No.632260

おや?五周目の一刀君の様子が……20

ふぉんさん

おや?と久遠、交互にupしていけたらなぁと思っています。

過去作品を全部見直してみましたが、誤字脱字と、違和感のある口調が多すぎて萎えました。
全部直すのはとても面倒ですし、話の大筋には関係ありませんので放置します。すいません。

続きを表示

2013-10-29 15:07:21 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:11786   閲覧ユーザー数:8470

「どういう事だ?」

 

部屋に入り、後ろ手で扉を閉めながら星に問う。

 

「何がですかな?」

 

振り返った星は飄々とした様子で問い返してきた。

分かっているくせに聞き返す所が星らしい。

俺は寝台に歩み寄り、座る。

 

「劉備の事だ。聞いていた話と全然違うだろう。お前の入れ知恵か?」

 

星は首を横に振り、否定を示す。

 

「私は何も言っておりませんよ。今の桃香様には、私の記憶の桃香様には無い強かさをお持ちだ」

 

何故かは分かりませんが。そう付け加え息をついた。

それを聞き考える。俺の事を知らない劉備は記憶が戻っていないはずだ。繰り返された歴史での経験が劉備を変えたのだろうか。

俺は何回も、正確には最低三回はこの世界を繰り返しているらしい。

ならば、それは他の将にも当てはまることになる。

君主として何回も天下統一を争えば、器が大きくなるのも納得できる。

 

「主よ。私を捨てて行った長旅は、何か分かった事がありましたかな?」

 

捨てたつもりは無いんだがな。星がそう捉えても仕方のない別れ方をしたのは事実か。

 

「……そうだな。とりあえず確信していることは、俺は蜀での記憶の他に二つの記憶がある。一つは敗北した麗羽達や美羽達と共に流浪する記憶。そして、呉での記憶だ」

 

「なんと。前者は猪々子や斗詩、銀華から聞きました。主が私たちの事よりも先にそちらを全て思い出したのは腹立たしいですが……まぁ置いておきましょう。ふむ、呉ですか……」

 

腹を立たれても困るんだがな。

好きで蜀の事を思い出していないわけではないのだから。

 

呉の記憶があるだろうという結論に至った説明をするべく、星と分かれてから今に至るまでの全てを話した。途中(特に反董卓連合時)星が何度も小言を漏らしたが、流す。

 

「ふふふ。すごいですな。あの小覇王孫策の命を救ったのですか。呉へ行けば英雄扱いではないのですか?」

 

「茶化すな。それに俺は許可無く孫策の真名を叫んだ。捕まった途端斬首だろうよ」

 

「そこはあれです。隙を見て接吻を」

 

「俺にこれ以上罪を重ねろと言うのか」

 

呉の王様に接吻など、俺の首がいくらあっても足りないだろう。

星はくすりと笑い、俺の横に座る。

 

「まぁ、そういう事だ。俺が何かに導かれたかの様に孫策の暗殺を阻止し、そして孫策の真名を知っていた。この二つからして、俺が呉の記憶を持っているのは間違いないだろう」

 

後魏の記憶を持っていれば三国制覇だな。

魏との接点が無かったため確かめるに至っていないが、可能性は十分にあるだろう。

 

「星は何か分かったことは無いのか?」

 

星が思案するように指を顎に当てる。

 

「桃香様の違和感ぐらいしか……申し訳ありませぬ」

 

「そうか。いや、気にするな」

 

だとすると、もう話すことはないか。

寝台から立ち上がる。と、軽く袖を引かれた。

 

「久しぶりだというのに、その様な事務的な話しかしないのですか?」

 

普段見せない、弱々しい表情の上目使い。

ぐっとくるが、残念ながら先客がいる。

星の頭をぽんぽんと叩き、撫でる。

 

「今日は銀華だ。明日、な」

 

星は数秒俺の眼を見つめた後、大きく溜息を吐いた。

 

「これだけ長く待たされた挙句、まだ待てと仰いますか。何て残酷なお方だ」

 

袖から手を離し、頭を撫でていた俺の手を取り口付ける。

次に手の甲を頬に寄せ撫でた。

 

「無骨な手ですな……鍛錬を絶やさぬと見える。今の主は魅力に溢れております」

 

数秒そうすると、名残惜しそうに手を離した。

 

「今日はこれで我慢致しましょう。ですが明日、必ず」

 

いつもとは違う含みのない純粋な笑み。

不覚にも胸が弾んだ。

 

「……あぁ」

 

小さくそう言い残し、俺は部屋を後にした。

星の部屋を出て少し歩くと、侍女が誰かを待つように立っていた。

いや、侍女の服を着ているが、あれは董卓だ。どうやら前と同じ様に、董卓は侍女として劉備軍に居るらしい。

近づいていくと、董卓は俺に気づいた様で駆け寄ってきた。

 

「あの、北郷さんですよね?」

 

「あぁ、そうだが……」

 

先程の集会に董卓や賈詡は居なかった。侍女として扱っている分あの場には居れないということだろう。

ということは董卓は俺の姿を覚えて居たという事になる。董卓軍での軍議で一、二回顔を合わせただけだったんだがな。

 

「覚えていたんだな、董卓」

 

「はい。私達を助けてくれた方を忘れるわけがないです。それと……」

 

月とお呼びください。と付け加えた。

董卓の名は、劉備軍に入る際捨てたそうだ。まぁ、それもそうか。

 

「で、何の用だ?」

 

「どうしても自分からお礼を言いたくて。……助けていただいて、どうもありがとうございます」

 

深くお辞儀をする月。直接言葉を交わしたことは無かったが、見た目通り純粋な少女なんだな。

ここまでまっさらだと少し、汚したくなる。

 

「まさか無償で助けたと思っていたのか?」

 

「え?」

 

月は頭を上げ首を傾げる。

 

「対価をもらった。正確に言え賈詡抱いた。代わりに、お前を助けた」

 

「え……そんな……」

 

みるみる顔を青ざめさせていく。

自分を助けるために……とでも思って、罪悪感を感じているんだろうか。

 

「月ー!何処にいるのー!あっ月!ってあんたは……」

 

そんな中、賈詡がやってきた。月を探していたのだろう。

 

「さっき他の奴らに招集がかかってたからもしかしてとは思ってたけど……無事だったのね」

 

「あぁ、お陰様でな」

 

「言いたい事と聞きたい事が山ほどあるけど、今はいいわ。とりあえずは……」

 

顔を赤くし眉を上げ、唇を尖らしながらそっぽをむく。

 

「あ、ありがと。あんたのお蔭で月が助かったわ」

 

頭は下げず、賈詡は礼を言った。渋々といった態度だが照れ隠しだろう。

だが妙だな。記憶を取り戻した同士で星と話をしていないのか?

俺は最初から反董卓連合の成り行きを知っていた。その気になれば董卓軍を勝利へ導く事もできた。

それとも軍師だけに聡い女だ。俺の考えを多少なりとも汲み取ったのか。

短い思案の最中、賈詡の様子を見てだろうか、月がくすりと笑いを漏らした。

 

「……なーんだ詠ちゃん。そういう事なんだね」

 

「え?」

 

月の表情はつい先程とは違い笑顔が浮かんでいる。

 

「北郷さん、詠ちゃんをよろしくお願いします。さ、仕事に戻ろう詠ちゃん!」

 

「えっ!?ちょっと月?そんな引っ張らないでー!」

 

再びお辞儀をすると、月は賈詡を引きずり視界から消えた。

 

「……一体なんだったんだ?」

 

取り残された俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

「客将に、ですか?」

 

「あぁ。悪い話じゃないだろう?」

 

侍女に場所を聞き向かった政務室。大事な用があった。

自分を客将に雇ってもらう事。路銀が尽きかけている今、旅を続けるのは難しい。

それに賈詡や銀華と落ち着いて話もしたいし、麗羽達とも顔を合わせたい。

後々魏や呉へ向かうとしても、ある程度徐州に滞在し路銀を稼がなければならないなら、劉備軍の客将というのは最上だろう。

 

「張飛将軍にも勝る武を持つ北郷さんであれば、願っても無いです。ですが……」

 

顔を俯かせ、悩ましげに眉を寄せる諸葛亮。問題があると言いたげな表情だ。

問題は容易に想像ができた。俺と関羽の不和だろう。

将達の不和は兵にいらぬ不安を与え士気に関わる。

 

「私の一存では決められないので、少し待っていただけますか?」

 

「あぁ。構わない」

 

諸葛亮は申し訳なさそうに俺に言い、机の竹簡に視線を戻した。

話はついたが、諸葛亮の横で帽子を深く被り俯いた少女が眼に入った。

歩み寄りしゃがみ、帽子を押す。

 

「あぅ……」

 

出てきたのは可愛らしい少女。恥ずかしさからか顔を赤く染め驚いていた。確か龐統といったか。

どうやら怖がられているらしい。第一印象が最悪だったからなぁ。

これ以上劉備軍の重鎮と不仲になるのはまずい。ここは演技だな。

 

「もう知ってると思うけど、北郷一刀って言うんだ。よろしくな」

 

口調を少し変え、営業スマイル。

 

「ひッ!」

 

が、龐統はすごい勢いで離れていった。その拍子に頭で傾いていた帽子が落ちる。

完全に怯えられている。一体何が悪かったんだ。

落ちていた帽子を取り、少し手で遊んだ後、無言で机の上に置く。

どうしたもんかなと心で嘆息し、政務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「えーと、この件は……あれ?雛里ちゃんどうしたの?」

 

「目が……目が笑ってなかったよぉ……」

政務室から出ると、侍女に自室を案内された。

玉座の間でも言われたが、俺は客人扱いなので部屋が与えられる様だ。

侍女と別れ部屋の扉を開ける。

 

「お兄ちゃーんッ!!」

 

「おっと」

 

腹部に軽い衝撃。

扉を開けた瞬間張飛が飛び込んで来た。

 

「おかえりなのだ、お兄ちゃん!」

 

「おかえり……?張飛、前も言ったが俺はお前達の記憶は……」

 

見上げてくる張飛の顔は、笑顔から一変悲しみに染まる。

 

「でも、星が言ってたのだ。もう少ししたらお兄ちゃんの記憶が戻るって。だから鈴々はただいまを言うのだ。お兄ちゃんが思い出すまで。思い出してからも。ここがお兄ちゃんのお家なのだ!」

 

涙眼を隠すように顔を俺の懐へ擦りつける。

力強く抱きしめてくる張飛に、腕を回し頭を撫でた。

……待て、何故勝手に体が動いた?

俺はそんな事望んでいない。こいつが勝手な事言ってるだけだろう。劉備軍が俺の家だって?馬鹿馬鹿しい。

記憶が戻ったとしても、俺が張飛達の知ってる俺になると決まっているわけじゃない。

星の話による俺、つまり張飛の知っている劉備軍の俺と今の俺は全くの別人じゃないか。

銀華達との記憶だってそうだ。全て記憶が戻った今でも、今の俺はあいつらの知る俺ではないはずだ。

 

『主、私にはわかるのですぞ?いくら今の主が粗暴に振舞おうが、人の心根は変わらぬものです』

 

『お姉ちゃん達との事を覚えてないのは、すっごく悲しいのだ。でも、鈴々はわかるのだ。お兄ちゃんは、あの時のお兄ちゃんと変わってないのだ』

 

以前星と張飛に言われた台詞が脳裏に蘇る。

どいつもこいつも何だってんだ。俺を勝手に決めつけやがって。

俺は『俺』だ。星や張飛、銀華が知っている北郷一刀じゃない。

繰り返された記憶何て知ったことか。星も銀華も詠も良い女だから抱いた。それだけだ。

心の奥底で元の記憶を加味しているかもしれないが、それを含めどの女を選ぶのかはこの『俺』だ。

勝手に俺の体を使うな!

 

両腕を振るわせながら無理やり動かす。

張飛の肩に両手を置き距離をとった。

 

「そうか。勝手にしてくれ」

 

声色が震えるのを必死に堪え、最低限の言葉を残し部屋に入った。

苛立ちに身は任せない。関羽、龐統以外に不和は作りたくないのと、なるべくなら張飛の様な少女の悲しい顔を見たくないという『俺』の想いから。

 

「お兄ちゃん……」

 

「鈴々!仕事を抜け出してこんな所にいたのか!」

 

外から聞こえた張飛の小さなつぶやき。

続いて関羽の大きな声が響いた。

 

「ここは……鈴々。あまり北郷殿には近づくな」

 

「でも……」

 

「分かったな。では、仕事に戻るぞ」

 

離れていく二つの足音。扉を背に、俺は座り込んだ。

 

「ッ!くそが……!」

 

痛む頭。苛立ち壁を殴ったが、一向に収まらなかった。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
38
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択