第33剣 学校へ行こう!
九葉Side
ALOでユウキとアスナさんの3人で話したあと、オレとアスナさん取り敢えずログアウトした。
そのあと、明日奈さんは荷物と携帯を手に持って使用可能スペースまで和人さんに連絡をしにいき、
一手間掛けてからオレも倉橋医師と一緒に彼女のあとをゆっくりと追いかけた。
明日奈さんがいたのは談話スペースで、連絡を終えた彼女は嬉しそうな表情を浮かべている。
「和人くんがOKしてくれたよ! 明日の学校で早速やってくれるって!」
「さすが和人さん、明日奈さんの頼みなら即OKだな…」
まぁ明らかな吉報なんだし、よしとしておこう。
「ふむ…それなら僕もあとで連絡をしておいた方がいいかもしれないですね。そうだ、木綿季くんにも伝えておかなくては…」
先生もなんだかワクワクしているような気がするけど、まぁ自分の患者さんが精神的にとはいえ、
元気になってくれたのなら嬉しいのかもしれない。
「だけど、九葉君も気を付けないと。わたし、見たときはさすがにびっくりしたんだから」
「す、すいません…」
「まぁいいじゃないですか、明日奈さん。
僕もいままで患者さんのご家族でああいう反応を持っている人を何人も見てきました。
正直、嬉しかったですよ…木綿季くんのことであんな風に感情を露わにしてくれて」
ちなみに今度は何の話かというと、実はオレ……掌に指の爪をくい込ませてしまっていた。
ユウキの話の時、彼女と彼女の家族を傷つけた奴らへの怒り、大したことも出来ないでいた自分への憤りを感じていた。
その結果、拳を握って力が篭り、少しだけ伸びていた爪が見事に肉にくい込んだということ。
その血が滴り落ちて、ちょっとした血溜まりが出来、明日奈さんを追う前に先生に手当てをしてもらったというわけだ。
まぁ、ユウキの話しを聞いて、色々と思うところもあったりして、
彼女と話しをすることで彼女の本心を聞くことが出来、さらには学校に行くというイベントもあることになった。
今日だけで、またドタバタとした1日だったと思うけど、後悔しない道を選べたのは自分でも間違いないと思ってる。
そして、ユウキとの面会を終えたオレ達は帰ることになった…。
「倉橋先生、今日はありがとうございました」
「ユウキに会えて、嬉しかったです」
「いえ、僕の方こそ…ここ数日間の彼女を見ていて辛かったですが、
いまの彼女の姿を見るとお二人に会ってもらって正解だったと、確信しました」
入り口まで倉橋医師に送ってもらい、少し言葉を交わし、先生に見送られながらオレ達は帰宅の路に着いた…。
とまぁ、駅まで明日奈さんと一緒に行動していたんだけど、そこで別れてから携帯を使い、奈良の自宅に通話を掛けた。
「あ、もしもし、母さん? オレ、九葉だけど……うん、用事は済んだ。
うん、うん……実は一泊していこうかと思って…うん、どうしても…。
明後日にはちゃんと学校にも行くから……うん、ありがとう。
父さんと燐にも伝えておいて、それじゃあ…(ぴっ)」
よし、これで明日まではいられるな……小遣いはそれなりにあるし、今日は漫画喫茶にでも泊まるか。
九葉Side Out
明日奈Side
昨日のユウキが入院している病院への訪問から1日が経った翌日の1月12日、月曜日。
少し早めに和人くんと一緒に学校へ向かったわたしは、彼と共に第2校舎3階北端にあるパソコン室へ来ています。
それからすぐに彼は何かの準備を始めるべく、パソコンを起動させ、先程からキーボードやマウスを忙しなく動かしている。
さらに和人くんと同じメカトロニクスコースを受講している2人の男子生徒、それに刻君もやってきました。
「悪いな、早くから来てもらって」
「気にすんなって。むしろデータが取れるんだからな、早くやろうぜ!」
「カズ、一応細かい調整はしてきたけど、確認してみてくれ」
「必要な物は揃ってるっすよね? それじゃ、微調整しつつ完成させるっすよ」
何やら道具を色々と出して、持ち運び用のHDなどをパソコンに接続させ、
パソコンの画面が次々と違うものに変わっていっています。
そこから、彼らが持ってきた直径7cmほどのドーム型の機械を右肩に乗せられました。
細いハーネスで固定されていて、基部はアルミの削り出し材、
ドーム部分はアクリル製、その中にはレンズ機構があるようです。
基部のソケットから2本のケーブルが伸びていて、1本はわたしの上着のポケットに入ってる携帯端末に繋がれ、
もう1本は和人くん達が使ってるパソコンに繋がれています。どうやら設定をしているみたい。
「これじゃジャイロが敏感すぎるんじゃないっすか?」
「視線追随を優先するなら、ここのパラメータにもうちょっと遊びを加えて…」
「そうだな。ラグのことを考えても、そこら辺は最適化プログラムに期待するしかないか」
「賛成。カズが組み込んだOSもあるんだし、そんな感じの方がいいだろ」
なんだかわたしには少し解り難い言葉や用語が交わされています……それにしても…、
「あの~、まだこの姿勢の方がいいの?」
何時まで姿勢を固定していればいいんだろう?もう30分以上はこのままです、はい。
「もう少しだけ待ってくれ……ふむ、取り敢えず初期設定はこれでいくのがベストだろ。それじゃ、繋いでみるぞ」
和人くんはそう言うとキーボードのEnterキーを押した、そして…。
「ユウキ、聞こえてるか?」
『は~い、しっかり聞こえてるよ~』
彼の問いかけに、わたしの肩の上にあるドーム型機械のスピーカーから、なんとユウキの声が聞こえてきました。
打ち上げの時のユイちゃんの場合とは違うから、少し驚きました。
「OKみたいだな。それじゃ、レンズ周りを
『うん、了解だよ』
和人くんの言葉にユウキが応じている。
わたしの右肩にあるこの半球形のメカこそ、和人くん達の班が今年度の頭から考えて、
製作を頑張ってきた『視聴覚双方向通信プローブ』です。
彼がわたしに簡単ながらに説明してくれた内容によると、アミュスフィアとネットワークを通して、
現実世界やその遠隔地に視覚と聴覚によるやり取りをしようという機械らしい。
プローブ内のレンズとマイクに収集されたデータ、それらは携帯端末を介してネットに送信され、
フルダイブマシンを経由して、仮想空間にフルダイブしている人に届く仕組みだそうです。
レンズはドーム内を自由に回転して、視線の動きと同期して映像を得るらしい。
今回はフルダイブマシンをメディキュボイドに置き換え、
専用の仮想空間にいるユウキに届くようになっていると聞きました。
いま彼女は、自分の体が10分の1くらいに小さくなって、わたしの肩に座っている感じ、ということみたい。
考えている間に、ユウキの『そこ』という声が聞こえてきて、
それを和人くんが調整したのかして、「これで終わりだな」と言っています。
設定が終わったみたいね、最初から疲れた気がするけど…。
それから、急激な動きは避けること、あまり大きな声を出さないように、などの注意を幾つか受けた。
和人くんがプローブとパソコンを繋げているケーブルを抜き取り、自由行動が出来るようになりました。
「さて、と…悪いけど、片付けのほうは頼む。俺も職員室とかに行って、先生たちに説明をしてくる」
「了解、任されたっす!」
「また授業でな~」
「あ~、疲れた…」
彼の頼みに男の子達は快諾して、わたしとユウキと和人くんはパソコン室を後にしました。
「ありがとう、和人くん。急なお願いだったのに、やってくれて」
『ボクからも…ありがとう、キリト』
「どういたしまして。まぁ俺達からしても、データが欲しいところだったから、渡りに船だな。
それにユウキも学校に来れたから、一石二鳥だ」
わたし達がお礼を言うと、笑みを浮かべながらそう答えた彼。
それから職員室まで向かう間、ユウキは何かを見つけるたびに小さな歓声を上げていた。
その様子を見て、わたし達は微笑を浮かべる。
思えば、彼女は普通に学校に通っていたとしても中学3年生に当たるから、
中高生の通うこの学校は目新しく感じるのかもね。
ちなみに、彼女にはわたし達が『SAO
ここがその生還した学生達が通う学校であることも…。
それでもユウキは何の気も無く受け入れてくれたから、またまた嬉しかったりします。
そして、職員室の前に来た時、彼女は静かになりました。
「ユウキ、どうかしたの?」
『えっと、ね…。ボク、昔から苦手だったんだよ、職員室は…』
「ふふ、大丈夫だよ。ね、和人くん?」
「ああ。ここの教師は変わった人が多いからな」
なんとなく彼女の言葉の意味が理解できたので、和人くんと一緒に安心させるように答える。
「失礼しまーす!」
『し、失礼しま~す…』
「くく…失礼します」
わたしは声をそれなりに大きく、ユウキは小さめに、和人くんは少し笑ってから普通の声で職員室に入る。
先生方がこちらに目をやったけれど、和人くんを認識すると納得したような笑顔を浮かべてから、
各々の机の上に視線を戻している。けれど、6人の先生が椅子から立ち上がり、わたし達のもとへ歩み寄ってきた。
見れば、今日わたしが受講する科目の先生達だ。
すると和人くんが先生方に簡単ながら説明を始めて、みなさん頷いたりしている。
もしかして、彼が予め連絡を入れておいてくれたのかも…。
「……と、いうわけなんですが、大丈夫ですか?」
「ええ、私の授業は大丈夫よ」
「俺のところも問題無いぞ」
どうやら授業を受けさせてもらえるみたい、良かったぁ…。
「キミ、名前をなんと言ったかね?」
『は、はい。ユウキ…紺野木綿季です!』
現代国語を担当する60代後半の白髪白髯のお爺ちゃん先生が訊ねて、少し驚いてから表情を綻ばせている。
他の先生達も驚いたり、感心したりしてる。
「紺野さん。キミが良かったらなんだが、これからも授業を受けに来たまえ。
今日からやる芥川の『トロッコ』は最後まで行かんとつまらんからね」
『あ、ありがとうございます!』
先生の歓迎ムードにユウキは凄く喜んでるみたいだね。
「それにしても、桐ヶ谷君達はよくこんなものを作れるわね~…」
「感心するしかないですね…」
若い女性と男性の先生は和人くん達に関心している様子。
確かに、高校生でこういうのを作るっていうのは、結構凄いことかも…。
「しかし、これがあれば身体の不自由な人でもこうして社会に出ることが出来るのですから、
社会貢献も出来る機械なんですよね?」
「特許とか取れるんじゃないかね?」
「実際、そういう話しも持ちかけられてます。どうするかは、みんなで話し合って決めますけど」
初老の女性と中年の男性の先生も、プローブの簡単な説明を受けると社会的なことを話し、和人くんもそれに受け答えてる。
そうだよね、ホントに社会貢献できる機械なんだよね…。
「そうかそうか…よし、桐ヶ谷」
「なんですか?」
「お前、今日は結城と一緒に授業を受けろ」
「『へ…?』」
「はい?」
1人の男性の先生が和人くんに向けてそう言いました。
わたしとユウキは呆けた言葉を漏らして、彼も首を傾げています。
「…あの、もう1回言ってもらってもいいですか?」
「今日は結城と授業を受けろ。担任命令だ」
あ、そういえばこの先生、和人くんのクラスの先生だ。
「何故か、と聞いても?」
「機械に何かあった時に、お前が傍にいた方がいいだろう? 万が一ってやつだ」
「職権乱用じゃないですか」
「こういう時に職権っていうのは使うんだよ」
「…俺、学年が違いますよ?」
「お前、自分の学年どころか高校3年の授業も個人的に終わってるだろうが…。
冬休み前、結城達の学年のテストを試しにやらせてくれって言って、満点取ったのは何処のどいつだ?」
「(さっ)……ダレデショウカネ?」
「ま、授業にはついて行けるから大丈夫だろ?」
な、なんだか、いま凄い話しを聞いた気がします。
他の先生達が苦笑したりしている様子からして、多分本当のことなんだと思うけど…。
和人くん、キミはなにをやっていたんですか?
「みなさんも、構わないですよね?」
「私は構わんよ」
「同じく、僕の授業も大丈夫です」
「折角ですし、それに他の生徒の刺激にもなると思いますから」
他の先生方の反応も良好、まぁ和人くんは優等生で通ってるし、信頼も信用も大きいから大丈夫だね♪
「…俺の意思は無視ですか?」
『あ、あはは、大丈夫?』
ガックリと項垂れる和人くん、ユウキが慰めています……はっ!?
わたしが和人くんを慰めて癒してあげるフラグが折れちゃってる!?
「はぁ、まぁ了解しました。その代わり、今日俺が受けるはずだった科目の先生に、伝えておいてくださいよ?
課題はちゃんとやりますし…」
「それくらいなら任せられた。ま、HRはいつも通りにな」
和人くんと彼の担任の先生が話し終えて、わたし達は職員室を後にしました。今日は1日、ユウキの学校体験です!
明日奈Side Out
To be continued……
後書きです。
原作とは違い、昼からではなく午前中からユウキがプローブを使って学校にやってきました。
これで彼女を全ての授業に参加させてあげられます・・・優等生な和人の手回しは中々のものでしょうw?
そして和人は明日奈の授業に付き添う形になりましたw
プローブの試験データが取れる、木綿季が学校に通える、明日奈と一緒に居られる、ということで実は一石三鳥w
次回はユウキ視点での授業風景とかになります、それではまた・・・。
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第33剣です。
ユウキの学校体験その1になります。
どうぞ・・・。