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真恋姫無双~年老いてNewGame~ 十四章・前中編

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2013-12-22 23:25:11 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3281   閲覧ユーザー数:2659

「曹操さんのやり方じゃダメなんです!」

 

劉備は言い放つ。

 

「この大陸に必要なのは、みんなで協力して疲弊した国を立て直すことなんです!

 私のやり方で、南蛮の美以ちゃんたちとも分かり合えました。

 皆で力をあわせ、話し合い、手を取り合って国を立て直すことだってできるはずなんです!」

 

己が理想は間違っていない、これまでの道はけして誤っていないと、声の限り叫ぶ。

 

「そう思うのならば、なぜ私達のもとに使者はこないのかしら?」

 

華琳は応じる。

 

「貴方が半端者だという理由は常にその一点よ。

 口では大層な理想を掲げながら、やっていることは私と一つも違わない。

 私と違うのはその拳を振り上げるときの表情よ。

 笑って相手に語りかけ、ダメならその時振り下ろすのか、最初から拳をみせて近づくのか。

 結局力に頼っているのは、どちらも同じということよ!」

 

己が理想を信じているならば、どうしてその道を見誤るのかと、思いの限り応じる。

 

「それでも、この道を支えてくれるみんなは、私についてきてくれます!

 そして皆が私を信じて王を、国を、支えてくれてるんです!

 助け合い、支えあいながら理想を信じて、力を貸してくれるんです!

 私はその人達のためにも、曹操さんと戦うんです!」

 

此処から先は、推して知るべし。

 

「そう…劉備よ。貴方の言いたいことはよくわかったわ。

 でもおかしいわね。貴方、一度として私達に力を貸せと言ってきたかしら?

 軽い。貴方の言葉は、だから軽い!

 私は貴方と似たようなことをいう男を知っているわ。

 貴方のように理想を語り、私に楯突いた男は、それでもその言葉と行動で私を納得させ、認めさせた。

 貴方の言葉だけではまだ足りない!その男の足元にも及ばない!

 半端と言われたくないのならば、全力で私の膝を折り、その言葉が半端でないということを納得させなさい!」

 

意地と意地とのぶつかり合いが、その火花を散らし始めた。

………

………………

 

呉の諜報部隊は、極めて優秀である。

甘寧、周泰の二人にかかれば得られぬ情報はないと周瑜が絶大な信頼を置くほどに、優秀である。

その二人からもたらされた情報に、周瑜は今、眉を顰めていた。

「左翼より甘寧様から伝令、もう一度繰り返します!遼来来!」

「同じく右翼より周泰様からの伝令です!遼来来!繰り返します!遼来来!」

「どういうことだ?なぜ両翼から同じ武将の発見報告がある!

 そもそも敵軍の牙門旗はまだ動きを見せていないのだぞ!?」

珍しく声を荒げ、周瑜は伝令に詰め寄った。

「思春と明命が同時に見誤るなんてありえん。

 ならば、必然貴様らのどちらかが間違った内容を伝えてるということになる!」

「しかしながら、申し上げます!左翼、甘寧様より容姿、持っている得物から特徴に一致し、何よりもその用兵の速度より張遼と見るべきであるとのことです!」

「同じく、右翼、周泰様より容姿、得物もさることながら周泰様自身がぶつかり止めねばならぬほどの武を持ち合わせていることから張遼と見るべきであるとのこと!」

周瑜が声を張り上げるならば、それに対し兵士たちは食い下がる。

お互い譲らぬ言い争いはなおも続くかと思われたが、それを遮るものが現れた。

「相手もやるもんね、冥琳。でもまず心配するべきは敵の正体なんかよりも戦線の維持じゃない?

 だったら亞莎とか蓮華のほうが立派にこなしてるわよ、軍師さん?」

緊迫した前線の状況などどこ吹く風と言わんばかりに、優雅にさえ思える口調で、孫策がいう。

「ほら、あなた達はもういっていいわよ。思春たちにはそのまま戦線を維持するように伝えてちょうだい。」

孫策は、入ってくるなり、伝令たちを追い返し、周瑜の前に腰掛ける。

「あなたがそんなに焦ってはダメじゃない。

 蓮華の指示で左翼に亞莎、右翼に穏を向かわせたわ。

 ホントはあたしが行きたかったけど我慢したのよ?

 えらい?」

緊張感の欠片もない顔で孫策は告げた。

「…しかしだな、それではどうなる。敵牙門旗は張旗で、敵将は張遼一人のはずだ。

 なのに、その張遼が二箇所で目撃されているのだぞ?

 二人いる、なんてことはない。ならば、どちらが偽物だ。

 それを見極めなければならないが、思春と明命が同時に見間違えるほどなのだぞ?

 焦るに決まっている…」

孫策の顔に反比例するように、周瑜の眉間には皺が深く刻まれていく。

「面白いじゃない。ねぇねぇ、あたしが二人ってのも、面白くない?

 蓮華にでもおんなじ服着せてやってみようかしら?」

「雪蓮、ふざけている場合ではないのだぞ?」

「あら、別にふざけてないわよ。大体、いまこっちにまっすぐに突っ込んでくる部隊だってあるし、奥にも控えてる部隊だってあるわけでしょ?

 だったらそれ全部とぶつかれば自ずとどれが本物かなんてわかることよ?

 ただ、ちょ~っと気になるのよね。だから私はいかなかったんだけど。」

その言葉は、周瑜にとって予想外でもあり、しかし待ちわびたものでもあった。

「…なんだ、雪蓮。一応聞くが根拠はあるのか?」

周瑜の口元が、不敵に歪む。

「あるわよもちろん。私の勘よ。」

雪蓮の目が、鋭く光る。

「まったく、それは根拠にならないといつも言っているだろうに。」

「なにいってるのよ、なんだかんだ言って信じてくれるくせに。

 蓮華に言って、真正面から突っ込んでくるお馬鹿さんには祭をあてさせたわ。

 どうしてもここを動いちゃいけない予感がするのよ。

 報告が上がってきたら一緒に考えましょう。」

「…これではどちらが軍師かわかったものではないな。

 そんなことでは私がお払い箱にされてしまう。

 一働きして来なければな。

 ほら、蓮華様のところに行くぞ。」

「えぇ、やっとらしくなってきたじゃない?さぁ、あたしたちの仕事をしにいくわよ~!」

 

立ち上がり、服とともに覇気を翻して、二人は戦地に向かうのだった。

 

………

………………

 

肌がヒリつく。

喉が乾く。

息遣いと心臓の音が、ひどく耳に響く。

刃をぶつけ、檄を飛ばし、減っていく仲間たちの声を必死で集めながら、北郷は踏ん張っていた。

「おら!よそ見すんな!左右を気にせず密集しろ!」

右翼、左翼ともに付かず離れずの距離を保っているのを確認しつつ、まっすぐと中央に突っ込みそのまま一当しすぐに引く。

その後、両翼と連携しどちらかを攻める素振りを見せつつ、呉の防御を誘い、中央の部隊との距離を保ちながら戦線を徐々に詰めていく。

「ここまでは詠の想定通りだ!指示通りに動け!」

兵が浮き足立たないよう声を張り上げ、自身に与えられた仕事をこなすことに専念する。

「おら、敵が増員してきたぞ!もう一当てだ!総員突撃用意…っ!!」

相手の動きを確認し、突撃体勢に入ろうとしたその時だった。

進行を阻むかのように大量の矢が射掛けられる。

距離こそ届かないものの、それは騎馬隊の勢いを殺すには十分な量だった。

騎馬にこそ乗れるようになってはいるものの、北郷の腕ではそれを避けつつ突撃を敢行するなど出来はしない。

勢いがなくなっている以上、馬は大きな的となってしまう。

足を失っては先がない。

北郷は引こうとした。

「ちっ、このままいっても蜂の巣か?

 総員、一度距離をとって…」

「させるか!てぇ!!!」

続けざまの第二射は、頭上を超え、北郷たちの裏手に落ちる。

「うおっ!?アブね!転進できてたら死んでたぞ!?」

北郷隊、本作戦で前線を任された部隊は普段の警邏隊の中でも特に北郷と親しいものたちを中心に選ばれた。

その練度たるや、部隊の中でもとりわけ低く、馬術も直線でこそ速度は出せるが、それ以外はとんとダメ。

今回も馬首を返すのにもたつき、加速が遅れた。

しかし、そのおかげで北郷部隊の目の前に矢は落ちることとなり、全滅するほどの打撃は受けなかった。

 

「ふむ、張遼ならば、いまので死んでいたはずだったのじゃが…

 しかし、おかげでやっと追いついたわい、のう北郷?」

 

遅かったおかげで、助かりはした。

助かりはしたのだが…

北郷達の背後には、黄蓋隊が、追いついていた。

 

「ちぃ…一番あっちゃいけない奴に…」

「なんじゃ、つれないのう。積もる話もあるというのに。

 じゃがまぁそうじゃろうそうじゃろう。

 これそこの、本陣に伝令じゃ。

 『天の遣いと交戦開始、左右のどちらかが張遼』じゃ。はよいけ。」

「ったく、ばれちゃしょうがねぇ!さぁ野郎ども、腹くくれ、ここからが正念場だ!

 さぁて黄蓋、あん時は見逃してやったが今日はそういう訳にはいかないからな。

 俺は手柄がほしいんだ。華琳に友達を連れてってやらんといけないからな!」

 

自らを鼓舞するかのように更に声を張り上げて、北郷は馬から降りて二天を抜き、正眼に構える。

北郷が率いる部隊も、それに倣って武器を構え直す。

まっすぐ黄蓋に向き合った瞳は、まるで火が灯っているかのような輝きが見えた。

 

「はっ、それはこちらの方じゃ北郷。

 あのときは少々不意を突かれただけでそもそも儂がお前なんぞに負けるわけがないんじゃよ。

 かかってこい、北郷!貴様の首を手土産に、曹操のところにいかねばならん用事があるでのう!」

魏の、呉の、曹操の、孫権の、大陸の、そして北郷自身の行末を決める戦いが、ついにその幕を開けた瞬間だった。

 


 
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