No.636219

外史を駆ける鬼・IS編 第013話

こんばんは。
最近はIS編の方がネタが良く出てきているので、こっちを良く投稿していますww

何時か言ってたことがあるのですが、五反田蘭は重昌になびくことは無いと言っていたのですが……ちょっとわかんなくなってきました(^_^;)

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2013-11-12 00:14:28 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1677   閲覧ユーザー数:1601

懐かしい匂いがした。

皆が笑っており、何時ものあの人の無茶ぶりに誰かが私に泣きつき助けを求め、そして私もその無茶ぶりに付き合う羽目となる。

時に樽に入った日本酒を一気に飲み干せなど、今考えればとんでもないことをやらされていた。

そんな遥か昔の記憶。

 

外史を駆ける鬼・IS編 第013話「生徒会長登場」

 

重昌「――!?」

 

ただいまの時刻は午前3時。

大量の汗を掻きながら普段より一時間早く目を覚ませると、彼の息は荒々しかった。

重昌は慌てて周りを見渡すと、そこはIS学園寮の影村・織斑の一室。

隣ではルームメイトの一夏が規則正しい呼吸音を出し、未だ夢の中である。

普段から冷静沈着と言われる重昌も、一人の人間。

これほど取り乱すとは、恐らく本人にとって余程辛い悪夢でも見たに違いない。

隣で寝ている一夏に気づかれない様に彼は息を整えると、少し早い一日へと繰り出すのであった。

 

その日の授業も半分過ぎ去った昼休み、何時ものメンバー8人は、何時もの様に同じ席に座り同じ様に戯れている。

今日の話題は昼前に行ったISの実習について。

そこの模擬戦で一夏VS鈴が行われ、持久戦に持ち込んだ鈴の圧勝に終わった。

 

一夏「う~ん。なんでパワーアップしたのに、鈴にこうもあっさり負けるんだ」

 

パワーアップとは一夏の『百式』が第二形態に変形出来るようになったことである。

模擬戦では一夏が第二形態零落白夜(れいらくびゃくや)を起動させるも、元の百式の燃費の悪さに加え更にそれが加速している。

いくらパワーアップしたと言っても、当たらなければ意味はなく、鈴は甲龍による中距離攻撃で一夏のシールドをじわじわと減らして勝利している。

 

千雨「当たり前ですよ。織斑君は初めから全力を出しすぎ。そしたら直ぐにエネルギーも尽き、動きも衰え、後は撃って下さいと言ってる様なものだよ」

 

重昌「その通りだ。君は少し自重というものを覚えるべきだ」

 

そう二人に指摘されると、一夏はムッとしながら注文した料理を食べる。

 

箒「ま、まぁまぁ、確かに百式の燃費は悪いかもしれないが、それも私と組めば解決だな」

 

そう腕組をしながら箒は胸を張って答える。

確かに彼女のIS紅椿のワンオフ・アビリティー『絢爛舞踏』であれば、最小のエネルギーを増大させる役割を持つ。

そして赤椿も百式もその力を合わせて、初めてその力を最大まで出すことが出来る。

二つは二つで一つ。

それを考えて開発者の束も作っていた。

だが箒の発言からここにいる他の女子達は、皆ヤレ自分の方がと自分と組むにあたっての利点を押し付ける。

 

重昌「………私の意見から言わせてもらえば、現時点でここにいる全員が一夏君と組むのには相応しくないと判断するがな」

 

そう彼はお茶(今日は黒豆茶)を啜りながら発言する。

それに対して皆「何故か!?」と彼に問い詰めた。

 

重昌「何故なら、タッグというものは安心して自分の背中をあずけられる者。それに加え互いがそれぞれを認めない限り、それが成立することは永遠に無い。今の君たちはどうだい?ただ自分の言うがままの意見を、一夏君に押し付けているだけではないのか?一夏君と組みたいのは判るが、それではたとえタッグを組んだとしても本当の力は発揮出来ないだろうな。それは男であっても女であっても言えることだ」

 

そう言われると皆押し黙ってしまう。

皆、一夏に「自分と組め」と言っているだけで、彼の意見は一切聞いていないのだ。

ここにいる千雨以外のメンバーは、一夏に好意を寄せる者。

ただその好意を押し付けるだけでは、恋人以前にタッグとしても真に成立するわけ無い。

重昌は遠回しに、その様な押しつけの愛情など通用しないとも言っているのだ。

彼女たちがそれをどこまで理解できているかは判らないが、それを聞くと腹部にクリーンヒットを喰らった様に静かになった。

 

一夏「でも、何でそんなに俺と組みたいんだ?今の俺は近距離戦法しか出来ないし、鈴だったらセシリアと組んだほうが遥かに力を発揮出来ると思うのだけど」

 

彼のこの発言が重昌の作った緊張の張った空気を壊して、何とも言えない空気になった。

 

重昌「………なぁ、酒……飲んでもいいかな?」

 

流石の重昌も呆れ果てて、頭を抱えながら何処に隠していたのか、彼はウイスキーのビンを取り出した。

 

ラウラ「レイラァ、いけません。まだ昼ですから」

 

シャル「ラウラ、指摘する場所が違うよ!!」

 

唐変木な一夏との会話を一通り終えた後、昼休みは終わり午後の実習へと向けて、皆再度アリーナへと向かった。

ちなみに3組は次回の授業が実習ではないので、重昌達はそのまま教室へと向かったが、重昌はその前にトイレに寄った為、千雨には先に教室に向かって貰った。

彼が小便器で用を足していると――

 

重昌「……後ろから近寄って目を塞がれれば、狙いが外れる恐れがあるから。そんなことはさせないでくれよ」

 

用を足し終え、振り返るとリボンの色が二年生の青髪ショートの女子がそこには居た。

「バレていたの!?」と言わんばかりの表情をしながら固まっており、重昌は彼女を横切って手を洗う。

 

重昌「それで………何用ですかな?更識楯無会長殿。これから私は授業があるのでそろそろお邪魔をしたいのですが?」

 

更識「あら、私が会長だとよくわかったわね」

 

重昌「そりゃ、学園のパンフレットにもあんなにデカデカと載っていますから」

 

彼は洗い終えたその手を乾燥機で乾かす。

 

更識「今日は影村さんにお願いがあってここに来ました」

 

重昌「年は私の方が上と思いますが、自分は下級生ですし、敬語など不要ですよ」

 

更識「判った。その代わり、貴方も普通に話してね」

 

重昌「………判った。それで、更識さん。一体なんの用ですかな?」

 

更識「う~ん、今は時間がなくなってしまったから、後で生徒会室に来て欲しいな✩」

 

重昌はそれを了承すると、さっさとトイレから出ていき教室へと向かった。

そして放課後になり、彼は生徒会室の前に来て、その扉をノックし、扉越しから「入って」との一声が聞こえると中へと歩みを進めた。

 

一夏「あれ?重昌さん」

 

生徒会室に入ると、自分より先にやってきた一夏の姿があり。

その他にも奥の会長席には楯無がおり、真ん中のテーブルには少しダボダボの制服を着た『のほほんさん』のあだ名で知られている一組の布仏本音(のほとけほんね)がニヘーっと笑いながら紅茶を飲んでいる。

その隣で片手にファイルを持った三つ編み美人の女性は、これも学校のパンフレットに載っていた人である。

この学校の生徒会役員で書記である布仏虚(のほとけうつほ)

本音の姉であり3年である。

のほほんさんがいるということは、彼女もこの学園の生徒会役員であり、さらにこの学園の生徒会役員は、会長以外の役職は簡単になれる物らしい。

 

虚「お嬢様、影村様が参られましたよ」

 

楯無「あん、またお嬢様って」

 

虚「スミマセン、つい癖で」

 

やりとりから見て更識家は余程の名家であることが伺え、虚はそのお抱えのものだろう。

重昌もこの学園に入る際それなりの情報を蓄えて来たのだが、今それを話すと長くなるのでここでは割愛させて頂く。

気になった方は原作で。

 

重昌「それで更識さん、一体私に何の用ですか?」

 

更識「うん、まず貴方に二つのお願いがあってね。とりあえずここでは何だから道場でね」

 

そして三人は道場へと向かった。

その最中、一夏は何処か不服そうな顔をしていた。

やがて道場にて――

 

一夏「えーと……これは?」

 

楯無「うん、袴だよ」

 

重昌「それぐらい常識だろ?」

 

一夏「知ってますよ、それくらい!」

 

3人は袴に着替え、道場の畳の上で一夏と楯無は向かい合い、重昌は真ん中で審判の様な立ち位置にいる。

事情を聞くと一夏は楯無に「弱い」と言われ、ムキになり彼女に勝負を申し込んだらしい。

 

重昌「まぁ、まだまだ一夏君は弱いのは間違いない」

 

一夏「し、重昌さん。何もそこまで言わなくても!!」

 

重昌「なら聞くが、弱いのが何故悪い?その自分の弱さを受け入れない事の方が、私にとっては余程惨めに見えるが?まぁそれも会長さんと戦えば直ぐに判る。更識さん、ルールは私が決めてもいいですか?」

 

楯無「別にいいよん」

 

重昌「なら、更識さんの勝利条件は、一夏君を打ちのめして打ちのめして、それで一夏君が『参った』と一言言えば勝ち。一夏君の勝利条件は、彼女を一度でも床に倒れさせば勝ちだ」

 

一夏「ちょ、重昌さん――」

 

先輩の方が不利なのでは?っと言おうとしたが、彼はその言葉を防いだ。

 

重昌「悪いな。これだけの条件でも君が勝てる保証は、限りなく零に近い。ホントは条件を一撃にしようかとも思ったが、君の自尊心を尊重してこの条件だ」

 

一夏「………重昌さん、俺を舐めていませんか?」

 

重昌「悪いが私は人の評価に関して過小評価はしないし、嘘はつかないタチだ。いいから戦え。それで全て判る」

 

一夏は言われるがままに構えて、重昌の「始め」の合図で彼は楯無に襲いかかり、一夏は楯無の腕を掴むが一瞬のうちに返されてしまい、一夏は畳に叩きつけられてしまう。

楯無は笑みを絶やさずにその後もかかってきた一夏を次々と叩き伏せる。

やがて疲れが溜まり肩の力も抜け、動きが良くなった一夏であったが、やはり敵うことは無く。

途中一夏の我武者羅の攻撃で楯無の道着がはだけるというハプニングもあったが、結局は一夏が打ちのめされて遂に降伏した。

畳に大の字で転がる一夏に重昌は膝を落として彼に話しかける。

 

重昌「一夏君、最後の惜しかったな」

 

一夏「ぜぇぜぇ、え、えぇ、ど、どこが、お、おし、惜しかったって――」

 

重昌「判った。もう良い。今はくたばっていろ」

 

重昌は一夏の体を持ち上げると、壁に寄りかかるように寝かせる。

 

重昌「一夏君、私の戦いを見ていろ。見るのもまた修行さ」

 

そう言うと彼は畳にあがり、楯無に向かい合うと、武人らしく一つ礼をする。

 

重昌「それで更識さん。私へのお願いをまだ聞いていないのだけれども?」

 

楯無「あぁそれね。一つは貴方に生徒会に入って欲しいのよ」

 

重昌「私に?」

 

楯無「えぇ。強くて頭が良くキレもいい。こんな戦力を生徒会が放って置くとでも?」

 

重昌「褒めすぎさ。私はどこにでもいる平凡な人間ですよ。それに一夏君は弱くて私は強いのかな?」

 

楯無「強いわね。比べ物にならないくらい。………生徒会長は最強であれ、正直――」

 

彼女は重昌に対して一夏とやった時のように古武術の構えを行う。

一つ違うことがあるのであれば、彼女の全身から闘気を(みなぎ)っているかの様である。

 

楯無「正直、プライドが傷つくんだよね」

 

重昌「……女の子に手を挙げるのは好みじゃないのだが、やるしかないのか。一つ言うが、私は本気の相手にはホントに手加減が出来ない。先に三本先取した方が勝ちとしよう」

 

彼も何時ものように構える。

彼女の目から見ても重昌の構えに隙はあるように思え無かったが、隙は見つけるものでもあるが、達人同士の戦いに於いて隙は作り出すもの。

楯無が繰り出す掌底は先程一夏に打ったモノとは違って倍以上の速さがあり、的確に重昌の肘や肩に放っていくが、それも寸でかわされていく。

しかし楯無は突然戦法を変えて、重昌の片腕を掴んで一本背負いをするが、彼は放り投げられる遠心力より早く足を畳に持っていき着地して、逆に彼女に一本背負い返しをする。

楯無は畳に叩き伏せられ、衝撃で一つ大きな息を漏らしてしまう。

技をかけた重昌は直ぐに離れて、再び距離を置いて彼女に構え直る。

一夏にとってはあれほどかかっていたにも関わらず、自分が全く叶わなかった楯無をいとも簡単に叩き伏せている光景が信じられなかった。

 

重昌「一本目だ。まだやるかい」

 

彼女は悔しそうに口を噛み締めて、その細い体のどこにそんな力があるのか。腕の腕力と腹筋の力で飛び起きてまた構え直した。

 

重昌「古武術からの柔道はなかなか良かったぞ。だが純粋な戦闘なら、今の君に勝ち目はないぞ。それをこれから見せてやる」

 

すると重昌は腰を落として虎拳の構えを取る。

彼が一歩踏み込むと、一瞬のうちに楯無の間合いに入り、楯無は両腕クロスにしてガードしようとしたが、重昌はその両腕ごと虎が獲物を掴み取るように掴むと、そのまま力任せに床に叩きつけた。

そしてまた離れる。

 

重昌「一夏君。さっきのがカウンター攻撃の見本で、今のが力技の見本だ。君のような人間が強者を相手にする時、このような方法は賢くはない。……それならば――」

 

息を荒くしながら立ち上がって楯無に重昌は今一度彼女に襲いかかる。

彼女は瞬時に構え直すと、重昌から繰り出される猛攻を何とか食い止める。

既に二本先取されている彼女は決して攻撃を繰り出すことは無く、こちらの隙を伺いながら防御に徹している。

そしてまた二人は間合いを取った。

 

重昌「一夏君、会長の防御は完璧だ。私がさっき君に『惜しい』と言ったことを実践して見せよう」

 

そして彼は楯無に対して猛攻を繰り出す。

達人の部類に入る楯無も重昌の攻撃の癖をすぐ見抜いてそれに順応させていくが、次に重昌は目を疑うような行動を取った。

 

楯無「――あっ」

 

楯無の艶っぽい声が聞こえたと思えば、重昌は彼女の豊満な胸を右手で包み込むように掴んでいた。

一体何を行っているのかと一夏は自分の目を疑いたくなったが、重昌の目を見ると至って真剣。

次の瞬間には空いた左手で楯無の首を掴み上げると、そのまま彼女を叩き伏せてしまった。

 

重昌「これで三本先取。私の勝ちだな」

 

喉を抑えて咳き込みながらゆっくりと立ち上がろうとしている楯無。

常人であれば気絶してもおかしくはないのであろうが、彼女は自然に体が受け身を取っていた。

最後の勝ち方に納得が出来ていないのか、一夏は重昌に喰ってかかった。

 

一夏「重昌さん、さっきのは一体なんですか!?」

 

重昌「何とは?相手の隙を作り、そこに漬け込み攻撃を加えただけだ。決しておかしいことではい」

 

一夏「いえ、あの攻撃だけは流石に無いと思います!!こんなの普通の戦いでは無い」

 

重昌「普通の戦い?だったら君は戦場で負けた時の言い訳で相手に言うのか?『普通に戦っていれば勝っていた』と。しかも今回はルール無用の試合。何をされても文句を言われる筋合いは無い。いいかい、戦いとは非常なモノだ、使えるものは何でも使う。それが戦いだ。君のその優しさは人として忘れてはならないものだが、それを相手に突き込まれることもある」

 

重昌が何故あの時「惜しかった」と言った意味が判った気がした。

一夏の攻撃で楯無の袴がはだけた瞬間、彼女も女性であるので少なからず動揺したに違いない。

その時に攻撃を行えば例え達人相手と言えど、倒せないまでも一撃は与えられたに違いない。

戦術は納得出来る、しかし自身の気持ちの整理だけはつけれなかった。

 

重昌「楯無さん、済まなかったな。流石にやり過ぎた」

 

そう言うと彼は彼女に手を差し伸べと、彼女はその手を取る。

 

楯無「もう、重昌さんったらエッチなんだから。ソウイウコトをしたかったら、いつでも言ってくれていいのに」

 

重昌「大変魅力的なお誘いだが、自重しよう。それでも女性の尊厳を傷つけたことは大変申し訳なく思う。だから生徒会に入る条件を呑もう。そして――」

 

彼は楯無にそっと耳打ちをする。

 

重昌「入る代わりと言ってはなんだが、一夏君を鍛えてやってはくれないか?私は直接的な戦闘、精神面でなら鍛えることは出来るが、ISの技術に関して、私自身はまだまだ技量不足だ」

 

楯無を立たせると彼女に向き直る。

 

重昌「彼はいずれ化けるであろう。いずれISに関しては君や織斑千冬ですら越える者に………やり方は君に任せる」

 

そしてその後、一夏の身柄は楯無に引き渡された。

後から聞いた話によると、一夏は楯無との勝負に負ければ、彼女の言うことを何でも聞く約束であった様で、元から彼女は一夏のことも鍛える予定であった様だ。

その彼女の鬼の様な訓練に耐えてからの帰り道。

 

一夏「も、もう、無理です」

 

あの日があったときからの二日目。

疲れた体を引きずりながら、彼は重昌と共に自分の部屋へと戻るのであった。

 

重昌「あの程度のことで疲れているようだったら、この先思いやられるな」

 

一夏がやらされた訓練はシューター・フローの円状制御飛翔(サークル・ロンド)

それは射撃型の戦闘動作(バトルスタンス)

最初の日はアリーナに居たセシリアとシャルの実戦を見せられ、その後数度行っただけであるが――

百式が第二形態に変型可能になってからは、新たにISの手のひらから光線が出るような遠距離攻撃が追加された。

一夏の百式による近距離戦法がいつまでも通用する保証はない。

円状制御飛翔は射撃と高度なマニュアル機体制御を同時に行う。

よって回避と命中の同時に意識を避けなければならないので、機体を完全に自分の物にしなければ上手くいかない。

一夏の動きはまだムダが多く、射撃の腕も壊滅的。

だから遠距離戦法になれば不利になるのが当たり前である。

弱点は練習して克服するもの。

今日はただひたすらそれだけを一つの的に当てるための作業で、重点的にやらさていた。

一夏が自室の扉を開くと。

 

楯無「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・た・し?」

 

直ぐに閉めた。

部屋の入口に掲げている表札にはちゃんと『織斑 一夏』と『重昌・T・影村』の二枚が掲げられていた。

一夏の目に間違いが無ければ、部屋の中に裸エプロンをした楯無の姿があった。

 

重昌「どうした一夏君。私から入るぞ」

 

一夏「あ、ちょ――」

 

重昌を何とか静止しようと試みたが――

 

楯無「お帰り。私にします?私にします?それとも、わ・t「どうせ選択肢は一つしかないのだろう?」――ちっ」

 

彼女が言い終える前に、重昌はずかずかと室内に入っていく。

 

一夏「し、しし、重昌さん!!な、何でそんな冷静に!!」

 

重昌「落ち着け。彼女は下に水着を着ているぞ」

 

一夏「……へっ?」

 

そう言われると楯無は楽しそうにクルリと一つ回ると、確かに白いエプロンの下には水色のビキニが着込まれていた。

 

楯無「あれ?一夏君ひょっとして期待してた?」

 

重昌「言ってやるな。一夏君も男の子なのだから」

 

二人はそうやって一夏をからかっているが、重昌は何か荷物の用意をしていた。

 

重昌「それじゃ、たっちゃん。一夏君の面倒よろしく」

 

そう言って敬礼を楯無に送ると、彼女もそれを重昌に返した。

一夏だけはその状況が何か判っていなかった。

たっちゃんというのは、楯無のことである。

 

一夏「あの、重昌さん。一体何が始まるのです?」

 

重昌「あれ、言っていなかったっけ?私はこれからしばらく別の空き部屋に移動になって、ここは一夏くんとたっちゃんの相部屋になるのだよ」

 

そう言われてみると部屋には重昌にとって最低限の物と、一夏に触ることすら禁じていた仏壇の様な物とがなくなっていた。

 

一夏「いやいや、まずいでしょう!!ここは一年寮で先輩は二年ですし、それに生徒が勝手に部屋を変えるのも」

 

楯無「生徒会長権限」

 

重昌「風紀委員長権限」

 

一夏「権力の横暴だ!!」

 

生徒会長権限とは、この学園の生徒に於ける権限を全て自由に操れる。

風紀委員長権限とは、生徒会長以上の権限を持ち、時に教師と同じ権限を持ち、生徒で従わせることの出来ない者は会長のみである。

但しこの風紀委員長権限を手に入れるには、文字通り風紀委員長になる必要になる必要があり。

その条件は生徒の規範たるための行動の実行。

そして絶対最強である会長の身柄の警護の為、会長より最強でいなければならない。

重昌は肩に付けた風紀委員長の腕章を堂々と一夏に見せびらかした。

さらに言うと、楯無の二つのお願いの最後の一つは、重昌の風紀委員長就任であった。

 

重昌「それじゃあ、たっちゃん後よろしく。一夏君に襲われそうになったら、コールしてね」

 

片手を挙げて部屋を出て行く彼に一夏の「襲いません!!」と言う言葉が、壁越しに聞こえた。

新しい住居に向かう最中に箒と出会い。

彼女の手には何かの包みがあった。

 

箒「……あれ?重昌さん、荷物なんか持って一体どちらへ?」

 

重昌「まぁちょっとね。お?その包みの中身は食べ物だな?そして中身は……いなり寿司か?」

 

箒が包みを開ける前に重昌は自分の嗅覚のみで包みの中身を指摘する。

流石の彼女もこれには驚き、包みを解き中の弁当を開けると、そこには彼女お手製のいなり寿司があった。

 

箒「驚きました……何故?」

 

重昌「いや、単なる推理さ。濃い香りのした醤油。そして弁当の包みと君の手に僅かに残った酢の匂いでピンときた。今の時間帯で手軽に作れるいなり寿司をね。それは一夏君の為にかい?」

 

箒「え、えぇ。今日、一夏は実戦訓練で散々だったでしょう?……気落ちしているのではないかとアイツの好物を――」

 

重昌「なるほど、箒ちゃんも女の子しているね」

 

そう言うと彼女は顔を赤くして、「え、いや、あの」などと言葉を詰まらせる。

 

重昌「はっはっはっ、畏まることはないさ。全く……束もこういう所を少しは見習えば――」

 

そう少し視線を落として苦渋の哀愁漂う様な目に彼はなっていた。

あの事件後、束のことは彼女の妹である箒には話している。

普段束の話になると不機嫌になる箒も、重昌の束に対する苦労が共感出来るのか、「ははは」と乾いた笑いをこぼしてしまう。

 

箒「そ、そうでした。重昌さんの分も作ってきているのです!!」

 

話題をすり替えようと、箒はもう一つ弁当箱を取り出し、蓋を空けて重昌の前に取り出した。

 

重昌「………いいのかい?私の為に?」

 

箒「い、いえ。重昌さんにはいつもお世話になっていますし、口に合うかどうかは判りませぬg「ガシッ」ヒャッ――」

 

突然彼は箒の片手を掴んで、目を輝かせていた。

 

重昌「どうして、同じ血の流れる姉妹であるのにこうも違うのだろうか――」

 

今にも泣き出してしまいそうな瞳を見て箒はまた乾いた笑いをこぼしてしまった。

そして彼は早速一口頬張る。

重昌がそれを口の中で良く味わっている間、箒はジット感想を待った。

 

重昌「………箒ちゃん」

 

箒「は、はい!」

 

重昌「……今度、このレシピを教えてくれないか?」

 

箒「――え、え、え?」

 

彼は一気に弁当箱のいなり寿司を平らげてしまうと、重昌は満足そうに「ご馳走様」と言った。

 

重昌「いやぁ、美味かった。箒ちゃん、今度レシピ頼むよ」

 

箒「…は、はいっ!!」

 

何時も食堂で自分の料理を作ってくれる人に「美味い」と言われたので、箒はこのいなり寿司が一夏にウケることも確信しており、直ぐにでも彼の元に届けたい思いで一杯であった。

やがて二人はその場で別れ、重昌は再びしばらく滞在する住居へと向かった。

住居に着いた際、彼にある疑問が思い浮かんだ。

 

重昌【そう言えば、部屋には裸エプロンもどきのたっちゃんと一夏君。その場に居合わせた箒ちゃんは……】

 

嫉妬深い彼女のことである。

きっとISを展開させて、扉の一つや二つぐらい壊しているに違いない。

それを楯無が上手いこと収めることは明白であるが、しばらくは修羅場であろう。

 

重昌「………予習して寝るか」

 

彼は明日の授業の予習を終わらせると、素直に布団に入って明日に備えた。

 


 
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