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真恋姫無双幻夢伝 第三章5話『汝南の周囲』

久しぶりに華琳登場です。

2013-08-31 09:15:02 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3443   閲覧ユーザー数:2958

   真 恋姫無双 幻夢伝 第三章 5話 『汝南の周囲』

 

 

「ふうん、勝ったのね、李民は」

 

 陳留城の一角、蓮の花が咲いた池の真ん中に浮かんでいるように亭が建てられていた。緑と白が日光に照らされて鮮やかに入り混じる中、その調和を保つように柱を黄緑色に塗った六角形の姿をしている。空の青さもその美しさに味方していた。

 その屋根の下に、のんびりとくつろぐ人影がある。彼女はカップを持って当時流行中のお茶を飲みながら、机に置かれた資料に目を通す。それには汝南から戻った間者の得た情報が事細かに記載されていた。

 

「華琳さま。今は李民ではなく、李靖と名乗っているようです」

「そう。“李民”はまだ犯罪者として認知されているから、世間体を気にしてのことかしらね?」

 

 訂正してくれた秋蘭にそっと目で座るように促した。彼女は一礼して隣の椅子に座る。彼女はふと机にカップが一つしかないことに気が付いた。

 

「そういえば桂花はいかがしましたか?ご一緒に休憩しないのは珍しいかと」

「さあ?仕事がまだ終わらないそうよ」

 

 意地悪い微笑みを秋蘭に投げかけた。それだけで彼女は大体の察しはつく。

 

(大方、休憩の直前になって仕事を与えたのだろう)

 

 休憩時間が終わる前にと、必死になって“華琳さまがわざわざ手渡しで与えてくださった”仕事に取り掛かる桂花。その光景がありありと秋蘭には見えて、他人事ながら本当に気の毒に思えた。ちょっとため息まで漏らした。

 秋蘭が呆れている傍らで、華琳の目が光る。

 

「秋蘭。ここ、ちょっとよく分からないわ」

「えっと、これは組織構造の所ですか。確かに理解しがたいところがありますね」

「説明して」

「はい。まず前提として理解して頂きたいのですが、汝南には君主がおりません」

 

 秋蘭の言葉に反応して、華琳はカップを机に置いた。そして体ごと秋蘭に向ける。

 

「どういうこと?誰が治めているというの?」

「彼らの言葉を借りると“隊”が治めているとのことです。李靖隊が汝南の軍事・外交・内政の権限を握っている状態です」

「ここまでは我が国と同じね。曹操軍という集団が統治しているのと同じでしょ?」

「確かに。しかし彼らが大きく違うのは、隊長である李靖自身も隊のメンバーの一人として位置づけられているということ。彼も隊の規則に縛られ、隊から給与を与えられています」

「…なるほどね。それは“君主”ではないわ」

 

 絶対的な地位が確立されていないトップの権限は小さい。それでもあえてこの方法を採るということは、よほど自己の指導力に自信があるに違いない。そう華琳は考えをまとめた。

 

「李靖、つまりアキラは“指導者”では無くて“先導者”なのね。……でも、そうすると彼らは誰に仕えているのかしら?」

「さあ?漢朝では?」

「どうかしらね」

 

 ここで言葉を止めて、一口お茶を飲んだ。そしてそのまま世間話をするように命令を発した。

 

「秋蘭。彼らと接触して」

「はっ!ちょうど新しく我が軍に加わった者がおります。その者を使っても?」

「構わないわ。接触して感触が良かったら報告してちょうだい」

「と、言いますのは?」

 

 華琳はカタンと空になったカップを置く。

 

「私が直接アキラと会うわ」

 

 

 

 

 

 

「ここ、か」

 

 夏の日差しが段々と強くなってきた頃、凪はある建物の前にいた。まだ朝早くだったから良いものの、町の人は堅物の彼女がその前にいることを訝しがった。そこは盧江一の遊郭の門前だった。

 

『曹操殿から使者が来たというのにだ!あの馬鹿はまた偵察とか言ってそこら辺の遊郭にいるに違いない。探してこの手紙を渡せ!』

 

と、凪の頭の中では額に青筋を立てた上司の華雄の姿がリフレインされていた。この時代にしては珍しいほど大柄な彼の居場所はすぐに分かった。しかしここからが問題だ。

 

「…よ、よしっ!」

 

 気合いを入れた彼女はガチガチに緊張しながら門をくぐって行った。

 建物に入るとすぐに眠たげな従業員を捕まえ、目当ての人物を呼ぶように伝える。だがその従業員は思いもよらないことを言うのだった。

 

「ああ、二階のお客さんのお連れさんざんすか?もし来なんしたら、部屋まで呼んできろと言いなんす」

「へ、部屋まで行くのかっ?!」

 

 その従業員に案内されるがまま、凪はおそるおそるついて行く。その途中で何人か衣服や髪が乱れた遊女と遭遇する度に、彼女は顔を真っ赤にした。おぼこには辛い光景であろう。

 部屋に着くと、その従業員が訪問を告げた。そして凪の決心がつかないうちに襖が開かれた。

 開かれた途端、中のもわっとした空気が匂った。それだけで凪はウッと顔をしかめて下を向いた。頭がくらくらした。

 しかし彼女にはもっと大きな試練が与えられるのだった。

 

「あれ?凪か?華雄だと思ったのに」

「は、はい~~~!!!」

 

 返事もろくにできなかった彼女が見たのは、ほぼマッパのアキラの姿だった。辛うじて腰に布を巻いているが筋骨隆々の身体を隠すものはなく、ぶっちゃけどうしようもなかった。セクハラもいいところである。

 彼女が真っ赤になって硬直しているうちに、マッパのアキラは近づいて彼女の手に持っていた文書をひったくって読み始めた。気が付くと汗ばんだ大きな胸板が目の前にあった。

 

「ひ、ひゃあ!」

「なるほど。接触二回目だというのに、もう同盟の話を持ち出してきたか。よほど情勢が緊迫していると見える。陶謙の徐州に劉備が参陣した話は本当だったか?」

「へ?あ!えーと、ほ、本当です!」

「北の袁紹に東の陶謙・劉備連合軍か。西も董卓が李傕を攻め潰しつつある。せめて南だけでも味方にしたいということだな」

 

 ぶつくさと状況を整理するアキラの身体から凪は目が離せない。顔は湯気が立つかと思うほど熱くなっていた。

 

「程昱だったか?あの頭に変な人形を乗っけた使者の子。他には何か言っていたか?」

「た、たしか、同盟の時は直接曹操さまがこちらに赴きたい、と」

「ふむ?…よし!ちょうど良い!孫策からも同盟の話があったんだ。三国同盟といこうじゃないか!」

 

 ポンッと相槌をアキラが打つ。その時、ハラッと何かが落ちたような気がした。凪はちらっと床を見る。ちょっと長めの布だった。

 もうお分かりであろう。凪が恐る恐る目線を上げていく。そしてその目線がある部分に辿りついてしまった。

 ………

 なぎは めのまえが まっくらに なった!

 


 
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