No.628256

リリカルなのは×デビルサバイバー GOD編

bladeさん

10th Day 歌姫

2013-10-14 23:44:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1932   閲覧ユーザー数:1861

 

 ディアーチェが姿を消し、なのはたち三人が学校に登校してこなかった。それだけで彼女が行動を起こしているというのがわかる。一体どんな状況なのかはカイトには知る由もないのだが、かなり大変な状況なのか、なのはたちが休むという連絡すらない状態であった。

 

「なるほどね。あんたのところの居候が行動を起こしたと」

「正しくは元居候だけどな。もう居ないし」

 

自習の時間。

アリサとすずかの二人と机をくっつけての会話。

前持って闇統べる王の情報を知っていたのが功を奏したのか一言二言で二人は状況を把握したようだ。

 

「でも意外かな」

「?」

「てっきりその子と一緒に行くと思っていたから」

 

そのすずかの言葉はある意味で正しい。

ある懸念事項がなければカイトは彼女と行動を共にしたはずだ。

 

「悪くはない……とは思ったさ」

 

カイトの目的はあくまで天使退治。

その目的がある以上、力を求める彼女たちと最悪彼女と敵対する恐れがある。ならその前に必要以上に近づかないほうがいい。それがカイトの考えだった。

 

「ふぅん。まぁいいけどね。その辺りはあんたの勝手だろうしさ。でもあえて言わせてもらうなら、そうね、あんたはそれでいいの?」

「……良いんだよ」

「そっ、でも後悔はしないでよね? 友達のそんな顔は見たくないしね」

「ん、ありがとう二人とも」

 

 それから暫くはなんてことのない雑談の時間だ。

 そもそも自習の時間で真剣に勉強する者はほとんどいない。

 理由は様々ではあるが殆どの場合、勉強することが嫌いだからだろう。

 だがアリサとすずかという二人の少女は違う。彼女たちいわく、「もう勉強は十分にやってるわよ」とのこと。

 数多くの習い事を抱えている彼女たちは、同級生と比べると友だちと遊ぶ時間が比較的少ない。だからこそ、習い事や授業の時間はまじめに。こういった少し手を抜いてもいい場所ではこうして会話をするために時間を費やしている。

 

 友との談笑。

 ゆっくりと流れる平和な時間。

 それを破壊するものに気づいたのは、その時間を共有する者の一人だった。

 

「おい……なんだよ、あれ」

 

 少年が見ていたのは闇だった。

 宙に浮かぶ黒い大きな玉。

 日食かとも思われたが、太陽はそのはるか上空に位置しており日食ではないのは明らかであった。

 小学校から見えるその光景は、当然海鳴市に住む人々の目に確かにうつりこんでいた。

 それから数十秒のときが流れただろうか? 突如として其れは消えた。

 

「おい、まずいぞ……」

 

 その光景を見た少年少女は……いや、大人を含めた人々はざわつき始めた。

 黒い玉を見たこともそうだが、突然消えたこともまた人々の心に影響を与えるだろう。

 

 そのなかで比較的冷静に行動している者たちが居た。

 

「一体何が起きたんですか?」

 

 冷静にではあるが、やはりどこか心配なのか少し震えた声でカイトに問いかける。

 

「…………闇、統べる王か?」

 

 カイトに思い当たるのはそれだけだった。

 闇統べる王が行動を起こしたことと、今回の件。偶然とするにはあまりにも不自然と言えた。

 だがそれ以上に不可解なのは、黒い玉の出現を見られてしまっていることだ。ジュエルシード・闇の書事件、その両事件を管理局は隠蔽することに成功している。しかし……今回に限っては違っている。

 

「イレギュラーな事態? 一体なに、が?」

 

 ―――♪ ――♪……。

 

 それは歌だった。少しだけ舌足らずな、女の子の声。

 まるでアヤの歌のようにその歌声は世界に響いていく。この心に染みこんでくるような歌声はまるで――。

 

「この歌ってD-VAのアヤさんよね?」

「でも声も歌詞も違うよ?」

 

 アースラ内で聞いたいたからか、アリサとすずかもこの歌についてカイトと同じ感想を抱いたようだ。そしてすずかの言うとおりアヤの声とは違う。旋律こそ似ているが、声の違いのせいかその歌はどことなく悲しげで――。

 

「よく分かんないけど、これはアヤさんの歌じゃない。アヤさんは絶対に――こんな歌を歌わない」

「それはなんとなく分かります。うまく言えないですけど、アヤさんの歌はこれと正反対ですから」

 

 負の総念ともいうべきこの歌と、心温まるそんな調べを歌うアヤの歌はまさに真逆と言えた。

 

「あーもう! 考えてても仕方ないし、あたしはその辺りを見てくるわ。もしかしたら何かできることがあるかもしれないし」

「それなら私も行くよ、アリサちゃん」

「ん、お願い。あんたはどうする?」

 

 アリサに問いかけられ、カイトは数秒悩んだあと。

 

「俺はここに残ってるよ。何かあったら呼んでくれ」

「ん、了解」

 

 アリサとすずかの二人は連れ添って教室を出て行く。この状況で行動を起こすことが出来る人はどのぐらい居るのだろうか?

 だが、そんなことはどうでもいい。重要なことではない。

 

「この歌は……」

 

 誰かと分かり合うための歌。

 それこそが原初の歌の真なる意味だ。唯一神により言語という壁を作られ、それでも尚分かり合おうとした結果生まれた力、それが歌。その意味を魂レベルで分かっているからこそ、アヤの歌は人々の心を惹きつけ、悪魔を惹きつけ、悪魔召喚を小規模ながら実現させた。

 だがその力をロキに見初められ、ナオヤに伝えられ、そして最後に召喚サーバの贄となり、世界に溶けた。それこそが、カイトの世界のアヤである。

 対してこの歌は、それとは真逆。

 分かり合うための歌ではなく、自分を知ってほしいと強制している。自分がどれだけ悲しいか、苦しいか……それを語るように歌っているのだ。だが問題は誰が歌っているかではない。どうしてこの歌を歌うことができるのか? だ。

 いかに原初の歌姫と呼ばれる者たちとはいえ、その歌を知らなければ歌うことはできない。

 

「だがどうするのかね? クロノ……いや、管理局はこの状況を」

 

 数秒とはいえあの宙に浮かぶ黒い玉を見た者は大勢居るはずだ。たとえ管理局が何かしらの方策でこの状況を収めたとしても、それでも人の記憶を消すことまではできないはずだ。

 だが少なくとも……この状況が続くことを管理局は望みはしないだろう。

 最悪海鳴市を巻き込んででも事態を収拾させようとするかもしれない。

 

「さて……どうするか。このまま行っても良いんだろうか」

 

 事態を収集させる方法は簡単だ。

 この歌の元凶となっている少女を殺せばいい。そうすれば歌は止まりこれ以上の被害は広がらないだろう。

 

 けれど……。

 

「俺に出来るのか……?」

 

 殺せるかと問われれば場合によると少年は答える。

 其れが任務であると、思考を停止して害を成そうとする者たちを殺すことはきっと出来る。だが、現実の理不尽に対し泣きながら、それでも救いを求めてくる者を殺すだけの気概はきっとカイトにはない。

 

「でもそれでも……他に手がないのなら――!」

 

 拳を握りしめる。

 ミシミシと骨の軋む嫌な音が鳴るのを知りながら強く、強く握りしめる。

 そんな時だ。背後から男の声が聞こえたのは。

 

「そんな思考に意味はないさ。だって、君があの子を殺すことはないのだから」

 

 バッ! と、カイトは勢い良くカイトは振り向いた。

 良くは知らない。けれどもとても聞き慣れたその男の声はカイトを警戒させるに足るものだった。

 

「や、私に戦う気はないよ? むしろこの状況を打破するために、君に力を貸しに来たんだよ、私はね」

 

 おちゃらけたように――仮面つけている時点でふざけているが――けれども真面目な声音で男は言う。

 

「それに、良いのかい? 目立っているよ、君」

「……!」

 

 男の言うことは正しく、何事かとクラスメイトは二人の方を見ていた。

 

「……何の用だよ」

「行ったはずさ。私には君を助けに来た……そうだな、目下のところ君に一つの選択肢を与えに来た。といったところかな?」

 

 鈍い音を立てて、椅子を引きそこに座る。

 成人男性に近い体格の男が座るには少しアンバランスではあるが、不思議と椅子に座る。という動作が様になっているように見えた。

 

「選択肢……?」

「そう、選択肢だ。一応言っておくが、現状はかなり最悪だぞ? なにせ先の戦いでキーとなったアヤ。彼女は今この海鳴市には居ないのだから」

「……はぁ? なんでさ」

「君は彼女のファンだろう?」

 

 呆れながら男は言う。

 

「彼女は先の一件以来有名になった。そしてその時の行動はテレビに取り上げられるほど評価され、歌もまた同じように評価され始めた」

「ついで。みたいな感じで嫌ななんだけどさ、それ」

「仕方があるまいさ。何時の世も、人はヒーローを求める。もし真実を知れば君ももしかしたら英雄と呼ばれていたかもしれない」

 

 ハッ! と、カイトは鼻で笑う。そして、自虐を含めた笑みを浮かべながら少年は言う。

 

「俺が英雄? それはないだろう? 俺は其れとは真逆の存在だ。って、そんなことはどうでもいい。それで? 選択肢ってなんだ?」

「それは彼女たちが来てから……。いや、丁度いいタイミングだったようだ」

 

 男は教室の外、廊下の方へ目を向けるとアリサとすずかが帰ってきたところだった。

 

「あぁっ、アンタ!」

「アースラで会った仮面の人?」

 

 驚いたのはアリサ。

 思い出すように言ったのはすずか。

 それぞれの反応を見ながら男は少しだけ笑みを浮かべた。

 

「さぁ、これで役者は揃った。では、話を始めよう」

 

 

* * *

 

 海鳴市という、決して都会とはいえない地域でただひとつ異端とも言えるビルを構える会社が存在する。

 

 トップにデビット・バニングスを置き、日本にその影響力を広げつつ在る一つの会社、バニングスグループ。

 三十数歳という若さで巨大なグループをまとめることができる、デビットの手腕は驚嘆に値するものである。

 そんなデビットのもとに、一人娘とその友人たちが訪れていた。

 

「お初にお目にかかります。バニングスさん。お忙しいところ、時間を割いてもらい感謝しております」

「気にしなくてもいい。確かに私は忙しく、そして時間も有限である身ではあるが、あまり聞くことのない、娘の願いとあればそんなものは関係ないとも」

 

 少しだけ白髪の混じった……けれど、歳を感じさせないほどの若々しい声でデビット・バニングスはそう答えた。

 一人娘がいるとはにわかに信じられないほど、デビットは生命力に溢れていた。いや、もしかしたらこれほどの若さがなければ事業を成功させることなど出来ないのかもしれない。

 

「でも本当に良かったの? パパ。最近は忙しいって言ってたけど……」

 

 少しだけ申し訳なさそうに言うアリサに対して、優しい声で「大丈夫」だとデビットはアリサの頭を撫でながら言う。

 

「先程も言ったが、アリサがこうして私にお願いをしてくれるのは珍しいことだからね。その数少ない願いを叶えれなくて何が親か。……お願いではなく、ワガママになってしまったらさすがに叱ってしまうけどね」

 

 

 少しだけ言葉を崩すしたが、おそらくはそれこそがデビットという男の素なのだろう。

 とはいえ、ほのぼのしている暇はない。だからこそ……。

 

「「そろそろ本題に入ろうか(入っていいですか?)」」

 

 二人の声が揃った。

 ひとつはデビットのもの。もう一つはカイトのもの。

 少しだけ驚いた表情を浮かべながら、デビットはカイトを見た。

 

 その姿をデビットは見たことはないが知っている。

 いつもは帰りが遅いデビットではあるが、それでも週に一度は早く帰ろうと心がけている。そして、早く変えれた日には決まってアリサの話を聞くのだ。

 それこそデビットの生きる活力であり、そして存在意義となりつつあった。

 そんな娘の話はもっぱら友であり親友である「なのは」と「すずか」二人の話に集中していた。そんなある日のこと、転校生がやってきたとアリサが話したのはいつの事だったかと、デビットは思い出す。

 根暗で暗そうなやつ。猫の耳のようなヘッドホンをつけたやつ。最初そう言っていたのを、デビットは覚えている。だが……秋から冬にかけてだろうか? 「なのは」と「すずか」そして時々「カイト」の話だったのが、「すずか」と「カイト」時々なのは・フェイト・はやて、いう話になったのは。

 

「なるほど、君がカイトくんか。いつもアリサからは話は聞いているよ」

「いえ、いつもアリサさんにはお世話になっています。改めまして、天音カイトです。よろしくお願いします。」

「あぁ、よろしく。それでどうして私に会いに来たのか、話を聞いていいかな?」

 

 カイトは頷いた。

 今から一時間ほど前に話し合ったその内容を思い返しながらカイトは言う。

 

「俺が……いえ、俺達がデビットさん。あなたに求めていることはただひとつです。それは……」

 

 

「海鳴市の、ひいては日本全土の交通網の規制です」

 

 

* * *

 

 時はカイトたちがデビットと相対してから数時間前程前まで遡る。

 場所を教室から誰もいない屋上へと移動し、彼らは話し始めた。

 あの非現実的な要請を言い出したのはカイトでも、当然アリサとすずかでもない。

 

「公共交通機関の封鎖?」

「あぁそうだ。ちなみにそれだけではなく、車などの個人で所有する乗り物もまた一時的に禁止にする。それが私が提案する策だ」

 

 ふざけたような話ではあったが、男はとても真面目であった。

 

「かの闇の書の思念との戦い。あれと同じようなことがこれから起きる。そして、その効果と範囲はあの時と比べ物にならないものとなるはずだ。その理由は分かるな?」

「……『歌』か。人と人をつなげて分かり合うための原初の歌。あれと同じ力をあの子が持ってて、歌えるのなら」

「そう、それが正の感情。つまりは誰かと楽しみを分かち合いたいとか、そういった感情での歌ならば問題はない。だが、あれは違うだろうな」

 

 人の感情に訴えかけるという点は同一である。

 それは闇の書の思念の影響で、体調を崩していた人々を癒やし安定させたアヤの歌からも分かる。

 そして、それと対比するかのようにあの少女の歌は人々の体調を……否。感情をマイナス方面に不安定にさせた。

 

 それはまるで鏡のように。

 善と悪。

 プラスとマイナス。

 人と悪魔。

 凡人と天才。

 

 決して……とは言い切れないが、基本的に相容れない水と油の関係である。

 

「あの時と同じことが起きるのは分かった。でもそれがどうして日本全土という話になるのさ? 海鳴市のみであればまだ交通規制掛ける方法だって……」

「かの事件とは違うことが既に起きているだろう? 人々の目に触れ、恐怖を煽っている。だがそれだけではない。この状況を楽しんで、放送する者たちだって居るかもしれない。さて問題だ、その時使われる道具は?」

「……あ」

 

「「「カメラ!」」」

 

 少年と二人の少女の声が重なった。

 

「そうだ。確かに一昔前までであれば、海鳴市のみの対策で良かっただろう。だが今は日本全土に情報を運ぶ方法というのは、様々な方法で確立されている。それは君たちが言ったカメラによるテレビ然り、もしかしたらネットにもうあの歌を投稿している者も居るかもしれない」

 

 これこそが交通規制をしようと動いた理由である。

 情報を得るという行動はいつもであれば正しい。だがそれこをが、人々の首を絞める結果になってしまうような、そんな出来事が今起きていた。


 
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