No.626858

しまのりんち4話

初音軍さん

昔のことを思い出して寂しさから乃梨子に積極的に甘えにくる志摩子さんを書いたつもりです。少しでも楽しんでもらえれば嬉しいですw

2013-10-10 22:12:51 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:853   閲覧ユーザー数:853

 

 

【志摩子】

 

 お姉さま、どこにいくんですか…。私を置いていかないでください。

雪が降るどこかで私は泣きそうな声で必死に訴える。

普段はここまで感情に出ることがない私、伝えようとしない私。

これが夢の中だってすぐにわかった。

 

 だけれど、わかったところでこれは夢の中で私の思い通りには

動けない。ただ好きな人が私の前からいなくなるのを見ているしかできなかった。

 

「お姉さま…!」

 

 私はあまりの苦しさに反射的に起き上がって呼吸が乱れていることに気づいて

整えていった。

 

「ふぅ…」

 

 夢のせいなのか汗をだいぶかいてしまっている。近くにあったハンドタオルで汗を

拭って一息吐いた。隣では愛しい妹であり今では恋人でもある乃梨子が気持ちよさそうに

寝ているのを見て微笑ましいのと同時に少し羨ましかった。

 

 私は寝ている乃梨子の鼻を軽くつまむと、少し迷惑そうに眉を動かしている。

 

「ん…ん…?」

「あ、起きちゃった?」

 

「あれ…志摩子さん。おはよう」

 

 私が鼻をつまんでいたことなど知らない乃梨子は私の顔を見つけるや、可愛い笑顔を

向けてきた。普段はクールなのにたまにこういう表情を向けてくるのはちょっとずるい。

 

「志摩子さん? 志摩…」

 

 ちゅっ…

 

 あまりにも可愛いから私は彼女の口から発する言葉を封じるために自分の口を重ねる。

乃梨子は拒むことなく私の舌を受け入れてくちゅくちゅという音をさせながら

深く深く乃梨子とキスをした。抱きしめながら、私がやや斜めになりながらしていたから

途中から乃梨子を押し倒すような形になって抱きしめながら続ける。

 

「はぁ、今日の志摩子さんは朝から積極的だね」

「だ、だって…」

 

 寂しかったとはちょっと言いづらい。

いくら夢の中のこととはいえ、乃梨子にそれを言うと私が乃梨子に満足していない

んじゃないかって思われそうで。

 

 ちょっと頭を垂れると、そんな私の頭の上に乃梨子が手を置いて撫でてきた。

 

「今日の志摩子さんはちょっと可愛いね」

「もう…乃梨子ったら」

 

 そんな言葉を聞くとついつい顔が熱くなってしまうではないの。

私の表情に爽やかに笑う乃梨子。今日はなんだか乃梨子に甘えたい気分だった。

 

 

 二人で話をしながら簡単に朝食を作って食べる。トーストとサラダ、目玉焼きに

コーヒー、それらを食べ終わると私の様子を見て何かを感じたのか。

乃梨子はこう話を切り出してきた。

 

「今日の志摩子さんてさ。リリアンで薔薇様やってた時に一度だけあったよね。

あれは…なんていうか少し嫉妬も混ざっていたけど」

 

 思い出し笑いをしながらそんなことを言ってきたのだ。

私は記憶を辿っていくと「その時期」に当てはまる頃を思い出した。

 

 

「むぅ…」

「志摩子さん何膨れてるの、可愛い~」

 

 私が三年生の時、薔薇の館で私と乃梨子しかいない時間。私はちょっとその時気持ちが

悶々をしていたから、不満が表に出ていたところを乃梨子に見られてしまう。

この時の言葉使いもプライベートなものに変わっている。

 

 だからみんながいるときよりも遠慮なく私の心に踏み込んでくる。

私自身その行為が嫌じゃないから…というより少し嬉しいくらい。

 

「…」

「黙ってちゃわかんないよ?」

 

「最近乃梨子私に構ってくれなくなったわよね」

「え?」

 

「瞳子ちゃんとの時間の方が長いし。よく話するし」

「それはまぁ、親友だからね。志摩子さんとは学年も違うし」

 

 この時には本当に瞳子ちゃんが羨ましいと思っていた。

乃梨子と長い時間一緒にいられるから。こんな気持ちは乃梨子はわかんないだろうな。

そんな私の心を読むかのように乃梨子も同じようなことを呟いていた。

 

「私だって祐巳様たちが羨ましいよ。志摩子さんと長くいられるし。実際私よりも

一年長くいただろうからね」

「あ…」

 

「大丈夫、瞳子とは志摩子さんの祐巳様たちと一緒。大事で大切だけど。志摩子さんとは

違うから…。うーん、どうすれば信じてくれるかなぁ」

「乃梨子…?」

 

 洗い物が終わった乃梨子は腕を組みながら首をかしげて、私との距離を狭めてくる。

座っている私との視線を合わすようにしゃがんで私の顔を見る乃梨子の真剣な表情に

ドキッとした。

 

「わ、わかったから。乃梨子のこと信じてるかにゃ…!」

 

 私は慌てるようにして言い切る前に乃梨子に口をふさがれる。暖かくてやわらかい

乃梨子の唇が私の口に蓋をした。

 

「ん…」

「ん…ふ…」

 

 吐息が漏れるように色っぽい声が出てくる。逃げられないように私の顔を両手で

しっかり抑えながらキスを続ける乃梨子。

 

「はぁ…んぅ…」

「ふはぁ…」

 

 どれだけの間していたのか、乃梨子から口を放して一息吐いていた。

満足気な顔をしていて、私は乃梨子に顔を合わせ辛くてテーブルに突っ伏すように

して両手で隠すようにしていた。

 

「ね、こんなこと好きな人としかしないよ?」

「わ、わかったわ…」

 

「あ、志摩子さん。耳まで真っ赤だよ」

「もう!乃梨子ったら!」

 

「あはは、ごめん。あっと…ごめんなさい。お姉さま」

「え…あっ…」

 

 私が顔を上げると来たばかりの祐巳さんたちと顔が合ってしまった。

私の表情を見るや、何があったのかを察したようで気まずい笑顔を浮かべていた。

 

「もう少し遅く来ればよかったね」

「違うの、祐巳さぁん…」

 

 

「そんなこともあったわね」

「志摩子さんまた顔赤くなってるよ」

 

「乃梨子のせいでしょ、もう!」

 

 理不尽な怒り方だとは自分でも思ったが、この感情の捌け口が見当たらなくて

つい乃梨子に当たってしまう。乃梨子の方もそれはわかっているようでニヤニヤしながら

私を見ているのだ。

 

 ふと、その時。私はちょっとした考えが浮かんだ。

 

「そうだわ…」

「ん?」

 

 それは乃梨子も予想できなかったようで…。

 

 

 全身を映す大きな鏡に私たちはいた。問題はそこではない、問題なのは着ているもの

である。

 

「ちょっと、志摩子さん。なんで制服着てるの!?」

「ああいう話をすると、昔に戻りたくならない?」

 

「志摩子さんはいいだろうけど、私なんか随分印象が変わっちゃうよ…」

「まだけっこういけるじゃない」

 

 鏡に映る私たちの姿は当時のそのまま…というわけにもいかないけれど、

違和感がすごいってくらいまではいかなかったから安心。

 

 しかし乃梨子にとっては物凄く恥ずかしく見えてるのかもしれない。

 

「乃梨子昔よりスタイルよくなってるから色気が出てるわね」

「ちょっ、やめてってば~」

 

 さっきまで攻めっ気があった乃梨子も私の言葉に顔を赤くしてイヤイヤしている。

それが可愛くて思わずからかいたい衝動に襲われてしまう。だけど、私には他にも

やりたいことがあった。

 

 ドサッ

 

 私は乃梨子と手を繋いでいつも二人で寝ているベッドに倒れこむ。

もうとっくに卒業をしているから制服が多少シワになっても構うことはないから。

 

「なんか…いつもと雰囲気が変わるね」

「そうね」

 

「でも、これって所謂コスプレってやつだよね。現役じゃないんだから」

「そうかもしれないわね」

 

 乃梨子に返事をしながら私は乃梨子の胸元に顔をくっつけてすぅっと息を吸う。

好きな人の匂いと長くしまっていた制服の匂いが同時に入ってきて

何ともいえない、気持ちが高まってくる。

 

 自分でも目がとろってするような感覚になる。まるでマタタビを持った猫のように…。

好きな人の匂いを嗅ぐのってここまで落ち着けるものなんだ…。

 

「志摩子さん…」

 

 ちょっと困ったような、でも嫌がるような声ではない乃梨子はどうすればいいのか

わからないでいるようだった。顔を上げて私はキスを求めるようにして目を瞑ると。

苦笑気味に乃梨子が笑う。

 

「今日の志摩子さんはあまえんぼさんだ」

 

 

 まるで当時のような気持ちでベッドの上で愛し合う私たち。

服が違うだけでもだいぶ気持ちの持ちようが変わってくるから不思議。

これは制服だけでなく私服でも言えることだろうけど。

 

「やっぱり志摩子さんいつもと違うよね、何かあった?」

「…」

 

「私にも言いたくないこと?」

「そういうわけではないのだけど…」

 

 乃梨子にだからこそ聞いてほしいけど、あまりお姉さまのことばかり話すのは

どうかと思ったけど、すっかり落ち着いて気持ちも温まってきたので

思い切って乃梨子に話かけてみた。

 

 そして反応はというと…。

 

「あはは、そんなことかぁ」

「そんなことって…」

 

「あはは、ごめんごめん。そっか、昔の志摩子さんはそういう感じなんだ」

「実際あんなに動揺したりはしなかったけれど…少し寂しかったのは事実ね」

 

「だったら寂しくなったらこれからは私にも思い切り甘えてよ!

それに、少しだったら聖様とまた会ってくればいいし」

「いいのかしら・・・?」

 

「妹と姉じゃ役割が違うからね。私にできないこともあるんだと思うよ。

私は気にしないからさ…」

 

 ちゅっと私のおでこにキスをする乃梨子。

そんな彼女の優しさに甘えてしまいそうになるから、今だけでも

彼女を満足できることをしてあげたい。

 

「今日は乃梨子の好きなようにしてくれていいのよ」

「し、志摩子さん…」

 

 手を繋ぎながら私はそう言うと目を合わせながら乃梨子は少し照れくさそうに

ありがとうと囁いていた。すごく色っぽい囁き声だったわ。

 

「うん」

 

 今日はずっと部屋の中で紅茶を飲みながらリリアンの制服を着ていた。

昔を懐かしむように。しかし昔よりはかなり進んでいることをしながら。

恋人らしいことをしながら…。

 

 一日を過ごした。

 

 二人は着替えて一緒にお風呂に入る。

湯気がたって、少しだけ相手の顔が見えにくい中で乃梨子は言う。

 

「こういうのもたまにはいいね」

 

 表情はよくは見えないけど、嬉しそうに私の手に触れてくる乃梨子。

そんな乃梨子に私は胸を躍らせながら、握り返す。暖かいお風呂の中で

のぼせない程度にイチャイチャする。

 

 大変な時もあるけれど、私は乃梨子と一緒なら乗り越えられるそんな気がして

ならなかった。親友と恋人は違う。同じように姉と妹も違う。

親友と姉もけっこう違うもので、乃梨子の言葉に甘えて今度お姉さまのとこへ

遊びにいこうと思った。

 

 なんというか、頼りになる家族に逢いに行くようなそんな気持ちに近かったのかも

しれない。何でも話せる、相談できる、そんな家族の元に…。

 

「乃梨子…愛してるわ」

 

 目を見てても態度を見てても通じることはあるけど、私は強くしっかりと乃梨子に

伝えた。絶対に離れることはない。だから安心してくれと。

 

 それは私に言い聞かせるものでもあったのかもしれなかった。

だから私も乃梨子の行動に嫉妬をするのは可能な限りしないよう、心に決めたのだった。

 

お終い


 
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