第38剣 それぞれの報告
キリトSide
「上手くいったみたいだな、クーハ」
「結局、オレがユウキに告白したのも、アンタの掌の上ってことか?……キリトさん」
「さぁ、どうだろうな?」
第24層主街区『パナレーゼ』、そこの中央転移門広場にある噴水に腰掛けていた俺の元に歩み寄ってきたのはクーハ。
開口一番に彼にそう言えば苦笑しながら返答してきたので、俺は意味深なままに返す。
実際、俺がクーハに言ったことはただ1つ、「したくない後悔は絶対にするな」である。
後悔自体はしてもかまわないが、それが後々に引き摺られるようなものならば、
出来る限り“したくない方”の後悔はやめておいた方が良いからな。
現にクーハとここにはいないユウキが選んだ道だが、
“したくない後悔”ならば2人ともお互いを受け入れるようなことはしなかったはずだしな。
「みんなには伝えるのか?」
「それは、勿論……まぁ大変だとは思うけどさ」
「当然だろうな」
周囲の反応、特にスリーピング・ナイツの反応が気になるところだが、そこら辺は2人の采配で決まるだろう。
アスナは賛成するだろうし、むしろ俺や仲間達も反対はしない。
「ま、今日はもう休めよ。深夜1時過ぎだからな」
「分かってる……キリトさん、ありがとう。背中、押してくれて…」
「こればかりは礼を言われることじゃない。お前自身が選んで、ユウキが受け入れて、2人で進む道だ。
これからどうするかは、お前達で決めるんだからな…」
「うん…それでも、ありがとう。それじゃ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
クーハは話しを終えると近くの宿屋へと入っていったから、多分ログアウトしたんだろうな。
さて、俺も
「何時まで隠れてるんだ、
「にゃはは、バレてたカ。さすがはキー坊だネ」
転移門の近くにある柱に向かって声を掛けると、その裏から情報屋であるアルゴが出てきた。
「いや~、良い話しを聞かせてもらったヨ~。ギルド『アウトロード』の1人であるクー坊、
それにALOを賑わせたギルド『スリーピング・ナイツ』の1人である【絶剣】ユウキ。
この2人がデキてるなんて、お姉さん驚いちゃったヨ~」
俺に近づきながら軽快そうな口ぶりで話すアルゴ……だが、彼女からはいつものような明るさや余裕は感じられない。
ま、それも当然か…。
「これは明日の一面はこれで飾れるかもしれないネ~、大儲け間違いなしだヨ」
「そんな気は更々無いくせに……というか、強がりは止めたらどうだ?」
「っ…どういう意味だイ?」
「言葉通りの意味だが?」
陽気に振る舞っているように見えるアルゴに対し、俺は思ったままの言葉を口にした。
そうすると予想した通りに彼女は表情を強張らせたが、やがて諦めたかのように落ち込みの表情を見せた。
「はぁ~、キー坊には隠せないカ……知ってるんだロ? オレっちが、アイツをどう思ってるのカ…」
「まぁな……お前、クーハのことが好きなんだろ?」
「ははっ、やっぱりお見通しカ…。まぁその通りなんだけどサ…」
そう、アルゴはクーハに対して好意を寄せている。それはいま現在でも、だ…。
「何故、アイツのことが…?」
「ン~、そうだネ~…放っておけないから、かナ。
年下だけど一生懸命頑張ってたり、ちょっと無茶したり、他にも誰かの為に頑張るところとか、ネ…。
早い話し、好みのタイプって言えばいいかナ」
彼女は苦笑しつつも明るく振る舞っているが、その言動には自嘲の色が見て取れる。
「それにもう1つ言わせてもらえば、昔のキー坊に似てるから、とも言えるナ」
「俺?……てことは…」
「そっちはもういいんだヨ…。キー坊には、アーちゃんがいるだロ?」
「すまない…」
つまり、クーハはアスナと結ばれる前の俺に似ていて、そこに惹かれたのも理由の1つ、ということか…。
それを考えるとアルゴは俺とクーハ、2人に失恋した、と…。
「ま、お姉さんはこれくらいどうってことないサ…。しばらくすれば、いつも通りになるヨ」
「言い訳、に聞こえるかもしれないが……俺はクーハの想いがユウキに向かっていて、
ユウキの想いもクーハに向かっていたから、2人の想いを尊重させてもらった。
お前の気持ちは知っていたし、クーハの想いが誰にも向いていなかったら、応援するつもりだった…」
「そう、カ…」
敢えて、俺は自身の考えを言わせてもらった。実際、そう考えていたのだから…。
「それだけでも、ありがたいヨ。それじゃあまたな、キー坊…」
「あぁ、また…」
アルゴは転移門へと向かい、そのまま何処かへと転移していった。
すれ違いざま、彼女の頬に雫が流れていたことは彼女の為にも見なかったことにした方がいいのかもしれない。
「は~、地が固まったと思ったらこれかよ…。雨がまた降ったか…」
クーハとユウキが解決したと思ったら、今度はアルゴだからな…。
しかも俺に対して好意を寄せていたのは知らなかった、当時は色々と余裕が無かったから…。
俺に関してだけは、今度アスナにも伝えておいたほうがいいかもしれない。
帰宅した俺は寝室に入るとログアウトした。
キリトSide Out
ユウキSide
クーハと、九葉と想いを伝えあって、想いが繋がり合った日の翌日。
今日もアスナと学校へ行った放課後、ボクはスリーピング・ナイツのみんなを集めて、話しをすることにした。
彼も「一緒に報告する」とは言ってくれたけど、ボクは敢えて1人でみんなに報告する事にした。
第27層のいつもの宿屋、そこにみんなは集まってくれた。
「改まって呼び出すなんて、珍しいな」
「なにかあったのかい?」
「う、うん…」
ジュンとノリの言葉を聞いて頷くものの、珍しく緊張しているのが解る。
それでも、みんなには自分で報告したい…!
「お、驚くかもしれないけど、落ち着いて聞いてね…」
「「「「「うん」」」」」
大丈夫、きっと……よし!
「ボ、ボク、ね……クーハと、付き合うことにしたの」
「「「「「……………」」」」」
うん、思った通りの反応、固まってるね。
「え…ちょっと、待って…。あの、ユウキ? 付き合うって、男女の仲、ってこと?」
「うん、そうだよ///」
「そうだよって…ユウキ、あなた解ってるの? あなたはもう「解ってるよ」なら…!「それでも!」っ!?」
困惑しながら言葉にしてくるシウネー、他のみんなの反応も似たようなもの。
シウネーが言いたいことは解ってる、同じことをボクは昨日クーハに聞いたから。
彼女が言いたい事は理解できる、昨日のボクだからね。
「それでも、クーハはボクを選んでくれた。彼が、彼の方からボクに想いを伝えてくれたんだ。
ボクも、クーハのことが好きだから……逃げないで、ボク自身の想いも伝えたの」
「で、でも「シウネー、そこまで」っ、ジュン…?」
なにかを言おうとしたシウネーを遮ったのは、いつもは子供っぽくて、
だけどギルドのムードメーカーでもあるジュンだった。
「ユウキが決めたんなら、俺達は口を挟まない方がいいと思うんだ」
「そう思う。少なくとも、とやくかく言っちゃいけない」
「ジュン、それにテッチまで…」
テッチもジュンの意見に賛成して、シウネーはさらに驚いた様子を見せた。
「そうですよ。それに、ユウキはいままで決めたことはやり遂げてきましたよ」
「タルケン…」
タルケンも自分の意見を言ってきた。こういう時、彼はしっかり決めてくれる。
「ったく、タルはいつもそうだったらいいのに…/// でも、タルの言う通りだよ。
それにね、シウネー……あたし達がランに、藍子に頼まれたのは過保護にすることじゃないだろ?
ユウキを支えてくれってことじゃないか」
「あ…」
ノリの言葉にシウネーは何かを思い出したのか、戸惑いから驚きの表情に変わって、それで落ち着いた雰囲気に戻った。
いつもの、優しくて穏やかなシウネーの顔だ…。
「そう、そうでしたね…。私、彼女の言葉を取り違えて……ユウキを見守るって約束、駄目にしちゃうところだった…」
「姉ちゃんとの、約束…?」
「ええ。1年前、私達は藍子さんと約束をしたの……藍子さんは亡くなる少し前に、
『ユウキのことを見守ってあげて』って、そう頼んできたの」
そんなことが……姉ちゃん、ボクのことを思って…。
「彼は、クーハ君は、あなたのことを全部知っても、傍に居ると選んだの?」
「うん、クーハは全部知ってるよ…」
「そうなの……なら、もう言うことはないわね。おめでとう、ユウキ」
「「「「おめでとう!」」」」
みんながそう言ってくれた途端、ボクの目から涙が零れて、止まらなくなった。
「ありが、とう…み、んな…!」
涙を流すボクにみんなは頭を撫でてくれたり、肩に手を置いたり、背中を撫でてくれたりしてくれた。
シウネー、ジュン、テッチ、タルケン、ノリ……みんなが友達で、仲間で、本当に良かった。
ユウキSide Out
クーハSide
ユウキがスリーピング・ナイツのみんなに話しているであろう時間、オレも仲間内で報告することにした。
「まぁ、色々あってオレはユウキと付き合うことにしたから」
「「「「「「「「「「えぇ~!?」」」」」」」」」」
オレのカミングアウトにみんなは盛大に驚いたけど、キリトさんは昨日の内に知っていたので両手を耳に当てて防音していた。
さすがだよ、この人(笑)。
「も、もしかして、一昨日のユウキとの話しで…」
「まぁそれが決心つける1つだったのは間違いないよ」
アスナさんの問いかけに同意しておく。
「でもオレの背中を押したのはキリトさんだよ」
「またお前か…」
「なんかもう、いつものことですよね?」
「……感心を通り越して呆れしかないな」
「これにはもう驚かないっすよ」
「むしろデフォの1つになってるな」
キリトさんに背中を押されたことを伝えると、ハクヤさん、ヴァルさん、
ハジメさんにルナリオさん、シャインさんが順番に呟いた。
それを聞いたキリトさんの反応はというと…。
「褒めるなよ」
褒めてない、と言いたいけれど無駄だと思ったので誰もツッコまない。
一方でアスナさんが心配そうな表情を浮かべながらキリトさんを見てるけど、彼は眼で「大丈夫だ」と言ってる気がした。
「なにはともあれ、めでたいことだろ? それに明日はバーベキューパーティだ、そこで祝うのがいいと思うが…」
「「「「「賛成!」」」」」
キリトさんの提案に女性陣が一斉に同意、明日はちょっと大変かもしれないな~…。
そう思いつつも、明日を楽しみにするオレだった。
クーハSide Out
To be continued……
後書きです。
という感じで今回はアルゴの失恋報告、ユウキとクーハの交際報告の話となりました。
この作品の裏設定として、アルゴはかつてキリトに惚れていたけれど、彼はアスナと恋人同士になり、
また新たに恋をしたと思えば、今度はクーハとユウキが交際を始めるという感じに流されました。
勿論、彼女にも幸せになってもらつもりなので、このままにはしておきませんよw
原作の最後でしかユウキの姉である藍子さんのキャラネームは出ていませんが、ここではこの段階で出してみました。
次回は原作で書かれていなかったバーベキューパーティを書きます、第28層ボスは不遇w
明らかなノリで書いたコメディ回なので、あまり期待はしないでくださいね(オイッ!)
それではまた・・・。
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第38剣です。
クーハとユウキが仲間たちに報告、それに加えてある女性も・・・。
今回はいつもより少し短めですが、どうぞ・・・。