No.61914

『真・恋姫†無双』 第1章「董卓の上洛」

山河さん

PCゲーム『真・恋姫†無双』の二次創作となります。

設定としましては、もし一刀が董卓と共に行動することになったらというものを主題にしております。

また、タイトルにもあるように続き物の冒頭部分となっております。

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2009-03-06 23:28:20 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:17286   閲覧ユーザー数:12559

 

「まだ昼なのに……」

気の強そうな少女が、眼鏡の奥に光る瞳を蒼天の流星に向ける。

吉兆か、あるいは凶兆か。

ここから先は、わずかな天の動きも見逃すまい。

少女は眼鏡を直すと、御者に速度を上げるよう指示を出し、前方を走る馬車に目をやる。

涼州を発し長安を抜けた大軍は、間もなく函谷関に差しかかろうとしていた。

「……月」

眼鏡の少女は自らの馬車を、もう一両の馬車に轡を並べるように近づけると、自らの主人の名を呼んだ。

「どうしたの、詠ちゃん?」

眼鏡の少女、詠に呼ばれた、もう一人の少女、月はおっとりとした口調でそう返事をする。

「月、さっ……!」

馬車が急停車し、詠は上体を崩してしまう。

「何事!?」

詠はずれた眼鏡を直すと、一刻も早く状況を確認し対応すべく馬車から飛び降りると、近衛の兵士に月の身辺を固めるべく指示を出し、自らは幾人かの兵士と共に確認作業を開始する。

先ほどの流星のこともある。いやな胸騒ぎがする。

動揺する兵を抑えながら指示を出す詠のもとに、一人の兵士が慌しく駆け込んできた。

「……ぜ、前方に……ひ、人が!」

先頭には猛将華雄がいる。その華雄がたった一人の人間に怯むなど考えられない。

それにあの華雄の性格だ。全軍に停止命令を出すこともなく、そのまま踏み潰すはずである。

それが停止命令とは……。

「……もっと詳しく!」

詠はただならぬ事態だと察し、その兵士に詳細を求めた。

「は、はっ! そ、それが、前方に忽然と人が現れまして……。妖の類ではないかと……」

なるほど、それならばあの華雄が進軍を止めたのも納得がいく。

「それで、状況は?」

詠は自らも確認すべく、前に進みだす。

「……まさか、さっきの流星……」

そう呟いた詠だったが、自らの考えを否定すべく首を振る。

「……そう、あれは似非占い師の戯言だわ……」

自らに言い聞かせるようにそう呟いた詠に、声をかける者がいた。

「おう! 賈駆」

馬上から詠に声をかけた華雄である。

「華雄、何があったの?」

詠は華雄の隣まで来ると、そういって前方の異様な光景に目を向ける。

「ああ、急にあたりが光ったかと思うと人が倒れていたんだ」

詠と華雄の前方には、自軍の兵士数十人が遠巻きに一人の男を囲んでいる姿があった。

「……気絶しているようね……」

詠は倒れている男の様子を確認すると、水を顔にかけて目を覚まさせるよう近くの兵士に指示を出した。

「……わっぷ!」

冷ややかな水の感触と共に、目を覚ます。

いや、強制的に覚まされた、か?

………………………………………………………………。

「……なんじゃこりゃーーーーーーー!!!!」

目を開けて最初に飛び込んできたのが、完全武装で俺を取り囲む屈強な男たち。そして水墨画のような風景。

ここはどこ? 私は誰?

「ここは長安の東。あんたが誰かは知らない」

いや、俺が誰かはわかるんだ。何となく言っただけだから。

「なら何者なのか説明してちょうだい」

……ん? さっきから聞こえるこの声は誰だ? というかどうして俺の心の呟きに反応できるんだ……?

……そうか! これは夢だ! 夢に違いない。そうかそうか。

じゃあ、おやすみ……。

「……それはあんたの思考が声に出ていたからよ。そして、寝るなっ!」

その声と共にわき腹に激痛が走る。

再び眼を開けた俺の目の前に立っていたのは、眼鏡をかけた気の強そうな少女だった。

俺は痛むわき腹を擦りながら、今度は明確に声に出して少女に尋ねる。

「……えっと……、どちらさまでしょうか……?」

少女の眼にはありありと警戒の色が浮かんでいる。

それにその少女をよくよく観察して見ると、服装が変だ。

中華風の服装と言えばいいのだろうか。ただ、現代の中華風ではない。ずいぶん昔の中華風である。そう、まるで某アクションゲームにでも登場するような……。

ひょっとしてコスプレイベントか何かだろうか? そうすれば後ろに控える兵士風の男達の格好にも納得がいく。

……しかし、周りの水墨画世界はどういうことだろう……?

日本中を旅して回ったわけではないが、少なくとも日本にはこんな景色が見れる場所なんかないはずだ。

……まさか寝ている間に中国かどこかに連れて行かれたとか……。

いやいやいや、それこそありえない。

……ならここはどこだというのだろう……。

俺がそんな思考を巡らしていると、眼鏡の少女が口を開いた。

「……まぁいいわ。ボクの名前は賈文和。董卓軍の軍師よ」

……とうたく? 董卓といえば、三国志に登場する典型的な悪役じゃないか。そう、酒池肉林の暴君。

それに賈文和。

………………………………………………………………

……えっと、誰だっけ?

昔じいちゃん家に行ったとき、小説で読んだんだけどなぁ……。

………………………………………………………………。

……そうだ! あの曹操を追い詰めた策士の名前だ。

たしかその軍師の名前が賈駆で、字が文和。

……ああ、やっぱりコスプレイベントか何かだったか。

でも賈駆は、某アクションゲームではモブキャラ扱いだったような……。

はっ!? まさか某カード大戦の方か!?

「……ちょっとあんた。今失礼なこと考えてたでしょう……」

「いやいやいや! まさかそんな!」

俺は慌てて首を精一杯横に振る。

「ふんっ、まあいいわ。で、あんたの名前は?」

賈文和と名乗った少女は鼻を鳴らし、そう尋ねる。

「……えっと……。俺は特にコスプレとかしてないんだけど……」

賈駆は怪訝そうな表情をし、

「……こすぷれ?」

と、感触を確かめるよう口にした。

「……いや、だから今君がしているみたいな格好を……」

まさか言葉が通じないのか?

でも「コスプレ」以外は通じてたみたいだし、そんなことはないだろう。

……ははぁん。そういうことか。

この少女は完全になりきっているのだ。

なぜ有名な孔明や仲達じゃなく、マイナーな賈駆を選んだのかは不明だが、この少女は今完全に三国志の世界に埋没し、なりきっているのだ。

……まぁ、個人の趣味にとやかく言うつもりはないが、今の状況ではさっさと現実世界に帰ってきて欲しいことこの上ない。

でないと、俺の現状がさっぱり把握できん。

「……いや、あの、君の本名が知りたいんだけど」

そう言った俺に向けられた瞳は、先ほど以上に警戒されたものだった。

「……言葉は……ちゃんと通じてるわよ、ね……?」

いったい何だというのだろう?

まさか本当に三国志の世界に来たわけではあるまいし……。

!? まさか本当に!?

「すまん、今は西暦2008年だよな!?」

しかし少女はますます警戒してしまった。

「せいれき? あんた頭大丈夫……?」

ついには心配まで……。

……そうだ! とりあえず俺の持てる三国志の知識を総動員して現状を確認してみよう。

「……今は後漢王朝?」

「そうよ。何だ、話は通じるみたいね」

馬鹿にされたようだが、今は気にしない。

「皇帝は献帝?」

「……やっぱり、頭がおかしいのかしら……。今は霊帝が崩御し、何進大将軍に擁立された劉弁陛下の御世。もっとも、その何進大将軍が暗殺されちゃったから今後どうなるかはわからないけど……」

なるほど。ある程度はわかった。

劉弁、おそらくこの後廃位されて少帝の名が贈られるはずの人物だ。そして皇太后一派の推す劉協(このおくり名が献帝。ただし今は退位はおろか即位もしていないので献帝と言っても通じないはずだ)が即位する。

ということは、

「董卓は宦官張譲に乞われ、劉協擁立の後ろ盾として上洛するところ?」

と、とりあえず整理した情報を確認する。

すると、驚いた表情の賈駆は、

「……あんた何者……? そのことはまだ一部の人間しか知らないはず……。わが軍でもボクと月以外知らない極秘事項よ!」

と、俺の喉に剣を突きつける。

「!? ま、待て! 信じてくれないかもしれないけど、俺は未来から来たんだ! ……たぶん」

「未来から……!?」

そう言うと賈駆は剣を引き、

「……いいわ、何か証拠を見せてくれたら信じましょう」

と剣を鞘に収めた。

……証拠。何か証拠は……。

ポケットには……。

あ! 携帯があった!

「ほら、これ」

俺は携帯を取り出して見せる。

「……何……これ?」

賈駆はじっくりと確認するように携帯を観察する。

そこで俺はダメ押しとばかりに、携帯を開き着メロを鳴らしてみた。

「!?」

しかし、驚いた賈駆の手によって携帯を叩き落され、地面にぶつかった衝撃に耐え切れず壊れてしまう。

……うぅ、機種変更したばっかだったのに……。

落胆する俺をよそに、賈駆は壊れた携帯を見つめ、

「……なるほどね……。確かにボクらの時代より1000年は後の高度な技術品のようね。……いいわ、あなたの言、信じましょう」

と、どうやら一応は信じてくれたようだ。

だが訂正させてもらうと、携帯はこの時代より約1800年は後の製品だ。

まぁ、俺が知ってる三国志の世界なら、という補足付きでだけど……。

「誰か、月を呼んできて」

賈駆は近くにいた兵士に命令する。

俺が賈駆に無言のまま見つめれることしばらく。

陣中から一人の少女がやってきた。とびきりの美少女だ。

俺がその少女に見とれていると、ジトっとした目つきの賈駆に、

「そういえばあんた、まだ名前を聞いてなかったわね。早く名乗りなさい!」

と怒られるように言われた。

俺は慌てて美少女から目を離し、自分の名前を告げる。

「……ああ、俺は北郷一刀」

美少女はいまだ状況がつかめないらしく、

「……えっと、わたしは董卓って言います……」

と言って、賈駆の方を見る。

!? 董卓!? 董卓だって!? この美少女が董卓!?

俺が眼を見開き驚愕の表情を隠せないままでいると、一通りの説明を董卓にし終えた賈駆が、

「何をそんなに驚いているの。こちらの方こそ正真正銘の涼州太守、董卓さまよ」

……まさかそんな……。

あの暴君董卓がこんな美少女だなんて……!?

「……あの、えっと……。御遣いさま……?」

董卓がおずおずと話しかけてくる。

ますます信じられない。こんなにも可憐なのに……。

ん? そういえば今、気になる単語が。

「……御遣いさま?」

俺はそう聞き返した。

「そうよ、管輅の占いによると、東方より流星が現れる。そして、その星に乗っていた者こそ乱世を鎮める天の御遣い。つまり、あんたのこと」

何!? 何じゃそりゃ!?

俺が天の御遣いだって!?

ゲームやラノベじゃあるまいし、何だその超展開は!

「……えっと、御遣いさま……? その……わたしたちにお力を貸していただけませんか……?」

とても董卓とは思えない美少女董卓ちゃんが、畏まって膝をついている。

「いや、俺は天の御遣いとかじゃなく、ただの学生で……」

そう言う俺を当然であると見なしている賈駆は、

「そうよ、月。こんな奴に何か特別な力があるとは思えないわ。……でも、別の世界から来たのだけは本当みたいだから、それを利用するだけ。別に礼を尽くす必要なんてないのよ」

と言って強気の態度を崩さない。

しかし美少女董卓ちゃんは、

「詠ちゃん、わたしはやっぱりこの方が乱世を鎮める天の御遣いさまだと思うの。……あの、えっと……わたしの名は董卓、字は仲穎、真名は月と言います。どうか御遣いさまのお力を御貸しください!」

と、あくまで俺を御遣いだと信じているらしい。

「ちょっと月!? 正気なの!? こんな奴に真名まで許すなんて!」

その様子を見ていた賈駆は大慌てだ。

それに真名とは何だろう? 俺の持っている三国志知識にそんなものはない。

俺がそう思っていると、どうやら美少女董卓ちゃんとツンツン賈駆ちゃんとの間で話し合いが成立したらしい。

賈駆も董卓に倣いかしずくと、

「わが名は賈駆、字は文和、真名は詠。……いい、あんたはまだ知らないようだけど、真名というのはボクたちにとってはその人のすべてを表す名なのよ。知っていても口にすることは憚られる神聖名前。ボクも月もあんたにそれを許すということは……。いくら間抜けそうなあんたでもわかるわよね?」

「わかった。謹んで二人の名前を与かる」

いくら考えてみても状況は変わらない。

俺は改めて月と詠の二人を向き、決意を伝える。

「ただ、俺は自分が天の御遣いだなんて思ってない。でも、全力で力を貸すつもり。それに、もし二人の邪魔になるようだったら、捨ててもらってかまわないよ」

じいちゃんも、「人間到る所青山在り」って言ってたっけ。

今はこの風に乗ってみよう。

俺は月と詠、二人の少女と共に行動し、どこまで力になれるかわわからないが、全力で助けていこうと誓った。【続】

 

 
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