No.617334

真・恋姫無双~仁徳の契りと四義兄弟

ソウルさん

新しく始めました。
更新が亀かもしれませんが見てもらえると嬉しいです。

作品は劉備たち義姉妹に加えて主人公を含めた四義兄弟が紡ぐ物語

2013-09-08 17:25:25 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2128   閲覧ユーザー数:2001

 

                  第壱話 『旅立ちの日』

漢の腐敗は大陸全土に及び始めた昨今、賊徒が跋扈する時代が各地に訪れていた。

黄巾賊――黄色の頭巾を印とした賊徒の軍団は張角・張宝・張粱を中心として漢に叛旗を翻す。

『蒼天既に死す、黄点まさに立つべし』、そのスローガンが意味するのは漢にとって代わり自分たちが大陸を治めることを示していた。

当然、漢は怒り心頭に発する。されど黄巾賊が発祥してから数ヵ月、賊徒の規模は膨れ上がり、もはや官軍だけでは手に負えない事態に陥っていた。

そこで遅すぎる檄文が各諸侯に届く。それを期に公の行軍を可能となった野望ある諸侯は黄巾賊討伐に討って出る。それだけにはとどまらず、各地で義勇軍の発足が目立った。

そのなかでも一際輝きをはなったのが劉備・玄徳が率いる義勇軍だった。賊徒の将兵など引き寄せない実力を有した勇将を率いる彼女の義勇軍は各地を転戦としながら戦果を挙げていく。それを耳にした者たちが彼女を頼って義勇軍に参加する循環に入っていた。

そしてまた一人、義勇軍の噂を聞いて仕官してきた男がいた。

男の名は銀河、姓も字も持たない孤児だ。彼は劉備・関羽・張飛の前に平伏する。

 

「自分は銀河と申します。是非、貴方と共に行軍させていただきたい」

 

頭を上げて三人に視線を送る。動作で起きた風で銀色の髪が靡く。そこから露わになる精悍な顔立ちは信念と戦を知る武人そのものだった。

 

「私たちを求めて仕官してくれるのは凄く嬉しんだけど……」

 

劉備の返事は歯切れが悪かった。

 

「どうしよ? 愛紗ちゃん」

 

傍らで直立する関羽に劉備は訊く。関羽も若干、表情を曇らせながら、

 

「同じ大義を抱く者が頼ってきたことは嬉しく思う。――だが、現在の私たちは根無し草の放浪軍。これ以上の増員は糧食がもたないのだ」

 

申し訳なさそうに関羽は告げた。たかが一人の加入で、と思うのはおそらく自分の傲慢さだと銀河は思う。成長期の子供が食を欲するように成人男性もその体躯を養うだけのエネルギーが必要だ。単純換算すれば子供よりその量は多くなる。糧食が心許ない現在、一人の食事だけでも明日を左右する重要要素だ。食事は軍の士気を高める作用が絶大にある為、なおさらのことであろう。

それを理解したうえで銀河は思案する。

 

「では次の戦場で功績を出すことを条件で行軍させていただけないか?」

 

それはかなりハードルの高い賭けだと銀河は自身の案に苦笑した。眼前に立つ三人の実力はこの義勇軍を知るに欠かせない事実。その三人のおめがねに叶うとなればかなりの実力が必要であろう。

 

「ふむ、なるほど……。確かに糧食一人分を上回る実力があるのであれば私たちとしても有り難い戦力となるだろう。――どうでしょう、桃香様。ここは銀河殿の案を汲んでみては」

 

「うーん、愛紗ちゃんの意見なら大丈夫かな。――鈴々ちゃんはどう思う?」

 

未だ決めかねる劉備はもう傍らの張飛に訊く。

 

「鈴々には難しいことはわからないのだ。でも強い奴が一緒にいてくれたら戦は楽になるのだ」

 

脳天気のように見えて張飛の発言は的を捉えていた。戦で一番難しいのは死者を最小限に抑えての勝利。それを実現する為には武と智が両方合わせて可能となるもの。銀河がどちらに優れているのか、あるいはただの凡人かは定かでないが、もしもの場合は願ってもいない戦力となる。そして勝利を重ねていけば義勇軍を支援してくれる商人や豪族が現れるという仕組みだ。

 

「それじゃ銀河さん、その案を汲みます。次の戦場で戦果をあげてください」

 

「ありがとうございます。この銀河、粉骨砕身の思いで頑張ります。

 

銀河の実力を示す機会はすぐに訪れた。陳留の太守を成す曹操・孟徳から共闘の依頼が舞い込んだのである。彼女らが追跡していた黄巾賊はこの辺り一帯では大規模であるらしく、壊滅させることで一時的な安寧をもたらす見込みとのこと。

金色の髪をドクロの髪留めでツインテールにした曹操を中心に赤と青を基調とした戦装に身を包んだ女性が二人傍らに立つ。同じくして劉備を中心に関羽と張飛、そして二人の少女が加わる。

その光景を遠くから銀河は見届けていた。会話は聞こえないがただの共闘ではないようだ。論戦を繰り広げ、おそくら互いの腹の内を読もうとしているのが遠くからでも分かる。陳留側は曹操が主に言葉を発し、相対して義勇軍は小柄な少女二人が対決している。

 

「あれが臥龍と鳳雛と称される諸葛亮殿と鳳統殿か……」

 

義勇軍を支える二大軍師。その実力はこれまでの戦果で証明している。そして義勇軍の身でありながらそれだけの人材を自然と惹き寄せてしまう劉備玄徳の天性の魅力は恐るべきものだろう。かくいう銀河も彼女の信念に感銘を受けてこの場にいる。

 

「銀河殿、戦だ。貴殿を最前線の位置で働いてもらうが良いか?」

 

論戦を含めた軍議は終えたらしく、関羽が声をかけてきた。

 

「当然です。それで作戦の方ですが、とりあえずは前線で大暴れして砦に立て籠もる賊徒を誘いだせばよろしいので?」

 

それは銀河が描いた策である。その発言には関羽は感心する。文字もろくに書けない現代、知恵がまわる者はそれだけで優れていると言っても過言ではない。すくなからず銀河は一般兵士の実力は凌駕し、将となり得る才を保有していることをこの場で示した。

 

「おおまかにはそれでいい。詳しくは軍師殿から直接に指示があるだろうからそれに従ってくれ。では私も戦準備があるので。――ご武運を」

 

「ご武運を」

 

最後まで凛々しい姿で去っていく関羽の背を見送っていると、背後から「あわわ」と「はわわ」の声が響く。それだけで軍師二人だと分かってしまうほどに二大軍師殿は特徴がある御仁だった。

 

「銀河さんですか?」

 

「いかにも。諸葛亮殿と鳳統殿ですね。こうして話せること嬉しく思います」

 

賛辞とするには浅い気もするが、二大軍師どのは相変わらずの口癖を漏らしながら照れている。

――これが戦ともなれば容赦ない策を啓示するのだから末に恐ろしい。

銀河は人間の本質を垣間見た気がした。

 

「前線で大暴れした後に砦から賊を誘き出した後はいかようにすれば?」

 

「そこまで理解してくれていれば問題はありません。誘き出された瞬間、自分たち南方を除いた三方から曹操軍が挟撃をかけます。銀河さんはそのまま賊軍を葬ってください」

 

「了解した。ではこれより出陣させていただきます」

 

諸葛亮と鳳統に背を向けて銀河は最前線へと向かったのだった。

 

最前線の先、一番槍の位置に立つ銀河は砦を背景にして戦場を俯瞰する。更地となって随分と時間が経過した大地は草花によって彩られていた。戦争でもなければゆっくりと景色を眺めていたいところだが、銀河は意識を砦と城門前で陣を敷く黄巾賊に集中する。返り討ちにした官軍から奪った武器・武具なのかは分からないが、それでも賊団とは思えないほどに充実している。

銀河は一歩前に出る。

 

「最前線に立つ勇士よ! これより始まるは獣狩りだ。太平道を語りながらも民を苦しめ、大陸を混乱に惑わす存在。我々はそのような輩を野放しにできるはずもなければその必要もない。気高き勇士たちよこの大陸を穢す獣たちを蹂躙せよ!」

 

愛用の剣を天へと掲げた銀河は号令した。兵士たちは各々の得物を天へと掲げて「応!」と答える。高まった士気は熱気と変わって戦場に熱量が帯び始める。

思惑通りに事が進んだことに銀河は笑みを浮かべる。相手は賊だがただの賊ではない。黄巾賊なのだ。官軍は幾度と返り討ちにしてきた実績は自然と恐怖を植え付ける。連戦連勝してきたこの義勇軍も例外でないことは銀河が訪れた際に悟った。どこか恐怖が充満していたのを天性の嗅覚が嗅ぎ取ったのだ。だから不安は完全に取り除く。その為には、

 

「全軍突撃!」

 

銀河は先頭を走る。発破をかけた自分こそが武で賊を蹂躙することで思惑を完璧とする為に。その勇気は兵士たちに伝染し、雄叫びをあげながら銀河の後に続く。

 

「語る名は持ち合わせていないが敢えて名乗らせてもらう。――我が名は銀河! この世に仁徳を芽吹かせる矛なり!」

 

敵前に突貫した。関羽のような流麗でもなければ張飛のような爆発もない。それでも銀河の一撃は敵を葬り去った。

 

「傷を恐れるな! 勇敢に戦った者が英雄だ」

 

それを体現せんとばかりに銀河は四方を囲まれながらも賊を蹂躙していく。突き、凪ぎ、斬る、単純なその一撃は鮮麗されているとはお世辞でも言えない。

銀河は強い。だが上に立つ武人たちよりは劣ろう。関羽や張飛のように敵の反撃を許さない戦いなど出来ない。反撃がくれば得物で防御もすれば傷を負う。致命傷でなくとも数を重ねれば痛みは増して疲弊する。だが銀河は劣らない。この泥臭い戦闘こそが銀河であると示すように戦う。もし銀河が他の武人より勝るものがあるとするならば何事にも厭わず、揺れない誇りかもしれない。

 

関羽は戦場の左翼を担っていた。迫り来る賊徒を葬りながらも関羽の意識は中央で奮起する銀河に運ぶ。彼が仕官を求めたとき関羽は銀河を侮った。一流の武人は相手を見ただけでその実力を悟ることができる。自身を一流などと大言壮語を口にする気はないが、それでも武に自信はある。そしてそれは少なからず戦場で武を奮う者であれば誰もが抱く自意識だ。そして挫折する者や命半ばで他界していく。

しかし銀河からはそれを感じ取れなかった。つまり銀河には誇りがないのだと関羽は思った。

だが、

――あれほどの勇士が誇りを持たぬわけがない。

しかし関羽は未だ銀河を測りかねる。

――ならばあれこそが銀河殿の誇り、武だというのか?

武力は武芸のように流麗である必要はない。戦場で求められるのはどれだけ確実に命を絶てるかだ。それでも型を求めてしまうのは己が持つ矜持かもしれない。複撃よりも一撃、傷有よりも無傷、武人、否、人間は誰しもが終わりを気にする。小汚い外見より優雅な方が見栄えが良く自慢できる。傷を負わない圧倒的な武力を持ち、かつ蝶のように舞う流麗な武芸を嗜み、そして勝利を掴む。そんな存在がいれば味方からも敵方からも拍手喝采だろう。

内面など二の次、そもそも深く関わらない限り相手の内面など悟れるはずがない。だから外見を整える。自分がこんなにも毅然とした人物なのだと、自分はこの服装と同じく清き心を抱く者だと誇示する。

しかし銀河の姿はそのどれにもはまらない。

銀河の顔立ちは整っていると関羽は思う。銀糸とも思える銀髪がさらに際立たせるとも。だが服装はけっして綺麗ではない。彼は自身を孤児だと言った。だが傭兵として戦地を転々として給金を貰っていたとも言っていた。あれだけの実力、身嗜みを整えるだけの金を貰っていたはずだ。食事や娼婦に金をつぎ込んでいたと考えてもいいが、前者は金が尽きることは例外を除いてはありえない。後者にしても女性と逢うのだからある程度の身嗜みで対面するはず。

――不思議なものだ、先ほど知り合ったばかりの人間にここまで興味を抱くとは……。

関羽は頬を綻ばせながら流麗な武で敵を圧倒していく。

 

砦に動きがあった。四方の城門が解放され、溢れんばかりの黄巾賊が一斉に出撃を始めたのだ。瞬間、北・東・西に陣を隠していた曹操軍の旗が立てられた。曹操が腕を天へと伸ばし、そして振り下ろす。その指先は賊に向けられていて、

 

「策は成った。これより我が軍は全兵力をもってして賊徒を葬る。猛き将兵たちよ一人残らず獣を駆逐せよ!」

 

凛とした曹操の号令は喧騒に包まれた戦場にも届く。透き通った声音は喧騒さえも静寂にさせる錯覚を生み、しかし現実として賊軍と義勇軍の兵士に届く。賊軍は狼狽え、義勇軍は奮起する。

――号令だけで相手を畏怖させるか! 曹操・孟徳。

銀河は身震いした。同時に彼は薄く笑った。英雄とは程遠い位置にいる自分がまさしく英雄と名を馳せるであろう者たちと同じ戦場で戦っている。歓喜と畏怖が銀河の血をたぎらせ、熱が体を取り巻く。

――あー、これが俺の本質か……、悪くない!

銀河を取り巻く熱量が頭上へと渦巻いていく。それが錯覚なのか現実なのか、されど英雄たちは空気が変わったことを察知し、その正体である銀河に視線が向けられた。

 

――これが銀河殿の武!

銀河から一番近い場所で戦闘を繰り広げていた関羽は他の英雄達よりも敏感に銀河を感じ取っていた。《動》と《静》が入り混じった不思議な闘気が戦場を覆っていく。荒々しい《動》は賊徒を委縮させ、風のように内を秘める《静》は味方兵を優しく包み込む。俺がいるのだから安心しろ、そう伝えられている気分に関羽は陥る。

それを覚醒させたのは「愛紗ちゃん」「愛紗」と、関羽の真名を叫ぶ義姉妹の呼び声だった。

 

「桃香様、鈴々!」

 

鈴々が蹴散らしたであろう賊徒の道から二人は関羽に近づいた。

 

「愛紗ちゃん、これって銀河さんからだよね?」

 

少し興奮気味の桃香に苦笑しながら関羽は頷いた。

 

「やっぱり! 銀河さんが私たちの味方になってくれたらきっと力になるはずだよ」

 

桃香の王の素質がそう語った。そして関羽と張飛もそれを感じ取った。銀河は自分たちにとって欠かせない人材であると。

 

その傍ら銀河に興味を抱いていた者がいた。

曹操である。

彼女は値踏みするかのような視線を銀河に送りながら笑みを浮かべた。文武に優れるていることで影に隠れがちだが、曹操の一番は相手を視る先見の明にある。だからこそ彼女の周囲には優秀な人材が集い、そして屈強な軍隊と化している。今はまだ一太守でしかないが、この乱世が続けば彼女は天へと羽ばたくのは必然だろう。

そんな彼女が銀河を目に付けた。つまり銀河もまた英雄として名を馳せる保証がされたと言っても過言ではない。

 

「敵となるか味方となるか、どちらにせよ飽きのこない時代になりそうね」

 

天を見上げた曹操はそう漏らした。

銀河の覚醒は周囲に甚大な影響をもたらすとたちまち黄巾賊を蹂躙していった。武器を捨てて逃げ惑う賊徒たちだがそれも曹操軍の包囲網の前に術はなかった。

戦力は互角が嘘だったように戦は連合軍の勝利で終えた。

戦を終えた銀河は劉備たちと謁見していた。

 

「銀河さん、是非私たちの仲間になってください」

 

想像以上の戦果をあげた銀河を向こう側から欲しがった。その対応に若干面を打たれながらも銀河は平常を保ち、

 

「劉備様の祈願を叶える矛となり、外敵から護る盾となりましょう」

 

片膝をついた銀河は己の在り方を示した。

 

「ありがとうございます。それに応えて私の真名を授けます」

 

劉備は続ける。

 

「真名は桃香っていいます」

 

「ありがとうございます」

 

「それともう一つ、これはら皆で決めた事です。銀河さん、貴方に私たちの姓を授けます」

 

「姓をですか?」

 

「はい。名前がないと不便だし、それに貴方を迎えたいんです。義兄弟として」

 

爆弾発言が投下された。ぱちくり、と銀河は何度も瞬きを繰り返す。

 

「私の劉を」

 

続けて関羽が

 

「私の関を」

 

続けて張飛が、

 

「鈴々の張を」

 

真面目な顔つきでそれぞれの姓を言い渡された。銀河は深く目蓋を下ろした。そして思う。救われたのは自分だと。

 

「ありがたく頂戴させていただきます。これより自分は――」

 

姓を劉 名を関 字を張 真名を銀河となった。

 

 

 
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