喫茶たまゆらでお料理の勉強をしている私はおばあちゃんが
作ったのを真似て自分なりのアレンジを工夫しようとしていた。
そして麻音たんに味見してもらっている時にちょいと珍しい事が起こっていた。
「はい、麻音たん。あーん」
「あーん・・・」
ぱくっ
桃を使ったババロアをスプーンで掬って麻音たんの口の中に
入れると少しの間咀嚼をしているのを見た後に麻音たんの表情が
柔らかくとろけるような幸せそうな顔になるのを見て
「よっしゃ!」と心の中で拳を握りしめ上げたのだ。
桃の実の部分を少し甘く煮て具材にして皮は香りづけ用に使った。
「のりえちゃんも食べる?」
「うんうん、私にもあーんして」
「もう、のりえちゃんたら」
赤くなって私を見る麻音たんの可愛さは格別である。
カランカラン
ドアを開ける音が聞こえて振り返るとやたらテンションの低い
かおたんが私たちの姿を見つけてからこちらへ向かってきた。
「どうした、かおたん元気ないぞー」
「うん、ちょっと複雑な気持ちで・・・」
珍しいことに私の「たん」付け発言でツッコミをいれないなんて!
だが私の考えもすぐに見抜いたのか、気づいただけなのか。
「かおたん言うな・・・」
やたら低い声で返してくるから、一瞬びっくりしてしまった。
まるで野獣の唸り声である。
「どうかしたの?」
私たちのやりとりが先に進まないから心配そうに顔を覗かせて
きた麻音たんがかおたんに声をかけると。
苦笑しながら私たちが座っていた席、麻音たんの隣に座って
ややうつむき具合に話し始める。
「先輩が写真部入ったじゃん?」
「あぁ、かなえ先輩ね」
「今じゃぽってと気が合ってるよね」
かおたんのテンションとは反対に明るく話す私と麻音たん。
「そう、最初は仲良くなって部活するようになってホッとしたんだよ」
私たちもどんな先輩か、好戦的だと嫌だなぁとか警戒していたけど
とても人見知りで恥ずかしがりだけど大人しくていい先輩だ。
ちょっと押しに弱かったりもするが、積極的になったぽってたんに
引きずられるようにして元気に活動している。
「最近ぽってとの付き合いが少なくて」
「あぁ、先輩に取られたって感じがしたわけね?」
遠まわしに言うかおたんの言葉を勝手に要約すると複雑な表情を
浮かべながらうなづいている。
「つまり相手にしてもらえなくて寂しいってわけだな」
「そ、そこまでは言ってないじゃん」
「でもそういうことだよね」
「…はい…」
私の言葉に反論できずにいるかおたんを見ていると気持ちがいい。
いつもは逆の立場だから。彼女はぽってたんのことになると
途端に持前の冷静さを失いそうになる。
「でも…そうは見えないよ」
「え?」
途中から麻音たんがかおたんに思った言葉を伝えると、
それを聞いたかおたんはきょとんとした顔をして麻音たんの顔を見る。
「ぽってとかおるちゃんいつも一緒だったし・・・むしろ一緒に居すぎる
くらいだったから」
「そうそう、今くらいがちょうどいいんじゃない?」
「そ、そうかなぁ・・・?」
疑問に思うかおたんに私は続けて話を振った。
「好きな人といる時間と趣味の時間は違うものだから」
「うん・・・」
「そういうのを混同させて奪っちゃうと嫌われちゃうぞ」
語尾に☆マークがつきそうな声で言うと軽くイラッとしたような
顔を浮かべるかおたん。でもすぐに少しすっきりしたような表情に戻る。
「それもそうだね・・・」
「それにだね、かおたん」
「かおたん言うなって!」
「まぁ聞きなさいって」
言うや否や、私は近くにいた麻音たんの腕を掴んで引っ張って
引き寄せて顔がくっつきそうな距離まで近づけて抱きしめた。
「こうすればいいんじゃないかって思うのよ」
「の、のりえちゃん・・・」
抱きしめられた麻音たんはちょっと困惑したような声をあげていたが
今は無視をする。
「簡単なこと、寂しくなったら求めればいいじゃない。時間がお互いとれたらさ」
「でも、そんなの恥ずかしいじゃない・・・」
「恥ずかしくない!今寂しい気持ちなのは事実なんだから。
それを隠してうじうじしてる方が恥ずかしいわ!」
「のりえちゃん…それは言い過ぎじゃ…」
麻音たんは私とかおたんのやりとりを心配して不安そうな表情で
見つめていた。だけど心の中を整理していたかおたんは
少しスッキリしたような表情を私たちに向けた。
「ありがとう、今度やってみるよ」
「がんばれよ本妻!愛人に負けるなよ!」
「なんだよ本妻って」
私の言葉にツッコミを入れて調子を戻したかおたんは目の前に
あった私の試作品にスプーンを突っ込んで一口味見をして
立ち上がった。
「どう?」
「美味いに決まってんじゃん」
かおたんは「じゃあっ」てそっけない言葉を残して去って行った。
残された私たちはもう一度席に座りなおしてさっきのかおたんを思い出して
笑った。その時の彼女の顔はとても嬉しそうだったから
私は自分の作ったもので人が幸せな顔をするのが好きなんだ。
そう改めて思えた。そして…。
「のりえちゃん」
「麻音たん」
見つめあった私たちは周りに人がいないのをいいことにそっと口づけを
する。麻音たんの食べた私のデザートの風味が私の口の中に入ってくる。
やっぱり私の作るスイーツは最高のものだ。
「甘くて美味しい」
「ふふ、ピューピュピュ」
私の感想に笑いながら麻音たんは顔を赤くしながら私の手を握ってきた。
彼女の口笛には「そうだね」と「自分で言っちゃうんだ」の意味が籠っている。
私たちは出会った期間がさほど長くないけどこうして口笛を理解しあえる
関係になっている。
彼女が手を握ってきて私もちょっと力を込めて握り返す。
その手は柔らかくて暖かくて、心地が良い。
「ぽってたんも、こうたんも可愛いけれど。麻音たんもとても可愛いよ」
私は綺麗に手入れされている黒髪に手を当てて撫でるとさらっとした
感触が伝わってくる。
「私も、のりえちゃん元気あって可愛いとおもう」
「えー、そこは好きっていってくれないの?」
「…」
「なんて、ごめん…」
「大好き」
私がちょっと甘い空気にのって麻音たんの嫌がることをしたかと
思って訂正しようとしたら、はっきりと小さい声で言ってきた。
手も顔も暑そうに汗が少し流れていた。しかも私の求めていた言葉より
「大」がついていたから、その甘い言葉に私の胸はたまらないほど
ドキドキしていた。
そこで私だけ返さないのは卑怯くさいから私も麻音たんの手を
強く握りながら。
「私も大好きだよ!」
胸から熱いものがこみあげてくるような感覚がしながら
私は麻音たんに告白をすると、麻音たんの目がみるみるうちに
潤んできて私は一瞬慌ててしまうが、それは喜びの表現のようで。
「嬉しすぎて泣きそうになっちゃった」
「可愛いこと言うな、おい」
繊細で大胆にはなれない性格の彼女だからこういうこと言うのは
大変な勇気が必要だろう。だからこそそんな彼女から出た言葉だから
私の胸に深く深く染み込んでいくのだろう。
愛しい、愛しすぎる。
「よし、この後私の部屋か麻音たんの部屋に行って遊ばない?」
「いいよ」
お互い見つめあって確認をしてから立ち上がる。
他にも注文していて、おばあちゃんたちにお金を払ってから
外に出た。
外の空気を胸いっぱいに吸い込んで私たちは歩き出す。
手を繋ぎながら。
「かおたんたちも上手くいってればいいね。私たちみたいに」
「うん、大丈夫だと思うよ」
空をみながら先輩を含めてみんな幸せであればいいと思った。
みんな大事な人たちだから。
好きな人ができてからは余計にそう思えるようになったのだった。
今日も晴天、心も晴天であるように、私は好きな人とこれからも過ごしていく。
お終い
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のりえと麻音のイチャイチャ話。ほんとイチャイチャしかしてないけど、この二人ふーふ過ぎて可愛すぎる(*´∇`*)