凛は力尽きてしまったようで、顔面が瓦礫の中に埋もれたままピクリとも動かなくなってしまった。

 

「おいおい、容赦無さ過ぎだろデルタさん…」

 

「ロキか……テメェ、こんな小娘一人を相手に何を手こずってやがる? まさか、また女だからって手を抜いたって訳じゃねぇだろうなぁ?」

 

「うぐ……デルタさんのお手を煩わせて、申し訳ありませんでした」

 

「…まぁ良いさ。今回の件については俺もこれ以上は特に何も言わねぇ。ただし」

 

デルタはロキに、右掌を上に向けた状態で突き出す。

 

「? …えぇっと?」

 

「さっきのカプセルボム、威力は高ぇがコストも高くてなぁ……お前なら、仲間の為に開発費をいくらか出してくれるよなぁ?」

 

「へ? え、あの、デルタさん、流石にそれはちょっと…」

 

「出・す・よ・な?」

 

「…ハイ、分カリマシタ」

 

この日、ロキの財布が軽くなる事が決定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ABSORB QUEEN≫

 

アキ率いるモンスター軍団と戦っていたブレイド。彼は左腕に取り付けられている装備“ラウズアブゾーバー”にスペードのQが記されたカードが装填される。

 

更に…

 

≪FUSION JACK≫

 

スペードのJが記されたカードが、ラウズアブゾーバーにスラッシュされる。荒鷲の紋章が胸部アーマーに吸収され、頭部やアーマー各部が金色となり、背中には飛行する為の翼が装着される。そしてブレイラウザーの刃先が伸び、よりリーチの長い武器となる。

 

「ふぅぅぅぅぅぅぅ…!!」

 

強化形態“ジャックフォーム”へのパワーアップが完了されたブレイド。左手に持っていたブレイラウザーを右手に持ち替え、姿勢をゆっくり下げながら構える。

 

「ウェイッ!!」

 

『ギギャアッ!?』

 

ブレイドは背中の翼で宙に舞い、空中から襲って来たブルーローズ・ドラゴンを叩き落とす。地上からはローズ・ウィッチが茨の鞭を振るって来るが、ブレイドはそれらも全て斬り裂き、華麗に空中を飛び回る。

 

≪SLASH≫

 

≪THUNDER≫

 

二枚のカードがスラッシュされ、強力な電流がブレイラウザーに走る。空中を飛んでいたブレイドは途中で大きくUターンし、地面スレスレの状態から一直線にモンスター達の下まで迫る。

 

≪LIGHTNING SLASH≫

 

「ウェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイッ!!!」

 

『『『『『シャァァァァァッ!?』』』』』

 

すれ違い様にブレイラウザーがモンスター達を斬り裂き、モンスター達は光の粒子となって次々と消滅していく。ブレイドは地面に着地し、背中の翼も折り畳まれる。

 

「小癪な…!!」

 

召喚したモンスターの半分程が倒された事でアキは忌々しそうな表情になりつつも、自身の真上に巨大な魔法陣を出現させる。

 

(チューナーの準備は完了してる……こうなったら、こいつで潰す!!)

 

「ん、何だ…ッ!?」

 

アキが出現させた魔法陣から強大な魔力を感知し、ブレイドは振り返ってから素早く構える。

 

「冷たい炎は、全てを包み込む……漆黒の華よ、ここに開け!!」

 

「!?」

 

膨大な魔力が巨大魔法陣へと集まっていき、ブレイドはより一層警戒心を強める。

 

「シンクロ召喚!! 現れよ…ブラック・ローズ・ドラゴンッ!!!」

 

『グォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!』

 

薔薇の花弁に包まれた深紅の竜―――“ブラック・ローズ・ドラゴン”が巨大魔法陣から出現。アキの後方に降り立ち、高く吼え上がる。

 

「ッ……こいつはまた、面倒なのを出しやがったな…!!」

 

ブレイドはジャックフォームから通常形態へと戻り、また一枚カードをブレイラウザーから抜き取ろうとする。そんなブレイドに攻撃するべく、ブラック・ローズ・ドラゴンが空中へ飛び上がろうと翼を大きく広げた……その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オォォォォォォォォ…ッ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、ブラック・ローズ・ドラゴンはある方向を見て、突然咆哮をやめてしまった。広げていた翼も閉じてしまい、結局空中へも飛ぼうとしない。

 

「!? どうしたの、早く飛んで攻撃しなさい!!」

 

アキが命令するも、ブラック・ローズ・ドラゴンは飛ぼうとしない。それどころか、ある方向を見据えたままガタガタと震え始めた。

 

「な、何、どうなってるのよ…!?」

 

「?」

 

ブラック・ローズ・ドラゴンだけでなく、他のモンスター達までもが、ある一点の方向を見据えたままガタガタ震え始めた。それは武者震いとかではなく、まるで“何か”に対して恐怖しているかのような震えだ。

 

流石のブレイドも、この状況には首を傾げる。

 

「な、何なんだ急に…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれだ。妙に騒がしいと思えば、こんな事になっていたとはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!!」」

 

声が聞こえた方向に、ブレイドとアキはほぼ同時に振り向いた。

 

「な…団長!?」

 

「む? その声、支配人か」

 

声の正体は他でもない、団長のクライシスだった。黒いトレンチコートに身を包み、頭には黒いシルクハット、右手に一本の杖を持っている。

 

「また色々と苦労したようだな。大丈夫だ、変身を解除して構わない」

 

「は、はぁ…」

 

ブレイドはひとまず頷くと、バックルのレバーを引いてからカードを抜き取り、変身を解除。支配人の姿に戻る。それを見たクライシスは小さく笑ってからアキの方へと振り向き、アキは彼が醸し出している風格に思わずビクッと反応しつつも、何とか強気で彼と話そうとする。

 

「な、何よアンタ!? いきなり戦いに割って入って来て…!!」

 

「あぁ、すまないね。私の仲間とだけで勝手に話してしまった……しかし君と話をするのには、少々邪魔な生物達もいるようだね」

 

クライシスはアキの周囲にいるモンスター達やブラック・ローズ・ドラゴンを軽く見据える。

 

「何、少しの間だけで構わない……君達」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“席を外したまえ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『ッ!!!』』』』』

 

優しそうな笑顔。

 

その笑顔だけで、ブラック・ローズ・ドラゴンを含めモンスター達は恐怖心が頂点へと達し、一斉に魔法陣を通じてその場から逃げ出してしまった。

 

「な!? ちょ、ちょっと皆!? 勝手に何処に―――」

 

「失礼、お嬢さん」

 

「ッ!?」

 

モンスター達が許可なく勝手にその場からいなくなってしまった事で、完全に普段の冷静さを失ってしまったアキ。そんな彼女に、クライシスは無音で間近まで迫る。

 

「もしや君は、あの少年君の知り合いかね?」

 

「ッ…そうだと言ったら何だって言うのよ…!!」

 

「ふむ、その返事は肯定と受け取って良さそうだな……ではここに来たのも、彼を助けようと思っての魂胆なのかね?」

 

「あ、当たり前じゃない!! 私達はウルを助ける為なら、相手が誰であっても潰してやる!! アンタ達管理局なんかに、ウルは絶対に渡さない!!!」

 

「…ほう」

 

(あ、馬鹿…ッ!?)

 

アキの発言を聞いたクライシスは興味深そうな表情を見せ、支配人は顔を青ざめたまま急いでその場から離れる。

 

「誰であっても、ねぇ…」

 

クライシスは自身の顎を触りながら、少し考える仕種をし始める。

 

「…では問おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはたとえ、私であっても変わりは無いという事だね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…!!?」

 

―――瞬間、その世界の全てが震撼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ッ!!?」」

 

離れた位置にいたデルタとロキも、威圧感を感じ取った事でほぼ同時に振り向く。

 

「お、おいデルタさん、今のって…!?」

 

「あぁ、そのようだぜ…!!」

 

ロキだけでなく、あのデルタですらも感じ取った威圧感に冷や汗を流す。

 

「おいおい……試すのにはちょいと強過ぎだろうがよ、クライシス…!!」

 

威圧感を感じつつも、デルタは小さく笑みを浮かべてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に、別の場所でも…

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

竜神丸もまた、その威圧感を感じ取る事で若干冷や汗をかいていた。彼と一緒にいるイワンも、思わず戦闘態勢に入ってしまった程に。

 

「初対面の相手に対して、少しやり過ぎじゃないですかねぇ……む?」

 

ここで、竜神丸は気付いた。

 

彼等の近くに寝かされているのはこなたのみで、ウルの姿は何処にも無かった事に。

 

「? まさか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何だってんだこりゃあ…!!」

 

そしてハルトと美由紀の二人も、この世界に無事到着していた。しかし到着すると同時に例の威圧感を感じ取り、ハルトはウィザード・フレイムスタイルに変身してからテレポートリングを使い、美由紀と共に威圧感の感じる場所まで転移する。

 

「よし、何とか着い…ッ!?」

 

「ひ…!?」

 

そして、二人が転移した先では…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んむ、いかんな。少しプレッシャーが強過ぎたか…?」

 

「あ、あぁぁ…ぁ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライシスと正面から向き合った状態のまま、顔が青ざめたまま腰が抜けているアキの姿がった。

 

「アキッ!?」

 

「ッ…!? な、何ですか、あれ…!!」

 

ウィザードは目の前の光景を見て戦慄し、美由紀もあまりの威圧感に思わず口元を押さえる。

 

(何だ……何なんだありゃ…!!)

 

ウィザードは仮面の下で汗が流れるのを止められなかった。今、視線の先に見えている一人の男を見てハッキリと感じ取れたからだ。

 

 

 

 

 

 

あの男は、他とは次元が違い過ぎるのだと。

 

 

 

 

 

「ッ…美由紀ちゃんはここにいろ!!」

 

「え、ハルトさん!?」

 

≪ハリケーン・プリーズ! フーフー・フーフーフーフー!≫

 

美由紀をその場に残したウィザードはハリケーンスタイルにチェンジし、風の力でクライシス達の下まで一直線に飛んで行く。

 

(くそ、間に合ってくれ…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おぉう……団長のアレ、本当に凄ぇプレッシャーだな…!!」

 

大木の陰から支配人がこっそりと覗き込んでいる中、クライシスの威圧感に押されたアキは顔を青ざめたまま動けなくなっていた。

 

「むぅ、いかんな。最近はあまり外に出ていないものだから、加減の仕方がよく分からん…」

 

「あ……ぅ、ぁ…!!」

 

「おっと、まだ動いてはいかんよ」

 

「ひぅ…!?」

 

恐怖に耐えられなかったアキはその場に俯こうとしたが、クライシスが杖で彼女の顎を上げた事で、二人の視線がバッチリ合ってしまう。

 

「しかしこれでもまだ気絶しない辺り、見所はありそうだな……なるほど、あの少年の度量も何となくだが窺える」

 

「う、ぁ…!!」

 

恐怖で涙も止まらず、アキの精神は限界に達する寸前である。

 

その時…

 

 

 

 

 

 

-ガシィッ-

 

 

 

 

 

 

「…む?」

 

クライシスの杖が、ある人物の手に掴まれた。その人物は、とうとう限界を迎えて倒れそうになったアキを右手で受け止める。

 

「!?」

 

それを見たウィザードも、一旦その場に止まって地面に降りる。

 

「君は…」

 

「ハァ、ハァ、ハァ…!!」

 

「ッ……ウ、ル…」

 

杖を掴んだのはウルだった。息が絶え絶えの状態でありながらも、クライシスに対して鋭い目を向けていた。そんな彼に受け止められたアキは、ウルの名前を呟きながら意識を失ってしまった。

 

「……」

 

「ハァ、ハァ、ハァ……ウ、ゥ…」

 

クライシスを睨み続けるウルだったが、結局は彼の放つ威圧感に負けたのだろう。ウルは途中で掴んでいたクライシスの杖をゆっくり手放し、アキを抱きかかえる形でその場に倒れて再び意識を失ってしまった。倒れている二人を見下ろしながら、クライシスは無言で考え続ける。

 

(この少年、中に一匹“飼っている”という事か。道理で精神が強い訳だ……それに)

 

先程クライシスを睨みつけた、ウルのあの視線。絶対に手は出させない、自分が相手になってやる。まるでそんな意志を示しているかのように、まるで“獅子”の如く鋭い目だった。

 

(…なるほど、良いかも知れんな)

 

「団長」

 

「!」

 

クライシスの下へ支配人、デルタとロキ、更に竜神丸とイワンもやって来た。ちなみに凛はロキの右肩に担がれる形で、こなたはイワンの脇に抱えられる形で運ばれて来た。

 

「む? その娘達は…」

 

「ウルティムスの仲間でしょう。恐らく我々が保護していた彼の傷を見て、私達の事を管理局の魔導師だと勘違いして、襲い掛かって来たのだと思われます。ひとまず気絶はさせましたが、命までは奪っておりません」

 

「そうか。では目覚め次第、私の方から彼等に謝罪しておかなければならんな…」

 

「なぁ、アンタ達…」

 

「「「「「!」」」」」

 

クライシス達の前に、ウィザードが駆け寄って来た。ウィザードは彼等の前で変身を解除し、ハルトの姿に戻る。

 

「指輪の魔法使い、ウィザードか……君も少年君の仲間かね?」

 

「!? アンタ、何で俺の事が…」

 

「君も彼と同じだ。中に一匹、“飼っている”のだろう?」

 

「ッ!? …そんな事まで分かっちまうのか」

 

「こちらにも、色々と知識があってね」

 

「…!! ウルさん!!」

 

移動して来たのか、美由紀が急いで気絶しているウル達の下まで駆け寄って来た。そんな中で、ハルトはクライシスと正面から向き合う。

 

「さて、君も彼の仲間であるのならば話は早い…………すまなかった」

 

「え…!?」

 

「「「「団長(クライシス)!?」」」」

 

シルクハットを脱いだクライシスはハルトに頭を下げ、頭を下げられたハルトだけでなくそれを見ていたデルタ達も驚きの声を上げる。

 

「な、ちょ、何で急に…!?」

 

「力量を見極めるという名目で彼等を試すようなマネをした上に、他の娘二人の事もかなり傷付けてしまった。今回の件は、我々に非がある」

 

「…さっきの話、こっちにも聞こえてたよ。アンタ達がウルを保護したところに、アキ達が勘違いして襲って来たんだってな……アンタ達、一体何者なんだ?」

 

「…ふむ。まずはそこから話すのが良いかも知れんな」

 

 

 

 

 

 

「ウル!!」

 

「ウル兄ちゃん!!」

 

「ほい、到着しましたっと……んあ?」

 

「任務を終えてから来てみりゃ……何だこの状況?」

 

アスナと咲良のペアが到着し、更に任務を終えてきたmiriとガルムもこの場に到着した。そんな中でクライシスは再びシルクハットを被り、ハルトに対して名乗りを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名はクライシス。No.1として、OTAKU旅団を率いている者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうしてウルティムス一行は、OTAKU旅団と関わりを持つ事となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は現在に戻る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んで、そのまま加入したってか?」

 

「まぁ、そういう事になりますね」

 

OTAKU旅団アジト楽園(エデン)、食堂。

 

そこでディアーリーズとハルトの二人は、FalSigやルカ、そしてBlazに対して旅団加入経緯を話し終えていた。この三人はディアーリーズよりも後に加入しているからか、ディアーリーズの加入経緯についても今までよく知らなかったのだろう。

 

「その後はアキ達もちゃんと誤解が解けて、今回の件はお互い様という形で済みました」

 

「そうだったんですか…」

 

「しっかし、色々と災難だったな。よりによって団長の威圧感をぶつけられる羽目になるとは…」

 

「あぁ~…実はその事で、なぁ」

 

「えぇ、そうですね…」

 

「「「?」」」

 

「取り敢えず、アキも団長さんと和解は出来たんですけど…」

 

「…真正面から団長に威圧されたのが原因で、すっかり団長恐怖症になっちまってな」

 

「「「何その症状、新しいなオイ」」」

 

「泣き止ませるのに凄く時間がかかりましたよ、はい…」

 

どうやらあの件以来、アキは団長さんに対して若干のトラウマが出来てしまったらしい。その時の光景が脳裏に浮かんできたからか、ディアーリーズは遠い目をしながらアハハと乾いた笑い声を上げる。

 

「随分と苦労してきたんだな、お前等も」

 

「えぇ、まぁ…」

 

「ディアはさ、後悔はしてないの? 旅団に入ってから」

 

「…後悔、ですか」

 

FalSigの問いかけに、ディアーリーズは少しだけ黙ってから再び口を開く。

 

「…少なくとも、僕達が旅団の皆に会った事についての後悔なんてありません」

 

「? ほう、何故だ?」

 

「先に僕を拾ったのは、確かに旅団の方です。でも旅団に入ると決めたのは私自身、これは僕が選んだ道です。例え選んだ道の先で僕が死ぬ事になろうとも、それが選択の結果であるならば僕はそれを受け入れます。まぁ、当分死ぬつもりなんて微塵もありませんけどね……こんな作り物な人形の事を本気で愛してくれている、彼女達の為にもね」

 

「…あぁそうかい。ま、何だかんだで良いんじゃねぇの? それも」

 

Blazはテーブルに足をかけたまま素っ気無い感じで告げるも、その口元は小さく笑っていた。FalSigやルカも同じく笑みを浮かべている。

 

「「「「ウルー!」」」」

 

そこへ、アキやこなた、アスナに凛も駆けつけて来た。その後ろからはみゆきや美空、そして咲良もトコトコ走ってやって来る。

 

「へ? 皆、いきなりどうしたの?」

 

「ウル、今ちょうどミッドでバーゲンセールやってるからさ! 一緒に買い物行こうよ!」

 

「買い物!? いや、買い物なら少し前に行ったじゃな…」

 

「何言ってんのよ! いつ安くなるか分からないんだから、安い時に買っておくのが吉でしょうが!」

 

「とにかく、ウルも一緒に来なって! みゆきちゃんや美空ちゃんだって、ウルが一緒に来る事を望んでるんだからさ!」

 

「「…一緒に、行きたいです」」

 

「うぐ……はい、分かりましたよ。僕も行きます」

 

流石のディアーリーズも、みゆきと美空に上目遣いをされては断れないのだろう。アッサリ買い物デートを了承してしまった。

 

「よし決定、んじゃ早く準備しよ!」

 

「ちなみに、どの服が似合うかどうかはウルに見て貰うから」

 

「へ!? ちょ、それはもういい加減にやめ…」

 

「「「「しゅっぱーつ!!」」」」

 

「あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

やはり女子の底力は強かった。アキ、こなた、アスナ、凛の四人がディアーリーズを抱え上げ、そのままディアラヴァーズと咲良はディアーリーズを連行し、あっという間に去って行ってしまった。

 

「「……」」

 

「…これまた、随分と活発な女共だよ」

 

「ナッハッハッハ」

 

FalSigとルカは呆然とし、Blazは苦笑いし、ハルトは面白そうに高笑いする。

 

「ところでハルト」

 

「んお?」

 

「お前はどうなんだ? 旅団に関わるようにかってからの後悔は」

 

「俺か? そうだな……うん、俺も特に後悔は無いな。この楽園(エデン)での生活も不自由が無くて良いし、ウル達や旅団の皆と一緒にドンチャン騒ぎすんのもかなり楽しいし、それに…」

 

「あ、ハルトさん!」

 

話していたところに、ルイがやって来た。

 

「ん? ルイちゃん、どうしたんだ?」

 

「実は今日、福引きで遊園地のチケットを二枚分貰って……もし良かったら、今からでも一緒に行きませんか?」

 

「お? 遊園地か……良いぜ、今から行こうじゃないの」

 

「ありがとうございます!(やった、何とか誘えた…!)」

 

ルイが喜んでいるのを見てから、ハルトはBlaz達の方を振り返る。

 

「ま、こういう訳だ。分かったろ?」

 

「…あぁ、確かによく分かった」

 

「?」

 

Blaz達も楽しそうに笑みを浮かべ、何も知らないルイは笑っている彼等を見て首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命に惑わされし、獅子なる魔術師。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼の行く末に存在するは、希望か、絶望か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それを知る者は、まだ誰もいない…

 


 
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