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真恋姫無双~年老いてNewGame~ 八章・後編

勝ったぞ!第三部完!

2013-12-10 22:16:05 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3665   閲覧ユーザー数:2969

 

振り下ろされた偃月刀を目の前に、こんどこそ死ぬ覚悟はした。

そもそも反応出来ない速度で振り下ろされているのだから、死ぬのもあっという間なんだろうな。

あぁ、やばい、死ぬ。

とっさに目をつぶっていた。

死んだら華琳に怒られるんだろうな。

あぁ、下手すると首を刎ねられるかも知れない。

でも死んでるなら関係ないか。

しかし遅いな。

これがあれか。時間が止まったような感覚か。

人生を振り返るのも悪くはないが、早く止めをさしてもらいたいものだが…

それにしても遅い。

情けでもかけられているのだろうか?

 

そんな考えも、劈くような怒号によってかき消された。

 

「何をやっているのですか!さっさと立って逃げるのです!

 ほら、早く立つのです!恋殿だって疲れておいでなのですぞ!」

 

今日は散々理解できない状況の中にいるが、そのなかでもとびっきり状況が把握できなかった。

 

「いい加減にするのです!足がちぎれたわけでもないのに何諦めたような顔しているですか!」

 

この声…

たしか…

そうか、恋といったか今?

 

「その声、音々音か!明日まで戻れないんじゃなかったのか!?」

「そんなことねね達は一言もいってないのです!」 

「でも伝令で援軍は早くても明日の昼って…」

「恋殿が山賊相手にそんな時間かけると思っているですか!そんなものとっくに縛り上げて戻ってきている途中だったから伝令を出さずに帰還したのです!」

「そうだったのか…ならちょっとだけ肩貸してくれ、ついに肋骨折れたかもしれない…」

「…大丈夫、まかせて」

 

音々音とはまた違う声が後ろからしたかと思うと、体が浮き上がるのを感じる。

これ…持ち上げられてる。

大人の男を肩に担ぎ、そのまま城に向かって動き出した。

担がれてるのはもちろん俺こと北郷一刀。

担いでるのはもちろん、このお方。

関羽が武神として名をはせるのであれば、後世において「三国に並ぶものなし」と呼ばれし豪傑、「人中の呂布」。

天下無双、呂奉先こと恋である。

 

「ちょっと恋、ありがたいけど関羽はどうした?」

「追って来ないから大丈夫。」

 

………

……………………

 

確実に殺ったとおもったその一撃は、振り抜かれることはなかった。

 

「…この人、殺しちゃダメ」

「なっ、お主は!」

 

必殺の気合を込めた一撃は、戟によって、それも片腕で止められていた。

そして目の前に立っていたのは、かつて虎牢関でその雄を振るった呂奉先だった。

 

「なぜお主が!」

「………?この人を助けるのが命令。それにこの人は月の恩人。だから助ける。」

 

その刹那、呂布の殺気が膨れ上がるのを感じた。

並の兵士ならばおそらく気絶してしまうほどの気当たりを感じ、思わず後ずさる。

 

「くっ、この関羽を気合だけで下がらせるか!」

 

視界も悪いこの状況で、どこまでやれるか…

刺し違えてでも押し通るべきか…それとも…

 

「おい!愛紗無事か!」

 

そこに思わぬ助け舟が入る。

 

「白蓮殿!どうしてここに?」

「朱里からの命令だ。愛紗を連れて下がれって。

 急に煙が出たと思ったらそこにまっすぐ深紅の呂旗が突っ込んでいくのが見えたから心配になってきたんだ。」

「しかしふたりならば呂布を打ち取れるかもしれぬ!」

「だめだ!おそらく私では力にはなれない。悔しいけど足手纏いになるだけだ。

 だから一旦下がろう。桃香も心配してたぞ?」

「ぐ…しかたない…呂布よ、この勝負預けたぞ。」

 

ここで引くのも惜しいが、死んだら次がないのも事実。

御遣い殿よ、その頸をいただくのはまたの機会だ。

 

……………………

………

 

恋に担がれて城に戻ったが、俺にはまだもう一仕事残っている。

恋の帰還の報告もしないといけないし、なにより軍規を思いっきり違反しているのだから、然るべき処罰を受けなければならない。

休む間もなく俺たちは華琳の元へと向かった。

 

華琳と顔を合わせるなり、乾いた音が響く。

 

「遅かったわね一刀。なぜ殴られたかはわかっているわよね。」

「あぁ、もちろんわかってる。無事でよかった。しかしな。」

 

応じるように、鈍い音が響いた。

 

「なんで殴られたかわかるか。」

 

辺りが一瞬にして静まり返る。

それも当たり前のことだが、それにかまっている暇は、いまはない。

 

「お前、なんであの時死を覚悟した。巫山戯るなよ!お前が真っ先に諦めてどうするんだよ!

 お前の覇道だ、そんなことはわかってる。

 わかってるからついてきてんだ、お前を支えるために、お前を助けるために。

 お前が力を貸せというから、みんな信じてついて来てんだよ!

 なのに、なんでお前が一番先に諦めた!

 意地か!面子か!

 違うだろ!そんなモノのために死ぬ覚悟なんかするんじゃねぇよ!

 転んだらいけないのか!一回でも転んだ人間はもう立ち上がれねぇのかよ!

 そうじゃねぇだろ!倒れたら、立ち上がればいいだけの話じゃねぇか!

 見ろ、見てみろよ!誰一人まだ諦めてないじゃないか!

 いいか、たしかにお前の歩み始めた覇道だ。けどな、もういまはお前ひとりのものじゃない。

 春蘭も秋蘭も、桂花も季衣も流琉も、ほかのみんなもお前を信じて、お前と一緒にその覇道を歩いてるんだ!

 もうお前ひとりが勝手に諦めていいものじゃないんだよ!

 わかるか華琳!お前が死を覚悟していいのはな!ここにいる全員がお前の覇道を諦めた時だけなんだよ!」

 

戦場だというのに。

最前線だというのに。

その怒声だけは、どこまでも響いていくように感じた。

 

「…私が戻った時の桂花達の顔を見てわかったわ。私はこんなところで死ぬわけにはいかない。手間をかけさせたわね。」

 

ポツポツと絞り出すように紡がれた声には、しかしいつもの力強さが戻ってきていた。

 

俺は、ついに膝をつき、腰を落として、城壁に寝転がった。

そろそろ痛みに耐えるのにも限界だったからだ。

 

「勝手に軍を動かして申し訳なかった。華琳が無事で本当に良かった。」

「いえ、ありがとう。少し頭に血が上っていたけれど、それも落ち着いたわ。」

「あぁ、どうやらそんな感じだな。悪いけど俺は少し休むぞ。」

「えぇ、恋が戻ってきたならしばらくは持ちこたえられるでしょう。」

「明日になったら春蘭達も戻ってくるんだろ?大丈夫、勝てるさ。」

「当たり前よ。劉備になど私の志を折らせはしないわ。」

 

軽口を叩く姿はいつもの華琳そのものだった。

 

「余裕が出てきたな。少し休んだらすぐ戻る。」

「ただでさえ厳しい状況にはかわりないわ。すぐに戻りなさい。」

「了解。」

 

もう我慢の限界だ。

体のあちこちから痛みが出てきている。

痛さで吐きそうになるってこういうことだったんだな。

痛み止めってあるんだろうかと的はずれな心配をしながら、衛生兵のところまで向かった。

 

………

………………

 

 

痛みも和らぎ、なんとか腕も動かせるように固定してもらって華琳の元に戻る。

 

「なにか動きはあったか?」

「いえ、膠着状態ね。」

「…む?敵の兵の数が少し減ったか?」

「どうやら何部隊かに分けて断続的に攻めてくるみたいね。兵力差が厳しいわ。」

「また弱気か?」

「まさか。覇王たる私がこの程度で弱気になると思っているの?」

「はっはぁ!それでこそ華琳だ!」

「それで、あなたの方はどうなの?戻ってきたときはひどい怪我だったけど。」

「そりゃ大怪我だよ。俺の元居た世界で言うところの重傷ってやつだな。」

「そう…動けるの?」

「伝令くらいならなんとかなるよ。」

「では遠慮はしないわ。」

 

場面の転換はいつも突然だ。

 

「華琳様!地平の向こうに大量の兵が!」

 

桂花が血相を変えて飛んできた。

 

「なんですって?一刀、急いで確認を!」

「了解…… !!おい、本当かよ、早すぎる。」

「どうしたの?何が見えたの?」

「まぁいいから見てみろ。」

「嫌よ!なんであんたなんかが使った道具を私が使わなきゃなんないのよ!妊娠しちゃうでしょ!」

「桂花にはいってないよ…ほら華琳、どうだ?見えたか?」

「えぇ…あの子たちったら…」

「何が見えたんですか華琳様!」

「予定よりもずっと早く皆が到着したようね。」

「すげぇ…なんでいってくれなかったんだよ?」

「わたしだってここまでとは思っていなかったわ。褒めるならそれだけ急いだあの子たちを褒めてあげることね。」

「華琳様!作戦はどういたしましょうか!?」

「そうね…あっちには秋蘭も詠もいるからきっとうまく動くでしょう。それにあわせて…」

「なにか伝えることがあるなら任せてもらえないか?」

「何よあんた、ボロ雑巾みたいな癖に。秋蘭達にどうやって作戦を伝えるっていうの?」

「ったく、桂花には実習にも参加してもらっただろ?あっちには凪達もいるから大丈夫だ。あれからだいぶ練度も上がってるし、この距離だったら手旗信号で伝わるだろ?」

「そういえばそんなものもあったわね…華琳様、いかがなさいますか?」

「いいんじゃない?初の実戦だろうし、やってみましょう。

 総員に告ぐ!これより少々の休憩ののち、援軍に合わせて突撃を開始する!

 籠城戦にてたまった鬱憤を爆発させ劉備に曹魏の強さを見せつけてやりなさい!」

 

………

………………

 

初めて指揮官として出陣した戦も終わってみれば腕1本骨折、肋2本ヒビだけですんだ。

死ぬことも覚悟していたけど、それはなんとか避けられたようだ。

そんなことを考えながら城壁の上でタバコに火をつけようとしていると華琳がやってきた。

 

「人前で吸うのはやめなさいといいたいところだけど、今日のところは許してあげるわ。」

「…ありがとう。」

「隣、いいわね?」

「ん?あぁ、いいぞ。」

 

そういうと華琳は満足そうな顔をして隣に腰をおろす。

 

「今日はあなたのおかげで死なずにすんだわ。ありがとう。」

「………」

「なにか言いなさいよ。」

「…いや、やっと実感が出てきてな…人の上に立つって大変なんだな。」

「…いい年をしてだらしないのね?」

「そう言ってくれるなよ…これでも緊張してたんだから…」

 

華琳の手を握ってみせる。

 

「ほら、手だって震えっぱなしだったんだぜ?」

「だらしないわね。」

 

そういって、華琳は笑った。

 

「…仕方ないわね。しばらくこのままでいてあげるわ。」

「タバコの臭いはいいのか?春蘭とか桂花が嫌がりそうだけど。」

「…バカ…こういう時は素直に従っていればいいのよ。」

「それもそうだな。本当に生きてて良かった。」

 

心底嬉しそうに、まるで子供のように一刀は笑った。

 

まるで服に染み付いていくタバコの匂いのように。

俺が曹魏の一員として馴染んだ瞬間だったのかも知れない。

 

乱世に生きる一人として、改めて生を感じた、そんな戦いだった。

 

 

 


 
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