見てしまった、夜に桂花さんの部屋からご主人様が出てくるのを。
手にはお酒を持ってたから酔ってたのかもしれないけど……
また来ないと許さない、なんて赤い顔でいう桂花さんを見てしまった。
部屋で二人きりで、何してたんだろう。きっと仕事なんかじゃない。
想像すると悔しい……。
確かに紫青は新参者でまだ日も浅いけど、ご主人様の事が本当に好き。
汜水関や虎牢関の噂でご主人様に興味を持って、試験の時、特別に引き立ててくれたと聞いて好意を持ち、
実際に合って恋に落ちた。
気の多い人なのは理解してる。日の浅い私が正妻なんて多分厳しいのも知ってる。
ご主人様を思う気持ちならきっと誰にも負けないのに。
「一刀様……」
こう呼びたいとずっと思ってたけど、こう呼べるのは誰にも聞かれていないときだけ。
図々しくて本人に直接呼びたいなんてまだ言えないし……。
物陰に隠れて、ご主人様が部屋に戻るのを見送る。
胸がもやもやする。嫉妬してるんだって自分でよくわかる
紫青もご主人様と二人でお酒飲んだり、お話したりしてみたい。
モヤモヤした気分のまま、しばらくそこに立ち尽くしてしまったけど、
ここでこうしていても仕方がないし、部屋に戻って休むことにした。
────────────────────────
「なんだこれ?」
今日も今日とて政務なわけだが、書簡を確認していて妙なものを見つける。
なんでも、夜の森で不気味な声が聞こえてくるとか。
何かに襲われたり、といったことはないそうだが、気味が悪いので調査をしてほしい
という陳情。さして報告の数が多いわけでもないし、実害があったわけでもないからスルーしてもいいんだけど。
忍者隊の訓練がてら行ってみるか。
ここんとこ政務にかかりきりだったから、忍者隊の鍛錬に参加出来てなかったし。
っていうのを愛紗に相談したら、最初はすごい渋い顔をしてたけど、
忍者隊の訓練ついでに調査するから来なくていい、って言うとあっさりとOKがでた。
絶対自分もついていくって言うとおもったから、どう説得するか悩んでたんだけど、杞憂だったようだ。
そんなわけで忍者隊とともに夜の森にやってきた。
幸いにも月明かりはあるものの、夜の森は想像以上に暗い。
当然、隠密の訓練なので明かりはなし。
隊のメンバーはさすがに気配を消すのがうまくなってきた。
正確には気配を消す、というより周りと一体化する。という感じだけど。
砂利道に石があっても違和感がないように、違和感を感じさせないようにするイメージ。
最近はもう集中していないと気配を読むのが難しいぐらいになっている。
お互いの気配を探り、合図をしあうように夜の森を歩きまわる。
そうしながらしばらく森のなかを歩きながら探してみたがそれらしい声は聞こえず。
時折ほーほーとふくろうの声が聞こえてくる。コレは夜の連絡手段。
モールスや手旗のように細かいことまでは伝わらないが、
予め決めた簡単なことを伝えられるようにしてある。
例えば、長く一度なら異常なし、という具合。
さらに森の中を歩く事しばし、短く三度、ふくろうの声が響く。
今日の場合は、「発見」という合図。その声がした方に気配を殺しながら移動していく。
確かに、なんだか不気味な感じの声が聞こえるが、聞き覚えがあるような……。
不気味に聞こえるのは単に夜の森という雰囲気から来ているようなきもする。
そちらの方に行ってみると、大きな木の前でしゃがみこんだ、見覚えのある後ろ姿が月明かりに見える。
ふくろうの鳴きマネで撤収を指示してから、その後姿に近づいていく。
「紫青」
俯いているその横までいき、ぽんと肩を叩けば飛び上がるほど驚いてこちらを向いた。
顔はいつもの笑顔ではなく、めったに見ないすごく驚いたような顔。
「ご主人、様? あ、み、見ないでください!」
一瞬そのまま硬直していたが、すぐに俯いて顔を隠す。
紫青の足元をよく見れば、まじないでもしていたのだろうか、何やら怪しげな物がおいてある。
「え、えと……」
しばし何か独り言をいってから、顔をあげるといつもの笑顔。
「何やってたの?」
俺の視線を追って、その怪しげなあれこれにたどり着けば、
笑顔のままだけど、顔から血の気が引いて青くなっていくのがわかる。
「紫青?」
そういえば、おまじないって人に見られると効果がなくなるっていうのが結構多いっけ。
「ご主人様、紫青は……、紫青はお暇を頂きたいと思います……」
「ちょ、ちょ、ちょっとまって! そのおまじないを俺がみちゃったせい?」
紫青がゆっくりと頷く。
「ご主人様が、紫青の事を見てくれるようにって、おまじないしてたんです。
でも見られちゃったら、嫌われちゃうんです」
軍師っていうのは占いとかおまじないなんていう不確かな物に惑わされちゃいけない、なんて桂花がいってたけど、
紫青はこういうの信じるタイプなんだなぁ……。
「紫青の事を嫌いになったりしないよ」
その頭に手をのせて落ち着かせるように軽くなでて。
「紫青のおまじないがうまくいったから、俺がここにきて、ふたりきりになれたんじゃない?」
考えるように黙りこむ紫青の髪をゆるく撫でながら、言葉を続ける。
「紫青はいつも笑ってるから、本気なのかどうかわからなかったんだけど、
前に好きって言ってくれたのは、俺を男として、ってことなのかな」
「はい、お慕いしています。だから、紫青のできる事は精一杯して、お傍に居られるときは、笑顔を絶やさないようにして」
「そっか」
髪を撫でる手に少しだけ力を入れて引き寄せようとすると、紫青は逆らわずにこちらへ、そのまま背中に腕を回して抱きしめて。
「あ、あの!?」
びくっとしたのは感じたけど、押しのけて来るようなことはしない。
「紫青はさ、これでもまだ俺が紫青の事嫌いになるとおもう?」
「思わないです……。さっきの、お暇をいただきたいという言、取り消させてください……」
「ん、いいよ。俺も紫青が居てくれないと困るしね」
「あ、あの。お願いがあります。ご主人様の事を、あの、お名前で呼んでもいいですか……?」
見上げてくる紫青と目をあわせながら、軽く頷いて。
「いいよ。代わりに、俺からもひとつお願い。笑顔でいてくれるのは嬉しいけど、紫青が本当に喜んでるかとか、わからなくてさ。
だから、俺の前ではもう少し感情を表に出してほしいかな。あとあんまりいろいろためこまない事。
俺は紫青が隠れて怒ったり、悔しがったりしてるの、知ってるから。俺でよければ話ぐらいは聞いてあげられるしね」
「み、見てらしたんですか!?」
「何度か見たことあるよ」
「あ、うぅ……」
恥ずかしそうに真っ赤になり、ごまかすように俺の胸に顔を埋めて表情を隠す。可愛いなぁ。
「わかりました……。なるべくそうします、一刀様」
顔を上げた紫青の顔は、いままで見ていた笑顔とは違う、とびきりの笑顔に見えた。
紫青が満足してくれるまで抱きしめ続けて、城に帰ると紫青を部屋まで送り届けた。
「今度、紫青の部屋にも来てください」
去り際にそう言われたので軽く頷いて、俺は部屋へと戻っていった。
あとがき
どうも黒天です。
今回は紫青さんオンリー回でした。
一刀は原作準拠の女ったらしになっていくようです。
紫青さんの性格は、基本は穏やか、最初から一刀に心酔している。
そこそこ嫉妬深い、感情を表に出さず、内へ内へ貯めこむのでたまに爆発する。
とまぁこんな感じです。オリジナルで出すとやはり格段に動かしやすいですね。
実は今回、本当は紫青が嫉妬のあまり、丑の刻参りをしていて、それを発見される。という話の予定だったんですが、
収拾をどうつけるか、というところで悩み、没ネタになりました。
没ネタ見たい人いますか? いらっしゃったら書いてみようとおもいます。
あと、以前コメントでいたさんが三軍師の通り名について言ってらしたのを考えてみたんですが
荀彧はツンで良いとして、紫青は能面(仮面)、とか思いついたんですが、朱里のいいのが思いつきません。みなさんならどうしますか?
さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
また次回にお会いしましょう。
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今回は紫青さんのターン! 今回で紫青さんの性格がだいたい判明するかな? 結構甘めのつもりです。