No.661247

外史異聞伝~ニャン姫が行く~ 第一篇第五節

竈の灯さん

ご無沙汰しております。

久々の、半年以上ぶりの投稿になってしまいました。

読んでいただければ幸いです。

2014-02-07 16:54:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:905   閲覧ユーザー数:830

第一篇第五節 【昨日は敵。今日は何?のこと】

 

 

寝床と囲炉裏のある居間しかない村長の家の離れには、朝日が差し込んできている。

 

「北郷君。見ているのは良いけど、その殺気はいただけないわ」

 

どこか肌寒さを感じる中、左慈と于吉の診断をしている華陀が、出入口の枠を背に二人を睨む一刀を窘める。

 

「しかし

 

「しかしも案山子もないの。まったく」

 

…す、すみません」

 

その男たちが如何に危険か言うために口を開こうとした一刀だが、それを聞く気のない華陀は打ち消すように言葉を重ねる。一刀が謝罪の言葉を口にするが、気にも止める様子もない。

 

「さてと、于吉さんと左慈さんでしたか」

 

「はい、何でしょうか」

 

于吉と名乗った青味がかった黒い長髪に眼鏡を掛け、知的な雰囲気を持つ青年が、衰弱しているものの、顔を華佗に向けるとハッキリとした返事を返してくる。

 

数秒ほど、その表情を観察した華佗は、微笑みを浮かべ、一人コクコクと頷くと口を開く。

 

「さて、まずは、あなたならば言わずともご理解しているでしょうが、身体中の気の流れに乱れがあります。なので、落ち着くまでは、安静にしていてください。また、左慈さんの右手の火傷ですが、ひと月程患部の治療が必要でしょうが、軽く動かす程度であれば、支障はないでしょう。ただ、傷の痕は残ることになります」

 

「…」

 

「…ところで、華佗さん?」

 

「なんでしょう?」

 

「なぜ、私なら理解していると?」

 

「それは爪の間から薬草の香りが…!?北郷君、後はよろしく」

 

そう言うと、頬を赤くさせながら急に慌てだした華佗は、一刀の脇から急いで出ていった。

 

「「?」」

 

「はぁ。鈍感ですね、まったく」

 

華佗の様子を不思議そうに見る一刀と左慈に于吉が思わず一言が零す。

 

「…」

 

嫌味を言われたことに気付いた一刀は、不機嫌そうに于吉を睨む

 

しかし、今一つ于吉の言ったことを理解が出来ていないようだ。

 

「本当に鈍いのもここまでくれば罪ですね。彼女は、指の匂いと言ったじゃないですか」

 

于吉は、未だに理解できていない一刀と左慈の様子に呆れながら、自分の指を自分の鼻に近づける。

 

「こうしないと匂いは確かめられません」

 

そこで一刀は、理解の色が見せるが、目の前の男たちが誰なのかを思い直し、気を引き締める。

 

「まあまあ、そんなに睨まないでください。左慈であればいくらでもウェルカムですが、他の男からは気持ちのいいものではありません。ここは実りのある話をしようじゃありませんか」

 

「実りのある話…」

 

今までの彼の行動を考えると、とても信用できない一刀。そんな様子を見返す于吉は、苦笑すると口を開く。

 

「ええ、実のりある話です。“今”を把握することは重要だと思うのですが、どうですか?これでも何度となく外史を渡ってきた元管理者です。少なからず知識を持っていますよ」

 

「…于吉」

 

于吉の言葉が気に食わなかったのか、不機嫌そうに声を出した左慈。

 

「左慈。恐らくですが、私たちは、“今回”の管理者ではないですよ。法術も使えなければ、他の管理者とも話すことの出来ない私たちに何が出来るのですか?」

 

「目の前のそいつを殺すことはできる」

 

「…」

 

はっきりとそう口にした左慈から一刀に向かって殺気が放たれる。それを正面から受けた一刀の身体に緊張が走るが、引くことはせず睨み返す。

 

一刀自身、左慈との実力差を理解しているからこその開き直りではあった。

 

一方、左慈の予想していた一刀の反応とは違い。対応出来ず、ただ睨み合うこととなってしまいる。

 

「左慈、ここで北郷一刀を殺したとしてもこの外史が終焉を迎えるとは限らないのですよ」

 

「なに?」

 

話が進まないと理解した于吉は、睨みあう二人の視線を遮るように、手を上げながら左慈に話しかける。

 

「よく思い出してください。私たちの巡った外史の中で華佗が女だったことはありましたか?」

 

「…ない」

 

邪魔をした于吉を睨む左慈だが、于吉からの質問に一拍置いて答える。

 

「そうです。あの猫の外史ですら、華佗は、雄でした。しかも、今回は、鏡が私たちの常識外の現象を起こした。何があってもおかしくない」

 

「待て、于吉。華佗が女だという時点で、すでにここが外史だr…」

 

一刀の存在を気にしていられなくなった左慈は、于吉の言葉を否定しようとするが、何かに気付いたように目を見開き、言いかけた言葉を止める。

 

「気付きましたか?」

 

「…この世界が外史からも正史からも逸脱している可能性か?」

 

「そうです。華佗が女だった外史があり得ないわけではないですが、ただ説明が出来ないことがあるのですよ」

 

そう言うと突然、于吉は、一刀の立つ入口に目を遣る。

 

「ここは、私たちの管理・観察してきた今までの外史と明らかに違う相違点それが彼女です」

 

「数多?」

 

于吉の目線の先、一刀の隣には、大煌を従えた数多が立っていた。

 

「そう、彼女です。彼女は誰ですか?北郷一刀」

 

于吉の少し切れのある目が細められ、一刀に問いかける。

 

「あまたはね!せいふらんちしかがくえん、ふじょく、よーちえん、ぴひょんり、よんさい、ほんごうあまたです!」

 

しかし、一刀が答えるより先に、自己紹介を始める元気いっぱいの数多。そのあまりに場違いなあいさつに和やかなというかなんとも言えない雰囲気を醸し出す。

 

「俺の、彼女たちの娘だ」

 

しかし、一刀はそれで、何か整理が付いたのか、顔を綻ばせ彼女の頭を優しく撫でる。“ぴひょんり”って何だと考えたのは、一刀の胸の奥n…

 

「“ピソンリ”は“たんぽぽ”のことですよ。胸の名札が、たんぽぽでしょ」

 

と于吉に指摘され、全然隠せていない一刀。しかも、名札もただの黄色い花だと思っていたが、よくよく思い出してみれば、自分のクラスも花の名前だったことを思い出す。

 

「コホン。さて、彼女たちのですか。その経緯教えてくださいますか」

 

于吉は、わざとらしく咳をすると、改まって一刀に問い返す。

 

一瞬どうするか考える一刀だが、ここがどんな世界なのか興味がないわけではないし、彼女たちがどうなったのかも知りたいと思う自分に正直なることにした。

 

「あの鏡が光った後…」

 

一刀は、この世界で目覚める前にあったことについて語るのだった。

 

 

 

つづく


 
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