No.62843

いつかどこか、別の外史で

篇待さん

一刀再召喚物が多いようなので、できれば違う形で華琳さまを幸せにしたい、と思い書きました。これも再召喚物だといわれると反論はできない。

2009-03-12 00:58:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5980   閲覧ユーザー数:4775

 いつかどこか、別の外史で――。

 

 

 それは、赤壁の決戦を前に、黄蓋が魏に降った夜のこと。

 

「なぁ、華琳……ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

 

 正史の流れ、赤壁の顛末を知る一刀は、黄蓋の投降が偽りのもであるということを伝えるべく、華琳の天幕を訪れていた。それはもちろん、歴史を改竄する行為である。華琳にも、必要ない知識、と無闇に語ることを止められていた。

 

 しかし、伝えなければならない。一刀の中で、確信めいたものがあった。これを今伝えなければ、魏は負ける。

 

「あら、こんな時間に……どうしたの、一刀」

 

「この先に関わる、大事な話があるんだ……」

 

 それだけで、感のいい華琳は理解した。これから一刀が、自分の歴史を語ろうとしていることを。それ故に、半眼になって、一刀を制する。

 

「あなたの世界の歴史の話はするな、と言ったでしょう? もう忘れたのかしら?」

 

「忘れてない、もちろん覚えてるさ。でも、華琳。それでも聞いて欲しいんだ……」

 

「いいえ、聞かないわ。あなたはそれを言っては……だめよ」

 

 呻くように、華琳。

 

「私は、天の知識なんてなくても負けないわ。あなたは――一刀は私の魏が負けるなんて思っているの?」

 

「思わないよ。華琳が負けるなんて思わない。でも、それでも――」

 

「たとえここで負けたとしても、私は後悔しないわ。私は私の欲しいものを求めて……歩むべき道を歩んだだけ。誰に恥じることも、悔いることもしない。だから、あなたはそれを私に話してはいけないのよ」

 

 それは、本心からの言葉。大切なものを失ったいつかに、偽った言葉。

 

 話はそれでお終いだとばかりに、華琳は天幕から一刀を追い出した。誰かにその話をしたら、首を刎ねる、という警告も忘れない。

 

 これ以降も、華琳が一刀の歴史の話を聞くことはなかった。

 

 そして曹魏は、史実通りの大敗を喫した。

 

 敗走の最中、ボロボロになりながらも、華琳は笑っていた。

 

「この1戦で負けただけで、私が負けたわけじゃないわ。負けというのは、膝を折って、命を取られたとき、信念の折れたときよ」

 

「ああ、その通りだ!」

 

 それはかつて、劉備に追い込まれ熱くなった華琳に、一刀が放った言葉。忘れられない、言葉。

 

 この後、国力を大きく削がれた魏に、呉、蜀から三国同盟が提案され――天下三分の計が成されることとなる。戦乱の世は、こうして終結した。

 

 

 

「りっしょくぱーてぃい? あなたの国ではずいぶん面白い食事の仕方があるのね」

 

「今度の祭りはそれをやりたいんだけど、いいかな?」

 

 誰もが祭りの準備に追われ、慌しく動いている。

 

 それはとても平穏な、日常なのだった。

 

 


 

 
 
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