No.618351

真・恋姫✝無双 ~夏氏春秋伝~ 第八話

ムカミさん

第八話の投稿です。

今回から黄巾編に突入します。

2013-09-11 08:53:23 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10218   閲覧ユーザー数:7522

 

とある平原に数多の人の足音が、馬蹄の音が響き渡る。音の発生源では2つの集団があった。

 

賊の集団を官軍が追っている音である。

 

「追え~!奴らを逃がすな~!!」

 

官軍側を率いている春蘭が叫び率先して賊を追走する。

 

「ボク達も行くよ!全軍駆け足~!!」

 

それに呼応して季衣もまた隊を率いて賊を追う。しかし。

 

「駄目です、将軍!また逃げられました!」

 

「またか!相も変わらず逃げ足だけは速い…」

 

「うぅ~、戦ったら勝てるのに~」

 

賊の逃げ足は相当に速く、ここしばらく誰の隊も賊に逃げられっぱなしであった。

 

「…また黄色い布。やっぱりこれは…」

 

そんな中、副官として同行していた一刀は僅かに捕らえることの出来た賊の持つ黄色の布を見て、何事かを考え込んでいた。

 

「一刀!撤収するぞ!」

 

「ああ、わかった…」

 

思い耽って動かない一刀に春蘭が声を掛けた。一刀はそれに生返事を返しつつ帰路につく。

 

そんな一刀の様子を傍で見ていた季衣は心配そうに一刀を覗き込んだ。

 

「兄ちゃん、どうかしたの?」

 

「何でもないよ、季衣。ありがとう」

 

「あっ…えへへ」

 

季衣を不安にはさせたくないので一刀は元気を装う。そして季衣の頭を撫でた。季衣は嬉しそうに目を細めて為すがままにされるのであった。

 

「……」

 

一刀は季衣に表情を見せないようにしつつ、とあることを心中で決した。

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様、ただ今戻りました」

 

「ご苦労様、春蘭、季衣。それで今回は?」

 

「すみません。今回も接敵前に賊に逃走を開始され、賊の一部を僅かに捕らえることが出来ただけです」

 

「そう、今回もそうだったのね…」

 

幾度も繰り返されるこのやり取りにさすがの華琳も落胆を禁じえない。

 

重苦しい沈黙が議場を占めようとしたその時、桂花から声が上がった。

 

「華琳様、ここ最近の賊について草の者より新たな情報がございます」

 

 

「それは本当なの、桂花!?」

 

「はい」

 

突然もたらされた朗報に

 

思わず喰らいつく華琳。桂花は努めて冷静に得た情報を開示していく。

 

「ここ最近の賊には共通点が一つあり、皆一様に体のどこかに黄色い布を巻いております。その特徴から一部では『黄巾党』と呼ばれ始めている模様。また、その首謀者に関しても姓名のみ判明致しました。名は張角、張宝、張梁の3名。ただ、現時点では性別すら不明です」

 

「それでは何もわからんのと同じではないのか?」

 

「それは違うぞ、姉者。首謀者がいるということはここ最近の賊はやはり自然発生のものではなく意図的なものであったということがわかった。また、頭目の姓名さえ判明すればそれを元に各地に草を放つことで、より詳細な情報が手に入る可能性が格段に上がる」

 

齎された情報に意味を見いだせない春蘭に秋蘭が解説を加える。華琳はその説明に同調して言葉を続けていく。

 

「そういうことよ、春蘭。黄巾党、ね。これで少しはマシな対策を取れるようになるでしょう。桂花、よくやってくれたわ。後で褒美を取らせましょう」

 

「はっ。ありがたき幸せ」

 

「それでは…」

 

「し、失礼します!!」

 

桂花の報告を受けて華琳が今後の指示を出そうとした所で、兵士が慌てて軍議に乱入してくる。

 

「何だ貴様!今は軍議中だぞ!」

 

「落ち着きなさい、春蘭!軍議に割って入ってまで伝えるべき事態が発生したのでしょう。一体何があったの?」

 

軍議を乱した兵に激昂しかけた春蘭を華琳が制し、その兵に先を促す。普段であれば華琳もこのようなことは許しはしない。しかし、兵の慌てようは明らかに何か重大な事が生じたことを示していた。このような柔軟な姿勢が華琳の大きな強みであることは明白である。

 

多少話が逸れたが、ここで話を戻す。華琳に促された兵はすぐに答えた。

 

「はっ、先程大梁方面に放っていた草の者から連絡がありまして、賊の群が複数発生し、各地で暴走を始めているとの報告が!」

 

「わかったわ。秋蘭、季衣、それから零。あなた達3人で兵を率い、大梁へ向かいなさい」

 

『御意!』

 

単に賊が発生するだけであればそれほど珍しいものでは無い。しかし、同時に複数の賊が発生するということはほとんどなく、確かに緊急の用件として十分なものであった。

 

報告を受け、華琳は事の重大を即座に把握し、その場で指示を出した。

 

命を受けた3人は諾の返事の後直ぐ様軍議の間を出て兵站の準備に入った。

 

 

 

 

 

 

 

一刀は先の賊討伐行から帰還すると、桂花に黄巾党のことを報告して後、部屋でくつろいでいた。

 

一刀の実力自体は春蘭、秋蘭の参画時から副官を務め続けていることで華琳も認めているところではある。

 

しかし、一刀は副官に徹することであまり成果らしい成果は挙げておらず、それ故に位は依然として副官相当のままであった。

 

曹操陣営において、軍議には副官は基本的に出れないことになっている。その為、一刀は軍議が行われているはずの今この時でもこのようにのんびりとしているのであった。

 

しかし、そのゆったりとした時間は唐突に終わりを告げる。

 

「一刀!大梁方面にて賊が複数発生した。私と季衣、零で部隊を率いる。帰還早々申し訳ないが一刀も付いて来てくれないか?」

 

秋蘭が部屋に飛び込んで来るやいなや一刀に出陣を要請する。足音である程度の予測を立てていた一刀は特に驚くこともなく返事を返す。

 

「もちろん構わないよ、秋蘭。黒衣隊の隊員も何人か連れて行こうか?」

 

「そうだな。今回は出来れば情報収集に力を入れたい。これだけ動きが活発になって来たんだ。何か大きな意思が動いてそうだからな」

 

「了解。すぐ出れそうな隊員を選抜して兵の中に紛れさせておくよ」

 

「うむ、頼んだぞ」

 

先程、黄巾党の頭目たちの情報は報告した。となれば今後の対黄巾の戦ではより深い情報収集が必要になってくるはず。そう考えた一刀は黒衣隊の使用を提案した。

 

情報は現場レベルで刻一刻と重要度が変化することがままあることを桂花は知っている。それが故に一刀には黒衣隊を桂花の許可を取ることなく動かす権限を与えられていた。今回はその権限を利用する形となる。

 

この時秋蘭からもたらされた賊発生の知らせ。それはいよいよ黄巾党が本格的に動き出した事を意味し、また後漢の時代が終わりに向かって着実に進んでいることを示していた。

 

「そろそろ”頃合い”、なのかもな…」

 

一刀はそう呟くと従軍させる黒衣隊員を集めるために動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

出陣の準備を素早く整えると、秋蘭、季衣、零、一刀は直ぐ様大梁に向けて出発した。

 

その道中で秋蘭は一刀と馬を並べて問いかける。

 

「先程は急いでいたので聞きそびれたが、黄巾党の情報を提供したのは一刀ではないのか?」

 

どこの諸侯も黄巾党の情報は思うように集めることが出来ていない。それは曹操軍でも同じであった。しかし、ここに来て突然ある程度纏まった量の情報が入った。色々な意味で一刀の正体を知っている秋蘭にとってはその情報の提供者は一刀しか考えられなかったのである。

 

「やっぱり秋蘭はさすがだね。俺の世界での歴史では『黄巾の乱』と呼ばれる農民反乱が発生したんだ。ここしばらくの賊は皆この乱を起こした賊の象徴である黄色い布を身につけていた。この世界において俺が知ってる歴史と同じ事件が起こったら、それに関わる人物が俺の世界の歴史での人物と変わることはまず無いみたいだからね」

 

「それで首謀者の名前がわかっていたのか」

 

「そういうこと。ただ、桂花も言ってたと思うけど、張角達の性別や容姿、目的はわからない。そこは変わってしまっている可能性も大きいからね」

 

「そうだな。それは正しい判断だと私も思う。だが何にせよ、一刀のおかげで今後の指針がようやく立てられるようになったのも事実だ。礼を言う」

 

「当然のことをしたまでだよ。むしろ黄巾の確認にちょっと手間取って報告が遅れたぐらいだ」

 

「…いつも思うのだがあまり謙遜しすぎるな。一刀が思っている以上に私達は一刀に助けられているんだ」

 

「…ありがとう、秋蘭」

 

桂花の時と同様、秋蘭の目もまた真実のみを語ってる目だった。そのような目を向けられてはそれ以上否を唱えることはさすがに出来ない。結局一刀には謝辞を述べることしか出来なかった。

 

「あ、いたいた。兄ちゃん、一緒に行くの、久しぶりだね。ボク実戦でも大分強くなったよ!」

 

妙な沈黙が場を支配しかけたその時、季衣が馬を並べて話しかけてくる。一刀も秋蘭も好んで空気を悪くしたいわけではないのでその話題に乗ることにした。

 

「季衣はずっと訓練頑張ってるもんな。どれだけ強くなってるか、楽しみにしておくよ」

 

「季衣の伸びはすごいぞ。近々華琳様の親衛隊に将の地位で参入する程だ」

 

「えへへ。華琳様にも認めてもらえてるんだよ。すごいでしょ、兄ちゃん」

 

「それは…本当にすごいな」

 

華琳の親衛隊。それは曹軍の中でも選り抜きの兵を集めた部隊。その技量の高さは戦闘のみならず、庭の手入れなどのような園芸技能から日曜大工のような工芸技能まで多岐にわたる。正真正銘のエリート集団である。その部隊に編入されるだけでなく、将の地位を賜る。それは季衣が華琳の真の信頼を得ている証拠と言えた。

 

「ボク、もっともっと強くなってどんな状況でも絶対に華琳様を守り通して見せるよ!」

 

「うん、季衣ならきっとできるよ」

 

「うむ、そうだな。季衣の才能には本当に恐れ入る」

 

季衣の元気一杯の宣言に一刀と秋蘭は笑顔で相槌を打つ。

 

そのまま2人は季衣を会話に加えて和やかな状態で行軍するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「夏侯淵様!至急本隊までお越し願います!」

 

「どうした?!」

 

「斥候に出ていた者からの報告がありました!その内容が予想外が過ぎるとのことです!」

 

大梁の街も近づいてきた頃、一人の兵士が慌てて秋蘭の下へやってきた。その際のやり取りが先のものである。

 

「わかった、すぐに行く。一刀、季衣、お前たちにも来てもらいたい」

 

「了解」

 

「はい、秋蘭様」

 

そして秋蘭は直ぐ様一刀と季衣を伴って本隊にいる零の下へと向かった。

 

 

 

「零!一体何があった?!」

 

「賊の大群です、秋蘭様!斥候の報告によると規模が今までの比ではない、とのこと」

 

「それは確かか?」

 

「はっ!目算になりますが、2万は下りません!場合によると3万を越えている可能性もあります!」

 

「…その数はさすがにまずいな」

 

秋蘭の問い返しに即座に答える斥候。秋蘭はその者に見覚えがあった。

 

実は今回斥候に出ていたのは零は知らないのだが黒衣隊員なのであった。秋蘭はそれに気づくと、情報の修正の必要は無いと判断する。が、その数の多さには愕然とするしかなかった。

 

「周辺で発生していた複数の賊が結集した、ってところかな?」

 

「おそらくそうでしょうね。私達が今回連れてきている軍は5千程度。しかもこの辺りは平原で特に罠を張ることも出来ない。非常にまずいわ」

 

一刀の簡単な考察に司馬懿が肯定の意を示し、必死に対応策を考え始める。しかし。

 

「申し上げます!賊の大群は辺りの小さな邑には目も向けず、大梁を目指して一直線に行軍しております!このままでは数刻程で賊が大梁に到達してしまいます!」

 

続報を受けて最早時間がないことが明らかとなった。

 

「これでは平原にて迎え撃つには時間も数も足りなさそうだぞ、零」

 

「ええ、そうですね…大梁で籠城戦を行うしか道がありません。伝令兵!曹操様の下へ援軍要請を!他の者は大梁へ向けて駆け足!」

 

「はっ!」

 

上策とは勿論言えず、中策と言えるかすらも定かでは無いこの決定。しかし、現実問題として他に取れる策がないことも確かであった。

 

司馬懿の号令を受けて先程の黒衣隊の者が伝令兵として陳留へ向けて、その他の者は大梁へ向けて再び進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、大梁の街、その門前。

 

そこでは鎧を纏い、手甲、足甲を身に付け、長い銀髪を後ろで編んだ少女が、どうみても正規兵には見えない集団の先頭に立っていた。

 

その少女に街の外から腰に工具をぶら下げ、ビキニにショートパンツのような出で立ちの紫の髪の少女が駆け寄っていく。

 

「凪~!やっぱりあれ賊やで!しかもすんごい大群!ウチらだけじゃあんなんの相手は無理やで~」

 

「弱音を吐くな、真桜!例え相手がどれほどの大群であろうと、我々が戦わねば大梁の民達が被害を被るんだぞ!」

 

この二人、実は有志によって構成された大梁義勇軍を率いている3人の内の2人なのである。

 

ビキニの少女はどうやら賊の偵察に出ていたようで、その数を目の当たりにしていた。その上で先のように無謀を説いたのであるが、鎧の少女は民のために立ち上がった義勇軍として戦うことを諭した。

 

「そうはゆうても…」

 

「お~い、凪ちゃ~ん!真桜ちゃ~ん!大変、大変なの~~!!」

 

尚もビキニの少女が食い下がろうとしたところに3人目の少女が飛び込んでくる。その少女はこの時代にあって珍しくおしゃれな服装をしていて、編んだ茶髪をサイドアップにしている。

 

「どうしたんだ、沙和?」

 

茶髪の少女が近づくのを待って鎧の少女が問いかける。それに茶髪の少女は興奮気味に答えた。

 

「陳留の州牧様の軍が助けに来てくれてるの!義勇軍がいることを伝えたら代表者と話がしたい、ってことなの!」

 

その知らせを聞いた2人の少女は相当に驚いた。正直なところ、これほど早くに官軍が助けに来てくれるとは思っていなかったからである。

 

「それ、ホンマかいな?」

 

「当然!なの!2人とも、早く来るの~!」

 

茶髪の少女に急かされて鎧の少女とビキニの少女は官軍の下へと急いでいった。

 

 

 

 

 

 

 

義勇軍が集まっていた門から90度回った門の先、そこに曹軍が停留していた。

 

その軍の先頭には秋蘭、零が立ち、義勇軍の代表を待っていた。

 

そこに先程の少女たちが姿を現す。

 

「我々は陳留が州牧、曹孟徳様の軍隊だ。そちらは大梁の街の義勇軍、ということでよいのだな?」

 

「はい。私が大梁義勇軍の大将を努めさせていただいております姓を楽、名を進、字を文謙と申します」

 

秋蘭が軍の簡単な説明を行い、義勇軍であることの確認を取る。それを受けて鎧の少女は義勇軍を代表して名乗りを上げた。

 

「私は姓を夏侯、名を淵、字が妙才だ。時間がないため手短に要件を。我々は大梁周辺に発生した賊の討伐でここまで来たのだが、予想に反して賊が集中し、討伐が困難となってしまっている。我らの主、曹操様に援軍の要請は出したのだが、援軍が来るまでにはまだまだ時間がかかる。だがさすがに平原にて迎え撃つには数に差がありすぎる。そこで援軍の到着まで大梁にて籠城戦を行う腹積もりだ。よければ楽進たち義勇軍にも力を貸してはもらえないだろうか?」

 

「勿論構いません!むしろこちらからお願いしたいくらいです。真桜、沙和。お前たちもそれでいいか?」

 

「もちろんや!よろしくお願いしますわ、夏侯淵はん。ウチは姓は李、名は典、字は曼成や」

 

「私も大賛成なの~!沙和は于禁、字は文則なの~!よろしくなの~!」

 

秋蘭の要請に義勇軍側の少女たちは一も二もなく諾の返事を返す。了承を得て秋蘭はその頬を緩めた。

 

「協力感謝する。それから、この者は我々の軍師だ」

 

「私は今回の討伐行の従軍軍師、姓を司馬、名を懿、字は仲達よ。貴方たちの協力に感謝するわ、楽進、李典、于禁。基本的には私達軍の人間が防衛に当たる。義勇軍にはその補助をお願いする形になるわ。従ってもらえるかしら?」

 

「はい、我々義勇軍には知謀に長けた者がおりませんので。よろしくお願いします、司馬懿殿」

 

「ウチらは作戦なんて立派なもんは立てられんからな。よろしゅう頼んます、司馬懿はん」

 

「本物の軍師の人がいればとっても心強いの~。よろしくなの~」

 

こうして大梁での籠城戦、及びその際の力添えの要請、承諾を手早く済ませた両者は直ぐ様大梁の街、その内部にて籠城戦の準備を始めようとする。

 

「ああ、そうだ。楽進、李典、于禁。防戦準備の前に少しいいか?会わせておきたい人物が2人いるんだ」

 

 

 

一般兵が準備のために移動していく中、秋蘭が楽進、李典、于禁を連れて一刀と季衣の下までやってきた。

 

「ああ、いたいた。この2人も今回の討伐行に従軍している将軍格なんだ。一刀、季衣。この3人は義勇軍の代表だ」

 

「義勇軍の?なるほど。私は夏侯恩と申します」

 

「ボクの名前は許褚だよ」

 

「楽進、字は文謙です。よろしくお願いします」

 

「ウチは李典や。よろしゅう」

 

「沙和は于禁なの~。よろしくなの~」

 

一刀と季衣の名乗りを受けての3人の名乗りを聞き、一刀は僅かに片眉を上げた。

 

(彼女達があの?…確かに楽進は後に魏の五将軍と呼ばれるだけの武はありそうなんだけど。于禁の方はそこまでの武はなさそうだ。李典にしても文官然とはしていない。もうこの世界では向こうでの武の基準すら変わってしまっているのかもしれないな…)

 

3人の少女の名、楽進、于禁、李典。これはかの三国志において魏の有名な将軍達である。楽進、于禁は蜀の五虎将に対抗して呼称され始めた『魏の五将軍』、そこに張遼、徐晃、張郃と共に名を連ねている。また、李典は他の有名な諸将のように目覚しい活躍こそあまり無いものの、思慮深く、理知的な副将としてそれなりに有名な人物である。

 

ところが、楽進はともかく他の二人にはその面影がほとんど感じられない。これを受けて一刀はこの世界の認識を更に改めることとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

曹軍と義勇軍が大梁で籠城戦の準備を行っている頃、大梁から数里程離れた場所で黄巾賊が屯していた。

 

「波才の旦那。そろそろ大梁に向かいやせんか?」

 

「そうだな。そろそろ疲れも取れたし、行くかあ!張角ちゃんの素晴らしさを大梁の奴らにた~っぷりと教え込んでやるぜ!」

 

黄巾賊の中核、そこで2人の男たちが会話をしていた。彼らの名は波才と裴元紹。共に暴れるだけしか能のない黄巾賊を纏め上げた将軍のようなものであった。

 

「野郎ども!大梁へ向けて行軍再開だ~!」

 

波才の号令を受けて黄巾賊は再び大梁を目指して前進をはじめる。その数の余りの多さに大地は震え、賊の雄叫びで空気が波打つ。

 

まさに数の暴力を体現したような光景。

 

「……」

 

しかし、正規の軍ですら裸足で逃げ出すようなその光景の中にあって、一人浮かない表情をしている者がいた。

 

何故そのような表情をしているのか。もし、指揮官たる2人にこの人物の表情の意味がわかっていれば、あるいは大梁の街における結果は多少違った物になったかも知れなかった。

 

その人物の名は、周倉。張角達3人に極初期から付き従っていた人物である。

 

この周倉が大梁における攻防戦の要となることは本人を含め、まだ誰も知らないのだった。

 


 
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