蒼崎一行が、シグナム率いる魔導師部隊の追跡を逃れて数時間後…
「ヒャッホォォォォォォォォォォォォォウッ!!!」
ガルムは楽しそうにウォータースライダーを滑り降りており、ロキとルカは現時点でどちらが速く泳げるかプールでスピード勝負を繰り広げ、okakaは浮き輪に乗ったまま水面を漂い、朱音はパラソルの下で寝転がって寛ぎ、泳ぎ疲れたmiriとげんぶはプールから上がって一休み中。デルタとUnknownはそんな一同を面白そうに眺めながら、デルタ特製パフェを美味しく食べている真っ最中。
現在任務に出ているメンバーと、調理場で夕食の支度をしている支配人、相変わらず研究室に篭ったままの竜神丸、機体の調整に向かったBlaz、そして団長のクライシスはこの場にはいない。
「…そうか、分かった」
一同がプールで楽しんでいる中、パラソルの下で読書をしていた二百式は任務に出ているメンバーから報告を受けていた。
「一旦アジトに帰還しろ。後の事は、その時に話す」
「どうした、二百式」
「蒼崎達からか?」
通信を切った二百式に、休んでいる真っ最中のmiriとげんぶが尋ねる。
「良い情報と悪い情報の二つだ」
「…じゃあ、まずは良い情報からで」
「蒼崎とFalSigの二人に、kaitoが合流したらしい」
「! kaitoが…?」
「へぇ、アイツやっと来たのか」
げんぶとmiriは驚きの表情を見せる。
「また武器商人の仕事か……あいつ、いくらなんでも遅過ぎるだろ」
「まぁ、kaitoさんらしいですね」
呆れているUnknownに、デルタが苦笑する。
Unknownが言うように、kaitoは旅団メンバーの中でも一番時間にルーズである。普段から武器商人の仕事で旅団と別行動になる事が多く、今回みたいに召集がかかった時も遅れてやって来る事が日常茶飯事となっているのだ。
「まぁ、それはそれで別に良いんだがな……それで二百式、悪い情報の方を聞こうか」
「あぁ……FalSig達が先程、管理局の魔導師達と接触したらしい」
「…それだけですか? 魔導師と接触したから、一体何だって言うのですか」
デルタの物言いに、二百式は少しだけキッとデルタを睨み付けるがすぐに目線を逸らす。
「烈火の将シグナム、鉄槌の騎士ヴィータ」
「「「「「!!」」」」」
「ヴォルケンリッターの一員だ」
烈火の将、シグナム。
鉄槌の騎士、ヴィータ。
そしてヴォルケンリッター。
それ等を聞いた一同は、一瞬にして表情が真剣なものへと変わる。
「ヴォルケンリッターって、確か…」
「あぁ。かつては闇の書の守護プログラムだった、守護騎士と言われる存在だ。今は闇の書のバグから解放されて、管理局に所属しているようだがな」
「その闇の書を、地球ごと消滅させようとした馬鹿な局員もいましたね」
「…カラレスか。奴は本当に、出世欲の塊だったな」
かつて、ロストロギア“闇の書”を地球ごと消滅させる事で功績を得ようとしていた、管理局艦隊提督カラレス。そんな残虐非道とも言える男の野望はOTAKU旅団が横槍を入れる事で無事に阻止され、カラレスはこの時の戦争で殉職した。この戦争の最中で失われた物もあったが、旅団の活躍が無ければ今頃地球はこの世から消滅してしまっていただろう。
「確かその時、二百式は闇の書の主や守護騎士達と知り合いだったんだな。お前から見て、どんな奴等だった?」
「どんな奴等、か…」
二百式は読んでいた本を閉じる。
「俺から見ても、全員良い奴ばかりだったぞ。ヴォルケンリッターとは、最初は色々誤解もあって戦闘になったりもしたが、少しずつ仲良くなっていけたしな。それに…………はやての存在こそ、俺の生きる理由だ」
「…二百式?」
「いや、何でもない」
「「?」」
台詞の最後辺りが小声に所為で聞こえなかったらしく、二百式に上手く誤魔化されたmiriとげんぶは互いに顔を見合わせて首を傾げる。
「だが、これからどうするんだ?」
Unknownはパフェを一口食べてから二百式に問いかける。
「ヴォルケンリッターも、その主も、今は管理局側にいる。俺達OTAKU旅団とは敵同士だ、いずれは戦わなければならない時が来る」
「関係無い。彼女を守る為なら、俺は喜んで悪に成り下がってやるさ」
「それはどうでしょうね」
「!」
会話の中にデルタが割って入る。
「何が言いたい」
「言葉通りの意味ですよ。あなた如きが、本当に悪になり切れるのかと言ってるんですよ」
「…何だと?」
(((あぁもう、また始まったよ…!!)))
二百式とデルタが睨み合いになり、再び一触即発の空気になる。
「守るべき者の為に悪になる、それの一体何が悪い? 貴様なんかに、俺の何が分かると言うんだ」
「分かりたくもありませんよ。私はあなたみたいに、そこまでして命を賭けてあげられる程のお人好しではありませんし、それに…」
デルタが挑発気味に鼻を鳴らす。
「私からすれば、彼女達はまだまだお子様です。組織の闇も知らないような連中に、この世の一体何を救えるんでしょうかね―――」
-シャキンッ-
「「「!?」」」
デルタの首元に、二百式の太刀が向けられる。
「…貴様、それ以上は黙って貰おうか」
「おや、図星ですか? 随分と短気ですねぇ」
デルタも笑顔ではあるが、目が笑っていない。
「八神はやては俺の全てだ……彼女のいない世界など、俺にとっては何の意味も無い…!!」
「そうやって、自分の生きる理由を他人に押し付けるのですか。やれやれ……流石の私も、八神はやてには同情してやっても良いくらいです―――」
「黙れぇっ!!!」
二百式がデルタに斬りかかった。デルタも瞬時に軍刀で防ぎ、鍔迫り合いの状態になる。
「おい!? よせ二人共!!」
げんぶが叫ぶが、二人の耳には届かない。
「戦る気ですか? まぁ、それも良いでしょう。トレーニングにはちょうど良い」
「お前のその減らず口、いつまで聞けるんだろうなぁ…!!」
太刀と軍刀ががぶつかり合い、互いに一歩も譲らない。
「失う事を怖がる臆病者なんぞには、もはや減らず口を聞かせるのも勿体ないくらいですねぇ…!!」
「ッ…死にたいようだな貴様ァッ!!!」
二百式とデルタが互いに斬りかかろうとし…
「そこまでにしなさい、二人共」
「「!?」」
割って入った朱音によって、攻撃を受け止められた。右手に持った刀で二百式の太刀を防ぎ、左手でデルタの軍刀を持った手を掴んでいる。
「朱音さん…!」
「邪魔しないで下さい、朱音さん。俺はこいつを…」
「二百式さん」
「…ッ!?」
二百式はそれ以上、何も言わなくなった。いや、言えなくなったと表す方が正確だろう。
「この私に、口答えする気なのかしら?」
「ッ…!!」
朱音の放つ殺気を、真正面からぶつけられているのだから。
「もう一度だけ言うわ、二人共……“そこまでにしなさい”」
「「……」」
朱音の有無を言わせない言葉に、二百式は汗を垂らしつつも太刀を納め、素直に引き下がる。
「あなたもよ、デルタさん。仲間を挑発するような言い方は慎みなさい」
「…申し訳ありません、朱音さん」
デルタも大人しく軍刀を納め、朱音に頭を下げて謝罪した。
「…終わったみたいだな」
「ふぅ、見てるこっちがハラハラする…」
「うわぁ、こっちは何か一騒動あったみたいだな」
一部始終を見ていたmiri達は緊張の糸が解けてその場にへたり込み、そこへプールから上がったロキとルカ、okakaもやって来る。
「全く、姉貴が止めなかったらまた騒ぎになってたぞ」
「…すいません、こちらも少々やり過ぎました」
デルタがUnknown達にも謝罪する。先程までと違って、その目にはもう殺意は込められていない。
「本当に頼むぞ。昔の頃なんて、お前等の喧嘩を止めようとしたawsが巻き添え喰らって、怪我を治すのに数ヶ月かかった事もあるんだからな」
(((((aws、その時からもう既に苦労人だったのか…)))))
Unknownの台詞を聞いて、一同は心の中でawsに同情する。
そこへ…
「ただいま戻りました~!」
「やれやれ、やっと休めるな…」
(((((うぉい、噂をしたら来ちゃったよ!?)))))
ディアーリーズとawsの二人が帰還して来た。
更に…
「ただいま~」
「帰って来たぞ~」
「ヤッホー皆の衆、久しぶり~!」
FalSigと蒼崎、そしてkaitoも参上した。
「うわぁ、皆一気に揃っちゃったね」
「しかしkaitoの奴、久しぶりに顔を見たな…」
ルカとロキがジュースを飲みながら呟く。
その時…
『緊急招集、緊急招集』
「「「「「!?」」」」」
突然、プール広場に緊急招集のコールがかかった。
また、他の場所でも…
「ん、何だ?」
調理場にて、全員分の夕食を支度していた支配人…
「…また面倒な予感がしますね」
研究室にて、イーリスや部下達と共にTウイルスの実験に励んでいた竜神丸…
「えーっ!? ちょ、まだ調整終わってねぇよ!?」
格納庫にて、専用機体の調整中だったBlaz…
「たく、何だってんだいきなり…」
「任務から帰ったばかりだってのに……ふぁぁ」
旅団メンバー達が、一斉にこの部屋へ集まり出していた。水着だったメンバーも全員いつもの私服に着替えており、任務から帰還したばかりのメンバーも文句を垂らしつつ自分のナンバーが書かれている席に座っていく。Blazの場合も、今回は普通にNo.20の席に座らせて貰っている。
「いやぁ~この席に座るのも、随分久しぶりだなぁ~」
「お前の場合、普段からアジトに来る事が少ねぇんだから当たり前だろうがよ」
(久しぶり、ねぇ…)
kaitoがNo.15の席に座ったのを見てから、ルカは横目でもう一つ空いているNo.13の席を見る。
(No.13……誰の席なんだろう…?)
ルカがそう疑問に思ったその時…
「全員、揃ったようだな」
「「「「「!」」」」」
一同の前に、クライシスが姿を現した。全員の視線が一斉にクライシスに向く。
「…私達を呼び出して、何を話し合うつもりですか? クライシス」
「すまないな。今回はある事について、全員に知らせておきたい事がある」
「知らせておきたい事…?」
デルタが眉を顰めるのを他所に、クライシスはNo.1の席に座る。
「…げんぶ、ディアーリーズ、FalSig、ルカ、そしてBlaz」
「「「「「?」」」」」
「今名前を呼んだ五人には、まだ知らせていない事があったな」
「…!」
クライシスに名前を呼ばれた五人は首を傾げ、竜神丸は何かを察したような表情でクライシスに視線を向ける。
「団長、まさかとは思いますが…」
「察しが良いな、竜神丸。お前の考えている事は、恐らく正解だろう」
ワンテンポ置いてから、クライシスは一同に伝える。
「今日、“十三番目”を解放する事が決定した」
「「「「「…ッ!?」」」」」
クライシスの発言を聞いて、デルタやUnknown、更に朱音達も驚愕の表情を浮かべる。
「…おいおい、マジかよそりゃ」
「冗談キツいぜ、団長さんよぉ…!!」
「? 何、どういう事だ?」
ロキやmiriが嫌そうな表情をしているのを見て、先程名前を呼ばれた五人は事情が理解出来ず、代表してげんぶが彼等に問いかける。
「…そこの席、見てみなよ」
ガルムがある方向を指差す。その方向には、空席のままになっているNo.13の席。
「さっき名前を呼ばれた五人は、今まで疑問に思った事は無いか? 何故、No.13の席だけはいつも空席のままなのか」
「? あぁ、そりゃ何度も疑問に思った事はあるが…」
「その席に、座っていたメンバーがいるって事ですか?」
「そういう事だ」
ガルムの言葉に、ルカやFalSig、Blaz達も顔を見合わせる。
「じゃあ、そのメンバーは今何処に…」
「地下牢獄だよ」
今度はokakaが口を開く。
「地下牢獄? どういう事だ」
「言葉通りの意味さ。戦闘力は高いが、何もかも喰らい尽くしてしまうくらい凶暴な奴でな。過去に一度だけだが、管理局だけでなく旅団側にも甚大な被害が出てしまった事がある」
「旅団側にも…!?」
「その件もあって、そいつはこのアジトの地下牢獄に封印する事が決定されて、今まで牢獄の中で一人寂しく過ごしていたって訳さ。げんぶやディアーリーズ達が旅団に加入するよりもずっと前の話だ。カラレスとの戦争でも解放はされてなかったから、お前等は知らなくて当然だろうな」
「本当になぁ。あまりに退屈過ぎて、こっちは本気で死にそうだったぜぇ…?」
「「「「「!!」」」」」
ドスの効いた野太い男性の声。それが聞こえた途端、部屋の空気が一気に重いものへと変わる。
「…来やがったな」
「ほ~う……久しぶりに見る顔もありゃ、初めて見る顔もいるな…」
黒と白の混ざったボサボサ髪に、強靭な義手となっている赤い左腕、左頬の一本傷、そして首元には銀色の十字架アクセサリー。
いかにも凶暴そうな雰囲気を持った男が、旅団メンバーの前に姿を現した。
「…ZERO」
デルタが男の名前を呟く。
「久しぶりだなぁ、テメェ等。元気にしてたかよ?」
OTAKU旅団、No.13…
凶獣“ZERO”は再び、No.13の座へと舞い戻って来たのだった。
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解放:No.13・凶獣再来