第3話 新たな世界の出現
和人Side
4月も終わりに近づいた今日、俺やスグはALOがプレイできるのを心待ちにしている。
現在ALOは定期メンテナンスと新エリア、新アイテムや新武装などの拡張、
つまりはメンテに加えてアップデートの最中ということだ。
というわけで
「楽しみだな~♪」
「スグ、朝からそのセリフ20回以上は言ってると思うぞ」
『正しくは22回ですね。朝9回、学校から帰宅して今までで13回です。おそらくは学校でも言ってると思われます』
「だろうな」
浮かれるスグにそう投げかけると、ユイが的確な回数と言動で指摘した。
「そ、そんなことないよ///」
「ふっ、どうだかな」
『どうでしょうね~♪』
明らかに動揺しているスグに対し、俺は笑みを浮かべ、ユイは楽しそうにしている。
「ホントだってば~///! もぅ、最近のユイちゃんはお兄ちゃんに似てきたよ~」
『そうですか?そう言っていただけると嬉しいです♪』
そうか、やはりユイは俺に似てきたのか…。
いや、嬉しくないことはないんだが、俺のアレな性格などは似ないでほしいと切に願いたい。
むしろ明日奈に似てほしい。
「っと、スグ、ユイ。もう9時50分だ、用意するぞ」
「あ、は~い」
『分かりました』
そうこうしているうちに時間はメンテ終了の夜10時まであと10分となっていた。
俺もスグも既に風呂に入っているので、あとは自室でその時を待つだけだ。
「それじゃ、ALOで」
「うん、了解だよ」
『はいです♪』
俺とスグはそれぞれ自室に入り、ユイは俺の携帯端末から姿を消した。
ベッドに座り、アミュスフィアを被り、この身を横たえる。
そして、10時になった瞬間、
「リンク、スタート」
ALOへとダイブした。
和人Side Out
キリトSide
ALOにダイブした俺はアインクラッド第22層にある自宅のベッドで目を覚まし、
同時に隣にはアスナが現れており、ユイも俺たちの間で笑顔を浮かべていた。
武装を整えてから自宅を出て、集合場所であるイグシティのリズベット武具店(仮)へと向かった。
リズの店に到着した俺たちが中へ入ると、そこには既に数人のメンバーが集まっていた。
この店を仮住まいとしているリズとハクヤは当然ながら、ヴァルとシリカ、ルナリオとリーファという面子だ。
「いらっしゃい。アスナ、キリト、ユイちゃん」
「やっほ~、リズ」
「こんばんはです」
声を掛けてきたリズにアスナとユイが返事をし、俺は軽く手を挙げて応えた。
「ハジメとシノン、シャインとティアさんはまだみたいだな」
「もうすぐしたらくるんじゃないのか?」
この場にあの2人がいないことに気付いたが、ハクヤの言う通りすぐにくるだろう。
「そういえば、他のみなさんはどうしたんですか?」
「クラインさんたちのことだったら今日は別行動っすよ」
「クラインさんは『風林火山』のリーダーとして、カノンさんは風林火山に同行、ケイタさんたちは『月夜の黒猫団』での行動、
クーハ君は『スリーピング・ナイツ』に同行、リンクはプーカの楽器仲間たちと行動するらしいよ」
「そっか、それなら仕方ないね」
シリカはこの場に集まっていない連中が気になったようで訊ねてきた。
それにはルナリオが簡潔に応じ、ヴァルが詳しく説明している。
リーファは残念そうにしているが確かに仕方のないことだ……ちなみにエギルは店が忙しい為に遅れてくることになっている。
その時、店の扉が開いて待ちかねた人物たちが入ってきた。
「……遅れてすまない」
「ごめん。時間ギリギリまでGGOにダイブしてたのよ…」
「わりぃ。俺とティアもギリギリまで仕事してたんだ」
「すみません。遅れてしまって…」
「大丈夫、別に遅れるくらい問題無いさ」
4人とも開口一番に謝ってきたが、別に時間を指定していたわけでもないし、遅れたと言ってもほんの5分程度。
というわけで俺は気にするなというように声を掛け、みんなも頷いて応えていた。ま、これで全員集合だな。
「さて、取り敢えずはこれで全員揃ったわけだから、まずは今回拡張された2つの新エリアをおさらいするか。
1つ目はイグシティの真上に、アインクラッドよりも高度に存在している天空エリア『アースガルズ』。
北欧神話においてアース神族の王国とされていて、一説には全ての神々が集う世界とも言われている。
おそらく、このエリアの都市には前に会ったことのあるトールを含めた神々のNPCが居ると予測できる。
2つ目だが、こっちは問題点としか言えないな……地下世界エリア『ニブルヘイム』だ。
ここにはあの大公スィアチが居るし、霜の巨人族の本拠地にもなっている。
こちらから乗り込むのはまず得策じゃない。一応、特徴は氷に閉ざされた世界ってところかな」
「さらにアースガルズには『ヴァナヘイム』というエリア、
ニブルヘイムには『ムスペルヘイム』と『ヘルヘイム』というエリアも存在します。
また、アルヴヘイムやヨツンヘイムにも新たなダンジョンが実装されていますね」
自分で説明しておきながら改めて思ったのだが、今回のアップデートは随分と大掛かりかつゲーマー心をくすぐるものだと思う。
実際、俺の話を聞いていたみんなも早く行きたいと言わんばかりの様だ。
「やっぱり本物の女神フレイヤには会ってみたいかな」
「あたしも本物のフレイヤさんに会いたいです!」
「確かに。キャリバーの時は偽物で、しかも筋肉のおじさんになったものね」
「わたしも会ってみたいです~!」
これはアスナ、リーファ、シノン、ユイの談。うん、その気持ちは分からなくもないな。
なんせあの美人(アスナの方が美人だが…)が筋肉隆々のオッサンになったものだから、
本物を見てみたいというのは当然だろう。
「新エリアに加えて新しいアイテムや武器も追加されてるってことは、新しいインゴットも手に入るわね……楽しみだわ!」
「モンスターも種類が増えてるし、新しいテイミングモンスターもいるだろうからまた友達が増えるかも」
「きゅ~!」
職人魂に火がついているリズ、新たな友が増えるかもしれないことで期待に胸を膨らませるシリカとピナ。
彼女らはそれぞれの種族らしい楽しみのようだ。
「アースガルズ、楽しみです。ゲームで再現されているとはいえ、何度も本で読んだ神話の世界に行けるんですから」
「ティアは雑学で色々と知ってるけど、神話は個人的に好きなんだもんな? ま、俺も楽しみに違いねぇけどな」
こちらはカップルであるティアさんとシャインの弁。
神話が好きなティアさんとしてはアースガルズというのは非常に興味をそそるだろうし、
シャインも楽しそうにしている彼女を見られるから余計なんだろう。
「ニブルヘイムっすか~……また厄介な事が起きないといいんすけどね~」
「それにムスペルヘイムとヘルヘイムだからね。何かしらの意図があるようにしか思えないかな」
一方、真剣な様子であるルナリオとヴァル。
最近はこの2人もこういう大人の顔を見せるようになってきたなと思うが、今は純粋に楽しんでもらいたいとも思う。
「神々ねぇ~。手強いのがいてくれるとありがたいってな」
「……新たなモンスターも強いといいがな」
「案外、戦える機会があるかもしれないぞ?」
そしてこれはハクヤ、ハジメ、俺の談である。スリュムのように中々手強いのが居てくれないからな。
ここらで大物と戦いたいというのが俺たち3人の願望である。
「よし、準備も整ったことだし……行くとするか!」
「「「「「「「「「「おぉ(お~)!」」」」」」」」」」
俺たちはリズベット武具店から出て、目的地であるアースガルズへと飛び立った。
一定のスピードで空を飛んでいると、他のプレイヤーたちの姿も見受けることができた。
みなが同じ目的地へと向かっており、中にはかなりのスピードで駆け抜ける者たちもいる。
そんな中、一際巨大な雲を正面に捉えることができ、その中へと突き進む。
30秒ほど雲の中を進んだ頃、突如として強烈な光が雲間に差し込み、しかしそこへ向けて俺たちは進む。
そして雲を抜けたその先には、圧巻とも言える光景が広がっていた…。
雲海の上に乗る……いや、雲と繋がり聳え立つ山々。
その一角にあまりにも巨大な門が壁を成しており、そこから囲むように巨大な壁が広がっている。
また、壁の内側にも山々が連なり、その上には黄金や白銀に輝く宮殿が幾つも鎮座している。
ヨツンヘイムでの光景とはまた別の意味で息を呑む光景だ。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
その光景に俺やアスナたちだけでなく、周囲のプレイヤーたちも呆然としている。
それでも俺たちの視線の先では既に向かっていたプレイヤーたちが翅をはためかせて門を潜り抜けていく。
「驚くのも仕方がないけど、中へ進もう」
俺の言葉を受けてみんなは意識を戻し、ゆっくりと門へ向けて翅を動かす。
近づくほどにどれほど巨大な山々か、どれほど強固な防壁であるかを実感させられる。
「凄い…」
「なんだか天然の要塞って感じね…」
「まったくね…」
呆然と呟くシリカ、シノンも物珍しそうに感想を述べ、リズはどこか呆れたような感じでいる。
まぁ、こんなものを見せつけられれば無理もないか。
少し長めの渓谷を飛行して行けば、外から見えていた門に近づいてきた。
既に開いている門だが、その門の上の山と接している部分にも小さな宮殿があるのが分かる。
その時、俺は不意に視線を感じ、門の上へと目を向けた。
そこにはあまりにも美しい
「うわ~、綺麗な人~」
「ホントっすね~」
「……あの男、出来る…」
アスナが感嘆の声を漏らしてルナリオも同意するが、ハジメは彼の在り様に感じ取るものがあったようだ。
「キリト君。もしかしてあの男性は北欧神話の光の神であるヘイムダルではないでしょうか?」
「ティアさんもそう思いますか? 俺もそうだと思いますよ」
北欧神話のアース神族の男神にして光の神であり、【白いアース】とも呼ばれるほどである。
また、神の中で最も美しいとも言われている。
そして俺とティアさんがヘイムダルであると予想した理由は彼がアースガルズの見張り番であり、門番でもあるからだ。
それらを踏まえることで、あの男性がヘイムダルではないかと予想できた。
彼は俺たちが門を抜けても未だに渓谷の先を見続けていた。
5分ほど渓谷を抜けたあたりでようやく出口と思われる場所が見えてきた。
そして渓谷を抜けて俺たちが出たのは広大な平原だった。
外から見た感じではそれほど大きくはないはずだったが、いざ中へくるとアルヴヘイムよりも広いと感じられる。
「凄いですよシャイン! ここはきっと『イザヴェル』ですよ!」
「はいはい、分かったから落ち着けってティア」
珍しく興奮のあまり暴走するティアさんをシャインが宥めている。ルナリオが若干引き気味で見てるし…。
「キリトさん。イザヴェルっていうのはなんですか?」
「神話においてアースガルズが作られている場所、またはアースガルズの中心に存在する平原のことをイザヴェルというんだ。
神々が重要な会議で集まる場所でもある……っていうのが主な記録だな」
「パパはやっぱり物知りですね♪」
「神話や聖書の話は俺よりもティアさんの方が詳しいけどな」
ヴァルに訊ねられたので簡単に説明するとユイに褒められた……暈しはしたものの、実は嬉しく思う。
それにしても、平原の数か所には祭壇や神殿のようなものがあるし、
内側に来たことで山々の上に建つ宮殿がさらにあることにも気付いた。
さすがはアースガルズというべきか…。
「それにしても、どうしてこんなに広いのかしら…? 外から見たらここまで広くなかったはずだけど…」
「おそらくは一定エリア内に進入することで本来の設定している大きさに見えるんだろう。
外から離れてみる分ではそれほどでもない大きさだが、近づいたり内部に入ることで元の大きさになる。
そうすることでアルヴヘイムよりも大きなこのエリアを小さく表現できているんだ」
「なるほどね」
気になった様子のアスナに憶測ではあるが応じておいた。ま、ユイにでも確認してもらえればすぐなんだけどな。
「パパ、北西の方角に大きな都市があるようです。おそらくアースガルズにおける主要都市と思われます」
「ありがとう。それじゃあ、そこに向かいながら道すがら色々と調べてみよう」
ユイから都市の情報を受け取り、俺たちはその方向へと向かうことにした。
キリトSide Out
To be continued……
あとがき
はい、今回は拡張された新エリアであるアースガルズに訪れる話でした。
まぁ詳しい内容といえる程ではなかったですけどね・・・ちなみにあと2話はアースガルズでの話です。
なお、次回はキリトさんがブチギレたりしますので、みなさん退避準備をw
ではまた~・・・。
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第3話です。
新たに拡張されたエリアにキリトたちが訪れます。
どうぞ・・・。