No.648163

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・二十四話

月千一夜さん

どうも、お久しぶりです
月千一夜と申します

長い間、お休みしてしまいすいませぬ

続きを表示

2013-12-25 03:41:48 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7892   閲覧ユーザー数:6158

「ほぅ・・・」

 

 

それは、その深い森の中

其処に生える、一本の大木の上

 

其処に佇む、一人の男が発した声だった

 

 

 

「戦場の空気が、僅かに変わったな」

 

 

 

男はそういうと、楽しげに笑みを浮かべる

視線の先に広がる、戦場を見つめたままで

 

 

「さては、森羅兵を攻略しようと・・・そういうことか?」

 

 

“なるほど”と、彼は笑う

 

 

「そうだ

そうでなくては、面白くない

それでなくては、遣り甲斐がない」

 

 

やがて、彼はあるモノを握り締めた

それは・・・古い、オカリナのような形をした“笛”である

彼はそれを握ったまま、小さく呟く

 

 

「あぁ、楽しみだよ桔梗

お前と殺し合えるのが、本当に・・・楽しみだ」

 

 

眼下に広がる戦場

その中に見えた、一人の女性を見つめたまま

 

彼は、“だから”と言葉を放った

 

 

 

 

 

「早く、俺に会いに来い・・・桔梗っ!!」

 

 

 

 

 

その言葉と同時に

その瞬間に

 

彼の体を、深い深い闇が包み込んだのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 二十四話【鳳雛はやがて飛び立ち、そして彼は嘲笑す】

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「皆、無事だったか!?」

 

「おぉ、厳顔将軍っ!!」

 

 

数分前と変わらず、いや或いはそれ以上の喧騒に包まれた戦場

響いたのは、桔梗の声である

 

その声に、すぐ傍にいた兵は応えた

 

 

「なに、まだまだ行けますよっ!」

 

「ふっ、そうか」

 

 

“頼もしいことだ”と、彼女は笑みを浮かべる

 

 

「すまんが、もうしばらく頑張ってもらうぞ

今度は、儂も一緒だがな!」

 

「それは、心強いですな!!」

 

 

桔梗の言葉

兵たちは、疲れた体に鞭打ち声をあげていた

その姿を頼もしく思いながら、桔梗は“焔耶”と言葉を吐いた

 

 

「行くぞ、遅れるなよ?」

 

「はい、お任せください!」

 

 

言うと、焔耶は駆け出していく

その背後から、星と美羽、そして恋と一刀も続いていく

 

 

「よし、我々も行きましょう」

 

「うむ」

 

「「ん・・・」」

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「ん?」

 

 

途中、何故か恋と一刀が無言で同じように首を傾げながら見つめ合っていたりもしたが

それも一瞬のこと

2人もすぐさま、また駆けて行った

 

向うのは、この戦場の最前線

やがて其処に辿り着こうかという瞬間

 

一気に加速したのは、焔耶と恋であった

 

 

 

 

「では恋、行くぞっ!!」

 

「わかった」

 

 

 

 

頷き合い、その場で止まる恋と焔耶

眼の前には、誰もいない

 

しかし・・・

 

 

「其処にいる・・・」

 

 

呟き、恋は己の武器を思い切り振り上げた

焔耶もまた、おなじように武器を振り上げていた

 

 

「さて、もう面倒なことは終わりにするぞっ!!」

 

「ん・・・!」

 

 

息を合わせ、眼前の景色を睨み付ける

相変わらず、其処には誰もいない

 

だがしかし、彼女たちにはわかっていた

“其処にいる”ということが

 

そして・・・振るわれる二人の“武”

 

 

 

 

「これで・・・終いだっ、“森羅”よっ!!!」

 

 

 

 

 

その一撃は、大地を大きく“屠り”

 

飛び散っていく土や草木が

舞い上がる砂埃が

 

眼前の景色を、覆い尽くしていった

 

 

 

「こ、れは・・・」

 

 

突然のことに、誰とも知れずそんな声が聞こえた

 

妙に静まり返ってしまった戦場

やがて、舞い上がった砂埃もスゥと消えていく中

 

 

「森羅兵・・・敗れたり、ですな」

 

 

響く、星の声

其処には確かに、“彼らが存在した”

 

飛び散った土や草木

それらが、地に落ちることなく“宙に浮いているのだ”

 

 

 

「鄧艾・・・!」

 

「ん・・・!」

 

 

 

それを確認し、桔梗と一刀は同時に矢を放った

その矢は真っ直ぐとその場所に向い、そして“命中した”

 

やがて、姿を現したのは・・・“森羅兵だった男の亡骸”である

 

 

 

「雛里の策、どうやら当たったみたいだな」

 

 

その光景を見つめ、そう呟いたのは白蓮である

思い出すのは、今から僅か数分前

この状況を切り抜ける為、一人の少女が導き出した“ある答え”であった

 

 

 

『“其処にないのに、其処にいる”

森羅兵攻略の糸口は、こんなにも近くにあったんです』

 

 

と、雛里

彼女は憑き物が落ちたかのように、曇りのない真っ直ぐな瞳で皆を見つめ言ったのだ

その言葉に、幾人かが首を傾げる

 

 

『つまり、どういうことなんだ?』

 

『そのままの意味です』

 

 

雛里はそう言って、微かに笑みを浮かべる

 

 

 

 

 

『私たちは、難しく考えすぎていたんです

姿が視えずとも其処にいるのなら、“その姿が視えるようにしてしまえばいい”

唯、それだけだったんです』

 

 

 

 

 

小さな軍師の、その言葉

今度は、皆が一斉にハッとなったのを

白蓮はしっかりと憶えている

 

 

「雛里の言ったとおりだ

確かに、“これなら奴らの姿も確認できる”」

 

 

言って、見つめる先

宙に浮かぶ土や木端めがけ、次々と矢が射られていた

増えていく、森羅兵の亡骸達

それらを眺め、白蓮は小さく息をつく

 

 

「見事だ

流石は、“鳳雛”」

 

 

“いや・・・”と、白蓮

 

 

「もう、鳳雛とは呼べないな

アイツはもう、“雛”じゃない」

 

 

そのまま、見つめる先

この戦場を見渡し、次々と兵士に指示を出していく“小さな軍師”の姿

彼女はその姿を見つめたまま、やがてこう言うのだった

 

 

 

 

「ようやく、その“殻”を破り

そして、飛び立ったんだな・・・大きな、“鳳凰”となって」

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「弓隊、構え・・・ってぇぇええ!!!」

 

 

号令と共に、放たれる矢の雨

それらは多くの森羅兵の命を奪い

そして、多くの仲間の士気を上げた

 

味方に混じった森羅兵は、主に星たちがあらかた片付け

離れた森羅兵は、雛里の策により多くを葬った

 

土や草木だけでなく、傷を負った者は自身の血をもって

勇敢に、立ち向かう程に

今や先ほどまでの恐怖など、微塵も感じさせないほどの士気である

 

そのかいあってか戦場は、先ほどまでに比べ随分と静かになっていた

 

 

 

「大分、片付いたか?」

 

「恐らくは、な」

 

 

星の言葉

桔梗は、“しかし”と言葉を濁す

 

 

「果たして奴が・・・“黄権”がこの状況を、このままにしておくだろうか」

 

 

予感

というよりは、確信に近いものがあった

桔梗はだからこそ、先ほどから鋭い視線を戦場へと向け続けているのだ

 

 

 

「あの、黄権のことだ

このままで終わるなど、有り得るはずがない」

 

「ふむ・・・随分と、まぁ」

 

 

“いや、止めておこう”と、星

しかし桔梗は、彼女が言おうとしていたことがわかった

故に、苦笑を浮かべる

 

 

「気にするな

なに・・・奴とは、浅からぬ仲でな

まぁ、色々とあるのだ」

 

 

桔梗の言葉

星は、“なるほどな”と苦笑を返す

 

と、その時

 

 

 

 

 

「ほぅ・・・浅からぬ仲とは、嬉しいことを言ってくれるな桔梗よ」

 

 

 

 

 

2人の背後から

低く、そして“冷たい声”が響いた

 

 

 

「「っ!!?」」

 

 

咄嗟に、その場から飛びのく二人

その二人の視線の先

 

不気味に嗤う、一人の男が立っていたのだ

 

 

 

「ははははは・・・そのように、逃げなくてもいいではないか

久し振りの、それこそ感動の再会なんだ」

 

 

“そうだろう?”と、男は笑みを浮かべた

そんな彼に対し、桔梗は鋭い視線を向けたまま口を開いた

 

 

「ああ、そうだな

感動の再会だ」

 

 

“そして・・・”と、彼女は武器を構える

 

 

「“永遠の別れ”でもある、藜よ」

 

「・・・冷たいなぁ、桔梗は」

 

 

言って、黄権は深く溜め息を吐いた

それから、腰にぶら下げていた己の武具を手に取った

 

 

「まぁ、そこがまた・・・桔梗らしい」

 

 

“鎖鎌”

それが、彼の武器だった

その刃は不気味なほどに、黒く鈍い光を放っている

 

 

「あぁ、早く・・・君を、“殺してしまいたい”」

 

「「・・・っ!」」

 

 

瞬間

“殺気”

それも、咽かえるほどの“強烈な殺気”が彼から放たれた

星と桔梗の2人も、一気に緊張し武具を強く握りしめた

 

 

「星よ

こやつは、儂一人にやらせてくれんか?」

 

「何を言う、桔梗

こやつは・・・“マトモではない”」

 

 

“危険だ”と、星はそう言っているのだ

しかし、それでも尚桔梗はひとりで戦おうと一歩前に出た

 

 

「こやつを殺したのは儂だ

ならば、この手でもう一度終わらせる責任がある・・・!」

 

「あはははは

桔梗らしいな・・・責任感に溢れた、実に立派な台詞だよ

いっそ、“滑稽”なくらいにね」

 

 

言って、彼は嗤う

その視線の先、桔梗はギッと視線を厳しくさせていた

 

 

「怒ったかい?

だけど、実際そうだろう?

君は、“責任感”が強く、“勇敢”で、誰よりも“優しい”」

 

 

“だけど”と、黄権

 

 

「そのくせ、目的の為ならば仲間だった者すらも“騙し”、“裏切り”

そして、“殺すのだから”

これを滑稽と言わずして、何というのか・・・ってな」

 

「くっ・・・」

 

 

黄権の一言に、彼女は表情を歪める

その隣にいた星は、“よく喋る男だ”と黄権を睨み言った

 

 

「滑稽なのは、貴様のほうだ

貴様が長々と話していたおかげで、我々は有利に戦えそうだ」

 

 

と、彼女は笑みを浮かべた

その視線の先

黄権の、すぐ後ろのほう

 

 

「これはこれは・・・“皆さん、御揃いでしたか”」

 

 

 

其処には、いつの間にかこの第二軍を代表する将達の姿があったのだ

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「桔梗様、大丈夫でしたかっ!?」

 

「焔耶、か

うむ、大丈夫だ」

 

 

桔梗のもとに慌てて駆け寄ったのは、焔耶である

そんな彼女の姿を見送り、短刀を構えるのは美羽であった

 

 

「こやつが、森羅兵を率いる男かや?」

 

「ん・・・」

 

 

美羽の言葉

頷くのは、一刀である

その直ぐ傍には恋と雛里、そして白蓮の姿もあった

 

 

「黄権よ!

貴様の率いる森羅兵は、もう我々が攻略したぞ!

あとは、貴様だけだ!」

 

 

剣の切っ先を向け、白蓮は叫ぶ

これに対し、黄権は“そうですか”と一言

 

 

「まぁそんなこと、大した“問題じゃぁないさ”」

 

「むぅ・・・?」

 

 

黄権のこの一言

白蓮は、上手くいえない・・・あえて言うならば、一種の“不安”のようなものを感じる

それと、ほぼ同時に

 

 

 

 

「本当の恐怖は・・・ここからなのだから、な」

 

 

 

 

彼は、“消えた”

 

 

 

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

驚き、声をあげる白蓮

そんな彼女を守る様、恋は己の武器を構え言う

 

 

「来るっ・・・気を、つけて・・・!」

 

 

恋の言葉

皆は一斉に武器を構えたまま、辺りを見渡した

 

 

「これは・・・また、厄介ですな」

 

「あぁ・・・先ほどまでとは、森羅兵とは全く違う」

 

 

言って、焔耶は息を呑んだ

その瞳を、微かに揺らしながら

 

 

 

 

「気配が・・・“完全に消えている”」

 

 

 

 

焔耶の言うとおり

辺りにはもはや、先ほどまでの殺気は跡形もなく消え

それどころか、“何の気配もしないのである”

 

森羅兵とは、違ったのだ

森羅兵の場合、場所はわからずとも“少なくともこの近くにはいる”という程度の気配を感じることは出来た

しかし、黄権の場合は全く違う

彼の場合、その“些細な気配すらも消していたのだ”

 

あの三国最強、呂布ですら読めないほどに・・・

 

 

 

 

『どうかな・・・これが本当の、“森羅”だよ』

 

 

 

 

声が、響いた

其の声は間違いなく、先ほどまでいたはずの男

黄権のものである

 

しかし、その姿は見えないままだ

 

 

 

「黄権っ!

姿を見せろ・・・!!」

 

 

それに対し、いら立ち声をあげるのは桔梗だ

そんな彼女の言葉

“ははは”と、黄権は嗤った

 

 

 

『そういえば、昔からそうだったな

昔からお前は、“俺を見つけるのが下手だった”』

 

「っ・・・!!」

 

 

 

“懐かしい”と、彼は嗤う

 

 

『さて、今回はどうだろうな

お前が俺を見つけるのが先か

それとも・・・』

 

 

 

 

 

“お前らが死ぬのが先か・・・”

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「ぐっ・・・」

 

 

思わず、一刀はその場から飛びのいた

その体には、一瞬のうちに無数の切り傷があった

それがあの男・・・黄権によるものだと気付くのに、時間はかからなかった

 

 

「うぐ・・・」

 

 

一刀の隣

美羽も、その体に多くの傷を負っている

いや、一刀や美羽だけじゃない

その場にいた者で無傷な者など、誰一人いなかった

 

 

「これは・・・」

 

「厄介、なんてもんじゃないぞ」

 

 

焔耶は言って、傷口を眺め舌打ちをした

 

 

「攻撃の時にまで、気配を感じない

それに、傷口から感じるこの“痺れ”・・・」

 

 

焔耶の言葉

桔梗は、“やはり”といった表情を浮かべ言う

 

 

「“毒”、か」

 

『御名答・・・さすがに、わかったか』

 

 

と、響く黄権の言葉

彼は実に愉快そうにそう言うと、言葉を続けた

 

 

『すぐに殺してしまっては、面白くないだろう?

この毒で、君たちが苦しむのをじっくりと眺めてから

そして、ゆっくりと殺そうと思ってね』

 

 

“いいだろう?”と、黄権

その言葉に、桔梗は“くっ”と苦しげな声をあげた

 

 

 

『さぁ、どうする?

諦めて、殺されるのを待つか

それとも、無様に足掻いて見せるか

どちらにせよ、高みの見物をさせてもらうがな』

 

 

 

響く、不気味な声

 

その声に

その言葉に

 

深い、深い“闇”を感じる

 

 

 

「くっ・・・どうするっ!?」

 

 

白蓮は、そう言って剣を握り締めた

その手すらもう、ズキズキとした痛みと痺れに苛まれている

皆の表情にも、焦りが見えていた

 

そんな中

 

 

 

「足掻いて、やる」

 

 

 

彼は、言葉を紡いだ

 

 

 

 

「鄧艾、殿?」

 

 

不意に聞こえた、一刀の言葉

それに対し、星は不安と、そして“希望”を込めた眼差しを向けた

その視線の先

 

彼は、グッと拳を握り締め言う

 

 

 

「足掻いて、足掻いて、足掻いて・・・俺は、足掻き、続けて、やる」

 

「一刀っ・・・!」

 

 

そして、彼は弓を構えた

その瞳に未だ、敵の姿が視えていなくとも

それでも尚、彼は弓を構え叫んだのだ

 

 

 

 

 

「俺は・・・“もう二度と、諦めたりしない”っ!!」

 

 

 

 

 

響く、一刀の声

それに対し、返ってきたのは・・・押し潰されてしまいそうなほどの“殺気”

 

 

 

『くだらない

実に、くだらないな・・・“天の御遣い”よ

そんな戯言、言うだけならば子供でも出来るぞ?』

 

 

息も詰まりそうになるほどの殺気

しかし、相変わらず彼の場所はわからない

それでも、彼は“負けるわけにはいかなかった”

 

故に、彼は“笑う”

 

 

 

「やってやる、さ」

 

『ほぅ・・・ならば、お手並み拝見だ』

 

 

 

 

黄権の言葉

“俺を見つけてみろ”とばかりのその言葉

彼は、深く息を吐き出し辺りを見渡した

 

 

「森羅兵は、“其処にいないけど、其処にいた”

黄権も、同じはず」

 

「しかし、森羅兵とは違うのじゃ

森羅兵と違って、“気配は完全に消しておる”」

 

 

と、美羽

そんな彼女の言葉

彼は、“同じだよ”と首を横に振った

 

 

「気配は、消えているけど

間違いなく、黄権は、この近くにいる」

 

 

“それをみつけるのが大変なんだ”と

その言葉を、焔耶は呑み込んだ

彼のその真剣な表情を見ると、そんなこと言えなくなったからだ

 

 

「大丈夫

なんとか、なる」

 

 

やがて、そう言って

彼は、その両目を閉じた

そして、思い出す

彼女の・・・彼の、大切な人の言葉を

 

 

 

 

『戦いに関してだけど

アンタは、その“方法”に関してもまだまだ未熟よ

戦うということは、なにも“力を振るう”ことだけじゃないわ

もう一つ、他の戦い方もある』

 

 

 

あの場所

約束の草原での、彼女の言葉を

 

 

 

『“知”・・・アンタに足りない、“もう一つの戦い方”よ』

 

 

 

どんどんと、溢れ出すように、滲んでいくように

 

彼の頭の中、心の奥底

響いていく、彼女の声

 

 

 

『いい?

知というものは、それこそ武と同じでそう簡単に己のモノとすることはできないわ

だから・・・“感じなさい”

秋蘭の時とおんなじよ

アンタの中に“ほんの少し”だけ存在する“私”を、“呼び続けるの”

そして、“思い出すのよ”』

 

 

 

いや、声だけじゃない

思い出したのは、声だけじゃない

 

彼女の顔が

彼女の得意げな、そんな笑みが

 

沁みていく

広がっていく

 

やがて

 

 

 

 

 

『アンタの中に在る、この私を』

 

 

 

 

 

彼は、その瞳を開いた

 

 

 

 

 

 

 

“力を、貸してくれ・・・桂■”

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「かず、と・・・?」

 

 

小さく呟き、美羽の見つめる先

其処に立つ、一刀の姿

その彼が纏う雰囲気が・・・僅かに“変わった”

いや、雰囲気だけではない

 

彼の表情だ

彼は戦場を見つめ、ニヤリと笑みを浮かべていたのだ

 

普段無表情で、たまにしか笑わないはずの彼が、だ

しかも、普段とは違う笑みである

 

心配するな、というほうが無理である

 

 

 

「一刀、大丈夫かや?」

 

「ん・・・?」

 

 

美羽の言葉

彼はその瞬間、すぐにいつもの表情に戻る

それから、“あぁ”と呟いた

 

 

「“彼女”の影響、だと、思う」

 

「・・・は?」

 

 

首を傾げる美羽

しかしそんな彼女の疑問に答えることもないまま、彼は弓を構えたまま笑う

 

 

「美羽、ぼぉっとしてる、時間はない

力を、貸して」

 

 

と、彼

その言葉に彼女は我にかえり、そして声をあげた

 

 

「まさか、一刀・・・」

 

「ん・・・」

 

 

頷き、見つめる先

誰もいないはずの空間を見つめ、彼は言った

 

 

 

 

「何とかなる」

 

 

 

 

矢を番え

彼は、ニヤリと笑みを浮かべた

 

 

 

『ほぅ・・・この俺を、破れると

そういうことか?』

 

 

 

瞬間、響く声

その声に対し、彼は頷いて答えた

 

 

「勝てる

だって、俺は・・・“一人じゃないから”」

 

 

言って、笑う彼

その背後

 

一瞬

ほんの一瞬だけ、黄権には見えた気がした

 

一人の

小さな、しかし力強い瞳をした

そんな少女の姿が

 

 

 

「黄権、だけじゃない

この戦場も、今の状況も

自分の持つ、能力も

全てを分析し、観察し、そして・・・答えを出す」

 

 

 

その少女は

どんな表情をしていたのだろうか

不意に、そんなことを彼は考えてしまう

 

そして、彼は思った

 

 

 

 

 

 

『それが・・・“王佐の才”よ』

 

「それが・・・“彼女の力”だ」

 

 

 

 

 

 

あぁ、きっと

あの少女は、笑っていたはずだと・・・

 

 

 

 

 

 

続く

 

★あとがき★

 

どうも、皆さん

またまた一か月以上も間を空けてしまいました

 

月千一夜です

 

あぁ、ようやく休みです

 

またしばらく、投稿できそうです

 

そして、森羅兵戦もいよいよラスト

次回か、その次で終わる予定です

 

 

ではみなさん、またお会いする日まで


 
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