No.621040

孤(こ)ならば独(とく)に1/(政+家→幸→三/腐向け)

3/30戦煌インテ大阪→6号館B ぬ 2b (C)TEAbreak!!!
1.2に書き下ろしを加え、新刊コピーとして出すかもです。足すとしたら、江戸時代に入った政+家ですかね???
これはサイト用にアップした書き下ろしです。カプ書きしてますが、全員片恋もの。家→幸→三。政宗は幸に命の執着だけしてる傍観者です。政→家にするつもりが、土壇場で三→家に変更。
そもそもこの話、誰得???!!!

2013-09-20 13:12:40 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:750   閲覧ユーザー数:750

 終わった、と悟るには十分な時間が過ぎた。

 

 黄色き旗の陣地より、ホラ貝が鳴る。

 

 一つの時代の終演と、幕開けを告げる音が響きわたった。

 

 それを徳川家康は、好いた者の屍の傍で立ち尽くしたまま聞いていた。身にまとっている赤い戦装束は、持ち主の血で染められていて、顔には砂埃と裂傷で流した赤も混ざっている。

 

 戦の鬼と呼ばれた真田幸村が、黄泉路の鬼に連れ去られた。

 

 鬼に幸村を渡したのは、徳川家康。

 

 何度も家康は問うてきた。何度も、何度も家康は答えを求めたが、結局、答えは出ないまま。

 

 幸村が死んだことにより、それは永遠の謎となった。かつての同胞であり、友だと思っていた石田三成も、とうに現から去った。

 

 端から見れば時代の勝者は家康だろう。しかし彼の表情や背中からは、憂いしか見えない。家康が手にした物は、何なのか。

 

 否、何もない。彼が成した全ては、日の本の民に渡される。それを家康も是としてきたからこそ、関ヶ原の地まで拳をふるい続けたのだから。

 

 だからこそ、家康は、家康だけが求める答えが欲しかったのに。

 

 家康は俯き、後悔から拳を握る。

 

「ワシの求める者たちが、一片たりとて呼吸の出来ぬ世が泰平だというならば……」

 

 拳が痛いが傷は負っていない。

 

「それが民の求める世ならば……」

 

 握りすぎて血が滴るも、家康の物ではない。

 

「……ならばワシが求める世とは、どこなのだろうな」

 

 空虚な声を拾うのは、関ヶ原に拭く一陣の風だけ。砂埃が舞い、それが家康の拳を撫でる。

 

 家康の両の拳に付着している血は幸村のだ。それは固まらずに地面に落ちていく。

 

 ぽたり、ぽたりと、赤い水が落ちた所だけが色を変える。そのままいずれ、己も落ちる冥府まで染みていけば良い。

 

 ワシが思う心ごと、この地に眠れ。

 

 もう、誰にも言えはしないのだから。

 

 風すらも拾えない声なき声で、時代の勝者は諦めた。

 

「ワシはワシのために在らず」

 

 これから生きるとすれば、孤独を餌に、躯となった幸村への独占欲を一層育てていくばかりだろう。

 

 幸村が家康に示したのは、家康には何一つくれはしなかった所有先。生き様を武田に宿し、心は凶王・石田三成に捧げ、奪っても尚、命は独眼竜・伊達政宗にあるという。

 

 しかし家康は気づいていない。家康に一つもくれてやらないまま逝った幸村とて、意味じくも、何一つ得られぬ男であったのを。

 

 

 

 

 

 

ーてめえを殺すのは俺だ、真田幸村。

 

 さようでござったな。

 

 家康にとどめ一撃を食らった折りのこと。ゴフリと、大量の血を吐き出たにも関わらず、幸村が最初に脳裏に浮かべたのは、政宗と対峙する約束を一方的に取り付けられたことだった。

 

 構わない。元より幸村にとって生きていて欲しい人は、もうこの世にはいない。敬愛する主君も、影となり付き従った忍びも。そして、過去ばかりを見ていた凶王も。

 

 何一つ守れない、何一つ成せなかったのだから、ここで倒れるも仕方なしと、膝を折る。

 

 トドメを刺したのは、家康の拳。家康は、己の腕の中で力なく崩れる幸村の体を支え、こんな状況になってようやく言える運命を嘆いた。

 

「真田」

 

「と、くがわ、ど、の……」

 

 喉に詰まった血をまた吐く。明らかに致死量を越える量に、家康は震えが止まらない。ああ、どうしよう、どうして、こうする道しか無かったのか。

 

「真田、さなだっ」

 

 どうして、どうして、と何度も心の内で問うてきた訴えが、外に出る。

 

「どうして、ワシではだめだったのだ!」

 

 幸村は最初から用意していたかのように、一つ息をついてから答える。

 

「それが、しも……過去でしか、無い身なれば、貴殿は先に居られるお方……」

 

 家康は幸村の言葉に、首を何度も横にふる。

 

「それは違うぞ真田、ワシは」

 

「いけま、せぬ……」

 

 ヒュー、ヒュー、と幸村の口から短い呼吸が漏れる。声にする辛さをこらえてでも、幸村は家康の言葉を封じる必要があった。

 

 家康の恋心に気づいたのは、己が何よりも、三成への恋路を募らせたから。だから幸村は、家康の言葉を封じる。最初から、無かったかのようにするために。

 

「それがしが、貴殿の捨てるべき、ものを……全て拾い受け、連れていきます、る……」

 

 尽きる体を支える家康の腕を、一度だけ強く掴んだ。

 

「真田っ」

 

 そして拾った証拠のように、幸村は目を閉じる。幸村へ向けていた家康の恋慕ごと、紅蓮の鬼が黄泉路へ連れて、落ちた。

 

 この世には不要だとされた、恋心。これからを生きる者には枷にしかならないと、黄泉路の鬼が、紅蓮の魂と一緒にさらった。

 

 命の消えた幸村の体が、ズルズルと家康の腕から離れていく。そして土埃の舞う関ヶ原の地に伏せるや、家康は心のままに叫んだ。

 

「真田ぁ!」

 

 幸村の血で染まった拳を握り、哀の慟哭を空に響かせる。最初で最期に交わした言葉の残酷さに、敗者は己だと思い知る。

 

「ワシには何も言わせてはもらえないのか……っ」

 

 真田幸村!と家康が叫んだ声を拾ったのは、今しがたこの場に駆けつけた、伊達政宗。隻眼の竜は、一目で二人に起きた事象を見抜いた。そして、地に眠る幸村の亡骸に、目を細める。

 

「ちっ、あの馬鹿が」

 

 だから素直に俺に殺されておけば良かったんだ、と舌打ちする。

 

 これより政宗は、たった一つの決着が付けられなかった悔恨を抱いたまま、残りの生を過ごす羽目になる。

 

 奪われた真田幸村の命が、伊達政宗の物であるからこその、跳ね返し。

 

 幸村の生き様は武田へ、心は凶王に、そして命は、独眼竜に。

 

 生前、真田幸村は伊達政宗と約束をしていた。

 

 何度も対峙しては決着の付かないのを、いつしか二人は楽しんでいた。しかし、それも今日までと思っていた筈が、またしても横やりが入ってしまう。押し計らったように、互いの軍の家臣により、一時撤退を告げられたのだ。程なくしてホラ貝も聞こえた。

 

 二人は、戦いに夢中になった先の山道で足を止めた。そして双方家臣を下がらせ、再び二人きりの時間を設けた。

 

 今この時間が、もう二度と訪れないのを、どこかで感じ取っていたから。

 

 山の風が体に流れた汗を払う。どこからか川の音も聞こえてくるや、条件反射のごとく、ついぞ喉も乾いてきた。相対する者にだけ神経を研ぎ澄ませていたのが、スッと消えていき、人らしい物へ移る。

 

 そうなれば殺意も一旦収まり、政宗は、西軍総大将となった幸村に話しかけた。

 

「あんたは最後まで好きなようにするんだろうな、真田幸村」

 

 六刃を、チャキンと鞘に収める政宗にならい、幸村も二双の槍を下げる。挑発とも呆れとも取れる口調に、幸村はただ笑った。

 

「そうやもしれませぬなあ」

 

 つい先ほどまで命の削り合いをしていたのが嘘のような声色に、政宗は刀を1本だけ抜いて、幸村に切っ先を向ける。

 

「だが忘れんな。てめえと決着をつけるのは俺だ。それで万事うまく収まるってもんだ。だから俺以外の奴に、その命、くれてやるんじゃねえぞ」

 

 幸村の槍は下がったまま。眼差しだけが鋭く、異能のままに炎を上げている。

 

「随分とおごっておられるようだが、それがしとて、死ぬつもりで戦には望みませぬ。政宗殿とて油断なされまするな」

 

「Ha,それでこそ真田幸村だぜ」

 

 口角を上げ、満足げに刀を収める。しかし政宗は、幸村の炎が、常に燃えさかる物から、消え去る前の苛烈だと見抜いていた。

 

「あんたも大概不器用な奴だな。おかげで損ばかりしてやがる」

 

「損か得かは、それがしが決めまする」

 

 幸村の現状は、幸村が導いた結果に過ぎぬとし、また幸村も嫌と言うほど自覚していた。故に政宗の言葉に対し、憮然と返すのだった。

 

 だが政宗が言いたいのは、経験値の浅さ故に奔走する様ではなく、ただの、人としての物。

 

 幸村自身とて、気づかないはずがない。政宗は、鼻で笑った。

 

「てめえの面よく見てから良いな。今のあんたは、武田のおっさんすら見えてねえじゃねえか」

 

 亡き主君の名で釣ってみれば、幸村は、すぐに眉根を寄せて政宗を睨んだ。だが、それも一瞬のこと。

 

「そうしてそれがしを煽っても無駄ですぞ」

 

「事実だってのは認めるんだな」

 

 大将となって軍議を重ねた片鱗は見えるも、政宗からすれば子供だまし。ニヤリと笑む奥州筆頭に、幸村は唇をとがらせる。

 

「ずるうござるよ、政宗殿」

 

 政宗は声を出して笑った。今の幸村の仕草は、かつて、武田の一番槍だった頃を思い出す。

 

 哀愁など自分たちには似合わない。分かっていても、互いの心情に時代は待ってはくれない。

 

 ましてや幸村は武田信玄ばかりか、佐助をも失っている。そして、石田三成という墓標も、魂に刻みつけたのだ。

 

 未だ右目のいる隻眼の竜は、幸村の首にかかっている六文錢を見やる。三途の川の渡し賃を家紋に背負う武将は、いずれ己も行く冥府の道連れを、一人一人作っているかのようだった。

 

 ならば紅蓮の鬼が最初で最後に恋い慕った凶王・三成は、幸村に気を止めていたか。

 

 政宗ははっきり否と答えられた。だからこそ、真田幸村は、伊達政宗が殺すと決めていた。

 

ー過去にしか生きなかった男に惚れた時点で、てめえの行き着く先は見えてんだよ、真田幸村。

 

 政宗の主張は、幸村と初めて相対した時から変わらない。心を凶王に捧げたのなら、その息を奪いたい。生き様を、魂を武田の物にしているなら、彼の命が尽きる目に己を写したい。

 

 生涯の好敵手と決めた奴との決着のみを、政宗は個人の我が侭として望む。

 

 自軍の陣地に戻るべく互いに背中を向けてから、政宗は呪文のごとく告げる。

 

「覚えておけよ。てめえを殺すのは俺だ、真田幸村」

 

 幸村は振り返ることはせず、政宗の言葉に、目を閉じて笑んだ。恋いや愛にならない執着は、幸村の中にも存在している。

 

 幸村も、六文錢の背中を向けたまま、告白する。

 

 真田幸村の命が伊達政宗の物ならば、伊達政宗個人の命も、真田幸村の物だった。

 

「それがしの好敵手は、政宗殿、ただおひとりにござる」

 

 これが、伊達政宗が真田幸村と交わした、最後の言葉だった。

 

 真田幸村を形成する中で唯一得た、命の譲渡先を示した故の、政宗が被る孤独。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択