episode241 黒獅子と駆ける者
あの後事故の後処理をしてシノンを迎えに行ったが、案の定毒舌の嵐を受ける羽目に。
まぁ色々と遭ったが、シノンと颯を連れて家に帰り、全員ではないが、家族団欒で色々と話した。
颯とシノンの話によれば、IS学園は十二年前とは比べ物にならないぐらいまで発展し、生徒の数も数倍以上までに居ると言う。
更に驚くべき事は、ISの数が多くなっているという事で、旧式化した打鉄やラファール・リヴァイブを訓練機として、生徒一人一人に貸し与えていると言う豪華っぷりだが、奪われる事を防ぐ為、管理はかなり厳重になっている。
しかしそれを踏まえれば、腕に自信がある者はその貸し与えられているISを返す時に元に戻しておけば好きにカスタマイズしていい事になっているらしい。
颯とシノンは学園の先生として生徒からは人気が高いらしく(そりゃ隼人の妹二人となれば人気だわな)、よく話し掛けられることがあるとの事。
その日の夜遅く。
「すまんな。こんな夜遅くに呼び出したりして」
「構いませんよ。千冬さんからの呼び出しですから」
隼人はサングラスを取って胸ポケットに入れる。
「それにしても、久しぶりですね」
と、隼人はグラスを手にする。
「そうだな。確かに、久しぶりだな、隼人」
向かい側に居る女性・・・・・・千冬もグラスを手にして、隼人の持つグラスと軽く当て合う。
千冬は完全に引退した後、IS学園の教頭となり、IS学園の運営を任されている。
十二年経った今もその容姿に衰えは無く、腕も未だに世界最強レベルだという。
「しかし、お前と酒が交わせるとなると、面白いものだな」
「そうですか?」
グラスに入っている酒を一口飲むと、隼人の顔が少し歪む。
未だに酒の苦さに慣れない。と言うか少し苦手な所がある。
「ハッハッハッ。まだまだ子供だな」
「子供ですか。それにしてもよくこんな苦い物がごくごくと飲めますね」
「いずれ分かるさ。酒のおいしさがな」
と、グラスを傾けて多くゆっくりと飲む。
「それにしても、お前の部隊の評判はうなぎ上りだな。まぁお前なら造作の無い事かもしれんが」
「造作が無いって、努力の結果ですよ」
「努力か。まぁ、それもそうだな」
「しかし、本当に以外だったな」
「何がですか?」
「お前がこの道を選んだ事だ。お前ほどのやつならば、IS学園で教師になった方がよかったと思うぞ」
「教師ですか。俺はそんな器じゃないですよ」
「よく言う。一夏達をあそこまで鍛え上げたのだ。生徒に教える事など出来るはずだろ?」
「かもしれませんね。でも、俺にはやる事が出来た。それだけですよ」
「やる事か」
千冬はグラスを口につけて傾け、酒を飲む。
「バインドが滅んで、世界は平和になった。でも、平和になっても、自然災害によって命を落とす人も居る。未だに民族間やゲリラと政府軍の紛争など、人と人の間に起こる争いが消える事は無い。
そして、多くの命が今でも、どこかで消えていく。完全な平和など、ありません」
「・・・・」
「でも、そんな世界でも、俺は・・・・少しでも命を救いたい。全ての命が救えなくても、救える命を救いたい」
「だから、レスキュー活動を行うIRを結成したのか」
「えぇ。エゴや自己満足とか、そう思われるかもしれませんが」
「私は少なくとも、そうは思わんよ」
「そうですか」
隼人はグラスを口につけて傾け、酒を飲む。
「まぁ最初は色々と偏見や罵倒などを言われて、事故もありましたが、みんなに助けられて今に至ると言うわけです」
「そうか。お前らしい理由で、お前は変わったな」
「人は変わるものですよ」
「そうだな」
二人はグラスを傾けて酒を飲む。
――――――――――――――――――――――
しばらく隼人と千冬は酒を飲み続けたが、隼人は酔う事は無かったが、千冬は酔って途中まで送って行った。
「・・・・」
夜の風が肌に当たって少し肌寒いが、酒を飲んだ為か、身体は温かいので問題は無い。
(色々と、あったな)
上を見上げると綺麗な満月が昇っていた。
(これからも色々とあるだろうが、必ず世界は守る。そして、家族もな)
内心で呟くと、前から一人の女性がやって来る。
「隼人」
「簪?」
その女性は簪であった。
「どうしてここに?」
「迎えに行こうと思ったの。少し遅いから」
「そうか。それはすまなかったな」
「いいの」
二人はそのまま横に並んで一緒に家路を通る。
「・・・・簪」
「なに?」
家が近付く中、隼人は口を開く。
「何があっても、必ず君や昴、そして、みんなを守る」
「?いきなりどうしたの?」
「・・・・いいや、何となく、かな」
「・・・・?」
簪は怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。
「例え、何があっても、な」
「隼人・・・・」
「・・・・」
そうして二人はお互いに手を繋ぎ合い、家へと向かう。
世界はまだ平和とは言えない。むしろ危険が多く存在する。
そんな危険に巻き込まれて命を落とす者達が多く今も尚居る。
そして、時にはイレギュラーとも言える存在が現れ、それらによって命を落とす事も・・・・・
だが、全ての命を救えなくても、少なくともイレギュラーによって命を奪われる事だけはさせはしない。
俺は神風隼人。黒き獅子と共に駆ける者。そして、世界を守る守護者。
未来永劫、必ず・・・・今度こそ、守り通す。
「・・・・」
それが書き記されたページをめくると、その先のページは白紙であった。
隼人を最初に転生させた神は本を閉じる。
「また、新たなアンソロジーが生まれた。何時振りかしらね」
そう呟くと、『黒獅子伝説』と言う題名の本を持って見上げても上が見えない本棚の方を向き、上へと飛び上がる。
しばらく上昇して一番上が現れ、そこに本を入れる。
(物語は今も尚いくつも誕生する。全てが形となるとは限らないけど、中には一つの物語として完成したものを作り出す)
内心で呟くと、そのまま下へと降下する。
「でも、不思議なものね」
と、途中で止まると、視線を右に向ける。
「この物語は、かつての黒獅子伝説と、同じ構成だなんて」
視線の先には、黒獅子と共に駆ける神風隼人の絵画が飾れている。
(かつて失われた黒獅子伝説は・・・・・・こんな形で復活するなんてね)
黒獅子伝説は過去に滅んだ。それが、神風隼人と言う転生者によって、再構築され、復活した。
(偶然、だったのかな。それとも、運命だったのかな)
色々と考えながら、神は再び降下を始める。
「どう思うかな?ノルン?」
「どうだろうな」
と、神が降下し終えると、本棚にノルンがもたれかかっていた。
「だが、私的には、運命だったかもしれんな」
「運命、か」
「かつて別の世界に居た私と共に戦った者も、そうだった」
「・・・・」
「世界は偶然ばかりだ。だが、時には運命として決められていた時もある」
「・・・・」
「隼人もまた、お前のミスによって死んだのではなく、運命によって死に、お前に転生させられた、かもしれんな」
「・・・・なんだか、いい気分ではありませんね」
「だな」
そうしてノルンは立ち上がるとそのまま歩き出す。
「今度は、どこに行くと言うの?」
「さぁな。次に行く所に、私は行く」
そうしてノルンは歩き出し、姿が消える。
「・・・・健闘を祈るわ」
神はノルンを見送り、作業に入る。
「・・・・」
そして神は、幸せそうに生活を送る神風隼人を見つめる。
「時がある限り、幸せにね」
神は笑みを浮かべ、神風隼人を見続ける。
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トラックに轢かれそうになった女の子を助けて俺はお陀仏になった・・・。・・・って!それが本来の死じゃなくて、神様のミスで!?呆れている俺に、その神様がお詫びとして他の世界に転生させてくれると言うことらしい・・・。そして俺は『インフィニットストラトス』の世界に転生し、黒獅子と呼ばれるISと共にその世界で戦うぜ!